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不況期の凌ぎ方

先日、20代の若い方なのですが、大変お世話になっている士業の方とお話ししていたら、「リーマンショックやSARSの時のことを実際には知らない」と言われていました。そうなんですね。97年頃の「不良債権」問題などもう遠い過去の話になってしまったのでしょう。ずっと試算表に苦悶し銀行や顧客である大企業への対応に苦しんできた身としては思い出すのも腹が立つようなことばかりです。この投稿を書きながら、なんだか自分の歴史が悲しくなってきました。

目下、政府主導で金融対策が次々と打ち出されています。先週も政策系金融機関に長期的なお客様の信用構築をテーマに伺ったのですが、意図せず「新型コロナウイルス対策融資枠」の話になってしまっていました。97年、08年の急激な信用収縮に学び予防策としての資金供与を行うことは、個々の事例ではモラルハザードを産むケースもあったとしても、経済全体の血流を止めないという点では、今やるべき政策だと考えます。

しかし、それでも需要は縮小し経済状況は悪化に向かうでしょう。「愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ」はプロイセンを強国に導いたビスマルクの言葉です(本当は微妙に違うようですが)。外れて嘲笑を受けるならば、それでもよいのですが「この二十数年の不況期に何が起きて、どういう中小企業が生き残りどういうところが消えて行ったのか」を整理してみたいと思います。

①大企業を信用するな

元々検討が進んでいたから、内諾、あるいは口頭で発注していたから、ということをこれからしばらくは決して信じてはいけません。また、「延期」という言葉も信じてはいけません。それは「中止」と思うべきです。契約書を締結し、できるだけ早く納品を完了し、納品書を発行するまで常に疑ってかかるべきです。「不況期でも人材育成は大事」「技術開発は大事」という言葉も信じてはいけません。平気で中断します。

大企業の行動原理を考えればそれは当たり前のことです。まず正社員の保全と業績へのインパクトの最小化が優先されます。業績が悪化すると、保有資産(不動産や子会社株式等)の減損などさらに巨大な損失に見舞われ財務状況が悪化し、株価が下落し、それがさらなる減損と財務悪化を呼び起こすという循環に陥ります。これに歯止めをかけることが内外の機関投資家から経営者は強く要求されます。

「一時的な事象」であることが合理的に説明できれば減損はしなくて良いルールになっているのですが、「一時的」と言い訳しつつ処理を先延ばししたものの、それが雪だるま式に膨らんでいったのが不良債権問題でした。

その中で正社員の人件費は短期的には固定費です。そのため、「将来に向けての投資」「外部との信頼関係」、それと「広告宣伝費」は「当座の業績保全」よりも「優先されません」。結果として、大企業は売上に必須の仕入は買いたたき、それ以外の販管費の外部流出を極端に絞り込みます。これを食い扶持にしているBtoBビジネスの中小企業は大きな打撃を受けます。

②本当の最悪を想定する

①のような態度の急変は、平時には信じられないようなインパクトを中小企業に与えます。都度発注の売上で民間向けは一旦0に近づくことも珍しくありません。その時でも、公共事業案件はあります。むしろ増えるのですが、ここにまた、普段はそんなものに目もくれないような、民間で十分食っていけていた競合が殺到し、役所の窓口に不慣れな業者の質問の列ができています。

建設業などでは官と民のバランスを取ることで景気に安定的な経営をする、という話をする人が多いしこれは間違っていないのですが、不景気時には官も取り合いになります。それもでかい会社が小さな案件を取りに来ます。

これに比べると消費者向けの生活必需品、最寄品はそうはいっても安定した需要があります。こうした銘柄、たとえば食料品メーカーは不況期に(相対的に)強いと言われるのは一理あります。ただし、付加価値品は先行きの不透明感から売れなくなります。いわゆるぜいたく品は資産価格の下落に伴い富裕層が買わなくなりますし、法人需要(外車などは法人名義の登録が多い)も減少します。結果として、値下げ競争が起き、利益率の低下を招き、そのしわ寄せは人件費に行きます。

