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変革に「腹落ち」は必須なのか?という問題について

 会社の動くベクトル(=方向と速度)を変える(どう変える、どうやって変える)ことは、弊社の主業務です。

 「特定の、通常は比較的新しい事業を育成する」ということと、「いままでやっていたことのうち、お金を生まない動作をやめる」ということが具体的な内容であることが多く、それらの洗い出しと具体的指示までを経営者に代わる形で作成し、経営者の指示を可能にします。
 その目的は、ほとんどのケースで、「企業の中期的な成長、あるいは存続基盤を強固にすること」であり、わかりやすく言えば「利益体質を回復させる」ことです。

 実は方向性を見出し、データ分析をし、試行錯誤の内容を決めることは慣れてしまえばそんなに難しいことではないと、私は思っています。データがあれば、一晩で示唆は得られるし、データがなくても、データを紙情報や現場観測から作ることは現場に行けばできるのですから、その期間を含めてもそんなに時間がかかることではありません。

 しかし、それを今いる社員に実行させるとなると、それは決して簡単ではありません。そこには、こんな問題があります。

  1. やり方がわからない。やり方は分かってもうまくやれるスキルがないのでやらない。
  2. やらないでも不利益がない。やっても利益がないのでやらない。
  3. やる気にならない。従いたくないのでやらない。

 世間的には、1は研修トレーニングでいったんは内部人員での対応可能性を追求して、それでも足りなければ外部調達が良いとされ、2はKPIによる人事評価をきちんと導入することで強制力を働かせる、というのが解法とされています。しかし、実際には、日本の会社は今、40歳以上の構成比率が高くなっていて、しかも新卒からその会社・その業界の仕事しかしたことがない、と言う人が依然としてかなりの比率に上るため、大きく変わる新しい業務に現実に対応できるのか?というとできないケースも少なくありません。
 また、人事評価制度の変更は、社員以上に経営者自身の心理的抵抗がかなり強いことを私はつくづく感じています。社員の間に差をつけることが怖くてしょうがない経営者をたくさん見てきました。まあ、これも反発するのは、40代以上で。実は20代はそうでもなかったりしますが、こういう「一般的手法」を紹介すれば、それで会社は改善すると思っているコンサルタントは実際には実績は上げられません。実際のケースで使える手法は様々な制約を受けているものであり、その中でなんとか解決策を探らなければならないものなのです

 それでは、3の「やる気にならない。従いたくない」はどうでしょうか?これは、いろいろな背景があります。そもそも経営者が信頼されていなかったり、過去に幹部との間でトラブルがあったようなケースもあります。こういうのは、私も相当困ります。組織的な調整が必要になることもあります。
 そうではなくて、経営方針や戦略が整合性があり納得がいくようなものになっておらず、「また、徒労に終わる」というような失望を感じているようなケースもあります。こういうケースは、戦略をわかりやすいパワーポイント資料にして、説明会を行って質疑応答の機会を設けるというのがよくある解です。そういう「ちゃんとした資料」を作ることも得意です。

 確かにここに列挙したような対策は、やらないでよいというわけではなく、一通り全部やる必要はあります。こういう状況をよく、変革マネージャーは、「腹落ちさせる必要がある」という言い方をします。しかし、これらを全部やったとしても、実際の変革の現場では、なお自力で舵を切って進もうとしない、つまり「腹落ちしない人」がかなりの割合を占めるのが実情です。一般社員の8割が様子見、他人の状況次第という態度なのは仕方がないとしても、役職者でもその状況というケースも少なくありません。

いったいなぜ、こんなことが起きるのでしょうか?それは、その会社のおそらくはある程度恵まれた歴史ゆえのジレンマであることが多いようです。

  • まず、多くのケースで共通するのは、「管理者は、変化の方向性と速度をつかさどる責任がある」、という事への認識がない人を管理者に選んでしまっているということです。日本では、「営業や開発を頑張ったご褒美で」管理職になる人が今でも一般的だからです。しかし、平常運転だけでしたら、実は管理者なんていなくてよいし、いても10人に一人、50人に一人というような割合に減らせるはずで、実は「変えること」が管理者の責任のかなりを占めるのです。
  • また、社員の納得を得なければ進められない、もっと言えば社員に嫌われたくない、良く思われたい、という管理者がとても多く、本来の責任である「変化」を社員に強制することを「悪」ととらえる人が多いということです。もちろん、協力を得られるようにチームビルディングを工夫することはやればよいと思いますが、協力が得られなければ得られる人に入れ替えてでも「勝てるチームを作る」ことも管理者の責任です。管理者はそのセクションの「社長の代行者」ですので、社長同様嫌われる役割であり、しかも、社長同様業績の責任を負います。だから社員よりも給料が高いのです。
  • もう一つ無視できない要素は、管理者自身が、「利益」(売上・経費)を一番に考えるということを義務付けられていることを自己認識していないということです。特に昨今においては利益が不足する状況で、売上が容易に増えなければ、人員を減らして利益を維持する必要がありますし、社員の作業スピードが不足しているならば、外部調達してその作業の担当を変更する必要があります。上のこととも関係しますが、「勝つ」ためにもっとも確率が高い方法は、「勝てるチームを寄せ集めて作る」ことです。一生懸命練習することではありません。社員には、「勉強しろ」「トレーニングしろ」と督励するのは良いですが、それでもやれない人は早期に見抜いて、チーム編成を変えていく必要があります。野球でも、サッカーでもチーム編成を行う人はそうして勝てるチームを作りますよね。そして、収入内で許される年俸になるよう増減させたり、コストパフォーマンスの悪いプレイヤーを放出したりしますよね。会社でもまったく同じです。その「同じであり、自分が自分のセクションのチームのGMである」という認識がなく、部下に嫌われたくないという振る舞いをしながら、その割には、「部下が無能だ」と愚痴る。あるいは、取引先に自分はいい顔をしたがり、苛烈な条件交渉から逃げる、という管理者も少なくありません。

 いままで、こんな、よく言えば穏健、悪く言えば「何の役割も果たしていない名前だけの管理者」を許してきてしまったのは、経営者自身であるし、それでも何とかなったのは、過去の先輩たちの積み上げてきた資産のおかげであったこと でしょう。

 そして多くの会社では、だいぶ以前から、その過去の先輩方が築き上げた資産を食いつぶす局面になっていて、それに気づいた経営者が変えようと思っても、管理者を含む社員はそのままでいようとします。

 「腹落ちしていないからやらない」は、一面の真理だとは思います。しかし、「腹落ちしてくれなければできない」は正しくありません。「腹落ちしなくても」やらせる必要はあるし、やれる人を集めてでも勝つ必要があります。

 ひとはそれぞれ多様なバックグラウンドを持っており、考え方も人それぞれです。その中で、「一つにまとまる」ことには限界があります。それを前提として、管理者を選び、強制力を持たせる手段を与えることは軽視してはなりません。

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