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部長のマインドセット -部長を創る②-

先週から始まったシリーズ「部長を創る」。先週は、「部長」に必要な「スキル」を実用面から記載しました。(こちら)

今週は、その続編として、今度は、部長は「どんなマインドセット」をもっていなくてはならないのか?について考えるところを整理したいと思います。

 

1. 人はかわいい、かわいいものですね。(美空ひばり 愛燦燦より)

若い「優秀な」部長にありがちな勘違いで、「自分と同じような優秀な人間を集められる」「皆がモチベーションが高く取り組む」というようなものがあります。そういう人がインターネットをみると検索内容からのターゲティング広告で「新進気鋭のネット企業」が特定の制度やツールで「こんな素晴らしい集団を実現した」と書いてあるので、世の中にはそんな事例があり、自分もそうできる、と勘違いしてしまうのです。でも、それ、企業だかシステムだかの「宣伝」です。ティールとかホクラシーとか「実力ある個人がそれぞれ自律的に働きながら集団で成果を追って協業する」とか、私も読んでいて憧れます。

そのような組織運営の工夫をし、努力をすることを否定するものではありません。しかし、確かに組織が5人、10人の時には「血盟」を結んだ仲間で構成することができるでしょうが、「部長」の役割は、それを100人にすることです。そして、その時に組織のかなりの人数は、企画や経営ではなく、地道であまり人がやりたがらない「営業」や「接客」を積み重ねてくれる「兵隊さん」によって構成されています。クラウドサービスのような極めてプロダクトアウトでネット広告でのプロモーションが重要な業務でさえ、「インサイドセールス」と言う名で、地道な電話セールスが行われています。(私のところにも、「いつ電話かけていいですか?」というセールス部門からのメールがたくさん届きますが、一回も返信したことがありません。)

仮に非常に優秀でモチベーション高いメンバーが集まる企業があり、社員は皆月収80万円で優れたサービスを開発し高収益体質を実現したとしても、それを見た周囲のそこそこの規模の企業はその会社のプロダクツを素早く真似して、ちょっとだけ改良して月収20~30万円のメンバーでローラー営業をかけるでしょう。開発コストは数分の一、人件費は1/3.おそらく価格は半分で販促費、広告宣伝費は先行者を上回れます。そうして「先行者メリット」と「理想の組織」がいとも簡単に崩れ去っていく事例はたくさんあります。大きい市場を狙えば狙うほど、この現象は顕著になります。参入障壁とスイッチングコストを工夫しても、初動囲い込み速度を十分上げないとこの現象は防げません。

 

したがって、多くの業種業態では、それほど格別に優秀でも、格別にモチベーションが高いわけでもない、その代わりコストも平均的な人の力を上手に有効活用して組織を構築しなければなりません。理念を語れば協力すると言ってくれ、その気持ちはウソではないでしょう。しかし、経営者や創業メンバーのようにその理念に人生のすべてをかけているわけではありません。自分の都合でわがままを言うし、あからさまにやる気のない様子をするし、給与を上げてもそのやる気は1週間で元に戻ります。人とはそのような、大して優秀でもないし、勤勉でもない人を中心として大きなばらつきがあるものです。それを前提としない限り、いつまでも「優秀な人」を求め続ける一方で同じ数だけ退社も生じて、現状維持が精一杯、100人の組織には永遠に拡大しないのです。

だから、私は、部長は、「人はこうあるべし」が強くない人の方が良いと思っています。「人それぞれ」「ダメなのもいるよね。でもそういう人が生きる職種もあるよね」と思い、100点を目指すのではなく、昨日より今日が少しだけ改善すれば、「今日は良かった」と思える人の方が、組織を拡大できます。ついでに言えば、部下も楽です。

 

2. 素直に事実に向き合う

これも、学生時代から優秀だった方にありがち。「社会的に」「道徳的に」こうあるべき、ということと実際の仮説検証結果が相違したとき、売り上げを伸ばすには、データの示す方を採用する必要があります。実は、「新しいもの」は大して求められていないし、「小型なもの」の方がよいというわけでもない。イメージがきれいなクリエイティブな広告の方が、商品名を連呼する広告よりも売れるわけでもない。答えは常に市場にあり、大衆は意外に保守的で享楽的で非科学的です。

