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値下げすれば売れるのか?-中小企業の価格論④-

「高くても売れる競合のないオンリーワン商品」は経営者の永遠の夢、でしょうか?確かにそういう商品が、10億円もあれば、中小企業にとっては御の字でしょう。しかし、「他が参入してこない」ということは、「市場がない」ことの裏返しとも言えます。逆に言えば、「競合がいて、いつも価格競争で大変」という多くの企業のお悩みは、実は、「市場が大きい」ことを意味しています。

 競合がいない市場で戦うことが正しいかのように言われますが、それは企業規模縮小を誘発する可能性のある危険な考えです。正しいのは、「競合がたくさんいるが、その中で自分が優位性があると認知してもらえる市場で戦う」です。ただし、それは簡単なことではありません。

そして、こうした場合に、顧客にどう自分たちの優位性を認知してもらうか?というと、そこにも誤解があることが多いようです。もちろん営業担当者が一生懸命、他社との機能差を説明しているのでしょうが、多くの機器やサービスでは、実は、「基本機能」があればほとんど用が足りていて、周辺部分の細かな差はあまりユーザーの実際の効用に影響しないのが実情です。たとえば、コピー機。各社様々な工夫を凝らして立派なパンフレットを用意しています。でも、その「細かい機能」を見て選択していますか?ブランドと印刷スピードと、あとは値段しか見ていないのではありませんか?
 このように、いくら多機能であっても、それがユーザーの業務所要時間を減らすようなものではない限り、結局「差別化」にはならず、価格競争に巻き込まれるのです。

「価格競争の中で、ある程度のシェアを取っていく」という姿勢を経営者が持たないと、企業を大きくすることは中小企業の現実の中、つまり普通の社員が普通の働き方をして、普通の商品を売っている中では難しいのだと思います。

では、「値下げすれば」売れるのでしょうか?それはどうすればわかるのでしょうか?

 コンシューマー向けのEC事業、特にamazonや楽天のようなモール型では、値段の影響は非常に大きいのだろう、と私は思っていました。しかし、実際に見てみると、一番安いところが一番売れているか?というと必ずしもそうではありませんでした。実際には多少高くても、品ぞろえがあることが顧客にきちんと見えていて、扱いがきちんとしているように見える説明文があるところ、そして、広告宣伝費を適切に、というかそれなりの規模で投下しているところが、一番安いところ(そこもそれなりに広告を投下しているのに)よりも何倍も売れています。

 このことは、価格比較の容易なECモールと言えどもなお、顧客の情報は不完全であり、営業的手法で顧客の意思決定に作用する余地が少なからずあることを示しています。

BtoBのビジネスでは、上のECモールの事例よりは定量的明示的な比較が行われる可能性が高いですが、それでもやはり安値が優位とは言えないようです。これまで見てきた事例では、一番安いものは実は小さな需要家が利用していて、大需要家は決して一番安いわけではないが、「比較的安いグループの中で、一番トラブルが少ない」選択肢を選んでいる傾向が強くみられます。これは組織の中での、「責任を取る」ことへの恐れが、「安全な選択肢」を選ぶ傾向を強めているのだと私は考えています。つまり、情報が完全ではないからこそ、「無難な選択」が重要なのです。

ところで、webやカタログに価格を表示せず、相対で値引くようなビジネスの仕方は、BtoBの商材ではまだまだ多く存在しています。これは、「値引きを抑えて利益を最大化」する伝統的手法です。これで十分やっていけて、売上も増加傾向にあるならば、別にこれを否定はしません。

 営業担当では、この手法へのこだわりが強い方が多い傾向にありますが、確かに、「見えている顧客」に対しては確かに利益を最大化できているといえるかもしれませんが、潜在顧客を顕在化させる、つまり企業規模を拡大させることを目標としたマーケティングという観点ではこの方法はアピール力がほぼありません。
価格表示がなくても「関心があれば電話やメールで聞いてくるだろう」と思うのは、売り手の過信です。買い手は実際には、できるだけ価格感が合うとわかっていて成功の確率が高いところにしか聞きません。この状況は、20年前とは大きく相違していて、今や「一生懸命聞いて回る、探して回る」という事をよしとしない若い人が大半を占めています。

つまり、相手にとって「十分選択可能な価格水準である」ことは何等かの方法で示す必要がある傾向にありますが、それを一番わかりやすく伝えることは金額感そのものの表示であるということです。ここで他社よりも明らかに高い価格をつけて明示すれば、それこそ最初の段階で顧客の選択から脱落します。価格感を示すということは、他社の価格感アピールに合わせるか、くぐるかをするということです。

しかし、むやみとくぐってもそれで選好性が格段に向上するか?というと、そうではない製品が意外に多く、実は重要なのは、そこそこ安くて、問題が起きない、ちゃんとしているところから買いたいという事がコンシューマー市場でも、BtoB市場でも重視されているようです。したがって、

  • 「最安値の一角」であることがわかる
  • そこから先は、一番安ではないが、品ぞろえ、サポート、説明力などが他社よりもちゃんとしている感を持ってもらえる

の2つができるだけ早い段階、営業が接触する前、つまりwebページの段階でわかっていることがポイントなのだと考えています。

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