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オペレーショナルエクセレンスへの遥かなる道とリストラの峠

私はよく、中期的な利益水準と事業規模と人件費水準の話をしますが、その時に人事制度や年齢別構成の持続可能性ということをかなり気にしています。そのため、私はリストラ主義者と思われていることがあります。

その時に、制度と会社をめぐる状況を単純化したモデルで実情を説明することがあります。こんなことをしても、「恐怖」におびえる会社幹部の頭にはもう入らないということも多いのですが、何が起きているか?を説明するのにはとても便利で、過去に何十回も使ってきた方法です。

今日は、このモデルを簡単にご紹介したいと思います。(末尾にEXCELファイルをダウンロードできるようにします)

①会社ができて10年で30人規模まで成長した日本企業の多くはこんな感じ。

前提:25歳以下は退職率は20%、25歳を超えて35歳は10%、35歳を超えると5%と仮定します。(これは実情とあまり違わない値です。)

会社は徐々に発展し、一番上の創業メンバーは31歳で1名、30歳で2名(下図)、1歳おきに徐々に採用を増やしており、人数は増え、今年の大卒新人22歳は10人を採用したという社員が「ピラミッド状」の状態が発展期には実現しています。一方で、月額給与も、毎年1万円ずつの順調な引き上げ(いわゆる定期昇給)がなされ、たまたま年齢と同じ給与(年齢と同じ手取り額をもらうのが一人前の証と言われた時代があったものですが、そこには至らない)が実現しているものとします。

社会保険料率とか賞与とか、健康診断費用などその他の人件費のことは簡単のため省略し、「給与=人件費」として説明させていただきます。ですので、本当はこのモデルの金額は、記載の額の1.5倍ぐらいになっています。

そうすると表1の通り、人件費は1080万円、平均費用は24.5万円となります。単純に言えば、この会社は今月1080万円以上の粗利を稼いできてくれないと会社は困りますし、全員が営業というわけではないかもしれませんが、一人あたり24.5万円の稼ぎが必要です。仮にここで、31歳の1名はマネージャーでマネジメント業務にあたり稼ぎに当たらないとすると、その他の人の一人当たりの負担は、25.1万円となります。、まあ、「給料分ぐらいは稼がないといる価値ない」、ということです。

②次の年には…

次の年、それぞれに年齢層に応じた退職(自然減)が発生します。この退職を害悪視する傾向も日本企業では強いですが、どんな会社でも自然減というものはあり、それは事業モデルで適切に見込んでおくべきものです。採用し教育する仕組みは事業が持続するうえで必須のものであるということを中小企業は見落としがちです。そして、A社では会社の制度なのか慣習なのかに基づき、それぞれ1万円ずつ昇給が起こります。一度やってしまうと次から社員はそれが当然の権利化と思い、社長は断りにくくなるという会社が結構多いのが実情です。

退職(自然減)が出ると人数は減り37.1人になってしまいます。そうすると、お客様への対応要員が不足してしまいますので、マネージャーは補充してくれ、という話になるわけですが、入ってすぐに戦力になるわけでもなければ、若い時期の退職率の高さも見込む必要がありますので、ここでの補充は9人、総人員数は46人と昨年比+2名となるようなことが通常です。

この時の総費用は1150万円と昨年から6.5%上昇しています。また、平均費用は給与の低い新人が入ったことで薄められ、25.0万円で昨年よりも1.7%増加しています。

実はわかりやすいようにそうしたのですが、平均給与=平均年齢になるようにしてあり、社員の平均年齢も24.5歳から25歳へとアップしています。

このことは、商品単価がそのままならば、売上(粗利)を6.5%昨年よりも増やさなければならないことを意味しています。

そして、32歳になったマネージャーは、創業間もないころから苦楽を共にしてきた31歳の後輩について社長であるあなたに、こういいます。

「こいつも10年間頑張ってきて実力をつけてきました。マネージャーに昇格させてやってください。」

10年やって実績もあれば、まあいいかな?と思ったあなたはそれを承認します。そうすると、実働の稼ぎ頭は、2名減って44人になりますので、一人当たりの実際の負担は、1年前の25.1万円→26.0万円へと増えてしまいます。営業からはこんな声が出ます。「なんで年々ノルマがきつくなるの?」自分たちの給与が増えているからなのに、それを人のせいにし始めるのです。もちろん、新人が入ってすぐに一人前の数字を作れるわけではありませんので、実質的な負担はもっとずっと大きいのです。

③こうして5年が経ちました。

同様なことが毎年繰り返されます。30歳を過ぎると第一線は若手に譲り、「後方支援」(という名の楽な仕事)にあたるということが慣習化します。すると、5年後にはこうなります。

必要な粗利は1341万円と5年前の1080万円から24%増えています。にもかかわらず、実働人員は43人から45.8人に6%増えただけで、営業一人当たりのノルマは25.1万円から29.3万円へと17%も増えています。

5年の間に、17%値上げするか、17%余計に売れるようになっているか、どちらかでなければ収益力は低下するということです。平均年齢もジワリと25.8歳まで上がっています。

