新年は、弊社で行っている「チェンジマネジメント」のノウハウや進め方を紹介する連載を行っています。前回は、その会社で残すべき核(コアコンピタンス)をどのように見つけるか?について簡単にご紹介しました。
今回は、その一方で、チェンジする先、たとえば2年後(一年後だとまだ移行期という場合もあるので)にどのような会社を実現するのか?をどのように決めるのか?今思う自社の望ましい状態とは?がテーマです。
金融機関に借り換えや条件変更を相談する場合でも、「この状態に持っていけば、かならず黒字化して利益は伸びる」という計画の妥当性と実現可能性がないことには、彼らも回答のしようがありません。だからこそ、遠回りなようでも、「この状態に移行する」というプランをまず急いで立てる必要があるのです。プラン自体は、相当複雑な会社でも、私たちが手伝う形でそこに専従すれば、0からでも1週間もあれば概略は作れます。ただし、それを社員一人一人の実行計画に落として実行に移させるにはもっと長い時間が必要になり、その過程は大きなせめぎあいが伴います。しかしながら、社員とのコンセンサスが前提というわけではなく、会社をどこへ導くかは経営者が孤独に決めてよいものです。そして、コンセンサスを一部だけでも得ていくことこそ経営者のつとめです。これについても今後ご説明していきたいと思います。
もちろん、その一方でおしりに火がついた状態でBSの改善が急務というケースもあります。手元流動性が乏しい状況では、もはや将来ビジョンなんて落ち着いて考えていられないというのが経営者の実情ですので、その場合にはそちらを手当てしながら、と言うことになりますが、これは次回取り上げたいと思います。
「2年後にこうなっている」はどんなことを選ぶのか?
さて、2年後に会社がどうなっていたいか?ということを探るにあたっては、経営理念やもっともらしい抽象的な概念を持ち出しても、これまでそうしたことを人事や営業の方針の中にきちんと組み込んでこなかった大多数の会社ではほとんど響きません。多くの社員にとって、そんなものより会社の安定、自分の生活の方がはるかに大事な問題ですし、考えたこともないし、「社会に貢献」とかいう言葉は多くの中小企業の営業や製造の現場にあってはこの時点では空言に過ぎないのであって、それを前提にして施策やメッセージは立案されるべきです。(もちろん、このままでよいというわけではなく、それ自体を再構築することも、このプロセスの中で重要なわけですが)したがって、ここでキーとする内容は、「赤字業務をどうするのか?」「利益率と利益額(ボリューム)」「新規事業や高利益率業務の方針」「具体的な(人件費以外の)コストダウン方針」「どうすれば増員できるのか?」というような「自分に直結する言葉」で語られる方が伝わります。
ただし、なぜ、その基準なのか?の説明には、「経営ビジョン」がその前提にあることを語ることが適当です。そして、その基準値自体は、経営者が自身が「こうすればできるはず」という根拠のある値であることが必要です。手法として「それをみんなも考えてくれ」ということは構いませんが、本当にわからないのは困ります。でも…実際に経営者の方と話すケースの多くではわかっていないか、わかっていても「実行不可能」と思い込んでいるケースが大半です。
ちなみにここで2年と言っているのは、理由があります。それは、「6か月で変えて、6か月で試行錯誤して、12か月で成果を出す」と2年となるので、今から本気で変える、ということを宣言するのによい期間であることと、2年先(これは3年でもよい)ぐらいならば、社員にとって自分もまだ在籍しているし、子供の年齢など家族の状況も見えていて現実感をもって捉えられるからです。経営者は、10年先、5年先から逆算して2年先を決めるわけですが、経営リテラシーの低い状態のままで社員にそれをことさらに見せる必要はないだろう、ということです。
変わる値はどうやって決めるか?
