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「単品生産」は高くて当たり前-オペレーショナルエクセレンス⑤-

先月から始めたシリーズ「オペレーショナルエクセレンス」は普通の会社がオペレーションで強くなることをどのようにすれば実現できるのか?の「具体的手順」を記載しています。

現代は、優れた商品・サービスを開発したとしても、あっという間に真似をされてしまいます。私もよく言いますが、「ビジネスの世界はカンニングあり」です。莫大な製品開発投資を行わなくても、他社の売れ筋を低コストで真似して、それを先行する会社よりも上手に売れば、その方が有利であるとも言えます。あるいは、資本力のある大企業が新カテゴリで後追い戦略をとるならば、広告費や販促費を大きく投下することで、その市場をクリエイトしたベンチャーを瞬時に追い越し、そのカテゴリでトップランナーであるとの認知を得ることも可能です。

技術もマーケティングも市場では微力なのです。その中で重要なのは、資本力を除けば、「追随し変化するスピード」であり、「うまく回す力量」、つまりオペレーショナルエクセレンスです。こればっかりはそう簡単にはコピーできません。似たようなものは短期間で作れても、それをその期間内に同じコストでやること、同じ精度でやること、そして維持することはそう簡単ではありません。その「やり切る力」はいかに実現できるのか?それがこのシリーズの背景です。

さて、前回は、「社内の業務のそれぞれを、中間生成物や社内のチェックや前準備の必要性に着目しながらいくつかのプロセスに分解してみる」「そうすると分解された個々のプロセスは意外にも実は共通パーツが多い」というお話をしました。前回はこちら。

ところが、月は全体としてみると丸いと言っているのに、細かくみると凸凹だと言い張るかのように、「個々のお客様に合わせて納品するからこそ売れるんだ」と言い張る営業がいます。それはこれまでの日本ではある程度の真実でした。彼が見ていた目の前の狭い世界ではそうだったのであり、嘘を言っているわけではないのでしょう。しかし、それはこのまま、放置してよいのでしょうか?今日は、その辺から、次の手順

5.4の中で条件分岐、例外処理を洗い出し、その例外処理が増えた工数分の売り上げを本当に生んでいるのかを確認し、コストパフォーマンスが悪ければ値上げか廃止とする。

についてご説明したいと思います。

個別工程を維持するコスト

私は、今まで多くの会社で様々な改革プロジェクトを行ってきましたが、そのうちのかなりの部分は、この「個別工程」「例外処理」を廃止してそこにかかる人員と時間を削減する(優秀な人から順に足りていない幹に充てる)ことに充てられてきました。そうして今まで見てきた中で「やった方が、やらないよりも利益率が良くなった」というカスタマイズ工程はほぼないと思います。

まず採算性以前に、人が入れ替わる時代にきちんと引き継ぎができ、かつ顧客の側のシステム変更やニーズの変化に追随することが社内的に困難になっているというそもそもの話が最初にあります。昔は多少のミスがあっても鷹揚な顧客も多かったのですが、今では小さなミスにも罰金とか言い出されかねない勢いです。それなのに金額は10年前のまま。そんな業務が社内にたくさんあるはずです。

さらに、たいていの場合、基盤部分は改革により低コストで安定したオペレーションが実現でき、価格を低下させ、あるいは月額課金方式でのサービスが提供できるビジネスモデルを構築でき、高い利益率を確保できるのですが、このカスタマイズ部分は、そこだけを切り出すとたいてい低利益率です。一度きりの売上のこともあります。次にいつ追加注文があるかもわからないのに、なぜか工程は維持し問い合わせ対応修繕対応しないと怒られる!?それはおかしいでしょう?

基盤部分と合わせれば利益は出ている、という言い方が販売時には通用したのでしょうが、それは、「低利益率でも、将来の負担になっても利益があれば売ればよい」という考え方が背景にあるものです。また、もう一つは、「個々の顧客に合わせて販売しなければ売れない」という「ニーズの普遍化という難しいマーケティングプロセスの放棄」ということもあります。

その考え方は、自社も相手の会社も時間が経つと規模が拡大して需要が拡大し、しかも同じものが使われ続けるので継続的に追加発注があることが前提になっていますが、その前提はもう成立しなくなっています。(昔も実は大してそんなことは起きておらず、営業の主張を通す方便でしかなかったのですが)実際には、相手が強い会社であればあるほどよりコストが安く性能の良いものを探して遠慮なく切り替えますし、そもそも製品の一部でもないと、納めたものが使われ続けてお役に立っている、ということすらただの思い込みで実は大して使われていなかった、ということも多くあります。昔、ドキドキしながらオンラインデータ配信業務の終了を大手百貨店系システム会社にご説明に行ったら、誰も存在を知らず、こちらは送信しているのに受信すらしていなかったという事件がありました。

時代は変わったのです。人材を確保するのも一苦労ですので、利益率の高い、強さを発揮できる部分だけを自社の強みとしそこを維持発展させることに注力し、そのほかはやめていきましょう。

