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漁業はビジネス的に面白い!

ここ数か月、漁業に関連するビジネスについて検討したり調査するという時間がずいぶんありました。知らないこともずいぶんありました。今、国会では、「漁業法」の改正の審議が大詰めを迎えています。この漁業法、実は本格的な改正は実に半世紀ぶりというものであり、賛否両論(現状の利権を握る人が変更に大声で反対するのは、この国のいつもの姿です)があります。調べてみるとこの産業、本当は発展的な要素がたくさんあるようです。

私は農業に関してはずっと昔から「既存のビジネスの枠組みを適用するだけで競争優位に立てる分野」だと思ってチャレンジの機会を窺っていたのですが、実は漁業の方が有望かもしれません。というわけでそんな情報と、ビジネスパートナー探しを兼ねて少し整理してみたいと思います。

■日本は依然として漁業大国

事前の調査では、日本の漁業は、非常に小規模な個人事業主がほとんどであり、情報化や設備更新による効率化の余地が小さい。という記載がたくさんあったため、私もそのような思い込みがありました。これは現状を表現するのには当たっています。しかし、ヨーロッパの多くの国やアメリカでもこの状況は実は大差がありません。たしかに漁業先進国と呼ばれるノルウエーや大規模化が進むニュージーランドなどの事例はあり、これらは参考になります。しかし、日本が世界で大きく立ち遅れている、というわけでもなさそうです。

日本は依然として重量にして世界10位、世界シェア3.5%程度の漁獲大国です。そして、マルハニチロ、日本水産、極洋という上場三社は世界規模で漁獲、買い付けから加工、製品化までを統合しており、世界の他の水産企業と比べてもトップクラスの規模を誇る企業であり、世界市場での存在感も大きいプレイヤーです。その歴史的ストックは日本発で世界に向けてビジネスを展開するうえで、障害だけでなく、大きなアドバンテージにもなりうるものです。

■養殖への流れ

漁業の世界市場を調査すると、「管理漁業」という言葉に頻繁にぶつかります。漁業資源は限りある資源であり、これが持続的に収穫できるよう魚種別に毎年漁獲できる量を科学的に定め、そしてそれを地域別、さらには船別に割り当てを行う、という制度がEU諸国を中心に導入が進められており、日本でも一部の魚種では導入されています。漁業システムの検討を行う上で戸惑ったのは、たとえば、「効率的に漁場を予測しそこへ最短でいくことができれば、収穫は増え利益は増える」ということが必ずしも言えないことです。時間の限り漁獲し続ける、ということができないので、「一定の収入」に対して、「リスクを減らす」と「コストを減らす」という面でシステムの効果を考えなくてはならないのです。逆にこの辺のビジネスは、「SDGs」の「持続可能な経済発展」という文脈と強いつながりを持つものであり、今後の社会的責任論の中での位置づけが可能なものです。

これに対し、養殖ではこのような制限は大幅に緩和されます。規模を大きくすればその分収穫は比例して増えます。そのため、世界では海面での漁獲が伸び悩んでいるのに対して、養殖は急増しています。そして、上で漁業は実は他国も小規模経営が多い、と記載しましたが、養殖については非常に大規模な経営がヨーロッパ、とくにノルウエーを中心に出現しています。養殖での日本の世界シェアは重量で2%未満、金額で5%台と海面漁業に比べても小さく、低コストで生産する国から輸入するという構造になっているのですが、養殖大国であるノルウエー(その生産の大半がアトランティックサーモン)の一人当たりGDPは日本よりも大きいうえに、養殖の産出金額は日本の約2倍あります。大規模な機械化、IoT化が進んでおり決して労働集約型の産業というわけではない、むしろ資本競争の世界でもあるのです。

そして、さらに養殖には、「エサ」が必要になるのですが、このエサの供給業者も急速にM&Aによる大規模化が進んでいます。また、ヨーロッパには養殖に関する「保険商品」があったり、こうした大規模投資が必要ということを反映して、養殖業を中心とした水産業の「投資信託商品」があるように、養殖は計量経済学的な仕組みを適用することが海面漁業に比べても進んでいます。

