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ジョブの定義と人のアサイン-オペレーショナルエクセレンス⑨-

だいぶ連載も長くなってきましたので、ここで再度目次を掲載します。

  1. 業務のうち、売上の80%を生み出す上位のものを洗い出す。(おそらくそれは全業務量の2,30%) https://kibow.biz/2020/09/28/pareto/
  2. 各業務のインプットとアウトプットを明確に定義する。 https://kibow.biz/2020/10/01/operationalexcellence3/
  3. アウトプットの合格基準を明確にし、チェックリストなどに明文化する。同様にインプットもどのような要件があるのか?それが満たされているのか?を確認できるチェックリストを作る。
  4. インプットとアウトプットの間で、中間生成物(ファイル、判断等)ができる箇所や担当を移動する箇所に着目して、工程を分割する。この時、1で洗い出した業務の中で同一や類似のプロセスがないかに注意をする。 https://kibow.biz/2020/10/06/operationalexcellence4/
  5. 4の中で条件分岐、例外処理を洗い出し、その例外処理が増えた工数分の売り上げを本当に生んでいるのかを確認し、コストパフォーマンスが悪ければ値上げか廃止とする。 https://kibow.biz/2020/10/08/operationalexcellence5/
  6. 5でできた工程の各プロセスの中で、どのくらいの時間がかかっていて、どのくらいのアウトプットがあるのかを計測する。(たとえば、営業ならば、そのプロセスに進む確率は何%あるのかなど) https://kibow.biz/2020/10/12/operationalexcellence6/
  7. 各業務間で共通化できるプロセスを共通化する。(リンクは同上)
  8. プロセスの手順と品質基準を明らかにする。これができるとチェックリストもできる。https://kibow.biz/2020/10/15/oe7/
  9. プロセスのうち、時間がかかっているもの、品質が悪いもの(ボトルネック)を洗い出し、そこの改善を集中的に取り組む。その間、他の個所は気にしなくてよい。これにはソフトウエアによる自動化を含むが、5~8の過程で自動化の対象や内容は明確になっている。(リンクは同上)
  10. 改善した各プロセスに対して手順と品質基準を明らかにし、それができる人材がどのような人材なのかを定義する。これが「職務定義書」となる。また、ドリルやテストでトレーニングと習熟度を確認できるようにする。また、現状の組織ではなく、責任者(利益と品質の)とメンバーという2階層の組織に各業務を組織変更する。ただし、10人を超える業務(中小企業ではこれは意外に少ない)の場合は、途中階層を置く場合がある。
  11. 事業計画上予想される業務量に対して必要な人員数とその最低生産性、品質基準を決める。(利益が出るギリギリいっぱいの人員を配置するのではなく、必要最小数だけを配置する)
  12. 社内で各工程を担当するのに十分なスキルを持つ人をセレクトし、重要性の高いもの(アウトプットを決定づける度合いが大きいもの)から順に優先的に担当を配置する。
  13. 要求品質や効率を満たす社内人員がいない、不足する工程は、満たせる人材を募集しそこに配置する。(できるかどうかわからないのに社内で育成とか言わないで、確実にできる人を連れてくる)
  14. 各工程の日々の生産性、品質指標を追跡し、それを評価指標の重要な一部とする。また、担当工程の改善への提案、貢献を評価対象とする制度とする。
  15. 例外の対応要求は工程の各担当ではなく、責任者へポストし、勝手に実施できない仕組みにする。
  16. 各メンバーは責任者の指示があった作業以外はやらない。
  17. 当日の業務計画上上司が事前に計画した残業「指示」以外はやらない。申請も認めない。できないメンバーは置いていく。
  18. できないメンバーは給与が法規(最低賃金)内で減少する評価制度を導入する。
  19. 売上の残りの20%(業務量の7,80%)を占めるものを上の流れで大幅に改善できそうで、かつ価格改定できるものと、他社に有償譲渡等して廃止するものとに分けて実行する。
  20. 余剰となった社内リソースで最適化した工程への配置から外れた人は、いったんは非専門性の業務の派遣、外注の廃止と内製化に回す。(派遣・外注の廃止)ただし、それでも余剰になるので、営業チーム化するなどの手立てを行う。
  21. 上の流れを毎年1回程度最新データで見直す。手順は3か月に一回アップデートする。アップデートへの貢献は評価する。

今回は、ようやく半ばに差し掛かり「10 改善した各プロセスに対して手順と品質基準を明らかにし、それができる人材がどのような人材なのかを定義する。これが「職務定義書」となる。また、ドリルやテストでトレーニングと習熟度を確認できるようにする。また、現状の組織ではなく、責任者(利益と品質の)とメンバーという2階層の組織に各業務を組織変更する。ただし、10人を超える業務(中小企業ではこれは意外に少ない)の場合は、途中階層を置く場合がある。」からご説明を始めます。

