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オペレーション改善でどのくらい生産性は上がるのか?

ずいぶん前から日本はホワイトカラーの生産性が著しく低いと言われています。実際、中国でも組織運営をしてきた経験から言っても、日本の組織の考え方では「上がるわけがない」と帰国して10年になりますが常々思ってきました。日本人は、この20年でずいぶん相対的に貧しくなりました。かつて中国で私の部下だった中国人幹部たちは今では私よりもはるかに高収入で活躍しています。事務作業の効率性は部門単位でのスループットでは体感的には倍は違うと思います。さらに、経営全体という意味では経営者がその場で瞬時に判断することが当たり前の中国企業と、何か月も判断に時間がかかる日本企業との差は変革速度に非常に大きな差があります。

この経営の話と現場の話の2つが世間でも「生産性」を議論する際に、混在していることが多いのですが、本編ではまず先に、「現場」の話を進めたうえで、最後に経営の話をすることにしたいと思います。

日本では、働き手が犠牲になり、実質的な時間給を下げる形で企業の存続が図られてきた、という話を前回しました。前回はこちら

それでも日本は世界から落伍していきました。世界各国は先進国、途上国を問わず、2~7%程度所属が増加するのが当たり前です。7%の増加が10年続けば所得は2倍になります。世界は、日本の賃下げによる「生産性向上」をはるかに上回る「生産性向上」を仕組みの改善により実現しているということをこのことは示しています。

賃下げでは生産性を2倍にはできない

これからお話しするオペレーション改善策で「どのくらい効果がある(生産性が改善できる)のか?」と経営者に聞かれることが何度もありました。弊社は当然代金をいただく話ですので、結果の保証を求められるわけです。現状を測定し工程を設計しないと確かなことは言えないのですが、それでは経営者は決断できませんので、私はこう言います。

「人事制度に手を付けない範囲であれば20%ぐらいは改善できる可能性は高いです。人事制度も含めて取り組むのであれば、倍増できる可能性は十分あります。」

全員の賃金を半分にすることはできませんが、生産性を倍増することはできます。まあ、それでも人事制度をいじる決断をする経営者は決して多くないのが実情です。それは私の説明が悪かった部分もあると思います。今回、ブログ400回記念にこの特集を選んだのは、その「説明」のパターンを今回確立しておこうという動機もありました。

なぜ、そんなことが言えるのか?はったりではないのか?(一部ははったりですよ)と思われるかもしれませんが、次の説明をすると、「そらそうだな」と多くの経営者は思ってくれます。

