前回から、弊社が考える「オペレーショナルエクセレンス」の実際の手法を21個の項目に分けてご説明を始めています。前回は、その1回目として、「業務がいくつあるか、どんなものがあるかを明確に認識して書き出す」そして、「そのうち、売上(できれば粗利)で累計80%までの業務(実はこれは少数であることが通常)をまず、改善の対象にしましょう」というお話をしました。前回はこちら。
今回は、その続き。改善の対象にした「数は少ないが売上では大半を占める」業務について、一個一個分析を開始しましょう。最初にやるのは、
②業務のインプットとアウトプットを明確にする
ということです。これが何かと言いますと、業務の中で、たとえば役所や銀行の受付業務の中で、「用意して持ってきていただくもの」(業務側からするとインプット)と、「お渡しするもの」(業務側からするとアウトプットのうち、顧客に渡すものがこれ、それ以外に社内の検査に回すものなどもアウトプットにはあります。)のリスト(と補足説明が各文書にちょろちょろ書いてあると思いますが)がこれにあたります。あれを、それぞれの業務でやってみましょう、ということです。簡単でしょ?
早速やってみましょう。まず、内容はいいので、ドキュメント名、ファイル名でインプットするものとアウトプットするものを業務ごとに全部書き出してください。それができたら、それらがどこに保管してあるか、受取先やお渡し先がどこかも確認して横の列に記載してください。
これがやってみるとそんなに簡単でもないんです…まず、こんなもの社内にあるだろう?と思われるかもしれませんが、私が知る限り(私が手掛けた会社は作っていますが)では、社内の売上の80%を占める業務でこれが既にできていた、という会社はありません。
書き出そうとするとこんなことが見つかり始めます…アウトプットのファイル名が都度バラバラだったり、保管場所が各自のブラックホール化したパソコンの記憶装置で検索しても行方不明だったりするのは当たり前のようにあります。より本質的な問題として、実はインプット、アウトプットが人によって違っていたりするのもあります。オプション、補足資料として定義があって納めるのは別に構いませんがそうではなく、「納品物や受領物」自体が人によって違うのです。
インプットも同様です。受け取ったままではファイル名に顧客名もデータ名もない日付時間.CSVというファイル名だったり、ひどい場合には何度も受け取っていてどれが最新バージョンかもわかりません。それでもあればまだいいのですが、ない「かもしれない」という回答が返ってくると余計にいらだちます。あるのかないのかチェックして、ファイル名を定義して所定の場所に保管して、その場所は見られる人が業務セキュリティルールで限定されている。そうなるためには、インプットとアウトプットが定義されていることが必要なのです。
こうしたセキュリティの「今の世の中の常識」は実は、「セキュリティ」の要件から生まれているのではなく、「業務の仕組みを当たり前に整備すると必然的にそうならざるを得ない」ところから発生しているものです。そのように理解し、説明すると皆にも納得してもらいやすいのですが、業務の流れがぐちゃぐちゃの中でセキュリティルールだけをきちんと整えようとするから面倒臭いし混乱するのです。
これからこうした整理作業を延々ご説明して、自社でやってみていただくことになるのすが、どの工程も完全ではなくて80%の出来でいいので、まず完成させてください。この業務の場合は「3日」で完成させてください。それを決して「1週間」とは言わないでください。本当は、「今日の午後4時半にまず第一回の状況報告して」と私が責任者なら言うのですが、他の用事も入っているでしょうから、まずは3日、慣れてきたら2日にしてください。古い会社では慣習でなんでも1週間単位で進める癖がありますが、この業務にそんなにかかりません。2時間もあれば80%までできるはずですし、その後関係者数人で回覧チェックするのも、会議なんてしなくても、メールと声かけでそんなに時間をかけずにできるはずです。そこで対応できなかった人は置いて行ってかまいません。最下位に合わせる文化はやめて、ちゃんとやれた人を記録しておいてください。こうした変化の過程で「サイクルタイム」を短くし、不要な集合会議を廃止し、トップランナーを抜擢することこそ、実は組織改善を進め、効率的な人材を選別していくのに重要な役割を果たします。そのことはまた、機会を見て各段階でご説明します。
