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オープンイノベーションと言う前に

私が20代の家電店バイヤーだったころ、かかって来た営業電話を短めに切ったところ、30歳近く年上の部長にこう言われました。「時間がある限り、会えるときにはいままであったことがない人に会っておけ。相手の足りない部分を自分が知っているかもしれないし、その逆もある。断るのは会ってからでもできる。でも、電話で断ると2度と会えなくなってしまう。」

私は、必要なピースは自分で考えて調査して自分からそのピースを手に入れに行く方が効率的だと思っていた跳ねっかえりでしたので、その上司の言い方も、「時間がある限りな」というような一歩引いた言い方でしたが、少しハッと思ったことがあり、その後はとたんに改心して、基本断らない(断るのは個人宛の投資勧誘等の営業)ということを20年以上貫いてきました。

もちろん、そうして会った中でも一度きりになってしまったひとが半分以上です。しかし、その多くは、「今月、今期の数字を求めて売り込みに来た人」でした。私はこの方針を貫くため、「それは今買いません。」と90%は即答してしまうからです。「買う」は社内手続きが必要なので即答できませんが、買わないは自分でほぼ決められます。あまり人に相談が必要というケースもありません。(費用対効果が1.5~2以上になるかどうか自分がわからないが人はわかるというケースは本当はなくて、自分がわかるか、みんな分からないかのどちらかです。自分で決断し責任を持つかどうかの問題です。)

もちろん、会う人はみんな営業的意図をもってはいるのですが、それ以外に情報や人脈を同時に求めている人も一定数はいます。こういう人はどちらかというと10年以上営業を経験しているような人が多いです。ただ、ベテランがみんなそうかというと、年をとってもあからさまに「買うか買わないか短時間ではっきりしてください」という感じで突き押し相撲を取る人もいますし、そういう人ばかりを多く集めて、当期の粗利が圧倒的重点評価項目になっている営業会社というのもたくさんありますし、そういうところに勤めていたこともあります。私には長く務めることは無理な会社でしたが。たしかにそういう会社では成果を上げると20代で年収1000万円も実現可能です。それだけの利益を会社にもたらしたのですから、そこに異議もありません。しかし、ずっと65歳、70歳まであなたはそうやって突き押し相撲を貫くの?とそういう姿勢の営業マンを見ると少し気の毒に思います。

最近、「オープンイノベーション」という言葉が盛んに用いられるようになりました。大企業が商品や技術はなんでも自前で開発し保有し、中小企業はその下請けの施工や製造を行う、という従来型の産業構造が急速に通用しなくなっています。より高度なソリューションをより安価に提供することがネットの普及と国際化により容易になり、同時に情報が簡単に検索できるようになり買い手の見る目も肥えてきています。これらに対して大企業と言えどもすべてをフォローし続けアップデートすることが出来なくなり、社内に不足する価値を社外との連携で調達せざるを得なくなってきていることが背景にあります。

自分たちの強みのある、経験の豊富なもの以外は試行錯誤も必要ですし、関連する情報も不足していて大した収益を生まない上に、発売までに時間がかかる原因やクレームの発生個所になる可能性が高いので、その部分は経験の豊富な会社と分業しようというのがオープンイノベーションの基本的考え方です。つまり、競争優位を維持できる部分だけを社内で維持し、その他は社外との協力で賄うことで競争力を維持しながら、変化に対応しやすい構造を維持しようということです。この状況を簡単に示したのが次の図です。

しかし、オープンイノベーションという以上、やろうと思っていることで社内にないリソースを社外で持っている人、会社を見つけてこなくてはなりません。そこでまた、大企業然として「応募受付」とかやっている会社もありますが通常これはうまくいきません。その未知の業界・界隈で誰が力があるのか?誰が自分たちにとってのベストパートナーなのかがわからないまま募集しても、来るところは多くの場合、本当に必要な力のあるところではない、二線級がきてしまいます。なぜならば、その「トップクラス」はもう「大企業の下につく」必要がなくなっているからで、そのような、「提案持ってきてうちの下に着け」という態度を鼻で笑っているからです。

いい人・会社がどこにいて、どうすれば自分たちと組んでもらえるか?は、ネットに乗っていないしデータ販売会社が売っていない情報です。その界隈の中の人やそこに付き合っている人が非言語的に有している情報であることが多く、まずその情報を提供してもらうには、提供するのにそれ相応のメリットが相手にあり、しかも信頼を得ていなければなりません。しかも、そのメリットは多くの場合、金銭ではなく、交換で提供する同じ程度の価値を持つ情報であることが多く、「紹介料」を払えば済むというような簡単な話ではありません。そして、ものを売るときと同様にその関係業界を足で稼いだ情報から探しあて、その相手に熱意をもって説得することが必要です。

「オープンイノベーション」を標榜するある会社に最近伺ったのですが、結局、「調達先の審査」があり、セキュリティ監査、決算書提出等「下請け工場の選定」と同じルールが適用されていて、その承認プロセスに1か月(それでもその会社的にはずいぶん早くなったそうです。)程度を要するそうでした。そして、おそらくは法務部が一方的で高圧的に「買ってやるけど全責任はそっちな」的な契約書案を提示してさらに1か月を要し、何度も何度も相手の会社を自社に呼びつけて「打ち合わせ」…そういうやり方は、全然オープンイノベーションではないわけです。自分たちはノーリスクで0リスクにするためのコストをすべて相手に押し付け、そうでなければ取引してあげない、という姿勢は実に日本独特のものでありそれが大企業病の最たるものです。その背景には一度失敗すると再起不能になるまで咎める日本社内の宿痾に対しリスク過敏症になり怯えている経営者の姿があります。そんなことではアジアの新興企業に負けるばかりだとわかっているのに、今までのやり方を正しいと言われて育ってきてしまった人たちにそれを社内で主張し変えることはもうできないのだろう、と思いました。この辺は機会を改めてまた別に書きたいと思います。

