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本当に時間がかかっている箇所は自分でも意外に知らないもの-オペレーショナルエクセレンス⑥-

これは今年本当にあった怖い?お話し(事例)

お客様のEC事業の売り上げを伸長させる策を取ろうと思ったら、物流側のキャパシティが制約になると経営者の方がいうのです。そのため、物流センターでお話を伺うと一番大変なのは、「受注伝票の住所等を送り状に印刷する前の確認と修正」ということでした。確かにこの業務がEC事業で手間ということはあちこちできいてはいたのですが、この時点ですでに、「本当はこれではないな?」という予感はありました。しかし、部外者の私が問題の入り口のところで押し問答していても進みませんので、いったんはそこへの対処を10万円と2週間を投下して集中的に推し進め、その部分の削減は8割実現しました。8割というとすごいと思われるかもしれませんが、補正プログラムにログ機能を組み込んでチェックしてみると、この修正は一日5件程度だったのです。それが1件程度まで減少しました。削減効果はざっと1日20分。

ちなみにその1件は、当初、担当者が言っていた問題以外にもこの送り状印刷前にチェックしてエラーが発生している箇所が多数あることによるものでした。これは、inputデータを過去10万レコード出力して、送り状システムの受け入れフォーマット仕様の詳細を入手して、全項目をチェックすることで発見したもので、担当者から得られた情報ではありませんでした。

本当に時間を要しているのはやはり別の個所にありました。しかも、その作業は、現場担当者たちのお客様への誠意とは裏腹に実は「しなくていい作業だった」(詳細は省略させていただきます)というオチがありまして、一円もかけずに経営者からの変更指示により削減効果は3時間。ざっと従前の1.5倍の生産性になりました。この間着手から約2か月でした。

どこが問題か?どこが改善可能か?は実は当人はわかっていない

この事例を解説しますと、まずなぜ対応相違の予感があったのに進めることを経営者に踏み切ったのか?というと、それは私は外部コンサルタントであり、初めまして状態でしたので、私がみんなの仲間であり協力者です、ということを認めていただく必要があったからです。さほど大きなコストではなく、全体最適の中でも問題になるものではなかったので、順序としてそうさせていただいたものです。

もう一つ、ではなぜ担当者にインタビューするときに、そんな小さな問題を大きいと認識していて、大きな問題を指摘しなかったのでしょうか?これは実はこの会社だけでなく、どこでも起きている問題です。実はこの前に工程を書き出してもらって所要時間を書いてもらっていたのですが、その工程の中には今回省略可能と判断された作業はいずれも記載されていない、「一連の作業の一部」として認識されていました。もちろん、この工程にはチェックリストもありませんでしたし、手順書もありませんでした。ただ、おそらくは昔売上が少なかった時代に時間がある中でクレームを防ぐべく本人は何の悪気もなく、あまり意味のない念には念を入れた作業をしていて、それを自分の中でルール化して工程が重くなっていたために「これ以上は受けられない」と本人も上司も言っていた、というのがこの背景にあったことです。

それを「このプロセスではどの項目をチェックしているのですか?」「このプロセスでは何と何が一致しているように突合しているのですか?」と前々回にやったように、「業務を分割して記述」していく中で、はたから見れば「そんなことやる必要ないよ」というものがたくさん出てきたのです。

「やってる本人も実は分割して認識できていない」、そのうえ、「過去のクレームやら上司のその時の機嫌や思い付きの影響を受けて、本来は必要のない手順を勝手に追加している」ということは実はとてもよくあることです。それを知っている私は、たいていの工程できっとそういう箇所がある、と思っているので「きっと改善できます」と自信満々に営業できるのです。

さらに、「暇だからゆっくり念入りにやっている」というはずだったのに、その所要時間がいつの間にか標準になってしまっている、ということはよくあります。その背景には、「時間当たりの生産性をクレームによる手戻りも含めて考えて最大化する」という経営にとって当然の前提が現場では「クレーム0」(クレームがあるとマイナス査定になるが、生産性をあげてもプラスにならない)になっている、というマネジメントの失敗があります。

