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「まごころ接客」の思い出

これは一介のパソコン屋さんの売り子だった代表の上村が、「経営」というものに最初に興味を持った出来事でした。1998年のことです。

埼玉県内に20店余りを展開していたその家電量販店は、70年代にはいち早く会員カード特典を導入し100万人近い会員網を構築するドミナント展開企業でした。年商は200億円をかなり早い時期に超え、JASDAC上場も果たし埼玉県内シェアNo1家電小売として地元では高い知名度を誇っていました。けれども、今はもうありません。私は、そのころ売り場を経て、本社商品部に異動しました。私はこの会社が大好きでした。競争よりも協調を大事にする先輩たちの中で、パソコン売り場急拡大期に、商品ラインアップの整備だけでなく、人材確保や人事制度、出店や販促策までいろいろと口出しさせてもらい、先輩たちもそれを活用してくれました。とても働きやすい職場でした。

しかし、時代は拓銀山一ショックのあとの不景気感に覆われ、その時代の空気に乗って北関東YKK(ヤマダ、コジマ、ケーズ)勢が首都圏への大型店攻勢を急激に強め、「他店よりもお安くします」の看板が店頭に目立つようになった時期でした。店舗は150坪を超えると大型店と言っていた時代から1000坪、2000坪の売り場が首都圏郊外の幹線道路沿いに出現し始め、営業時間は夜9時までが当たり前になり、同時にホームセンター業態の家電の売り上げが無視できない価格と規模に伸長していました。  

ある春、年に一度の経営方針発表会のあとのパーティで、主要家電メーカーの地域販社の社長がオーナー家に挨拶する際、なんかの拍子で下っ端の私がアテンドしていました。そのお取引先の社長は「御社もこれから東京、群馬含め30店、40店で1000億円というところを目指して…」と通り一遍の挨拶をしていたところ、オーナー家は「そんなつもりはないんです。今の店舗で半径500メートルでシェアを20%にすれば、売上は400億になります。そのためには『接客力』がすべてだと思うんです。」という話をして、メーカーの社長は畏れ入ったふりをする、という光景が目の前で繰り広げられていました。「真心接客で北関東勢の価格攻勢を打ち破る」は当時のその会社の方針ではありましたが、本部MD陣の誰もが、それを一族が言い続け、中型店戦略を続ける限り会社は緩やかに縮小均衡の道をたどると感じていました。

実際には、ある事件をきっかけに全然緩やかではなくその会社は下降し始め、それから5年後、消滅しました。 その事件は別の機会に譲るとして、当時の(おそらく今も)消費者の選好は一番が価格、二番が品ぞろえ、三番が修理、配送などの周辺サービス、それらが同等ならば接客レベル、というのは消費者だけでなく中にいる社員もみんなわかっていました。しかし、この会社は舵を切ることができませんでしたし、オーナーにそれをきちんと主張する人もいませんでした。そのため、他社が幹線道路沿いの大型の敷地を探すなか、古参の店舗開発部長に地方銀行が住宅街の中の中型の敷地を探して勧めたり、他社がフロア当たりの人員を減らして多店舗展開の速度を速める中、虎の子の主要国道沿いの取得済みの大型用地を物流センター用地にしていたり、というようなちぐはぐさが目立っていました。

「どうしてわかっているのに変えられないんだ?」 まだ20代だった私には、経営層のかたくなさが歯がゆくてならず、やがては、変えようにもその資金もなくなっていき、これから2年後に逃げるようにその会社をやめてしまいました。大学時代に愛読した「失敗の本質」を、このころ再度買い求め読んだことを懐かしく思い出します。  

このブログを始めるにあたって、どうしてこんなことになったのだろう?と自分の人生を振り返った時、あの時の「真心接客」発言がすべてのスタート点であったと思い返しています。その誤った判断が私をかわいがってくれた先輩たちを路頭に迷わせ、私を信じて買ってくれた顧客の信頼を失ったことへの怒り、そしていち早く沈みゆく船から自分だけが先に逃げ、生き延びたという後ろめたさは今でも忘れられません。

「会社は潰してはならない」そのためには、様々な策を絶え間なく打ち続けなくてはならず、指導力を持つ経営者に、その会社に必要な構想と計画を具体的に形にしてあげるパートナーが必要だと様々な経験から私は感じています。

そのことが私がこの仕事を始めた一番の動機です。そして、このブログ「経営の光景」ではその要素を実例を中心にご紹介していこうと思っています。

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