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「非対面」再び

また、新型コロナウイルス感染者数が増大してきてしまいました。政府は、多少の犠牲者には目をつむり(そうは言えないのが政治家なのでしょうが)、経済活動を維持する方針だったようですが、世論の動向を見る限りはどうやらそうもいかないようです。

経営者の皆さんも、「仕事の進め方」さらには、「業態」までを転換しなければならない危機感を春の「営業自粛」期間には強く持っていたはずなのに、いつの間にかまた、元に戻ってしまっているのではないでしょうか?年長組はそれに安堵し、若手はそれを苦々しく思っています。

こういう時こそ、弱気になっている会社を追い抜くチャンスなのは間違いありません。中小企業はこういう時だからこそガンガン行って大企業のスキを突くべきです。しかし、それは、「朝晩満員電車に乗って、足しげく顧客に通い、夜は接待に励む」という「昭和スタイル」を強化することではなく、ITを駆使して商談件数を増やし、コストダウンを進めつつ価格競争力を強化することだ、と春には決意していたはず…それがいつの間にか…で、ようやくまた思っていますね?「やっぱり、変わらなきゃダメなのか…」

なぜ春には変われなかったんでしょう?

もっとも、一部の経営者が指摘しているようにリモートワーク多用、非対面営業の多用が生産性にどのような影響をもたらすのかはいまだに定量的分析がありません。しかし、この現象は「石炭火力が経済性で風力・太陽光よりも優れている」というのと同じで、「新たな環境規制」の中のビジネスチャンスととらえるべきことであるというように私は考えています。

先日、義母に「GoToEatの申し込み方」を説明したら(ポイント制が終了する前です)、「若い人にばっかり有利」とボソッと言っていました。それが今の日本社会の最大勢力(よりも少し上なのですが)の見方なんだなぁ、と改めて思ったのですが、そこに「変われなさ」の中核的問題を見た気がしました。最大の人口と可処分所得を有する層が70代、働く人も50代、60代が一番多いので、市場での大きなシェア(マス)を取ろうと思うとその顧客に合わせざるを得ないのです。そう、マスを取ろうと思えば…だから変われなかった。

ある会社の経営者の方が嘆いておられた実話があります。この会社の最大顧客がこの会社の営業部長にお怒りだそうです。話を聞くと春から全然顔出ししていなかったからだそうです。もちろん顔を出すというのは現象面であって、その真意は、細かな意思疎通のずれやトラブルの先行的な回避策をリーダーがとっていなかったために、これらが発現してしまっていることを怒っているのでしょうが、その営業部長は理由を問われて、「コロナだから来るなと春にお客さんに言われた」と言ったそうです。この部長さん、50を過ぎた方で、過去の実績も人望もおありの方で、私も好感を持っている方なんですが…そこで、なんでZOOM、電話、メールなどで同じことをしなかったんですかね?と経営者に確認すると、「そういうのに慣れていなくて代替手段になるという実感をもっていないんだろうね」という回答でした。多分、これは当たっています。

そのくらいちゃんとやってよ、と言いたい経営者の気持ちはわかりますが、人とはそういうものであり、今までやったことのない方法は、その人にとってはないのと同じなのです。ではどうすればよかったのでしょう?私の案は、「社内の会議も全部ZOOMでする」です。えっ?と思われたかもしれませんが、これは実際に弊社の別のお客様(コンサル業)がやっていることです。そうして、全員を慣れさせて、往訪や電話ではなく、ZOOMベースでのコンサルティングに移行しても問題ない、と自信をもって顧客に提案できるようにしているのです。だから、彼は会議のURL発行も社員にやらせますし、その周知もChatWorkでやらせます。(この会社では、顧客ともChatWorkベースでやり取りしています。)

この最初のクレームを受けたお客様の会社でも決して体制づくりをしていなかったわけではなく、実際にZOOM,Slack,クラウド経費精算などの変化の流れ(これは私が起こした部分も多くあります)がストレスだと言ってやめた主力営業マンが現にいます。(それが主たる原因ではないとも思っていますが)けれども、それでもよいので、後ろから前に進めとけしかけるのが経営者の役割だったのです。これらを用いて時間と交通費を節減するのが、今年の日本社会の競争力強化の重要ポイントになっているのですし、これは不可逆的な人材要件の変化であり、これらがうまくできる人が実績をあげていくのがこれからの日本社会なのです。


ところで中小企業の皆さんは、それほど「マス」を取ろうとはしておられないはずです。中小企業のやっていることなど、大きな世界市場のほんの一部でしかありません。だとしたら、もう一つ重要な視点があります。

先ほどの例では、今までの重要顧客とのコミュニケーションを手段を変えるだけで継続しなければならなかったのに、その手段がないと思い込んでいた50代の話をしました。これは「最大顧客」であるだけに、「とりあえず維持」という判断をまずは経営者がしたことは当然だと思います。

しかし、ZOOMやSlackで効率的に、かつスピーディに案件を進めることができるならば、二言目には稟議とか、セキュリティとか根まわしなどと言って変化を忌避する大企業よりも、素早い対応を「全国の」顧客に対してできるはずです。また、若い経営者や担当者の中には、そうした物理的のみならず心理的にも「密ではない」商談の方を好む人も実はたくさんいて、その身のこなしの良さを生かして、同じことを検討するのに、対面では3社と商談するのにも時間がかかっていたものが1日に5社と商談して比較検討を行う、というような仕事の仕方が当たり前になってきています。私もwebミーティングを週に5程度していて多い方だと思っていたのですが、社外と10以上平気で組んでいる若者がたくさんいることに驚いたものです。

私もBtoB営業を長くやっていましたが、中小企業の営業マンが週に10も商談を入れるのは既存顧客含めても結構大変なことです。それはまず優先してもらえない立場でアポも入りにくいし、入ったとしても移動も大変だし、資料の印刷などの準備にもそれなりに時間がかかるからです。それが今、大きく変わろうとしています。移動はいらないし、オンラインならば30分単位で気軽にアポを受け入れてくれるし、資料は既存の資料の画面共有で説明して、ニーズがわかってからPC内で検索すればよいのです。このことは、単に会議が対面からオンラインに変わったという表面的なことよりもずっと大きな影響をビジネスシーンに及ぼし始めています。中小企業にとっては、若い顧客候補企業・その担当者に対して「ZOOMでいいから30分ミーティングさせてほしい」ということでアポを入れるチャンスが以前よりも大幅に拡大していて、選択肢に入れてもらいやすくなっているのです。中小企業の営業の大企業に比べて最大の悩みの「知名度がないので、なかなか会ってもらえない」ということが少し変わりつつあるのです。

もちろん、そうした相手には、「相手のメリットや効果をしっかり明確にする」商談を短時間で行うというスキルが必要で、「継続的な人間関係からくる信頼」というものが従来よりもあまり重要視されない傾向がありこれも年配の営業マンからはやりにくい点であるかもしれません。しかし、それが世界で売り負ける日本の姿そのものだとも思います。そして、相手のメリットや効果をしっかり明確にできるためには、ターゲットも小さく絞り込む必要があるし、そのターゲットにとってメリットがはっきりするようなモノづくりをしなければならないというマーケティングの循環に立ち返ることになるのです。

今度こそ、変わりましょう。ただし、変えなくてはならないのは、web経由というツールの問題ではありません。webを生かして数をこなし、スピードを上げる営業の仕方こそがこれからのやり方なのです。

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