工程をよく知っているのが現場であることは間違いありませんが、どこが問題か?を認識しているかというと、ほとんどのケースで担当者は「何も問題ではない」と思っていて、それを論拠に「人を増やすしかない」と要求します。そして、それでも何が問題か?と聞かれて答えることは多くの場合で一番最近嫌な思いをした印象に残っていることを答えます。データに基づかない人の回答はその程度の信頼性しかないということです。売上の伸び以上に「人を増やしてくれ」、という要求はこの「改善ポイント」を見つけるきっかけであり経営にとって改善のチャンスです。

と事例の紹介が長くなりましたが、これは今日のトピックの良い事例でして、これを頭に入れておいていただいて

6.5でできた工程の各プロセスの中で、どのくらいの時間がかかっていて、どのくらいのアウトプットがあるのかを計測する。(たとえば、営業ならば、そのプロセスに進む確率は何%あるのかなど)

について進めていきたいと思います。

もうご説明は不要でしょう。「何に時間がかかっているのか?」「何がそんなに大変なのか?もっと効率化できないのか?」といきなり工程の当事者に聞いても正しい答えは返ってこないことが通常なのです。そして、この失敗を日本中多くの企業がしています。「効率化できるはず」といったところで、当の本人たちは今の工程が不効率とも思っていないですし、スピードアップできるとも思っていないので、不毛な対立と無視があとに残るだけです。

だから、十分に細かく分割された工程の各工程の所要時間を実際に書き出してみて、何に時間がかかっているのかを具体的に会社の中で晒すことがまず最初に必要なのです。これが6の前半部分です。晒した後どうするか?は7以上で細かくご説明しますが、ここでは、「手順を改善してスピードを速める」という一般的に会社で言われることは多くの場合メインの改善対策ではありません。むしろ、「一部の手順をやめてしまう(たいてい重複しているか、効果がないものがある)」ということが実用的な方法論である、ということを述べておきましょう。

ここで時間がかかっているかどうかは5分、長いものなら15分単位程度で把握できればよいです。ストップウオッチをもって隣に計測員を立たせなくても、前回までに作成した工程表に自分でだいたいの時刻を書いていけばよいだけです。3日もやればだいたいの様子はあきらかになるはずです。ただ、そんな簡単なことでも反発する社員はいます。そこは「指示」という形を明確にとってください。そして、それでもやらない場合は、問答無用で業務から外してください。始まったばかりのオペレーションエクセレンスへの長い道のりは、基本は、「可視化」と「データに基づく合理的判断」の積み重ねです。そして、そのことが、「会社の常識」になることが必ず必要です。今の時点での「半信半疑でやってみる」は仕方がありませんが、「データ主義への反発」(営業なんてそんなものではない…)は断じて芽を摘む必要があります。簡単に書くようですが、この点が実は一番の「革命」なのです。そのことはシリーズの別の機会にまた触れたいと思います。

前回も「やっていくうちに自然と退社が出ていく」と言いましたが、実は「自然と」ではないのです。「どんぶり勘定での互恵的無駄、効率よりも居心地を重視する昭和の文化の否定」に自分の半生を否定されて反発する人がでているということなのです。

どのくらいのアウトプットがあるのかを計測する。とは

続いて6の後半のこちらですが、これは前半と別のもの、並列のものというわけではありません。データを処理する、伝票を印刷するなどの事務作業ではたとえば「100件あたり何分かかるか?(逆に5分間で何件できるかでもよい)」を基準に時間を図り、この件数を増やすことで生産性をあげる、ということになります。しかし、たとえば、「電話をかけてアポをとる」「訪問して受注活動をする」というような業務では、たしかに、「一日当たり何件実施できるか」も重要な指標ですが、(一日1件の訪問で満足している営業部というのがたいていダメな会社には多いわけです。)それと同じくらい、「どのくらいの確率でアポが入るのか?受注できるのか?」の方が重要です。受注につながらない商談など時間と電車賃の無駄でしかありませんし、その確率を高めるためにはいくらかの時間を追加で投下して準備を強化するべきとも言えます。

