ハイパフォーマンス経営者と、そうでもない経営者のマインドの違いの4回目は、「それはやらない」という決め方と伝え方、どういう人がそれができるのか?についてです。前回はこちら
経営者の重要な役割は、お金と社員の時間の使い方を会社の目標達成のために制御することです。これは、経営戦略の重点項目や儲かるところに時間とお金、人員を使いそうではないことは廃止する、投資しない、人を減らすということです。
当たり前のことをいうようですが、これをきちんとできている経営者というのはなかなか会ったことがありません。まず稟議事項がきちんと管理されていない、ということがありますし、管理されていても、部門長や経営者のところでチェックされ却下されているかというと、ほとんどの会社で「ざる」で、ほとんどの申請があまりチェックもなく承認されています。これはある意味当然であり、経営者が一つ一つの費用出費の正当性を吟味することなど実際にはできず、部門長に任されているのが実情で、その部門長の選び方に問題があります。そして、部門長は経営から適切なKPIを指示されてもいないので、自分の部門の全社戦略上の役割など考えずに、維持拡大が組織の自己目的化しています。
時間も同様で、経営者、部長は新しいことをやれというものの、それと同じだけやめてもよいとは言ってくれず、結果として残業が増え、「作業」が増える。そのために日常が作業ばかりで新しいことを失敗し工夫し、あるいは準備調査する、というところに時間が使えないことが当たり前になり、やがてはその「考えないでもいい状態」が日常になり、慣れた作業だけして考える変えるを避けるようになる、それがよく見る企業の現実です。
経営者には時間でもお金でも使い方を否定し指示する権限も責任もあるにもかかわらず、なぜこうなってしまうのでしょう?
経営者が会社のお金や時間を制御できない訳
この理由は言語化されることはあまり多くありませんが、明白です。
1番目はよくある「戦略の具体的落とし込み」を適宜見直しながら文や図にしていない、ということが原因です。そこには、物事を構造化してとらえてそれを言語化する能力の不足というような原因があることもありますが、弊社のようなスキル保有者を使えば、そのこと自体は決して難しいことではありません。経営の「計画」なんて時間さえかけられればそんなに難しいことではないのです。本当に難しいのは、計画ではなく、「遂行」です。
2番目は、選んだ人材の問題、ではあるのですが日本の管理職でこれがちゃんとできる人は非常に少ないように見受けます。「役職が上だからと言って、偉いわけではない」ということは、態度や品位の問題であって、業務の具体的指示については、戦略を元に理由を説明して全否定してこっちをやれと明確に言う方が正しいのです。先日、こんなやり取りが実際にありました。
私「月曜日は再び繁忙が予想されます。月曜日の「即日出荷割合」をあげるため、すでに注文を受けて着日から月曜日に出荷を予定している案件を着日指定の上、木曜日と金曜日に出荷するよう変更してください。」
担当「木曜日は来週の出荷体制の準備をしたいので、月曜日分は月曜日にさせてください。月曜日の見込み件数は、月曜、火曜で完了させます」
私「上に述べたように、月曜日分の「即日出荷」割合をあげて欲しいので、月曜日の当日受注分出荷以外の作業は全部前倒ししてください。」
担当「3営業日以内に出荷すればよいのではないのですか?」
私「それは昨年末段階の事業拡大段階での「標準値」設定です。翌日配送が競争の重要要素になりつつある現時点での目標値は「即日出荷割合の向上」であり、それはあなたが追うべき成果です。」
常々文章で部門長に、「次の四半期の改善ポイント」を明確化して伝えていても、現場にその通りには伝わっていないですし、伝わっていても「自分たちの従来のやり方」「前回うまくいったやり方」を続けようとするものです。しかし、そんなことは求めてもいないし、できたとしても顧客には伝わっていません。顧客に伝わる「成果」を追わせるのは経営者の務めです。(ま、この場合私は一部門の代行者なのですが)
こういうことは下手に心理的フォロー、修辞などせず、戦略上の優先順位からくるやるべきことをはっきりとさせた方がよいですし、実は、上の対象件数は150件程度あったのですが、相手に納得を得る前に、システム上の指示を行ってしまう方がよいのです。
