ブログ

税理士は大事だよ、T井さん

〇〇にあの芸人の名前を入れればアクセス数増えるんでしょうが、それはしません。某人気芸人が税務上の義務を長期にわたり怠っていて、リークされて活動自粛となりました。

サラリーマンは所得税、住民税のことは会社が全部やってくれますし、消費税は払うことはあってももらうことはなく、払うときにもお店が合算で金額を教えてくれ預かるので、税務がどの程度の難易度なのか、あるいは何と何をしなければいけないのか?をほとんど意識することがありません。あるとすれば、住宅ローン減税の申告をするときぐらいでしょうか?

しかし、実際に会社の経営をやってみますと、小さな会社でも法人税に地方税、消費税、それに社員の所属税の代納と、この時期になるとやって来る年末調整、と業務は多岐にわたり、しかも所得税は毎月10日、法人税や消費税は決算後2か月と厳格に期限が決まっています。(申告の延長はできても納付の延長はできません。)これが、結構期限がタイトでして、いつも税務に追われて大忙し、という感じに経理部はなりがちです。しかも規模(資本金)が大きくなると外形税がかかったり、交際費の税務上の扱いが変わったりと気を付けないと間違えてしまう点が常に現れます。そうでなくても毎年税制が少しづつ変わり、毎年4月になると、「今年度税制改正のあらまし」のようなものが回って来るのですが、どうもよくわからないことが多くあります。

そして、困ったことにこれらは規則を自分で網羅的に理解し、正しい申告をする(ここまでは仕方がない)ことが求められているだけで、さすがにT井氏のように申告漏れまで税務署側がアラートする義務はないとは思うのですが、申告した時点で税務署が点検して受理OKとか修正指示とかをしてくれるわけではありません。そして、数年後の検査で「認識違い」や「対応漏れ」が発覚すると、いろいろな方法を用いてまずは自主的に納税を迫り、その後強制的手段が取られる場合もあります。その時になって、故意ではなくても積み重なった誤りを一気に清算しなければならなくなると思わぬ巨額になる、ということもあります。

同様の現象は会社の中で、社会保険業務(社会保険事務所)や労務管理(労基署)でも起きます。すべて、「法律を守る」ために、「法律を知る」ところから始める必要がありますが、かなり細かい追加変更が「介護育児」「残業制限」などと時代に応じて起きるため、気を付けていても中小企業の兼任ベースの担当者では知らないことはほぼ確実に起きています。

そして、これらの業務には、もう一つ大きな落とし穴があります。近年では、これらのデータは全てパソコンを利用したシステム、最近では中小企業では特にクラウドサービスで運用管理されるようになっています。そのシステムには自社の運用ルールに合わせるために無数の設定オプションが存在しています。それにより、異なるルールを持つ別々の会社で同じシステムが利用でき、その結果、専用で作るよりも非常に安価に利用できるわけです。ところが、この無数にある設定をすべて正しく設定しているかどうかは、正直やっている当人もわかっていません。これでいいはずだ、と思っていてもそうではないし、それがオンラインヘルプに書いてあることもあるが多くの場合、目に留まっていません。チャットヘルプに問い合わせても問い合わせ方の巧拙もあるのでしょうが、ずばりの返答があるとも限りません。「たぶん、これでいいはずだ」ぐらいの感覚で見切り発車せざるを得ないのが中小企業の管理部門のクラウドサービス導入の実情なのだと思います。

実は最近、私が一年近く前に設定したシステムでも、この見落としがありました。

その会社では、20日締めで勤怠集計を行っているのですが、用いているかなりメジャーな勤怠管理システムでの集計オプションで、「〇年〇月」(そもそもこのオプションがちゃんと末日ではなく、20日締めで集計されるように設定されているということを見落としていた。)分として集計する場合と、「〇月21日~△月20日」と期日を指定して集計する場合とで、集計内容に相違があるケースがあったのです。この原因は、「月次単位でのみなし残業がある場合」や「フレックス」の場合の細かな設定により集計内容に差異が生じるということでした。そして、その設定の誤りが実際に影響するのが、みなし残業を超えて残業をした場合に限られ、それがこれまで発生していなかったために発見が遅れたものでした。(現在は修正しました)

私もこのシステムの設定を行ったのが、3社目だったので少し過信していたのですが、この会社が他の2社とはルールが異なる点があることに対して、どのような影響がシステム上あるかについて全部把握していたわけではなかったのです。そして、テスト用データを入れてテストする、というようなことが勤怠管理系クラウドの場合は、とてもやりにくい(データの削除を勤怠系、給与系両方で行う必要がある)ために、本番で検証していた(しかし、本番ではこのエラーはめったに起きない状況だった)ために起きたエラーでした。