職務定義書は、それ自体を0から作らなくても、この流れで完成します

前回、前々回と2回にわたって、業務を構成する各プロセスを改善する方法についてご説明しました。前回はこちら

これも片っ端から全部を改善する必要はなく、時間がかかっていたり、品質の重要ポイント(不良の発生源)であったりするものだけをまず着手すればよいです。5分の業務はどんなに頑張って短縮しても5分以上は短縮できませんからね。

誰しも業務というのはなんだか複雑なことをして、自分は賢いような気がしているものですが、この作業を進めていくと、実は結構シンプルな作業の組み合わせでしかないということがわかってきます。これはがっかりすることではありません。難しいと思われていることが実はシンプルなものの組み合わせだと証明できる人はとても頭のいい人で、あなたの会社でもとても貴重な資源です。もしこれができる人がいれば、年齢役職に関係なく例外的報酬を今から払って退職阻止するべき人材です。そして、シンプルな一つ一つの判断、作業、行動の精度や速度が少しずつ人より早いことこそが実は、「オペレーショナルエクセレンス」の土台になるのです。私はよくこれを「仕事の公文式」と呼んでいます。この辺は今日ご説明します。

さて、今回は、そうして新しくできた今までよりはだいぶ良くなった工程の途中プロセスの手順を記述し、途中プロセスのチェックリストを作成します。目的はだいぶ後になってエラーに気づいて手戻りするということを事前に防ぐことにありますので、1分毎にチェックする必要はなく、5分なのか、10分なのか毎にチェックするぐらいのタイミングがよいでしょう。人は自分で思っているほど長時間集中して仕事をしていません。10分に1回ぐらい違う作業が入るぐらいが仕事の組み立てとしてはちょうどよいのです。

その際、チェックリストは完璧である必要は全くありませんがさっさと作ってその代わり、「毎月漏れ出たエラーを反映したり、時短手順を組み込んだ改良品を提出する」ルールにしてください。そして、その工程に慣れた段階でかかる「標準時間」を書面に記載してください。今熟練している人の時間に多少余裕がある程度が良いでしょう。それが新担当を設定したときの数日後の目標値になります。また、その「標準時間を毎年、毎四半期短縮することを成果としていくことで成果が計測しやすくなりますし、めどがあれば「まだまだ自分は遅いんだ」と認識することができます。なお、ここではわかりやすく時間と言いましたが、ここまでの説明で使い分けてきたように、それには品質が加わることもあるし、営業プロセスでは受注確率の各プロセスでのコンバージョン率であることもあります。とにかく、「上位1/3ぐらいががとりあえず実現できるであろう水準」を「標準」として設定し、標準の手順を標準のコスト(時間、エラーなど)で実現できることを会社の「標準」とするのです。この標準というのは、「普通に給料がもらえる水準」という意味です。

ここまでできたら、それらを業務ごとにまとめ、さらに一人の人が担当するものを整理するとそれが「職務定義書」になります。求人で使用する時にはさらに要約が必要になりますが、それを各ポジションで作る仕事は総務人事でやればよく、現場はこの状態でいったん完成です。

「オンボーディングの改善」もこの流れの上で実現できます。

急成長する会社、あるいはあまり大きな声では言えないがなかなか人員が定着しにくい3K職場では、新しく入ってきた人が一人前に業務を遂行でき品質が安定するまでの本人や周囲の時間的コストを低減することは実はとても大きな問題です。計算してみると実は人件費の1割以上がこの「訓練」に費やされている会社というのは普通にたくさんあります。その時に、この「手順書」と「標準」があれば、何もないまま口頭で説明してノートにメモを取らせて練習するよりもはるかに短い、おそらく1/3とか1/5とかの時間で実戦投入できるようになることでしょう。このコスト削減が相当大きいのです。中小企業でも年間数千万円分に達している例もあります。

最近よく通販の物流業務の検討を行うのですが、ここでも「何がどこにあるかもう1年以上も担当していてよくわかっているからスピードが速い」と責任者が言うケースがありました。そして毎年人材派遣会社から値上げ要求があり飲まざるを得ないのです。一方ある時、EC出荷を受託する物流会社の視察をさせていただいたら、仕組みが誰でもできるものにして、かつ完全に手順化されていました。そして、トレーニングメニューが確立していました。そのため、繁忙期には、他の施設から応援したり、期間限定での採用を行ったりすることができるので、人員配置(固定費)を最小限にすることができるのです。どちらがコスト安で、成長余力がありますか?と言ったら当然後者です。その「誰でもできる状況を作る」ことをコア社員がやり、「誰でもできること」は外注、非正規などを活用して固定費化を避けつつ、変化への対応力を高めるというのは今後ますます重要になってきます。