養殖に関しては一つ驚いたことがあります。養殖の大敵である赤潮を予測する研究、というのが研究者の間にあるのですが、私は仮に予測できたとして、巨大ないけすをはるか沖合まで移動することもできないだろうから、リスク回避にはならないのではないか?という疑問がありました。答えは簡単で、「一時的に海面から深いところに沈める」ことで回避の可能性がある、ということでした。言われてみればなるほど、です。

■ここでもまた、「中国」

何を取り扱っても、名前が出てきてしまう中国。私が中国が好きなわけではなく、お隣に日本の10倍の人口、3倍のGDPを抱えているのだから仕方がないのですが、現在圧倒的No1漁業国となっています。重量でみると海面漁業では世界の19%(日本の5倍)を占め、2位のインドネシアの3倍近い規模があります。養殖に至ってはさらに顕著で金額ベースで世界の50%以上、2位のチリ、3位のノルウェーの5倍の規模があります。これに伴い、養殖に用いる餌、網、設備などの市場でも中国の存在感は大きくなっています。アメリカの漁獲備品の最も多い輸入国はやっぱり中国です。

海はつながっているので、お隣でとられすぎると日本では取れなくなる、ということが起きます。政治的な紛争になっているのですが、日本人は話し合いで解決できると教えられて信じている傾向がありますが、こういうのは力関係で決まるものであり、現状は固定化することを前提に対策する必要があると思っています。交渉は、「力関係の均衡点付近での細かな優先順位の整理」という意味合いが強いと日本交渉協会認定交渉アナリスト1級の私は思っています。

■情報化を進める若きリーダーはここにもやっぱりいた

私もこの仕事を始める前は知らなかったのですが、漁船には必ずと言っていいほどついている魚群探知機の世界No1シェアのメーカーは実は兵庫県の古野電気株式会社です。同社は戦後間もない時期に世界で最初に実用的魚群探知機を開発し発売した歴史を持っています。その物語は同社のwebサイトで公開されていますので関心のある方はご覧ください。

最近の漁船はこの魚群探知機のほか、GPSの現在地を海図上に表示するGPSプロッタ―や気象情報等の受信設備など情報化が進んでおり、関係者に見せていただいた東北地方のある漁船は操舵室付近に液晶画面が4つもありました。また、情報端末として、データを地上でダウンロードしたタブレットを船に持ち込んで漁撈管理の参考にしている漁協もあるそうです。

私はプロジェクトメンバーの方に、「日本の漁船なんて小規模だし、情報化投資なんて見向きもしないんじゃないの?」ということを言ったことがあるのですが、これは乱暴な切り捨て方でした。投資対効果を見極めつつ、「参考にできるものならばぜひ使っていきたい」と言ってくれる若い漁業リーダーはやっぱりちゃんといたのです。

今回はある情報化プロジェクトをお手伝いする形で参加させてもらいいろいろと勉強する機会を得ましたが、いわゆる「一次産業」はビジネスとして「人が生きていくのに欠かせないものである。いらないものではない」ということに加えて、値段だけでなく、鮮度、そして生産者のストーリーのような情報など、多様な価値を持ちうるものです。しかも、陸地(農耕地のような平地)は観測機器が設置されていたり、人が車両でいくことができるため、遅れているとはいっても情報化が進められるようなインフラがあるのですが、海は広く、人や設備が容易に到達できず、しかも海中の魚の様子は衛星だろうが飛行機だろうが、目で見ることができないのです。だからこそ、無限の可能性がまだ残されています。

しかも日本は経済海域でいえば、世界5位の大国であり、現時点での漁業関係者や船等インフラも十分あり、実証する、検証するというビジネストライアルに恵まれた環境にあります。

今回は、参加させてもらった内容や調査した内容についてはここではご紹介をできませんが、漁業の構造を変える情報ビジネスというのはこれからも取り組んでいきたい面白い分野だと思っています。

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