ただし、これも頭のいいマネージャーにありがちな誤りなのですが、「ちゃんと準備できてから営業する」というのは理想ではあっても、実際には一定の時期に見切り発車をすることが必要です。現実には準備が満足いくレベルで完成することはありませんし、仮にあったとしても、準備がよいことと受注確率が高いことの相関関係は必ずしもないことが大半です。ある程度の説明力はもちろん必要ですが、そのうえでの受注数を最も大きく決定づけるのは、「個人の力量」と「運」と「アタック数」であることは否定できない真実です。また、実際に顧客の批判や要求にさらされた方が自分の頭の中で考えているよりもはるかに効率的に改善がすすめられます。

「運」といってしまうとそこで終わってしまいそうですが、とはいえ、確率値をつかむことは必須です。それは何とかして徐々に改善していきたいという以外に、競合や市場の変化に伴い徐々に悪化することもありますのでそれを時系列的にチェックすることも必要ですし、事業計画を立案する際に、結局何人体制にするとどこまで事業は伸びるのか?の投資判断にも必要であるからです。

というわけでだんだんもっともらしいデータがそろってきたところで、次の

7.各業務間で共通化できるプロセスを共通化する。

に進みたいと思います。このお話しは、すでに前々回こちらで少しふれました。

「だいたい同じプロセス」を同じ管理にして同じ人がやり、同じ検査をするようにしましょう。それは次のような理由があるからです。

  1. 事務作業は慣れると初期の1/3の時間でやれるようになる。そして品質は2桁良くなる。そのためには、繰り返し回数を増やすことが必要。
  2. 初期の1/3の時間でやれるのに、初期と同じ人数を配置していることが多い。これを必要最小限に再配置することで効率化する。
  3. 同じプロセスが一か所にまとまっていれば、そこに着目して改善を進めやすく、ボリュームがあることが見えているので自動化投資もしやすい。
  4. 担当する人が多数にわたると、1の問題のほか、品質水準や効率水準を一定範囲に収めることが難しくなる。(どうしてもばらつき、下位者がでる)
  5. できるだけ専従に近づけ人数を減らした方が、終わっているのにゆっくりやって暇にしている、というような時間を減らせる。業務間のスイッチングの無駄時間も減らせる。

「分業すると効率が上がる」、という誤解がありますが、これは数人で「競争」を働かせる場合であり、そうではない日本企業では、一般に同一業務を複数人で分業すると、効率も品質も落ちます。ただ、「完成時期」が早まるだけです。ですから分業してよいのは、「一人では終業時間内に終わらない」時であり、そうでなければ一人で集中してやる方が安定します。そして、一人にしか振らないで済むならば、その仕事がもっとも性能よくできる人に担当させればよいのであり、無理に分業する必要はありません。そうして再配分していくと…多くの場合で人が余ります。

というコストダウン要素がこの作業の目的の半分です。

もう一つは、「社内に共通するプロセスがある」ということは、そのプロセスはその会社にとって重要であり、そこの品質やコストを下げることは、オペレーションの競争力を確保する(それこそが、「オペレーショナルエクセレンス」です!)うえで重要な箇所であるということです。オペレーションの全部が強いことを目指すのではなく(長い時間をかけて一つ一つを磨いていけばよいのですが、改善を進めるときにはまず)、その会社にとって最も重要な箇所を最も信頼できる人に任せて周囲がサポートしながら厳しく改善していくことが最優先事項なのです。だから、感覚が鋭敏で、分解的に物事をとらえられ、仕事の生産性が高い人に任せ、そうではない人からは引きはがす必要があるのです。

やってみるとわかります、だいたいの場合で3人もかける必要はなく、1人で十分でき、しかもスピードも速くなるということが。そういう「民主主義的な」誤りが日本の会社にはたくさんあるのです。

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