かつての日本では比較的これは容易でした。実質GDPが1953年~90年の高度成長期には年9.1%、74年~93年までのオイルショック~バブル崩壊期においてさえ4.2%ありましたので、多くの産業で需要が伸びていたので、競争の激化という要素を加味しても、「5年で17%」はできるだろう、と安易に仮定することが可能な状況だったのです。実際、90年代に私が体験した予算編成でも、このような「楽観的仮定」が平気で使われていて、そのことを指摘するとチームから外されたこともありました。

ところが、91年~2019年の平均は、「+0.9%」です。マイナスの年もそれ以前はオイルショックの1974年1回だけでしたが、この期間では6回、そして今年も多分マイナスです。

こういう話をすると、現場はこう反論します。「習熟が進んで効率が上がることを考慮していない」「より付加価値の高い製品を出していけば市場で価格を維持できる」…

しかし、このモデルは単一企業のコスト構造を表現しているだけで、市場には常に競争があることを組み込んでいません。他社が製品改良を進めるのも、習熟が進むのも自社と同程度は進むと想定するのが自然ですし、同じ価格ならば付加価値の高い製品が選好される確率が高そうということは言えますが、「付加価値が高いから高いものが売れる」ということは所得が増えない状況では普通は起きません。どのジャンルでも常に数が売れているのは、「普及価格帯」の製品です。そこから逃げて「付加価値」を詠っても、安い海外製が市場を席捲するだけである、ということが20年繰り返されてきました。

④新規採用の抑制による効率化

経営が徐々に苦境に追い込まれている事実を認めざるを得なくなり、社長であるあなたは、この事態に手を打たなければなりません。まず、多くのケースでやられることは新規採用を抑制し、若手の習熟を進めるとともに、ベテラン勢に、「プレイイングマネージャー」とかよくわからない理由をつけて販売実務を再度担ってもらうということです。わかりやすいように新卒採用を3年間0にしてみましょう。するとこうなります。

人件費総額は1336万円から1,161万円13%の削減に成功しました。とIR資料に書いて担当役員は誇らしげ、というのも本当に見かけた光景です。ただし、実働人員は30歳以上の前線復帰を加えても46人が40人にこれも人件費総額とほぼ同じ13%減少しています。若手が習熟したとしても、高齢層の性能低下もありますので、結局人件費当たりの稼ぎは大して変わっていない、ということがたいていの会社で起きることです。つまり、「採算性は5年目と8年目では大して変わらない」ということをこの表は示しているわけです。平均年齢(=平均コスト)は29.0歳まで上昇しています。「利益水準は変わらないまま、組織が高齢化し平均コストは上昇した」というのが起きがちなことです。

そして、「一人当たりの稼ぎが増やせなければ、一人あたりの人件費を増やせない」という当たり前の事実を社長であるあなたは認め、社員を説得しなければならなくなります。社員は一人当たりの稼ぎを増やす方法を見つけるのは社長の責任だとあなたを非難します。しかし、そのような改善策をやっていなかったわけではなく、他社でもやっているようなシステム化や広告宣伝手法は当然チャレンジし効率化を進める努力はしてきているのです。他社も自社も一生懸命やっているので競争の状況は変わっていないということです。

⑤昇給ストップ

次に起きることは、「定期昇給のストップ」という「今いる社員に直接の被害がおよぶ施策」です。③④の過程で、わかったことは「給与を一律挙げてはダメ」ということだったからです。ところが、この「定期昇給」は「終身雇用」と並んで会社と社員との「約束」だと社員は思っています。だからこそ、異動にも転勤にも耐え忍んでくれたのです。

そうは言っても、じり貧の状況は変わりませんので、2年間は昇給をストップすることにしました。今回は簡単ですね。こうなります。

マネージャーはついに40歳になり、髪の毛がやや後退気味。全体では34人ですが、うち30歳以下は16人、気鋭のベンチャーも30歳以上が半分となり、商品や技術の話以上に家庭の悩みがランチの話題になるようになりました。人数は引き続き新規採用をしていないことから全体で35人まで縮小し、総コストは1019万円まで減少しています。

ただし、平均費用は、29.3万円と昇給を実施していないにもかかわらず2年前よりも1%上昇しています。全然コスト体質は強化されていないではありませんか!これは、低年齢層ほど退職率が高いことによるものです。新規採用をしないまま放っておくと、組織はその会社に長くいた(その会社にしかいられない)高齢層で占められていくのです。

そうこうしているうちに収益はさらに圧迫されていき、若手が入らず、30になっても下っ端であることがさらに退職理由となっていきます。ここに至って、あなたは「組織改革」を決断します。

⑥35歳以上に早期退職勧奨制度を導入

11年目、あなたは35歳以上に早期退職制度を導入しました。すると、35歳以上は前からやめたかったし、この会社に未来はないとの捨て台詞を残してみんなやめていきました。その分、フレッシュな若手を9名、6年ぶりに現場に配属しました。

いびつではありますが、総コストは836万円まで減少し、総人員は33人と前期比マイナス1名、平均コストは25.8万円と前期の29.3万円から大幅に下がりました。この25.8万は4年目から5年目に実現していた平均コストと同じですので、6,7年の若返りができたということでもあります。

⑦結局あなたの会社は生き延びたのか?