このような縮小は、ある時期に谷底に落ちるように悪化し、そこからゆっくりと時間をかけて回復するというレ型曲線を描きます。その間の売上の減少は対策しようにもしようがありません。売上がない状態に何か月か耐えながら、当月、翌月の入金案件を必死に探す、というのがこの時期の中小企業です。

なお、信用力のある大企業は違います。銀行も危険性も増している中小企業には自己リスクでは貸し出せないため、回収リスクの低い大企業に貸し出して収益を確保しようとするので、いりもしないのに借りてくれ、と言われるという状況が生まれます。

③手元資金を増やす

結果として、重要なのは、そして信用できるのは手元の現金だけです。特別融資でも、助成金でもなんでもいいから手元の現金を増やし、そして減らさないことを極端に重視するべきです。余裕がないのに、「成長投資」とか言って恰好をつけている場合ではありません。この時期は頑張っても誰も発注してくれませんので、一部の短期収支改善商材以外(⑦にて記載)は成長はしません。潰れないこと、そして、戦力になる社員を保持することに全力を傾けるべきです。

日頃から銀行との情報交換ができているところは情報は入りやすいと思いますが、そうでなければ経営者が今からでも銀行に足を運ぶべきです。ただし、銀行も帰ってこない可能性があるところへの貸し出しには一層慎重になりますので、通常融資はあまり多くは望めません。今回のコロナウイルス対策のような「特別枠」を政策金融機関から受けたり、保証協会の保証付き融資を受けたり、ということが柱になるでしょう。

また、雇用調整や一時帰休への補助制度もあります。これらを素早く活用することで発生する費用はかなり抑制が可能であり、変化速度を上げることが可能です。

④聖域なき経費圧縮、原価を下げる

こうした時期には各種政策融資が行われますが、それもそれぞれに会社の資金不足を何もしないで十分賄えるような規模ではありません。できるだけ、生き永らえられる期間を延ばすためには、赤字事業を廃止し、不採算人員を減らし、社長の交際費、タクシーはもちろんのこと、社員の通常の出張や喫茶店代も厳しく制限し、外注は売上に紐づくもの以外は原則全部取りやめるべきです。「なければ困る」と社員は言いますが、困っても構いません。「潰れるよりもだいぶまし」と言い返してください。

その他、代表的な圧縮ポイントをあげましょう。オフィスは無理してでもフロア縮小して、あるいは駅から遠ざかって費用圧縮するべきです。文句言う営業には「その分お前が売ってこい」と言えばよい。コピー機、電話交換機やサーバーなどの再リースはメーカーや情シスに「耐用年数」と言われてもコピー機は台数減(2フロアに1台など)その他は再リースすればよい。反論には「壊れても潰れるよりはだいぶまし」「壊れたらその時考える」です。

販売用仕入以外の外注は一旦全部やめましょう。やめても困らないものが大半です。

仕入も相見積もりできるものは徹底して行って低減を進めます。相手も泣きついてくるでしょうが気にしてはいけません。みんなが困っている時は下げるチャンスなのです。

このような対応をすると、景気が回復したときに悪評が立ち取引が限られることを気にする経営者もいますが、景気が良くなると見積もり価格は上げられるかもしれませんが(需要と供給の関係で価格は決まるものですので)大きくて強い会社に売らない会社は結局世の中にあまりありませんので、困ることはありません。大きくて強いことこそが一番の信頼です。嘘はいけませんが、原価低減はむしろチャンスと見て徹底的にやるべきです。

⑤人件費も聖域ではない

そして、問題の人件費ですが、アルバイト、派遣、非正規社員は非情なことを言うようですが、経営の強権で減らしてください。この時期BtoBビジネスは、多少頑張っても、顧客は買う気、買う権限・買う予算がありませんので売れません。そこに大量の出張や販促費投下としても採算があいません。「頑張りようがあまりない」、という現実を認識するべきです。だから社員には余裕ができます。残業代0指令は当たり前です。その上で、今までアルバイトや派遣に出していた仕事を社員に戻して資金の外部流出を抑えるのです。

