
先週公開の①「廃棄物処理機」は公開したあと、仕事に行く朝の電車の中で2件の問い合わせ対応をする、という僥倖に恵まれました。それに気をよくして、続けて第2弾は、「塗料のテックベンチャー」の話です。この会社、いくつかの画期的商品があるのですが、今回は、屋上等の建物の防水に用いる防水塗料に限定したいと思います。
たまたま私は土木系の大学の出身なのですが、塗装は構造物の強度を長期間保つうえで非常に重要です。特にスチールの構造物は宿命として錆びと戦う必要があります。海の上の長大橋は初期建設費用ばかりが批判の対象になりますが、利用されている期間を通算すれば、実はそれを大きく上回る修繕維持費がかかっていてそのかなりの部分を数年に1回の再塗装費が占めます。では、コンクリートにすれば錆びないからよいではないか?と思われるかもしれませんが、コンクリートは重量が大きく、長い間を結ぶ橋には強度上適用できないケースが多いのです。
建物でも、屋上や壁からなぜか浸水する老朽ビルの問題というのはあちこちで発生しています。屋上ではシート状のものを張って防水する施工方法もありますが、塗装で行うケースも多くあります。建築物において、塗装は美観だけでなく、防水、防錆のほか、遮熱、対腐食、円滑性確保(下水管内面)などの重要な「機能」を担っているものです。
ところが、この塗装、非常に費用が掛かります。そして費用のかなりの割合が実は材料費ではなく、作業にかかる人件費です。それもそのはず、塗装自体に何日もかかり、しかも一層だけでなく乾くのを待ってさらに上に別の機能を持つ塗装を行うなどします。そもそも塗装は機能を担う表面層(トップコート層)が、そのまま下地にくっつくわけではなく、下地の上にきちんと密着する下塗りを行い、そのうえに下塗りと密着する表面層を塗装するという仕組みを採用するものが多いので、原理的に多層構造なのです。そのため、乾燥に時間がかかるのでは、天候が悪いこれからの梅雨時にはなかなか施工できません。
また、表面が油汚れがあったり、錆があったりすると密着しなくなりますので、表面状態が悪い時には、先に表面を洗浄するか場合によっては研磨して表面を加工する必要があります。これにも工数がかかりますし、騒音等の原因にもなります。そして、下地と下塗り、下塗りと表面層の間の固着がしっかり行われるかどうかも環境要因や技術の影響を受けしばしば問題が起きるのです。
塗装のトラブルというのは建物のメンテナンスでは非常に多いものです。たとえば防水工事の場合は、「思ったよりもずいぶん早くはがれてきて水漏れしてきた」というようなものです。塗装は、下地との密着をどう実現するか、と塗装層自体が材料によっては湿度の影響を強く受けるために混合比率や塗布方法を、環境や素材に応じて調整しなければならないのですが、日本の建築業の重層下請構造の中では、この品質管理が十分にされていないためにトラブルが生じるケースが多くあります。つまり、塗料の「素材」の改良という問題だけでなく、施工技術、そして環境に応じた対応という知識の3つが本来必要です。しかし、日本では重層下請け構造の中でこの部分の品質コントロールに誰も現場で責任を負っていないで、ともすればなあなあ、見て見ないふりになっているのではないでしょうか?
実は土木建築の分野ではこうした「環境条件の管理」の問題はたくさんあります。身近な例でいうとコンクリートの加水量がわかりやすいかもしれません。コンクリートはセメントに砂利と砂を混ぜてそこに少量の水を加えて混ぜると固まるものですが、この加水量のコントロールが完成物の強度に非常に重要で、適正量を管理するには、加える砂利や砂が含んでいる水の量まできちんと管理・計算しなければならないほどのものです。しかし、「強度が十分強い適正な加水量」ではコンクリートは流動性が低く現場で打設しにくいものとなります。そして、コンクリートは空白ができないよう締固め工程を行うのですが、これが重労働であり流動性が低いと締固め不良の原因になりやすいのです。こうした背景から、国内で打設されているコンクリ―トのうち、少なからぬ割合、特に工場で作られローリー車で運ばれるレディミックスではなく現場混合のものがこの「計算通り」に作られてはいないことが多くあります。
塗料の件も同じです。私も最初は、この会社の説明を聞いたを「ナノテクノロジーのテックベンチャー」と捉えようとしていました。しかし、それではこれまでの日本の塗装を革新することはできないというのが彼ら幹部の主張です。「素材」、「施工機械」、「作業するエンジニアの教育訓練」の3つの条件を揃える仕組みを作ることで初めて十分な品質保証体制が可能になるのです。
前置きが長くなりましたが、この防水塗装について簡単にご紹介します。このサービス(あえて商品ではなく、サービスと書く理由は後程わかります。)では、こんな特徴があります。
これにより大きく人件費を削減することができ、結果修繕費用は削減が可能です。しかも、品質が安定しているため、追加的な修繕費用の発生を抑制することができます。
皆さんにお願いの一つ目は、これを試す現場をご提供ください。他社がしり込みし高い見積もりが出るようなシビアな現場であればあるほど良いです。たとえば、こんなところです。
二つ目は、この塗装の施工パートナーを探していきたいということです。ただし、今の日本の塗装工事のようにたくさんの下請け業者を抱えて、という仕組みを採用するつもりはありません。実は、この仕組みですが、専用機器が相当高額であり、投資が可能な事業者でないと参入できません。また、施工する技術者、私たちはアメリカ流に「エンジニア」と呼んでいるのですが、この人たちの待遇を改善し、きちんと業務に定着してくれる会社でないと品質が維持できません。そうした経営姿勢も見ていくつもりです。ただし、利益水準は今よりもだいぶ良くなるはずです。
ここまで見ていただいた方にはご理解いただけると思いますが、これは、物件の維持コストをさげたいというオーナーにもメリットがあり、施工業者の利益と生産性の改善(ただし、初期投資、教育訓練コストは発生)にもつながり、施工者を「エンジニア」として認め相応の待遇を行う、という塗装業のアップデートを目指すものでもあります。これを理解していただき協力していただけるパートナーを見つけるのはなかなか大変そうですが、実はすでに一部地域ではパートナーの応募もあり、施工予定も決まっています。
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この会社、シリコン面にも塗装できたり、冷凍倉庫でも塗装できたり、あるいは非常に高い耐腐食性を持つ塗料があったり、と根本のところでは、ナノテクノロジーのベンチャーなのですが、多分それだけでは伸びないのです。ビジネスモデルとして意義があり、かつメリットがはっきりしている、そして世の中の慣習を変えることにより発注者も事業者もハッピーになれる可能性があるからこそ、手伝う価値があると思っています。