それはわかりません。総コストと平均コストの議論だけで、「生産性」の議論はここにはないからです。しかし、オペレーショナルな業務でも、プロジェクト的な業務でもさすがに新卒が3年目のエースと同じだけのパフォーマンスを出せるとは思えませんが、慣れてくれば、35歳、40歳の方が優れているか?というと決してそうではないことは過去の多くの事例が示しています。

こういいますと、「顧客とのつながりが断たれる」という反論をする人がいますが、実際にやってみると、顧客は会社と取引しているのであり、そういきり立つベテラン営業担当と取引しているわけではない、ということもわかります。だからといって、このような対処を推奨しているわけではありません。今回のモデルで何を言いたいかというと、これが過去20年あまりの我が国の多くの企業で起きていたことである、ということです。

実はこのモデルを私に教えたのは、20年ほど前に私が使えた取締役でした。彼は非常に伝統的な終身雇用制度の会社の部長から子会社の役員に転じたのですが、こういう言い方をしました。「工場とか、入力事務とか、そういう『作業』は若くて安い層に常に入れ替え続けないと競争力を維持できないんだよ。若い方が生産性高いんだから。お前頭いいんだからそれ計算して持ってきてみろ」

その直接的な言い方は、まだまだ若かった私にはとても突き刺さりました。でも、実際彼のいうように、その会社での生産性データと年齢の関係はかなり明確なマイナスの相関があることをその少し前に私は明らかにしていました。一方で給与はどうしても下方硬直的です。生産量に比例した成果給部分を入れたとしても、基本給は存在するわけですし、最低賃金等の法律的制約も存在します。賞与も既得権益化していますし、出産前後の不利益な扱いをすることも事実できません。その時作ったのが、今回ご紹介したものと同じような(もう少し複雑な)計算モデルであり、その1年後から私は中国現地法人の総経理となり、冷酷なほどモデル通りの生産性による選別を行いました。(当時は労働契約法の施行前でしたので可能だったのです。)もちろん、たくさんの恨み言を浴びせられて、こんなことは2度としたくない、と思いながらやっていました。

が、これは特殊なことでもないし、中国だけでもないことは毎日の経済ニュースが示している通りです。なぜ、こんなことが日常的に起こってしまうのでしょうか?もっと画期的な商品、優れた販売手法を発明すればよいだけじゃないか?という社員の「文句」は優秀なエリートが集まるような企業であってもなぜ実現できないのでしょうか?

それは、「会社の大半はルーチン業務のオペレーションからできている」ということを経営者も社員もなかなか直視しようとしないことに最初の原因があります。会社を俯瞰してみると、採算が取れていて軌道に乗っている会社というのは、「オペレーションが8割」「新規が1割」「立て直しや廃止が1割」という構成になっているのが通常です。

「賢い」ベンチャー経営者とお話しすると、自分の賢さを過信していて、1個1個を手作りしてプロダクツを生み出す「プロジェクト」を永遠につづけていて(彼はそれが好きなのです)、それを数十人で数万社に売るという「戦線構築」になかなか手を付けようとしないことがあります。そういう「ルーティン」を会社で展開し仲間にやらせて数値で縛ることが嫌だという経営者も見かけます。しかし、会社はそれでは大きくならなりません。そして、「ルーティン」と言いますが、その「ルーティン」をどこよりも品質よく低コストで行うことに競争力の源泉がある場合が多くあります。というのも、「画期的な商品」「天才的な発明」は実際には出会える確率が非常に低いものであるからです。その「オペレーションエクセレンス」こそ、中小企業が追及していくべきことと私は考えています。

もちろん、今回ご紹介のような「平均生産性は一定」で「平均コストを構造的に下げて、平均売価との差分を維持する」というようなことは、下策でしかありません。しかし、優れた人材をたくさん持っていたはずの日本を代表するような大企業が結局ここに至ったという現実は、企業が経営者の思うようにはうまくいかず、「短い期間に確実にやれる対策」がこれしかなかった、ということを示唆しています。最後の手段として知っておかねばならないし、そうならないための早期の対策をしなくてはならないということでもあります。

こうした年功序列型の弊害を避ける人事制度については、少し前にシリーズでご紹介しました。こちらもご参考にしていただければと思います。

実は、このブログはまもなく、連載400回目を迎えます。400回目に何をやろうか?と少し前から考えていたのですが、対談でも抽選会でもなく、実に地味に、「オペレーショナルエクセレンス」をテーマにしたシリーズを企画しています。今日はその前置き編です。ぜひお付き合いいただければと思います。

上の表をいじってみたい方はこちらからどうぞ

https://kibow.biz/wp/wp-content/uploads/2020/09/9a5ae5e879039fb70e1836431c20e4dc.xlsx

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