もちろん、一人一人が今の戦略を的確に理解し、戦略に基づく行動を自律的にとってくれれば、経営者にとってこんなに楽なことはありません。しかし、実際にはそんなことは実現しません。お金にしろ、時間にしろ、現場で働く人の大半は、「これまでのルールで未知のトラブルが少なく」「これまでの社員や取引先との関係が円滑で快適である」ことを、戦略目標の達成や利益の改善よりも優先します。そこに安住させず、強制的に次の場所へと移動させるのは、「責任者」の役割なのです。このことを教育されている管理者は日本ではとても少ないですし、的確に教育する仕組みもいまだ日本では出会ったことがありません。経営者が自分の目と手であるところの管理者や管理者候補に繰り返し指示し、それを稟議チェック、タイムカードでチェックして直させる(あるいは交代させる)しかないのです。
そして、いわゆる「優しい人」はこうした経営者、管理者には向きません。優しい人、というのはオブラートに包んだ言い方で、実際には、「会社以外の家族や友人にきちんとした価値を置けていて、会社における自分の人間関係を必要以上に重要視せず、成果を追うことを会社での人間関係よりも優先させることができる成熟さが不足している人」です。
実は、これを体系化してカリキュラム化しようかと思ったこともあるのですが、そのほとんどが、戦略を理解し、自分の管掌範囲でそれを具体化し、KPIを決め、PDCAを回すという「当たり前」のことに帰結してしまい上手くいきませんでした。
3番目の「手が空くことは無駄だと思っている」は2番目以上に経営者に多い誤った習性です。全員が勤務時間中ずっと忙しいことがベストだと思っているのです。もちろん、理想的な業務量と人員配置が組織内で完成していると一断面ではそのようになるのですが、実際にはそのような組織はありません。実際に必要なのは「今、業績の改善、戦略目標の達成に重要な影響を与えると思われるのに、それができないでいるボトルネックの改善」です。
手が空いていればそこに貢献することを指示するべきだし、それがあまり適切ではないのならば、「手は空いていてよい」(余計なお金を使うな)なのです。その手空き状況が持続するようであれば、別に四半期、半期ごとでなくても人員配置を変更するべきであるし、重要箇所ではないところにお金を使って少しぐらい改善することは、「しなくてよい」ことであり、「重要箇所だけにお金を使って突破すべき」です。いわゆる「制約条件理論」(TOC)というものです。そういう暇な状況ならどんどん有給を使えばよいし、本当は会社として休みを増やしたって良いと思うのですが、現行労働法制はそういう事には対応していませんので、「暇なら暇で良い」というのが現状の解です。
時間お金の制御ができるリーダーのマインドとバックグランド
「重点項目以外にはお金を使わない。重点項目にはびっくりするようなお金を掛けてでも必ず突破する」と人に命令することはとても「勇気」がいることです。そして、その「重点項目」を決めること自体も、たくさんの課題がある中で、自分たちの将来のために何をやるべきなのかを決めるのはとても勇気がいります。勇気と言えば、キレイに聞こえますが、実際には、「判断を誤ると、自分の財産も、社員の雇用も失われるという危機感」を常に抱きながら決めることになります。経営者からしたらできれば、「あれもこれも」と保険を掛けてやっておきたくなるのは仕方がないことです。
しかし、「そんなあれもこれもでは、結局何も仕上がらない」という人間の能力、組織の限界を知っていることもまた、ハイパフォーマンスリーダーのマインドセットです。
学校成績の良かった経営者は自分が作業で優秀なだけに、それができると過信して指示するのですが、社員は普通の人たちですので大抵裏切られます。「たくさんいうと何もできない」は組織の真理です。それを社員の能力不足というのは簡単ですが、いつでもどんな組織でも、決して十分な能力で戦う事なんてできたことはローマ時代からどんな組織でも一度もなかったことでしょう。限られた能力で確実に成果を上げるには、「集団できることを見極める」か「自分が独力で突破するか」のどちらかしかありません。
その一方で、考える範囲を適切に限定し、問題とゴールを単純化してあげることにより「知恵を集中し、お金を集中して必死で考えると、普段は無理そうなことでもなんとかできる」という人間集団への信頼があることも入パf-マンスリーダーの典型です。その「信頼」があるからこそ、リーダーはそうした「勇気」を発揮できるのです。
その意味では、学生時代にスポーツでも芸術でもいいのですが、集団で目標を追求するリーダーであり、しかもそんなにエリートが集まっているわけではない中で小さな目標を成し遂げるということは、リーダーとして必要な経験であると思います。
自分の能力や体力には限りがあり、人間はみんな怠け者です。だけど、それでもやることを集中し、皆の意思を統一すると、その時始めてやれることがある、それは健全な楽観であり、持つべき希望なのです。