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不完全な解を選ぶ勇気

ある経営課題~これは国の政策でも同じだと思うのですが~に対処するとき、どんな風に決めていますか?意外にその流儀が定まっていない会社が多いように見えます。大学の論文等でこうした「解のわからない問題への対処パターン」というのはそこそこ習得されていることを期待してよいはずなのですが(高卒でも体験と自分での学習からこれを確立している経営者はたくさんいます)、実際にはそうでもない。大学で鍛えられるべきは、進路に関係なく、こうした問題対処策を如何に早いサイクルで繰り返すかの知的体力だと思っています。人によって表現や分け方は相違しますが、だいたいこんな流れです。

  1. 問題(目的・目標)の定義
  2. 先行事例・類似事例の調査
  3. 一次データの収集・観察
  4. 仮説(問題の構造)立案
  5. 対策オプションの列挙
  6. オプションの評価と選択
  7. 遂行と修正
  8. 知見の整理

論文とかレポートとか、会社の報告書(稟議書は6までですが)とか…項目名は違えどだいたいこういう構造をしています。しかし、これに何か月もかかっていては意味はなく、数日で5までもっていって、6を上長を交えて会議なのか稟議なのかで決めるというのが「社員」に求められることです。10年ぐらい前にこの流れと説明を書きこんだ稟議書フォーマットを作成したことがあるのですが、項目だけ教えても結局考え方が身についていないと運用できなかった、という失敗をしたことがあります。

本題はそこではありません。こうした方法論がある程度運用できる「賢い」人が多い組織が、今度は「最上」を探してなかなか走り出さない、という現象を目にするようになりました。たしかに検討状況を拝見すると不十分ではあります。横から口をさしはさめば多少は厚みのある対策に改善できそうです。ただし、今の状態でも方向性としては、ゴールの方になんとか近づいてはいきそうな物にはなっています。

私の経営者への助言は、「もう検討はこのくらいにしてやらせてみてください」です。

理由はいくつかあるのですが、一番重要なのは、「人から与えられたよくできた案は手取り足取り都度指図しないと実行要領がわからないが、自分で考えた不完全な案はなんとか実行可能である(そこは逆に確認する)」ということです。結局経営者が自分で遂行するのではない以上、遂行してくれる担当者に実行するイメージが具体的にあるものでなければ実行できません。

もう一つ重要なのは、「賢い人が考えたよくできた案が、不完全な案よりも結果がいいとは限らない」というコンサルタントにとっては実に残念な事実です。最善を尽くすことを否定するわけではありませんが、策の巧拙と結果の良否は現実を見る限り、それほど強い正の相関がないのです。実際には「人脈」や「運」に大きく左右されますし、それを決める、遂行してくれる人の試行回数が重要な要素です。

とすると経営者にできることは、いい方法を編み出すことではなく、良くない方法でも太刀打ちできることを課題に選ぶ、つまり戦う市場や切り口の選び方が経営者の責任である、ということもできます。

経営者にとって、不完全な案と分かっていて走り出す指示をするというのはとても怖いことです。それは失敗はもちろん、クレームの原因になるし時間の浪費にもなるからです。しかし、「良い案」とは何なのでしょうか?勉強家の経営者にとってそれは、「市場と競合の動きを踏まえた全体感があり、対策に具体性があり、数値で状況が検証可能なもの」でありがちです。私もそのような案を立てます。しかし、これには大きな見落としがあります。それは、「自分の組織にとって、十分持続的に遂行可能であること」です。社員は皆、経営者や上司に「できるのか?」と聞かれると「はい」と反射的に答えます。(私はここで「多分無理です」、と平気で言うような社員だったので上司に嫌われがちでした。)しかし、それが本当である確率はそれほど高くありません。遂行可能かどうかを判断する基準は部下の返事ではなく、能力や時間的余力であり、判断する責任は上司にあります。

一方で、やってみた結果を見て現場で部分改善するということは、社員は結構一生懸命やってくれますし、自分で選んだ手法であれば、起きた問題に真摯に対応してくれます。「見えている少し先の頂」を目指すことに対しては楽しさすら感じつつ、協力して進んでくれるものです。その「部分改善」が目指す成果に対して最善ではなくても、ある程度ジグザグにでも近づいて行っているならば、そこでやるべきは、直線的垂直的に登攀することではなく、燃料を投下してアクセルを踏ませることであることが、組織の戦力や人材が常に十分ではない現実を踏まえればあるということなのです。

だからこそ、現実的に成果に到達できるであろう、「何に取り組ませるか?」の市場の選び方は決定的に重要であり、それは経営者の(他の社員には転嫁できない)責任なのです。

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