 最初に戻って、「なるべく初めての人には会え」という私の上司の指導は、その後の私個人の人生と仕事のやり方もを大きく変えました。私個人は、「これを売れ、他はやらんでよい」と言われると嫌なのですが、相手の話で困っている点を探してそこに自分のやっている事項を追加開発してあてはめたり、他社の商品で知っているものを紹介して相手に喜ばれるのは楽しかったのです。話す相手も、「商品売る買うよりも、そういうのがこの人の仕事なんだ」(これは勘違いもありますが)と分かると離れていく人が半分以上ですが(面倒な割に売り上げ数字は上がらないので効率面ではこれは正解です)、売れなくても時々連絡をくれるようになる人もそこそこはいて、さらには、「こんな人いますよ」と紹介してくれる事例も出てくるようになりました。私のほうも、会った人の困りごとに自社や他社の資源をつなげる確率がある段階を過ぎると飛躍的に高まってきました。特にここ8年程度はメールに代わってSNSとメッセージサービスが情報の発信や交換の中心になり、このネットワーク化作業がとても効率化しました。今ではメールの数倍の件数がメッセージサービスで届きます。(メールはむしろ広告が大半です)公私混同とかSNSで会社の情報を発信禁止とかをいまだにやっている大企業も多くあります。たしかにみっともない事故も起きていますのでその気持ちは分からなくはありませんが、その禁止は全然実効性がありませんし、禁止することにより膨大なネットワーク構築のチャンスを失っているとも言えます。

この種の営業は、できる人が偉いとか頭がいいとか、いうわけではありません。短期的に粗利を稼げる人の方が経営的にはよほど頼りになるし、ありがたいと私自身思いますし、営業が10人いたら、そういう稼ぎ手が8,9人いてよいと思っています。でも、一人ぐらいはこうした「業界通」「情報通」として人脈や情報を流通させることの上手な人がいれば、自社だけでは「ソリューション」を提供できないこれからの時代をより生き残りやすくなると思うのです。

でも、どうしたらこうしたことが可能な人を作ることができるのでしょうか?

一つは相手の持っているリソースをその場で分解して、既存の自社や他社の不足点とのマッチングを行う、ということは決して簡単なことではなく、対象業務や業界の知識の蓄積が必要です。すべてを実地で経験があればよいのですが、なかなかそうもいきません。例えば日経ビジネスですとか、最近ですと玉石混交ではありますが、ネットの経営系の記事などをよく読んでトレンドや課題、ソリューション事例、商品ジャンルごとの主力製品の概要などを薄くでも広く知っていることは必要でしょう。多少の「頭の良さ」はそれに加えて必要だとも思います。

もう一つは、このようなネットワークは私もそうだったように、ある業界やジャンルで一定以上の密度にならないとなかなか結合が出来ません。その範囲を絞り込むことはある程度必要だと思います。そのうえで、時間の長さというよりは「回数」は絶対に必要です。週に1人新しい人に会う、というようなスピードでは絶対に足りません。齢を取ると意識しないと普段の自分の仲間内で仕事を済まそうとする傾向が強くなり、仲間を増やそうとはしなくなります。仲間を増やす活動はエネルギーを多く消費しストレスも多いので易きに流れてしまうのです。そこを乗り越えるバイタリティ、心の若々しさのようなものはとても大事です。偏見かもしれませんが、40代になっても何かスポーツか芸術に終業後や休日に打ち込んでいるような人の方がこういう傾向があるように思います。

そして、一度知り合ったあとにその結合を維持するためには、メール、SNSで時々情報交換、いや一方的にでも情報提供していく「筆まめ」さが必要です。そうしないと、昨今では転職する人も多い(特に若い優秀な人に多い)ので、メールでは連絡が取れなくなってしまうことも昔よりも多くりました。その点、SNSは会社とは関係なくその人とつながり続けることができるのでとても便利です。人脈を「会社に置いていく」必要はSNSの出現によりもうなくなったのです。

そうしたニーズとリソース保有者をどうやって紐づけするか?という連想力をどう養成するか?というのも重要ですが、上の知識や分析力が一定量になったらあとは、申し訳ありませんが、打率の問題ではなく、打数の問題です。こっちがぴったりのマッチングだと思っても、双方がそう思ってくれる確率は決して高くありません。それは目利きが十分ではないこともありますが、おそらくそれ以上に「運」「タイミング」の要素も絡んでいます。やり続けることがまず一番大事なのです。

もちろん、他人を尊重し話に傾聴する姿勢ですとか、相手の懐に飛び込む大胆さや人懐っこさは必要ですが、これは物を売る営業でも同じことです。こうしてみると、実はこうしたオープンイノベーションの開拓者は決して若い方が有利というわけではないし、技術や企画に優れていることが必要というわけでもありません。数をこなすバイタリティと柔軟な人間性さえあれば、だんだんと先行きが怪しくなってきたと怯える40代営業職が十分活躍できるステージであり、そのステージはここにきて拡大しているとも思うのです。

ご賛同いただけるようでしたら、もう一つ私から助言があります。それは、効率とか平等とか言い訳をせず、会えるならば相手の会社に往訪した方がよい、ということです。その方が会える確率も高く、相手の会社の状況をより具体的に知ることができます。必要な実物や資料をその場で言って持ってきてもらうこともできます。場合によってはさらに上司にその場で会うことができるかもしれません。(私は頼むことがあります)実はこれも冒頭の上司の指導でした。

また、知っているだけでなく、それを頭の中にしまっておいたニーズに紐づけることのできる連想力がどこから来るのか?というのはいろいろ考えることがあるのですが、

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