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誰に売るのか?年齢ターゲット

ここ何回か、組織運営、人的資源マネジメントに関連して世代間の差違の話題を取り上げることが多くありました。私もそれだけ齢を取ったということだと思います。今回もそんな話題の一つなのですが、社外の「お客さん」マーケティングのターゲティングセグメント(主として年齢別)の話です。

私たちは過去を思い出すことはできても、将来を体験することはできません。私自身、20代の頃に、50近くなって自分が生きているとは思っていませんでしたし、体重がだいぶ増えているとか、老眼だとか(このくらいにさせてください)…それが自分に起きるとも、あるいは起きたらどんなに不便であるかもわかっていませんでした。最近では、「人は皮膚と腸に老化が現れる」という言葉を実感しています。しかし、そうだからこそわかることもあります。これは強弁ではありません。

20代の人は、グルコサミンとかコンドロイチンとかコラーゲン…なぜあんな健康食品が莫大な広告費を投下して関連企業が急成長しているのか、なぜ「ヘルス&ビューティ」が成長分野として投資家の注目を集めているのかわかっていないでしょう。私も20年前はわかっていませんでした。そもそもそれほど大きな事業分野でも当時はありませんでした。今、その関節の痛みの当事者になってようやくそのニーズがわかります。そして、どんなPRが効果的であるか、どこでそれを目にしやすいか?のマーケティングミックスをとてもリアルに理解することができます。

もっとも、余談ですが、こうしたものを買いはしません。口から摂取したこうした食品は、そのまま細胞に届くわけではありませんで、すべては単糖類、アミノ酸、脂肪酸に分解されて吸収されるし、体内で再度元の高分子体に結合するわけでもないという中学の生物で習ったことを覚えているからです。つまり、これらの健康食品ビジネスの多くは、「科学的知識に乏しい層に対する錯覚ビジネス」です。よーくパッケージや説明書きをみてください。科学的に根拠があるとはどこにも書いていないし、医学的に症状の改善効果があるとも書いていないはずです。このことは悪口ではなく、今日の話題に関係があることです。

人間は誰しも自分が世の中の標準的な存在だと思いがちです。自分を通して人を、そして世の中を、見るので自分と同じだということを出発点に物事を捉えようとします。そして、情報がなければ同じだという前提で考えを進めがちです。情報があったとしても、それをリアリティをもって理解できているかというと上の例のように当事者性が低いと実は全然理解できていません。しかし、実際には、年齢、性別、地域、収入、家族構成等により購買行動は大きく異なります。マーケティングでは、その多様なセグメントのそれぞれへの理解をよりリアリティをもって行うことがとても大事です。
そして、年齢、性別、収入はその中でも非常に大きな影響を持つ因子です。そして、非常に特徴的な分布をしています。

ここで統計を2つ見ていただきましょう。一つ目は年齢別人口分布です。(総務省日本の統計2019より 平成29年人口推計値を使用)

良く知られている通り、40代が最多層、60代がそれに続き、ビジネスの世界で活躍し始めた20代は30代~60代はもちろん、70代よりも絶対数が少ない状況です。40代は20代の1.5倍も存在します。もし同じ収入、同じ嗜好ならば、40代向けの方が、20代向けより1.5倍売れるということです。だから、改元前のテレビは、20代の人には興味がないような昭和末~平成はじめの出来事や流行歌をたくさん流したのです。この世代が見てくれることをスポンサーにアピールして広告枠を販売したからです。

(これも余談ですが、60歳以上の男女の比率の差も興味深いところです)

もう一つは、年齢別所得分布です。厚生労働省の国民生活基礎調査(平成29年)からの引用です。

こちらも、40代、50代は20代の2倍の所得があり、60代、そして70代以上ですらも20代を上回っています。この統計はよく「家族が多いから所得が多くても楽ではない」という反論の材料になりますので、今回一人当たり年収のデータも同時に表示してみました。家族が増えても共通費用(家賃、水道光熱費や一部の食費や生活雑貨類)はそれに比例して増えるわけではありませんが、それを差し日中なくても20代よりも40代~60代の方が一人当たり年収が多いのです。これをみても、40代、50代、60代の方が20代よりも「豊か」ということは言えるでしょう

そして、この二つの掛け算、つまり、人口×所得で市場のサイズはまずおおまかに決定されますので、20代よりも40代、50代、60代向けの市場の方が原理的には大きいわけです。だからこそ、メーカーは20代向けトレーニングよりも、50代、60代向けに膝が痛い人向けの健康食品により大きな販促費を投下することが正当化されるわけです。

もちろん、地域により、あるいは職業によりさらに細かな差異はあり、上の統計類ではこれについても状況を見ることができます。ただ、今は一番シンプルに、たとえば、webでサービスを案内する、あるいはメディアでのCMで案内する、というような「一律に情報発信」することをイメージして考えることとします。

誰に向けて物を売るのか?

