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2019年は何が起きていたのか②

前回に引き続き、年末にあたり2019年のビジネス界を俯瞰してみて、危機的に思っていることを中心に問題意識と対策を述べさせていただきます。

前回はこちら

④大企業とベンチャーのはざまで

今年になってよく見かけたのは、「若者の大企業離れ」という記事。確かに大企業の旧態依然たる体質に何年いても大した実力が付かない、と若者が思うのも無理はないしやりがいを感じられないことも多いでしょう。嫌なものをいつまでもしがみついている必要はないし、3年どころか半年もいれば、そのビジネスのKSFも、その組織の長短所もわかってしまうのが今の賢い若者たちです。

しかし、一方で「ベンチャーとはこのようなところである」、という理解が十分進んでいるか?というとそうは思えないところも見えてきます。これを端的に表す今年の言葉が「やりがい搾取」

このことはもう少し整理して今後のきぼうパートナーの経営にも、あるいは若者たちへの助言にも生かしていきたいと思っているのですが、大学院程度の専門性をきちんと身に着けて、専門性を要求するポジションの仕事をするという動き自体がまず日本では異常に少ない。大企業では専門性を持っていても最初の数年はジェネラリスト養成コースを歩まされるので、それが嫌ならば、それを必要としているベンチャーがよい。これはまず一つ今の日本では確定的なことだと思います。

しかし、日本の場合、人員もそこまでの専門性をもっていない(だけど大卒)し、企業側も専門性を要求するポジションを用意しておらず、というよりも、素材開発系でもないと専門性をどう生かすかを経営側もわかっておらず、結果として「みんながだれでもできることを適当にやっている」という状況が社内の9割という状況があります。その中で大企業とベンチャーどっちが良いのか?というと、私が自分の子供に薦めるならばやはり大企業を最初に選び体験しそこにあるものを吸収することを薦めます。それは、ビジネスのマナーに始まり、法規やルール、あるいは提案の考え方やPDCAの回し方などの「仕事の作法」を大企業ではお金を払わないでも、きちんと教育してくれるし、1000万円、業種によっては1億円単位の業務の進め方、回し方というのを目の前で学ぶことができるからです。これらは中小企業では手に入れることができないことが多いからです。

そうしたノウハウを知らずに、部下も持った経験もなく自頭の良いばかりの人間がベンチャーに来ると、小さな作業に無駄に時間とお金を使い、効率の悪い思考に自分と周りを巻き込み、自分だけでなく周囲までもを疲弊させていく、という不幸の震源地となるのです。

ベンチャーであっても、いや、無駄が命取りになるベンチャーだからこそ、そこそこの規模の業務をきちんと回して数字を作った経験のあるマネージャーとその業務を支える高度なプロフェッショナルは必要なのであり、そのどちらでもない大半の若者に決して薦められるものではないように思うのです。そして、直近の数字に追われずに仕事を覚え、きちんと有給休暇を含めてバランスのとれた生活をする、という点ではベンチャーは大企業にはなかなかかなわない。ベンチャーに疲れて、そこから大企業に転身しようと思っても、大企業は実績でもない限りなかなか受け入れてはくれないし、ベンチャーの大半は近い将来消滅するという現実があります。そういう現実はもっと正確に知られるべきです。

⑤上場ハードルと資金調達の流れ

ベンチャーブームの一方で、今年よく聞いたのが、「上場延期」「上場断念」の話でした。その逆に、今年は、ぎりぎりまでVCなどから大型のプライベートな資金調達を繰り返しして事業をぎりぎりまで大きくして、大型の上場に成功したという事例も何例かありました。

今年はお付き合い先のベンチャーでも資金調達が終盤相次ぎ、この荒波に漕ぎ出した経営者の勇気を応援したいのですが、一時期は、言い方は悪いですが、「東証マザーズならば、書類さえ整えれば、内部体制が多少いい加減でも上場できる」というような言われ方をしたものです。しかし、いくつかの事件をきっかけにここ数年、業務管理体制や経理体制の整備に対する要求が大変厳しくなっています。それは、弊社のようなここの仕組み構築を得意とする者には良い傾向ですし、公的存在になるにはそれは当然必要だと思っていますが、この負担は決して小さくありません。しかも組織が大きくなってからではなかなかコストも大きく、期日がある中で時間もかかります。こうしたことを実現したいならば、30人以下の時点で組織の遺伝子として組み込むことが必要になってきますし、実務の手法に詳しい弊社のようなところをお使いになることをお薦めします。

と宣伝はこのくらいにして、ベンチャーが上場するということが比較的簡単にできる時代は終わったと言ってよいと思います。これから先、多分、上場数はゆっくりと減っていくし、そもそも審査の段階に進む企業も減っていくのではないかと思います。一方で、以前よりも時間とお金をかけて相当知名度と規模、市場シェアを上げてから上場するという流れは昨年のラクスル、今年のSANSANに、フリーと続いており、優れたCFOが資本政策をきちんと考えて着実にステップを踏む、ということは、あるべき姿、だとも思います。