これからお話しする内容は次のような流れです。

  1. 業務のうち、売上の80%を生み出す上位のものを洗い出す。(おそらくそれは全業務量の2,30%)
  2. 各業務のインプットとアウトプットを明確に定義する。
  3. アウトプットの合格基準を明確にし、チェックリストなどに明文化する。同様にインプットもどのような要件があるのか?それが満たされているのか?を確認できるチェックリストを作る。
  4. インプットとアウトプットの間で、中間生成物(ファイル、判断等)ができる箇所や担当を移動する箇所に着目して、工程を分割する。この時、1で洗い出した業務の中で同一や類似のプロセスがないかに注意をする。
  5. 4の中で条件分岐、例外処理を洗い出し、その例外処理が増えた工数分の売り上げを本当に生んでいるのかを確認し、コストパフォーマンスが悪ければ値上げか廃止とする。
  6. 5でできた工程の各プロセスの中で、どのくらいの時間がかかっていて、どのくらいのアウトプットがあるのかを計測する。(たとえば、営業ならば、そのプロセスに進む確率は何%あるのかなど)
  7. 各業務間で共通化できるプロセスを共通化する。
  8. プロセスの手順と品質基準を明らかにする。これができるとチェックリストもできる。
  9. プロセスのうち、時間がかかっているもの、品質が悪いもの(ボトルネック)を洗い出し、そこの改善を集中的に取り組む。その間、他の個所は気にしなくてよい。これにはソフトウエアによる自動化を含むが、5~8の過程で自動化の対象や内容は明確になっている。
  10. 改善した各プロセスに対して手順と品質基準を明らかにし、それができる人材がどのような人材なのかを定義する。これが「職務定義書」となる。また、ドリルやテストでトレーニングと習熟度を確認できるようにする。また、現状の組織ではなく、責任者(利益と品質の)とメンバーという2階層の組織に各業務を組織変更する。ただし、10人を超える業務(中小企業ではこれは意外に少ない)の場合は、途中階層を置く場合がある。
  11. 事業計画上予想される業務量に対して必要な人員数とその最低生産性、品質基準を決める。(利益が出るギリギリいっぱいの人員を配置するのではなく、必要最小数だけを配置する)
  12. 社内で各工程を担当するのに十分なスキルを持つ人をセレクトし、重要性の高いもの(アウトプットを決定づける度合いが大きいもの)から順に優先的に担当を配置する。
  13. 要求品質や効率を満たす社内人員がいない、不足する工程は、満たせる人材を募集しそこに配置する。(できるかどうかわからないのに社内で育成とか言わないで、確実にできる人を連れてくる)
  14. 各工程の日々の生産性、品質指標を追跡し、それを評価指標の重要な一部とする。また、担当工程の改善への提案、貢献を評価対象とする制度とする。
  15. 例外の対応要求は工程の各担当ではなく、責任者へポストし、勝手に実施できない仕組みにする。
  16. 各メンバーは責任者の指示があった作業以外はやらない。
  17. 当日の業務計画上上司が事前に計画した残業「指示」以外はやらない。申請も認めない。できないメンバーは置いていく。
  18. できないメンバーは給与が法規(最低賃金)内で減少する評価制度を導入する。
  19. 売上の残りの20%(業務量の7,80%)を占めるものを上の流れで大幅に改善できそうで、かつ価格改定できるものと、他社に有償譲渡等して廃止するものとに分けて実行する。
  20. 余剰となった社内リソースで最適化した工程への配置から外れた人は、いったんは非専門性の業務の派遣、外注の廃止と内製化に回す。(派遣・外注の廃止)ただし、それでも余剰になるので、営業チーム化するなどの手立てを行う。
  21. 上の流れを毎年1回程度最新データで見直す。手順は3か月に一回アップデートする。アップデートへの貢献は評価する。

いかがですか?どうやってやり切るかは置いておいて、これを全部やり切れば倍増しそうとは思いませんか?そして、「人事まで手を付ければ2倍にできる」と言った意味もこういう風に書き出せばわかっていただけるでしょうできる人とできない人では生産性に数倍の差があり、できる人だけ使うのだから2倍になるのは当たり前です。そして水準以上のできる社員の給与はおそらく増やせ、必要人員は今の担当数よりもだいぶ減らせます。ですので、会社の収支も改善しますし、品質のばらつきも減少します。採用時の戦力化に必要な期間も日本では、平気で「3か月」という会社があるのに驚きますが、1週間で戦力化できるような仕組みを作れます。

次回以降、この各項目を順番にご説明していきたいと思います。

それでもなおやらない理由は?

こうやれば、経営が改善することは自明です。それでも経営者がやらないのは、やっぱり理由があります。

一つは、仕組みを明らかにしてドキュメント化できるスキルのある人間が、今社内に限られていて、そういう人間は当然事務作業の要になっていて多くの場合、すでに残業がないと回らない状況になっている中で新たな負荷が発生するということへの具体的対処です。

優先度の問題だとは思うのですが、そういうケースについては、弊社が入り込んで、すべての工程を自分できるぐらい勉強して、ドキュメント化します。それがこの特集を書いている営業的動機です。

もう一つの問題は、「使えない社員をどうするか?」ということへの解がないことです。日本では解雇規制が厳しいため、そこのコストを明示的に減らすことはできません。もちろん、「リストラ部屋」のようなことを推奨するつもりもありません。

あえていえば、何もやらす必要はありません。部署移動して単に放置でよいということです(いじめてはだめです)。清掃等外注している社内の軽作業があればそれを内製化するのが良いと思います。ただし、重要な工程からは水準に達することのできない社員は外します。これは進行が予定通りにいかないことや、品質の弱点ができることの原因になるからです。計画の進行見通しが立たない要素が工程内に入ることはできるだけ排除することが必要です。

そう、この点こそが正しいとわかっていながら、日本の経営者にできない点なのです。相当の危機に瀕していてもそれでもできない人をたくさん見てきました。今まで何とかなってきたから、これからも何とかなると期待しているのです。

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