これが自社構築したシステムでしたら、テストデータを用意し、運用テストしたのでしょうが、できあいのクラウドサービスであっただけにそこの慎重さを欠いてしまったのですが、そもそもそうしたシステム導入手順を踏むと安全性が高まる、ということを知らない総務人事担当も世の中にはたくさんいます。

実は、このエラーを発見してくれたのは、新しくこの会社の指導をお願いした特定社労士の方でした。データを出して翌々日にはチェックレポートを提出していただき、その説明を聞いて、該当するシステムの設定個所を操作して解消することが出来ました。さすがにチェック箇所や方法を心得ていて、他にも改善必要箇所をいくつか挙げていただきました。

私が作った仕組みは以前のその会社の状況からすれば、85点、90点は貰えるのでしょうが、それでいいのか?というと、「法律に沿った運用」という点では、細かな点でも遵守が必要であり、そういう意味では私の対応は少し足りていなかったことを告白しなければならないのだと思います。

だからと言って、その士業の先生がシステム設定してくれたり、社員への説明対応をしてくれたり、というわけではありませんし、そもそも先生に、「ここら辺が要チェックだと思っています。」ということを言って、素早くデータを渡して、必要な状況を説明する、という要領を得たインターフェース担当がいないと、先生も必要なチェックができないわけです。85点、90点まで達していない状況だと、そもそもチェックという状況にも至らず、「仕組みを運用してください」で終わってしまうわけですので、私のやってきたことは、そういう意味では価値があることだと思っています。

こうした士業の専門家に業務を依頼するとやはり、小さな会社でも月3万、5万と費用が生じます。しかも、税務と法務と、労務はそれぞれ別の士業があるので、その掛け算で費用は生じます。それによって会社の利益が増えるかというと、直接的短期的には減ります。

士業の先生への顧問料のお支払いとは別に、営業リーダーの何でもありのやんちゃな創業期的なところから比べると、彼らが指導する内容は、利益を押し下げる方向の指導が多くあります。まず、きちんとデータを記録すること。その上、法律の制限を守ることや、必要な届け出やそれに必要な税や手数料(公課)を支払うことなどを行うと、ただ、利益を上げて企業を成長させたいだけの視点からすると迷惑な話なわけです。今回の芸人Tの件も常習性があるということからすると、そういう思い込みがあるのではないか?という気がしてなりません。昔は(特に関西方面での零細事業者の社長さんに)そういうことを口にするだけでなく、部下に平気で指示するガラの悪い人が普通にいました。

しかし、「法人」という方が示すように、人に社会的義務・責任があるように法人にも社会的義務・責任があります。そして、ある一定以上の規模、多分それは数千万円から1億円を超えたあたりからは、法律が求めている「社会性」を具備しないと、社員の定着や取引先との関係構築に支障を来すようになってきます。今回の事件はそのことを甘く考えるとどのような社会的制裁を受けるかを示しているとも言えます。

最近では、若い方も、「自分の会社がコンプライアンスをキチンと守る考えのある会社かどうか」を重視するようになりました。いわゆる「ホワイト企業」という奴です。昔は私も何度も、上司に「ルールだのなんだのうるせえんだよ。そんなの社長にもとめられてねえんだよ」的な恫喝をうけたことがありますが、そういう会社は必要な人が辞める会社になってしまっていますし、大手の取引先からも忌避される時代になっています。まず、故意というのは、継続性の前提を危うくする考えです。

しかし、再度、冒頭の私の例に戻りますと、私が見る限りでは、企業の成長、時代による法律改正などへの対応、それから今回の私の事例のようなシステムの細かな設定や、ルール上の思い込みといった落とし穴に完全に対応できている中小企業というのはほぼないし、それに気づいていない(故意ではない)ことがほとんどです。しかし、故意ではなくても、申告の修正、ひどい場合には罰則は適用されてしまいます。

それならば、企業規模に応じた対応を心得ているような応援的姿勢を持つ士業に、定期的なチェックをしてもらう必要性はかなりある、と自分のやれる範囲の限界とともに思った出来事でした。

関連記事

  1. 経理・出納を誰に任せるか?
  2. ゆうパックプリントRの話④ 現場の魔物退治
  3. 5000円ちょうどなくなるレジ
  4. とある外資系調査会社に見た「外資流」DX
  5. 業務マニュアルをどう作るか?②
  6. 固定電話に見る「再構築」の考え方
  7. 必要なのは情報管理の再設計なのだろうか?
  8. 「何を考えるべきかをまず考える」ためのツール
PAGE TOP