では、その目標値はどうやって決めるか?という点ですが、まず項目の選び方は、その会社のステージや業種の置かれている環境により一概にはいえないのですが、歴史ある企業の場合、だいたい、「緩やかに規模を拡大」か「現状維持程度」で「利益体質を改善」というケースが多いようです。ただし、この設定にも大きな落とし穴があります。合計でそこに着地したとしても。全部門、全業務が緩やかに拡大し、緩やかに利益率が改善する、ということを目指すことは正しくないのです。
企業が一定以上の規模になってくると、かならず社内に、成長率や利益のような「望ましい度」に近い、あるいは超えている業務とそこから乖離している業務が存在します。多くの場合、合格点の部門は2割。あるいは業務別、個人別に見ると、2割の業務・人が8割を占めています。これをパレート分布といったりしますが、こうした「偏在」に着目し、簡単に言えば下位の業務を捨てて、上位の業種に注力する、その結果によって得られる着地点がこの「目標値」になると考えてみるのが定石のその1です。
多くの場合、その「下位を捨てられない」のは顧客の理由というより経営者の思い込みです。曰く「理念上続けたい」、といいつつ市場のない商品にいつまでも資源をつぎ込み続ける。「先代の社長が心血を注いだものだから先代が会長としているうちにはやめられない。」「社員は皆家族であり捨てることなどできない」…
こうして変化を拒否する経営者と、それに安住し現状の数字のみ一生懸命な社員が岩盤を築いている会社がいかに多いことか…。常にこうした構造の調整をし続け、下位業務や人員を見直し続けないと、やがては大きな犠牲を伴う変革が必要になり、そこを過ぎると全滅の恐れがあるのです。もっとも、強制的な業務廃止や指名解雇的な乱暴な人事をする必要は、BSが現状ですでに危機で早急に対処が必要というわけでなければ、必要ありません。「このような業務、人員を望んでいる」という基準を明らかにし、それに足る場合には投資や人員資源や給与を投下し、それに足りない場合には資源を絞り込むことを明らかにし、同時にそれが観測され公表される仕組みを作り、改善期間を半年~1年設ければよいのです。
もう一つ、この過程でやっておくべきことがあります。それは、「部長とは何をする人か?」「課長とは」「一般社員に望むこととは?」という定義、というか「あるべき姿」を今の会社の「必要とすること」に応じて再定義し明確化しておくことです。これは、「利益責任」だけではなく、もう少し具体的に、原価や在庫の管理、人員管理などについて要件を具体的にすることです。
そして、新しく設定された「尺度」に応じて、出てきた結果とそれに対応した人員(主として管理職)の評価を行い、足りない点を「具体的に」補うことを求めて行く作業を進めます。このチェックの進め方も別の機会に細かくご説明しようと思いますので、ここでは、簡単に「結果ではなく、やるべきことをデータに基づき明確化し、それをきちんとやっているかどうか?を詰める」と言うことにしておきたいと思います。
もっとも、この方法を単純に実行すると、社内の最大の業務に人が集まっていく、と言うことになりかねません。その業務が拡大基調で競争が激しくなければよいのですが、その業務自体が拡大が決して望めない(その顧客の業績が停滞~縮小)ことや、競合がいる場合には、会社としての安定性を確保するためには、別の柱を用意することが必要になりますし、最大業務がキャッシュフローが良くない(回収が遅い)業務の場合には、キャッシュフローのよい業務を作ることが重要な課題になります。その辺の、「ゴールの立て方」はケースに応じて工夫する必要があります。
見えてくる現実と評価制度問題
こうして、組織運営を3か月、6か月と続けていくと、どうなるかというと、①こいつがニューリーダー、という目覚ましい人間が少しだけ出現する。大抵27歳~35歳。②そこまでいかなくても、会社の方向性に対して具体的な対処が必要ということを理解して自分なりに努力してくれる(もちろん少しは成果が上がる)人が3,4割。③特に変化がない人が3,4割。④ここには自分の居場所はない、とあきらめる人やごくまれに妨害に出る人が1,2割。(大抵40歳以上)という感じに分化してきます。この過程や様子を経営者の方には、社長室に引きこもらずに現場に入り自分の目と耳でよくよく見てほしいのです。
ここまで見極められれば、①②を軸に組織を再編成し、④は役職からは外れてもらい、自らの判断にゆだねる形を取り、そして少しは改善した業務もある中で今後の集約と育成の判断をしていけばよいわけで、大ごとにならなくても組織は舵を切れるのです。
この過程でもう一つ重要なことがあります。それは人事評価制度、役職制度をどうするか?という問題です。人事評価制度に基づかない報酬の引き下げは、労働基準法上訴えられると負けますし、その前に大変な手間となります。(規程に基づく場合でも1回に10%以上の引き下げは同様のリスクがある)。役職級も同様で、職務に対する付加給であればよいのですが、等級に対して役職が紐づいていて、役職があるから組織がある、というようなことが制度として成り立っている事例もあります。これらの制度の見直しは、組合または従業員代表への説明と意見聴取が必要となります。あらかじめ成果連動型、ジョブショップ型であれば楽なのですが、多くはこうした取り組みが始まってから変えることになります。
そして、一連の経営改革の本丸ともなります。もっとも、最近では「成果に応じた給与にせざるを得ない」ということは働く側にとってももはや他人事としてはわかっていることでもあります。そして、これによりメリットを受ける社員も若手実力者を中心にいるわけです。乗り切るしかないと思うわけですが、そこはまた、稿を改めてご説明することにしましょう。