さらに、それすらできないし、売上にも貢献できない社員は思い切って削減するべきです。「全滅するよりは、はるかにまし」と自分に言い聞かせてください。あなたもわかっているはずです、その人は好景気の時でも結局不採算だと。

新規採用も止めましょう。賞与も止めましょう。先に述べたように手元現金の確保が最優先です。将来のため、と自分に言い訳したい気持ちはわかります。しかし、ノアの箱舟が大嵐に揺られて流れ着いた先にある社会の風景は今とは変わってしまっています。その時に必要な人材かどうかは今はわかりません。とにかく固定費を抑え採算分岐点を下げることです。

⑥これ以外は捨ててよい。

ただし、コンプラ系と月次会計の早期化だけは捨てないでください。

コンプラ系は、きれいごとで言っているのではありません。ここまで順調だった労使関係がこうした縮小策、そしてリストラ策によりギスギスしたものになるときに攻撃される材料になります。社員はこの期に及んでも会社の危機も、万一破綻した場合の自分に及ぼす影響もわかってくれず、自分の権利ばかり主張しますので、ギスギスすることはこの時期は避けては通れません。むしろそこから逃げる方が危機を拡大します。そのため、労務系でのコンプラ違反は特に危険です。

月次会計を犠牲にしてはいけない理由は、政策的な金融支援を受けるのに必ず必要になるからです。今回の例でいうと、1月下旬の春節インバウンド減から始まった危機に対して、3月に入り「売上減の推移表を必要とする」政策支援が次々打ち出されています。とすると、2月の試算表がないと、これらの相談ができません。2月の試算表はもう手元にありますか?税理士さんに聞かないとわからない?4月になる?その分危機対処は遅れます。

もちろん、今の資金状況と経費の削減状況が正確にわからなければ施策の見極めもできません。この時期、税理士に丸投げの会社は死にやすくなります。

⑦売れる方策

不景気になると売れるのは、「経費削減提案」です。それも「短期的に収支改善効果がでる」と顧客が導入稟議に書けるものです。この時期の大企業の成果評価は、値引いて売上よりも、「業務合理化」に置かれます。そこに「人材育成」とか「マーケティングに便利」とか、あるいは、「広告宣伝投資」とか持って行っても、担当者は商談終わりに「上と相談します」とはいうものの実際には上に申請を上げられません。さらに言えば、人手が余っている時期でもあるので、短期的には、省力化も業績改善効果がありません。これまで述べてきたように、大企業は、「当期の業績を死守する」大号令がかかっています。その時の提案は、「相手の当期の業績を改善すること」に目標をおくべきであり、そのような商材と費用報酬体系であることが売り上げを上げるポイントです。

2番目は、「固定費を変動費化できる提案」です。人員ならば派遣・業務委託に切り替える。設備ならば解約可能なレンタルに切り替える。

3番目は、2番目にも近いのですがダウンサイジングです。過剰機能、過剰保守、過剰品質をついてリプレースをかけ、大幅な費用減を実現する。こうして、●●界の巨人と呼ばれるかつてのトップランナーは恐竜、マンモスと呼ばれて衰えていくのです。

小難しいカタカナ言葉より、収支改善に具体的短期的に貢献する、ということが響きやすい時期なのです。

⑧将来の入金に期待するな

売上が欲しいからと言って、何か月も先の入金を承諾しないでください。その間の出費を増やし、貸し倒れのリスクを抱える必要はありません。ファクタリングや手形割引も相手がつぶれてしまえば何の助けにもなりません。だいたい、支払を伸ばしてくること自体、不審に思うべきですし、その苦境をあなたが分かち合う必要はありません。

一方で払う方は、合法的な範囲で、多少のコストを払ってでも、できるだけ伸ばすべきです。たとえば輸入企業はT/T送金をL/C決済に変更するべきであるし、国内取引で可能であるならば手形決済にして取引先がファクタリングを使えるようにするなどするべきです。