また、こうしたSaas系ネット企業の一部では、MRR(月額課金収入)の伸びを基準に事業を比較的大きめに評価する基調がここ数年続いていました。これは、こうしたサービスは十分解約率が低くユーザー数を積み重ねることで安定的な収益の伸びが期待できるため、初期には赤字であったとしてもMRRを採算分岐点以上までできるだけ早く伸ばすことが重要だと考えられるためです。しかし、ここ最近の事例では、MRRが順調に伸びて目標に達しているにもかかわらず、なおも黒字化しないという事例も見られるようになってきました。これは懸念されていた事態ではあり、一般的な業務をベースとしたサービスでは、ネット上であろうが、オンプレミスであろうが売れると見るや競合が参入し機能は容易に追随でき、今度は比較優位を構築し維持するために膨大な販促費を必要とすることになるのです。これを防止するためにはその過程でサービスのネットワーク外部性の高い要素を組み込むなどシェア先行の優位を生かす施策が必要になるわけですが、今度は初期の資金をサービス本体とそのネットワーク外部性のどちらに投下するかというジレンマが起きるわけです。忘れてはならないのは、「優れたものはすぐ真似される」、ということです。逆に私は、「類似の成功例を真似するところから始める」ということもお付き合い先にお勧めしています。

これも以前から実はそうだったのですが、ここ数年続いてきた管理系業務や業務系のSaasシステム化がベンチャーの花形、という時代はそろそろ終わりつつあり、過当競争と淘汰の局面に移行しつつあることが見えてきた一年でもありました。

世界ではほかにも、Uber(発生は去年ですが、最近一気に株を売ったそうで)、WeWorkの蹉跌というヤンチャ系ベンチャー経営者が市場から退場を命じられる事例が続きました。WeWorkは日本でも全く魅力を感じないのですが、サービス売上やバーカウンターとかできなく、まともな支援機能を早くインストールしないと来年の今頃は伝説になっていそうな気がします。伝説と言えば、インドから上陸したOYOも、敷金礼金不要のネット完結の賃貸住宅という斬新な切り口で注目していたのですが、あっという間にYahooは手を引くということとなりました。YahooというかZホールディングスのチャレンジと判断の速さは目を引きますし、LINEとの経営統合、ZOZOのグループ化も日本でミニ版アリババが2020年に生まれるのか?という点では注目しています。

これらの背後に見え隠れするソフトバンクビジョンファンドについては…人手足りてますか?私お手伝いしますよ、とだけ言っておきます。

⑥SDG’sで事業を整理

今年は昨年の何倍もSDG’sの文字を見かけるようになりました。政府も啓もうに熱心ですし、社内広告、あるいは企業のCSR広告でも、これに紐づけするものを多く見かけるようになりました。

SDG’sは決して目新しいものではなく、今世界に存在する解決すべき課題を17のゴールに区分し整理し分かりやすくしたものです。自分たちの事業が社会のどのような問題を改善するものであるのかを社内と社外にアピールするためのフレームワークとしては今、旬なものです。特に社内において仕事の社会的な意味を再度見つめ直すという意味は決して無意味ではないし、大企業においては安易に転職せずにもう少しがんばってみようという動機になるものだと思います。

しかし、SDG’sに熱心であることが市民に理解され、企業の成長につながる、という安易な主張も多く目にしました。もちろん反社会的なことをすると徹底的にたたかれるといういじめ的構造はある(これはこれで非常に皮相的だと思うのですが)、だからと言って道徳的な会社が支持を集めるわけではない。むしろ、競争力が強い、業績の良い会社がその地位を利用してよい認知を確立してブランド信頼感を高めるために利用するものとなっている、というのが現状のSDG’sの進捗であり、先のような理想論には程遠いのが現実です。

また、本来ならば、同じゴールに取り組む企業同士の連携のインデックスとなるなどのより実用的な機能をSDG’s自体が具備するべきだと思うのですが、そこは誰も着手できていないようです。

同様に今年もESG投資的な企業の社会的評価の経済的メリット化という点ではほとんど進捗がみられなかったと思います。ヨーロッパでは比較的重視されているのになぜ日本ではうまくいかないのだろうか?ということには諸説あるようですが、私は単純に日本はヨーロッパよりも貧しくそのようなことに資金を振り分ける余裕がないからだと思っています。その意味において、今後も貧困化が進展する中ではあまりメジャーな地位は占めないのであろう、と思っています。

⑦オープンイノベーション

これも今年の流行語でした。これも大企業が全機能を内製具備するというような方向性を捨てるということから連動して生じているものです。これへの対応できる人員を大企業でも中小企業でも育成するということはこの先数年、重要なテーマになると思います。詳しくはこちらの記事で特集しました。

⑧働き方改革

最後は昨年に続いて、企業経営を変える一大キーワードとなった働き方改革。今年は残業制限だけではなく、来年の東京オリンピックパラリンピックに向けて、「リモートワーク」の実験が官庁と大企業で行われました。

しかし、依然として、時間を短くし居場所をフリーにするために、会議と移動時間を減らし、そして、売上に直結するアクションとそうではないものを仕分け、そして最終的には時間当たり付加価値が高いものと低いものを仕分ける、という本来の現場の解への動きは弱く、従来の不効率なやり方でアウトプットを落とし、個人の能力に依存して「根性による数字づくり(実際にはあまり成果をあげていない)」が「運と才能による数字づくり(ただしくない個人依存)」に変わっただけの会社が多いように見えます。

ここを変えるのは、今まで正しかったこと、自分が教わったことを否定することが必要になり、多くの企業で躊躇しているようですが今の状況で競争力強化の最大のポイントになっていると考えており、きぼうパートナーとしても2020年の重点取り組み事項としていきたいと考えています。

以上、駆け足で今年のビジネストレンドを振り返ってみました。決して今に始まった話ではないのですが、世の中の流れの速さ、特に社内全体の縮小均衡的な動きの中で、効率化をはかるための改革の必要性というものを弊社としても再認識しました。最近、この構造変革作業を「回路の繋ぎ替え」と私は呼んでいます。「そっちではなく、こっちです」というような切り替えが必要なケースが増えているように思うのです。

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