どんなに時間をかけて完成度を高めても、どうせあとから改良点が次々出てきます。それは順次反映していけばよいので、まず80点レベルで完成させて、次に進みましょう。
③アウトプットの合格基準を明確にし、チェックリストなどに明文化する。同様にインプットもどのような要件があるのか?それが満たされているのか?を確認できるチェックリストを作る。
次は、②で定義したインプットとアウトプットの「チェックリスト」を作ることです。このチェックは、「あるなし」だけではなく、「どういう要件を具備していなければならないか?」のリストです。
インプットをまず明らかにする
最終的に、「フロー図」に書き直しやすいようにそれらしい用語を使っていますが、上場目的でもないので「きれいなフローチャート」を書きたいわけではありませんので、全然、WordやEXCELでおもいつくままに書き出しそれを並びを最終調整する形で構いません。先ほど銀行や役所の例をあげたように「チェックリスト」にすると実用的なので、EXCELが使い良いでしょう。
アウトプットのチェックリストで自分で品質、漏れをチェックするということは誰でも思いつくことですが(それでもなかなかやれないことです)、実は、アウトプットの品質・納期・コストを大きく左右しているのは、工程自体よりも「インプット」の情報の質や納期のばらつきの問題です。抽象的な言い方をしていますが、
というような例は誰しも経験したことがあるでしょう。あいまいな依頼の仕方をすると、あいまいなものが渡されます。揺らぎがあることがわかっていれば事前のデータチェックや加工をすることの準備や心構えもできます。しかし、着手してから、あるいは、結構なケースでアウトプットが出てそのデータが正常ではないことに気づいて手順を確認していくと、実は手順の問題ではなく、元データだった、というようなことも多く起きています。
リピート性の高い業務ならば顧客との間で、データフォーマットを固定するようなこともできますが、多くの業務はそうでないので、できる限り受け取るデータを事前に制御し、残る揺らぎは自社内で加工して正規化,せめてきちんとクリーニングされたものを工程に渡すことになります。
今「データ」という言い方をしていますが、これはEXCELに入った表だけに限りません。インタビュー文のようなもののこともあるし、新聞切り抜きのようなものであることも業務によってはあり得ます。私たちの業務の多くは、「何かを読んだり、聞いたりして(インプット)「それを元に考えたり、作業したりして(工程)」、「何か顧客にとって価値があり、顧客が自分では簡単にはやれないようなものを作り出して(アウトプット)」それをお渡しすることで代金をいただいているわけです。その工程に入る情報を総称して「インプット」とします。
そのインプットがどのような要件を具備していないと、工程をきちんと進められないか?ということは何となくみんなわかっているのに、明確になっていないことが多くあります。このインプットデータを取得してくる、あるいは提供依頼してくるのは、営業担当者が対面で行うことも多く、その「営業がちゃんとやってこない」から「工程に手戻りが多い」という工程側の苦情も多く聞きます。それならば文句ばかり言っていないで、次のようにしてほしいのです。
こうすれば、だいぶ改善することは想像がつくと思います。そして、これは、「担当者」の自律的努力や責任に期待して改善することではありません。それで改善するなら、今頃素晴らしく効率的な工程になっているはずであり、繰り返し何度もお客様にご説明する演習を工程担当と営業で行う、なんて面倒なことは営業担当者は命令されない限り、あるいはできないと給料が減る危機を感じない限りするわけがありません。これは、リーダーが明確に命じるべきことです。
もちろん、工業製品のようになかなか寸分の狂いもないデータが提供されるということは事務作業の場合には期待できない面もあります。そもそも人間を相手にするということは、誤差、嘘、いい加減を相手にするということでもあります。営業がトレーニングを積み重ねた結果、もらってくるデータの精度が大きく改善したとしても、それでもやはり揺らぎは残ります。その一定範囲内に収まった揺らぎは、事前に代表的な部分は、今度は工程側がチェックし修正・正規化する仕組みをきちんと用意しておくことです。つまり、インプットのチェックリストとは、基準に合っているかどうかをチェックして受け入れ拒絶して終わりではなく、当然「インプットできる状況までできるだけ早く完成させることを担当間で協力・分担する仕組みを動かす」ことを具体的に記述した書類です。