私は以前、20代中心のある会社のメディアの編集責任者と「どうしたら売れるか」の話をする中で、「一番お金をもっていて数もいる40代、50代が自分の問題として関心があるテーマが全然ない。」ということを言ったことがありました。例えば、今の私の世代だと、自分の問題としてリアリティがあるのは、「親の介護」「子供の教育や進学・就職」「自身の役職定年後の収入やリストラ危機」「定年後の暮らし」「高脂血症・コレステロール値」などです。ところが、これを彼ら20代に特集しろ、といったって、当事者ではないのでいい記事は出来っこないし、彼ら自身は関心がないのです。逆に彼らが思う「テーマ」は立派なことをいうが、我々40代には全然関心がない。こりゃ当然売れんわな、と思ったのです。

また、「交通弱者」という言葉があります。若者たちは概念的に、「地方の課題」「障害のある人の課題」だと捉えました。しかし、都会でも高齢で脊柱管狭窄症などで歩行が困難で、しかも子供から免許の返納を迫られて交流の機会を奪われて孤独化している「普通のお年寄り」は私たちの親世代では普遍的にある問題です。数で言えば、都会の方が人口が多く、高齢者の方が数が多いので、地方の子育て世代よりもこちらの方がより大きな問題です。今回は統計は省きますが、高齢者すら都会に偏在する時代なのです。

ダイバーシティとは何か?ということは組織論の中では最近は様々なプラス効果が言われていますが、こうした「多様な当事者性」は、マーケティングに会社で取り組むにあたっては重要な要素です。ダイバーシティというと、女性、外国人などのこれまでの会社での非主流派の視点の重要性が取り上げられますが、若い企業にとっては、むしろ「社会の主流派の視点の欠如」が問題になるわけです。

別の事例でこんなこともありました。最近では、イベント等でも、スマホアプリからイベントを申込みし、クレジットカードで決済、あるいは〇PAYで決済、というような仕組みが多く用いられるようになりました。個人の属性を反映できるスマホというデバイスが一人に一つ行きわたっていることで、そのターゲットへ効率的に情報を届けて、デバイス上で購買申込と決済までを完了し、当日の受付もスマホ上でできるようになり、統計的集計も自動で行われます。これにより大変業務を効率化することができるようになりました。数年前ならば、担当者を張り付けて、申込者と決済の消込をして、未支払者へ督促のメールをする、受付では名簿を印刷してボールペンで〇をつけるという業務が発生するのが当たり前でしたし、そのための電話対応の用意も必須でした。(特商法にてきちんと連絡が取れる窓口を用意することは今でも義務付けされていますが、「電話」という制約はありません。)

しかし、こうした購買・決済・受付方法に、一部の40代、そして50代、60代以上の多くはは明らかに乗り遅れています。そして、先の統計でみたようにこの層は数の上では20代よりもはるかに多く、しかもお金持ちです。扱い商品のマーケティング上、高齢層を無視してよいならば、こうした選択肢しか用意しないで業務を効率化することは正解です。20代、30代に特化した商品企画と販促を行うことに特化させ一貫した施策をとればよいのです。しかし、「高齢層を無視する」と決めたのか?というと、「自分たちが若いので、わかっていなかった」、「対応できないとは思わなかった」「考えていなかった」ということが実は大半であるように見えます。

実は、同じ商品なのに販売チャネルと商品名を変えるだけで単価を3倍にして、そして高年齢層をターゲットとする、というような方法を取るマーケティング上手な会社も世の中にはあります。同じチャネルで販売することで対応できないならば、そうした方法でかかるコストを上回る利益を目指すこともできます。「コストがかかるからやらない」は経営的には、思慮が不足していると思います。

この人口分布と所得分布はこの先も当分変わりません。私はよく若い方にいうのですが、人口が逆ピラミッドであり出生率が2を大きく下回り続ける限り「あなた方は引退するまで少数派」です。それを前提にマーケティングを考えていく必要があります。そして、単価を上げられない、と悩んでいるあなたは、どの層を見てそう言っていますか?20代相手にお金取ろうと言ったって、バブル期にはそんな様相も一部にありましたが、昔から、今後しばらくも、社歴に対する給与の伸びが緩やかで能力評価が徹底されていない日本ではそれは土台無理な話なのです。お金のある人にお金ください、と言わないと。

マーケティングの基本は、「誰なら買ってくれるのか?」であり、「どう売るか」はそれに従属する課題です。「わからないから、40代以上は無視している、考えていない」は今すぐ脱却し、眼鏡をはずしてスマホの画面を見ながら親指一本で操作している、シニア層に売るかどうか、をもう一度真剣に考えてみてほしいと思います。

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