1にも関連しますが、その事実を気づけ受け入れられるかどうかは、学業の優秀さとは全然違います。親、教師、上司に「従順」であることを日本では「素直」と言いますが、これは大きな勘違いです。人間の欲望のはしたなさや認知能力の限界を体感的にわかっていて、それを認めてデータの示す結果を受け入れることができる人、というのは実はかなり少ない。そして、多くのものを犠牲にしてきた特別な努力家よりも、楽しいことをいろいろやってきた人の方が、「なぜ、そのようなする『堕落した』『自分勝手な』選択や主張を人はするのか?」が直観的に理解できていたりします。

 

3.せっかちに行動する

日本では、部長は「どーんと構えて待っていなさい」というのが良いと昔はされていました。私もそういう考えの上司に多く仕えてきました。しかし、今は、というか実は昔からこれは違うと思います。もちろん、できるだけうまい実行計画を立てて仕事配分をすることは部長の重要な役割ですが、一旦スタートさせたら、3か月後のゴールまで皆一直線に成果に向けて走れる、という業務は今では少なくなりました。多くの業務がプロジェクト的なもの、つまり皆にとって「初めてのこと」になり、過去の事例や単純な販売体制、生産体制では通用しないことが多い。計画が最初はうまくいかないことも多いし、うまくいっても昔よりも成長の速度の要求が非常に高く、遂行コントロールの労力は増大しています。また、うまくいった場合には短期間で拡大し、そうでない場合には短期間に手じまいしなければならない。

そのため、短い周期でPDCAサイクルを回すことや、拡大施策を追加することが必要となり、部長はその「クロックスピード」を決める存在になっています。しかも、社内には必要最小限の資源しかない時代のため、社内外の資源調達や説得の作業が非常に増えている。人にもせっかちに要求し、自分にもせっかちという人の方が向いている、といいますか、じっくり取り組みたい人には管理職はメンタルヘルス面でも向かない時代になっていると思います。

ある年下の役員に仕えたときには、呼び出されて、「これ直して」と言われた時、この人がせっかちなのは知っているので、大急ぎでデータを修正しているそばから5分もせずに「どう、いつできる?」と内線で言ってくるので、皆でモノマネして笑っていました。でも、私が仕えた上司の中で最高の組織ドライブ能力を持つ一人でした。それは、2の「データで判断する」と、この「せっかち」がかなり極端な人だったというのが大きかったのです。

 

4.社外の人と初めてあってもいろいろ話すのが好き

部内、社内のリソースだけで仕事を完成させることができる、という恵まれた仕事はそうそうありません。そうしたときに、社外の情報やリソースを知っていて、すぐに調達の相談を社外の関係業界の人とできる、というのは一般社員にはなかなか期待できません。立場を利用し、積極的に関係業界の人と知り合い、直接の取引の話だけでなく、情報などのメリットを相手に与えることができ、相手と継続的に協力的な関係を構築できる、ということは今の時代とても重要なことです。そのような、「社外からも良く知られていて信頼されている人」は、だいたい話し好きで、商談時間の半分ぐらい業界の動向の話をしているような人です。しかも他社の陰口というよりも新しい優れた取り組みを話し、自分の欲しいものを言うというより相手の探しているものを聞き出しているような人です。

そういう人が、たまに社内で不足しているリソースについて、「こういうことを探しているんですが」と社外のこうしたネットワークに相談すると、不思議なことに、「それなら〇〇さんが知っているかも。私から言われた、と電話してみていいよ」などと情報が集まるのです。これも、自分の優秀さをアピールするような人ではなく、人の困りごとに耳を傾けるような人の方が有利です。

 

私自身の反省もあり、「反学業エリート」論のような内容にもなってしまいましたが、中小企業で実際活躍している部長はどんな人ですか?と見てみると、実は全然学業成績とは関係ない。(古い大企業ではそうとも言えないところもありますが)では、何が違うのか?と言うと販売実績でもなければ、知識でもなくて、こうした「人間性」が共通しているのではないか?と(この歳になってようやく整理できたが、やり直す環境がないと残念にも思いながら)思っているのです。

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