わかりやすい例でいえば、電話番号はハイフンありで書く人となしで書く人がいますし、ハイフンなしのデータを途中のどこかでEXCELで開くと電話番号の頭の0が消えてしまっていることは「よくあること」です。最近ですと、名刺に国番号から書いている人もいたり…といろんなパターンがあります。これらは営業段階でも確認できますし要望できる場合もあります。作業段階でも工程に投入する前にチェックできることです。
何千・何万というレコード数になってくるとプログラムでチェックするようなことも考えなければなりませんが(私はこのサイズでも力づくでやってしまうことも多くありますが)、多くの中小企業で相手にするデータは通常は、一日数百個とか、あるいは10ページとか目で見て探せるサイズのものが大半です。しかし、「何をチェックするか?」が明確になっていないと、いつまでたっても、「すごい人」と「雑な人」の差は埋まりません。「すごい人」のノウハウを「ルール化」して「雑な人」でもできるようにするのは、リーダーの仕事です。それを「協調性」とか「他者への協力」とかの「美徳」に任せるのは、「自分の会社の運命を社員とはいえ他人に任せる」行為であり、結果として改善ができない原因なのです。
「3日で作れ」と指示してください。
アウトプットも同様に定義する
インプットの品質は全くの外部に依存しているので、実は制御がとても難しくて重要性が高いのですが、アウトプットの方は、工程が社内にあるので、比較的よく見えているはず(これからそれをキチンと可視化していくのですが、今でもなんとなくは見えているはず)ですので、実はインプットよりも簡単だと思います。お客様にお納めして大丈夫かどうかのチェック項目は90%以上文書で定義できるはずです。それを99%にするのが大変なだけです。
そして、多くの会社の業務で事務系のクレーム・手戻りはその90→99%の過程で起きているのではなく、0→90%の過程で発生しています。トラブルが発生しても、「原因が不明」「複雑で解明待ち」ということはあまり多くないでしょう?たいていが「あっ、しまった!」か「そんなこともわかんないのお前はバカか?」と部門責任者は心の中で絶句しているはずです。これを多くの「是正措置報告書」では「ケアレスミス」「知識不足」と報告して終わらせますが、それではだめなのです。「不注意」「習熟不足」でもほとんど回避できることが必要ですし、多くの会社の不安定な業務工程の中では、この「基本的な事項で回避できるトラブル」を減らすだけでクレーム対応や手戻りは大幅に減り、効率は改善するはずです。そんな「当たり前」のことが工場ではできても、オフィスではできていないのが日本の実情です。
ただし、アウトプットしたものがお客様にお渡しして大丈夫な品質かどうかを自分でチェックして本当に大丈夫なものと確認するということは、たとえチェックリストがあったとしても決して簡単ではないことです。自己チェックはするにしても、ここでは「その業務を一番わかっている人」を完成検査につかせるのが常套手段であり、その人が「チェックリストにはないけれども、ここはこうした方がよい」と指摘する事項が延々発生し続けるのですが、それをどんどんチェックリストに追加していき、追加したチェックリストの運用のトレーニングを定期的にする、というのが重要です。
私はこのブログでも頻繁に「年長者は性能が悪い」という言い方をしていますが、実務をちゃんとわかっている限りではこの「検査業務」と「チェック事項の抽出」にはとても使えることが多いです。そこを否定しているわけではありません。ここで文末の不統一とか誤字の指摘とかしかしない人は(金融機関出身で実業企業に来た人にとても多い)本当に老害です。ただし、根気が続かずすぐ休憩して作業が遅い…ということを言うのですが。
ちなみに、中小企業の現場の方に業務時間短縮や効率化のご相談を受けインタビューする機会をいただくことがあるのですが、その時に、「その工程はどのようなチェックをしてからお客様にご提出していますか?」と聞くと、多くのケースで「目検査です」と答えます。これは今回のチェックリスト化で大きく改善できます。それに続けて、もう一つ、重要な質問を毎回しています。
「その工程は、誰が最終的にお客様に提出してよいという検査、合格判断をしていますか?」
この質問の答えはあなたの会社ではどうですか?