その中で、さらにオンボーディングを早める方法としては、「問題集」「ドリル」、「テストによる合格判定」という方法が効果的です。合格しないと業務ができないとなると、勉強せざるを得ませんので、大部分の人は努力します(それでもしない人はしないのですが)。できればたくさんの問題を用意できると、先ほどお話しした「公文式」のようにできるのですが、これがなかなか大変でして…みんなで問題を分担して一人一日2問ずつ作ったりしたこともあります。最終的には、「マニュアルの穴埋め問題」を多くするということで省力化できます。それでも難しければ、奥の手があります。それは、「新しく入って手順を覚えなければならない当人に問題を作らせる」ということです。これ、実は一番効果があります。

できない学生がやっている「教科書丸暗記」の試験対策をここでもやろうということです。もう「考える力」とか「応用力」とか多くのことを求めないで(どうせ中小企業に集う人材はそこまでの人材はなかなかいないのですから)、穴埋め問題にすれば、今の手順書を加工してキーワード部分を(   )に置き換えればよいだけです。ただし、チェックリストや手順を丸覚えする必要はありません。仕事中でも参照すればよいからです。かくして問うべきは、「手順の実際の動作がわかっているか」や「チェックリストでチェックすべきことができるか?」ですので、それに関連する箇所を問うようにしてください。

組織・人に仕事を合わせるのではなく、仕事にあった組織と人を考える

突然ですが、あなたの会社の組織では階層は何階層ありますか?

と言って数えられる会社すら中小企業では多くないでしょう?それでも無理に数えると100人ぐらいの会社でも社長から始まって5,6あるのが珍しくありません。数えられない、というのは、中小企業の場合、組織もあまり分かれていないし、役職が階層や職務とは関係なく、年次的に適当に着けられているケースが多いからです。だから、課もないのに課長とか、部長もいないのに次長とかが普通にあるし、部長、次長、課長とは別に実質的な業務グループのリーダーは、「グループ長」と別のシリーズ名称で部長とは別だったり、と普通に考えたらおかしいでしょ、という状況が当たり前のようにあるわけです。

では質問を変えましょう。「あなたは何人ぐらいまでの部下をきちんと進捗管理し、評価することができますか?」

きちんと仕組みを構築し、ITの力を借りるとこの数値を10~20まで増やせる、というのが先日亡くなられたジャック ウェルチ氏がGEで行った改革の重要な一部だったのですが、一般的な中小企業ですと、一人ひとりの業務内容も同じということはありませんのでまあ、5人ぐらい、同じ業務の人がたくさんいる場合には10人ぐらいまでがいいところではないでしょうか?自分も含めて6人というのは、組織にぶら下がってしまう怠け者がでない、相互牽制がきく一番大きな人数だとも思います。

このように考えると、社長の下の5~6人のリーダーがいて、その下に5人~8人ずつメンバーがいると、これだけで40人程度の組織になります。このレベルが中小企業での標準です。対顧客向けの呼称をどうするかはまた別に考えればよいでしょうが、実際にはこの3階層で結構な規模までカバーできるはずということになります。そして、リーダーの仕事は、次のようなものになることもここまでのお話しでご理解いただけると思います。

  • グループとしてのアウトプットの最大化
  • グループ内の業務の「標準」手順の遵守と、「標準時間(コスト)」の改善の具体的指示
  • 必要所要時間(人時)の削減

「同じ業務を同じ人数で行うのであれば、よりアウトプットが大きく、アウトプットが他に依存して成果とできない場合には、より少ない人数でそれを実現するのが成果である。」ということには、合意していただけるでしょうか?

実は、このことに同意できない中間管理者が日本には従来より非常に多いのです。つまり、「生産性改善が成果ではない」と主張している。特に後者の「減員を実現すればそれは成果」というのは、あまりに当たり前であるのに認めようとしない管理者が多いことが、改革の大きな障害になっています。生産性改善なくして所得の改善は実現できません。そういう人を除外していくには、「人事評価制度」の「目標管理」で経営側から縛るしかないでしょう。残念ながら、日本はもう20年以上ゼロサムゲームが続いていて、これからは、さらにパイの縮小が顕著になるのですから。

それはまだ別の機会に触れるとして、中小企業は通常は会社のほとんどの部分で、社長-リーダー-メンバーの3階層で間に合うはずです。そして、そうした方が責任を明確化でき、かつ、「売上に直結する実務を担当する社員」の割合を増やすことができるはずです。大企業の真似をして、売上に紐づかない「企画」や「営業事務」などを入れていたとしたら、この機会に整理することをお薦めします。

あなたはそろそろこう思っているでしょう…「利益が出ないと悩んでいたが、余計なことをするために人を抱えすぎていたのか」

とというわけで次は

11.事業計画上予想される業務量に対して必要な人員数とその最低生産性、品質基準を決める。(利益が出るギリギリいっぱいの人員を配置するのではなく、必要最小数だけを配置する)

について次回ご説明します。

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