そのやめ方にもいくつか方法があります。

枝葉の整理の具体的方法

  1. 幹の部分に多数のオプションのスイッチ的なものを用意し、顧客が自分でそのスイッチを操作することで欲しいものに近いものが得られるようにする。…SaaSサービスではこの方法が一般的です。勤怠管理システムなどでは数百のオプションスイッチがあります。システムサービスでなくても、同様の考え方で整理できるサービスは多くあります。
  2. 基盤部分だけを安く提供し、社内にある枝葉加工工程を顧客の同意のもと他社に移管する。…強みのない利益率の低い部分を他社に依頼するという方法です。他社がそこに強みを持っていればWin-Winと言えますが、たいてい「低利益率の押し付け」になっていることに気づいていない旧型の経営者が気づいている経営者の割を食っているだけです。その時、その依頼される会社が、ちゃんとした会社ならば「そんな値段では合わない」というでしょう。その「そんな値段」でやっていた事実がその時明らかになるのです。
  3. 基盤部分だけの提供で安くします、と顧客に言う。機械部品などでは通用しにくいですが、データ、サービスではこれでも通用するケースが実は多くあります。実は顧客も大きく値段を下げる方法を探すのに一生懸命ですので、「顧客の側でなんとかする」が通用する可能性はあります。ただし、「大企業相手」ではこの方法は難しいでしょう。なぜなら大企業は、中小企業が屈服し隷従するのが当たり前という考え方が染みついてしまっているからです。けれども、そこにあなたの会社の未来はないと思うべきなのです。
  4. 値上げ通告をする。…契約書にも無限に同一価格で提供するとか、永遠に供給義務を負うとかいう記載はないと思います。(ある業務も2つほどであったことがありますが、相手はいずれも大手印刷会社でした)そもそも契約書があるケースもさほど多くないでしょうし。もちろんこれをやるときは失注覚悟ですので、最終手段です。値上げの理由は残業規制でも、人手不足でも何でも言えばよいし、何を言ってもわかってくれるわけではなく反論の材料になるだけです。これも平気で押し返せば何とかなると思っている大企業は多いので、期限を切って供給終了を明示しないとズルズル行きます。

たいていの場合、危機感をもって真剣に考えるとかなりの部分は1,2で対処できるはずです。逆に1,2で対処できないような業務で金額が小さいものは3、4へもっていく候補です。

「規模縮小」は「正しい」のか?

こうしたプロセスを進めると、売上規模は10%程度減少することがあります。それは多くの経営者にとって心理的に受け入れがたいことではあります。そのため、このシリーズでは、「売り上げが小さいもの」から順に縮小方針にしていて、「売上の縮小」を「費用の縮小」が上回る(利益が増加する)ことを実現しやすくしています。ただし、その費用の縮小ということには、「自然減による」人件費の現象を含んでいます。

もう一つ、こうしたプロセスを進め、あるいはプロセスの改善の過程でITツールの導入を進めると、何も待遇は変えていないし、パワハラまがいもしていないのに、「体質改善を進める」というだけで営業を中心にそこそこの数の社員が退社する道を選びます。本当の理由ではないのでしょうが、ある会社で退職予定者にインタビューしていたら「経費精算や勤怠管理がクラウドサービスになってストレス」ということをまじめに言った40代後半の営業担当者がいました。知識も十分で性格も優しそうで惜しい人材だったのですが、変化について来れないんだな、ということを実感した出来事でした。慎重である必要はありますが、この過程で、組織をフラット化し若手を抜擢し、変化の速度を速めるということが実現するので、ここをあまり恐れる必要はありません。きちんと引き継げればそれに越したことはありませんが、それも過度に期待できないでしょう。「仕組み化」できていなかったものは、結局いつまでも引き継げないし、「仕組み化」は「仕組み化しないことで既得権益を得ていた少数派にとっては権益を失うことでもあるのです。そこを変える決断をし、進められるのは、経営者だけであり現場にはできません。

人件費も経費も上がり続ける中で、利益率を維持できない拡大はこれからの時代は選ぶべきではない「死の道」です。利益率を維持できる、市場もあり勝つ強みも発揮できる箇所を選択し、そこを徹底して開拓することでしか中小企業は生き残っていけないでしょう。

こうして、ある程度枝葉を整理するめどが立ったら、次のプロセスに進みます。

6.5でできた工程の各プロセスの中で、どのくらいの時間がかかっていて、どのくらいのアウトプットがあるのかを計測する。(たとえば、営業ならば、そのプロセスに進む確率は何%あるのかなど)

これは、何を言っているかというと、「どこが改善ポイントなのか?を具体的に知る」ということです。同時に、「どのくらい改善したのかを現場の成果として認識できるようにする」というためでもあります。

ちょっと文字数も増えてきたので、この続きは次回にしましょう。

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