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負け筋を消すか、勝ち筋を読み切るか

 私は個人的には、40年来の将棋の鑑賞好き(指すのはとっても弱いのです)でして、最近の羽生永世七冠の国民栄誉賞と、藤井聡太二冠の活躍による将棋ブームを嬉しく思っています。

 職業病でしょうがないのですが、ヨットレースを見ても、マラソンを見ても、そこに「経営」を感じるのですが、将棋にもいろいろな面でそれを感じています。中でも、一番感じるのが、表題にもした、「負け筋を消す」という考え方です。

 羽生永世七冠が以前、どこかで話されていたのですが、彼は、膨大な思考の中で、そのかなりの部分を「自身の負け筋を探す」、つまり相手が攻め込んできた場合のパターンとその対処を探すことに費やしているそうです。そして、自身の攻め筋、つまり有利になるパターンと、不利になるパターンを消す筋との間で比較検討をして、局面に応じてそのバランスをとっているということでした。

 振り返ってみると私がなぜ将棋が弱いかというと、気を付けているつもりでも、相手を攻めること、そして駒がぶつかっている箇所の近辺ばかりに注意が向いていて、全体のバランスや局面の判断の中に多くの見落としが存在するからです。ほんと、経営では偉そうなことを語りつつ、それがたかが将棋ですらできないという自分に、苛立ちます。
 そして、なぜそうなってしまうかと言うと、局面の中で考えるべきことが比較的たくさんあるわけですが、それが頭の中で整理できておらず、その局面その局面でいきあたりばったりになっているからです。本を読んでわかっているようで、実際にはそれをその局面ごとに運用するだけの身に付いた知識がないし、それを身につけるだけの考えながらのトレーニングも積めていないで、「勝ちたい」だけが先走っているということです。


 そんな私が言うと全く説得力がないのですが…

 ベンチャーの経営者とお話ししていると、多くが「勝ち筋」ばかりを語っていて、非常に危うさを覚えます。実際には、売上は計画通りに上がらないし、人は思うように採用できないし、システムは思ったようには動いてくれない。頭の中にはきれいな構想があるはずなのに、webサイトやカタログにするとなんだか凡庸なものになってしまう。銀行の意向は言葉とは裏腹だし、出資者は手のひらを返してくることもよくあります。
 将棋では見えない「負け筋」がなぜか経営ではよく見えて、「予言者」と言われるぐらい、その会社でやがて起きるであろうトラブルが見えるし、それにどう備えればよいかも見えるのですが、ただ、それを話しても、ベンチャー経営者はなかなか、そこにリソース配分をしてくれません。それは、経営者が自分で考えている経営の在り方というのが、「攻めが9分、守りが1分」のことが多く、「攻めと守りのバランス型」の提案が、彼にはとても守備的に見えてしまうことが原因だと考えています。

 たしかに、サービスを開発して売っていく、という点では、「余計なことを考えずにマーケットに受け入れられることだけを考える」という「攻め」の姿勢は決して間違っていません。しかし、経営というものが、人とお金のやりくりによって成り立っている以上、そこでの見落としが敗着となることもあります。そして、将棋の勝負は、命がけで戦っている棋士の方には失礼ですが、収入には影響しても、人生そのものを揺さぶることにはなりませんが、経営での敗着は、人生を暗転させるものとなります。


 将棋、あるいはすべての競技は、攻めと守りの両面があります。そして、将棋のようなゲームでは、中盤で一見守っているようだが、それが少し先の局面で生きてくる一手や、終盤で攻めにも守りにも効く一手(攻防手といいます)というものがあり、終わってみると、守っているだけではない手だった、という事があります。
 それは実は「守っている」のではなく、バランスを維持しつつ、全体としての戦局の方向性を制御していたのです。

 そういう一局を深夜までスマホで観戦していると、会社全体をどのようにとらえ、ひずみを緩和し、次の時代の配置への流れを考えるという経営者の仕事は、画面の向こうのプロ棋士にもよく似ていると思うのです。

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