多くの会社でこの答えは、「上司は何もチェックしていないで担当者が自分で判断している」です。中小企業の現実の業務の多様性と人員の少なさを考えればそれは仕方がない面もあるのですが、それでいて、「部下の仕事の質が低くて顧客に眉を顰められている」と私に相談しているのは、その上司です。
検査合格基準も不明確でトレーニングもなく、熟練者の検査もなく出荷したら、不良品だらけでしたって、あなたそんな電気製品買わないでしょ?それをあなたはやってい・る・ん・で・す・よ!顧客に怒られるに決まっています。
そりゃそうだとは言ってもらえるのですが、そうなると今度は、「忙しすぎて改善する余裕がないまま、数年経過している」という公然の秘密の告白に至ります。これは本当なのだと思います。現場は決してさぼっているわけではなく、毎日家庭を犠牲にして残業しているのが実情なのですから。そのことへの解答は、「面倒な部分は弊社がお請けします」という営業トークが一つ。もう一つは、前回ご説明した「売上(できれば粗利)で累計80%までの業務を対象にして始める」です。
つまり、売上の80%を占めていない「その他の業務」が社内の労務時間の半分以上を占めているはずですので、それを効率順で下から順に犠牲にしてその分を売上80%を占める業務の改善に投入しなさい、ということです。これで投下時間は倍増できるはずです。そして、売上80%の業務の効率を25%アップすれば、概念的には残り売上20%(業務時間的んは6~8割)を全部やめても利益は維持できるはずです。なお、いきなり全部やめろとは言っていません。不効率なものから順次で結構です。
ただし、この「売り上げを減らしてでも利益改善を図る」は経営者にしかできない判断です。そこに責任を果たしていただきたい、後の泥臭い作業は弊社に任せなさい、と言いたいということです。業務をやめると申し出ることは社会的害悪だとか、顧客に迷惑がかかるとかいうことを盛んに言う営業がいますが、それが会社の利益改善を妨げています。だったら効率的な業務並みに値上げを通してほしいものです。やめて代わりの会社があるような業務はやめてしまえばよいのです。代わりがなくて顧客が困るならば、値上げしてくれればよいのであって、そこは対等の関係でよいと割り切ってください。「業務を常に効率的なものに入れ替え続けて統廃合を意図的に毎年し続ける」というのは、当たり前のように必要なことであるのに、それを自分の責任と認識していない経営者が中小企業ではあまりに多いし、それが「下請け意識」の原因になっているのです。
ここまで出来たら次は、
④インプットとアウトプットの間で、中間生成物(ファイル、判断等)ができる箇所や担当を移動する箇所に着目して、工程を分割する。この時、1で洗い出した業務の中で同一や類似のプロセスがないかに注意をする。
に次回進みたいと思います。
この記事、実は、この「経営の光景」を記載し始めまして27か月ちょうどで400回目の記事となります。特に記念号というわけでもなく、記念の懸賞キャンペーンもございませんが、お会いしたときに、「毎回楽しみにしています」と言っていただける方も増えて、励みにしております。
中小企業のチェンジマネジメントを中心テーマに経営者のお役に立つ情報を今後も提供してまいりたいと思っております。今後ともご愛読いただけましたなら幸いです。