そうでなくても、こうした時期には怪しい詐欺まがいの誘いや、循環取引の勧誘などが社内に飛び込んできます。こうしたものを利用して「一時的に数字を装っても」それは、自社をさらに窮地に追いやっているだけです。好況期に調子のよかった経営者ほどそういう誘惑に弱いところを見せます。

⑨賭け事に身を投じるな

特に証券業界出身の役員で見られるのですが、苦しくなると株、為替に手を出してなんとかしようとする人がいます。もちろん、輸入企業が売上に見合う外貨輸入に対して利益確定のために期近の為替予約する実需対応はかまいませんし、むしろやっていくべきです。

こうした不況期の特に初期(今のような時期)は、相場が不安定で変動幅が大きくなりがちです。ここで一発当ててやろうという経営者が実際いるのです。過去にそれで成功した経験があるとそれが中毒になっているのです。相場下落時にも利益を上げる方法はありますので、成功する可能性はなくはありません。しかし、売りもせず原価低減もリストラもせず、それしかできない人が経営者ならばその人は排除されるべきです。危機に合理的に対処できない人であるからです。手元現金を減らすリスクを冒してはいけません。

⑩変化に注意深くあれ

嵐が収まってきたら、外の風景の変化を注意してみてみましょう。危機のあとはゲームチェンジが起きています。85年の円高不況後は「海外投資」でしたし、97年の金融危機後は、「労働絶対視の崩壊」「海外生産」、2008年のリーマンショック後は「低価格」「ネット化」でした。今回何が起きるのかの候補は見えかくれしていますが、徐々に明らかになるその「新大陸」に真っ先に上陸できるかどうかは、身軽で機敏な体質を確保できているかどうかに大きく依存します。

これは私の悔恨と懺悔でもある

まだまだありそうですが、第一弾はこのくらいにしておきましょう。ここまで我慢強くお読みいただきありがとうございます。しかし、お若い方は、私の言っていることがあまりにも極端で、非人間的、殺戮的とすら思われていることでしょう。その方たちに申し上げたい。あなたのお父様が大きな立派な会社にお勤めの方でしたら、その方たちは同じことを危機の度にしてきています。そして、そのような人喰いをしたことを心のどこかに恥じています。だからおおっぴらには言わない。こんなことを武勇伝にしてはいけないのだから。しかし、あなた方が衣食住に困らず教育を受けさせてもらってきたその裏には、このような自分だけ生き残って他社を犠牲にしてもよいというような行為があったのです。私の父もそうだったし、私もそうだった。そして、うまくいかずに会社が立ち行かなくなったのもこの時期でした。

私個人は本当は経営になんて手を出さず、妻と二人小さく安定的に暮らすことを20代の頃は望んでいました。しかし、私が当時勤めていた上場家電小売は、誤ったコスト体質と中価格路線と店舗拡大、誤った経費削減とシステム投資を金融危機時に行い、それを諫める声に耳を傾けず、倒産しました。私はその少し前にその会社の本部管理職を無理やり退職しそこから脱出したのですが、私をかわいがってくれ、最後まで船に残った本部の先輩方は、民事再生のスポンサー企業でまったく異業種の準社員、つまり非正規雇用となり皆失意のうちに離散していきました。その時の「どうして、こんなことが起きるのか?」という憤怒、そして「自分だけが脱出に成功した」という負い目が今の私のこの仕事の原点です。

リーマンショックのあと、私は上場連結子会社の管理系担当取締役でした。為替の荒波に耐えつつも、たびたびのリストラを行い、縮小均衡を図ろうとするのですが、原価低減や経費削減に協力が全く得られず激しい争いの中でその会社も事業停止し私は失業しました。その時の私に向けられた怨嗟の声を私は一生忘れることはないでしょう。

今回、ここに書いたことは全てこの25年の間の危機時に私に本当に起きたことです。危機時には平常時には起きないことが起き、平常時にはやらない対策が必要なのです。

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