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優秀な女性がいる場所

先週、ほぼ同じ内容の話を2度、違う方から聞きました。

「優秀な日本女性は、●●にいる」

どこだと思いますか?今日はそんなお話です。


1 2000年頃の「優秀な女性」はこうだった

 今から20年前、私は仕事帰りの夜、あるMBAスクールに自費で通っていたのですが、そこで家電メーカー最大手の照明部門で係長を務める、私より少し年上の女性と知り合いました。彼女は、「男女雇用均等法2期生」だと言っていました。ケーススタディとディスカッションが終わると、そこから夜中の1時ぐらいまでみなで居酒屋に繰り出して交流するのですが、授業中の彼女の積極性もすごいのですが、放課後(?)の彼女の勢いもすごいのです。

 何がすごいかと言うと、男性上司批判、いかにおじさん連中が使えないか、自分の方が使えるか、を具体的ケースをあげて詳説してくれるのです。その話を聞く限り、企業としての硬直化度合いもひどいものですし、その上、「女性一般職を雑用扱いし、戦力としてみなさない」姿勢が年寄りのみならず、自分より年下の社員でも徹底していて、彼女の従事する照明器具の品質保証設計自体よりも、その風土の批判と対応を否定することに仕事のエネルギーの半分以上が費やされてきた、と彼女は言っていました。そんなある時、講師をしていたP&Gのマーケターでもあった人が彼女に言いました。

「そんなにひどいの?外資に来れば?外資はそういうのはないし、あったら厳しく排除されるよ」

私もその時点で転職経験者だったので、それに賛同したのですが、彼女は、その時点では世界に冠たるそのブランドを捨てる勇気はないことをいろいろな言い訳をしながら臭わせていました。男性社会、男の既得権益を否定しつつ、彼らが築いたブランドには寄らば大樹の陰の姿勢を私は皮肉ったのを覚えています。

 それに同調したのが、同じクラスにいたもう一人の女性。この人は授業中も猛烈に優秀で、外資コンサルから大阪の新興化粧品メーカーの経営幹部に転職したという人でした。ちなみに配偶者は、アフリカ系アメリカ人兵士ということも放課後活動の中で教わりました。その時には話のネタで教えてくれたのだと思っていたのですが、今になって思うと、彼女は「ダイバーシティ」を言っていたのかもしれない。転職の理由は、「ダンナが日本に赴任になったから、自分も日本に帰ってきた」でした。

 彼女は、外資では自由にやって、結構な給与をもらっていたらしく、日本に帰ってくるにあたって、日本の従来型の男性社会に入るつもりはなく、「実力主義」を銘打つ新興企業、それも女性向け商材を狙って選んだそうなのなのですが、いざ入ってみると、化粧品という女性特化の商材であっても、決めるのはすべて男性。女性はデザインと広告の図の作成を指示に従ってするだけ。という現状にがっかりし、しかしこれを変えるべく、変革の仕方を再度学びたいと言っていました。そして、企画や開発の女性比率を半分にするという野望を持っていました。しかし、その1年後…彼女は別の外資に転職しました。「日本的なるもの」に見切りをつけ、あきらめたのです。

 そのころには、「力のある女性」はこのように「男性社会」にあるものは立ち向かい、あるものは忍従し、活躍の場を切り開いてきました。
一方で、同じ女性であっても、その年代、ちょうど今の新卒入社する人たちの母親の世代の中でも、専業主婦として子供の面倒を見て立派に育て、帰りの遅い夫のサポートをするのが自分の役割、という自己定義をしている人もまだまだ多くいました。実は私の妻のこのタイプです。私が押し付けたわけではありません。(むしろ甲斐性のない私を収入面で支えて欲しいと思っていたぐらいです。)

まだまだその世代の育った時代は、いったん、出産で仕事を離れてしまうと、単純労働のパートぐらいしか仕事がないのが実情であり、高いレベルで働くことを前提に学校等で準備してきたわけでもないし、社会もそれを当然視していました。私の妻も、子供のころ、兄はいい大学に行くため私立中学を受験させ、とんかつを与えられ、、自分は、「女の子だから高校まででいい」とコロッケを与えられながら小学校のころ父親に「優しく言われた」という話を私に過去25年で100回以上しています。これは昭和50年代、東京での話であり、戦前の地方の話ではありません。
 うちはなんとかここまで四半世紀やって来れましたが、これで死別や離婚などして、もし子供などいようものなら、収入面で大変な苦労をすることになりますし、同年代の女性で実際にそういう方を何人も見ています。

2 2021年頃の優秀な女性のいる場所

 あれから20年が経ちました。データ上の女性の就業率は上がり、パートでなく、正社員での30代以降の就業率もゆっくりとではありますが、上昇してきました。しかし、女性が本当にのびのびと活躍できる社会になったのかということは常日ごろ問題意識を持っていました。古い企業を中心に何も変わっておらず、女性を男性の格下としてみなす空気は依然として根強くあります。人気の安定企業に勤めるためにはその旧態依然に耐えることを選ぶ必要があり、それを避けるためには、ベンチャー、経営者が若い会社を選ばなくてはならない、というのが今の新卒学生の活動の様子からはうかがえます。

 そして、冒頭の●●です。お分かりになりましたか?

質問の答えは「外資」です。2社のうち1社はGAFAMの一角、もう1社は、世界大手のSaaS企業でした。この話を聞いて、20年前の共に学んだ彼女たちとの会話を鮮明に思い出したのです。日本は何も変わっていなかったのです。わかってはいましたが、残念です。

変えるべきは、「人事制度」なのか?

 私は、これは「制度」の問題だと考えます。ただし、その「制度」という範囲が「人事制度や資格制度で男女を差別しない」というものでは、解決できないという事は、この20年が示しています。おそらくは、大企業でも「制度上は」男女の差はないはずです。しかし、実際には厳然とガラスの天井が存在する状況を生んでいるのは、なぜなのでしょうか?

それは、「会社への滅私奉公の姿勢」を実質的に重要指標とし、体力の限界までの残業を必要とする生産性とコスト無視の経営姿勢である、というのが私の考えです。
 そして、これを改善するには、「結果のみで評価する」という成果主義を徹底することと、残業を全面的に規制する(現在でも法律上はそうなっている)ことによって改善できると考えています。

 実際に、かつて私が在籍していた「数字以外では、決して差別をしてはいけない」ことを社是とする会社でも、女性が男性よりも実績が低い、という事実はなく、優秀な営業職が多数在職していました。その場合、きちんと女性の方が賃金が高いし、役職も高くなっていました。こういう会社が働きやすいかどうかはまた別の議論があるでしょうが、少なくとも若い女性には選ばれる理由の一つになっているようでした。
 あるとき、中小企業の経営者に女性を活用することを提言し、この会社の話をしたことがあります。もちろん、主眼は、「女性活用」だけではなく、実力主義による、高齢高給不採算層の淘汰にありました。しかし、それだけ人材に困っている会社であっても、なおも、抜本対策には踏み込みませんでした。

 また、ある経営者は、この手の問題は、「制度の問題」ではなく、「人間性」の問題だと言いました。たしかに、彼は優れた知能と博愛主義者であり、社内は女性の方が数が多い状況でしたので、彼がこう主張するのは分かります。しかし、これが通用するのは、社内に比較的高学歴層が多く、かつ管理職の年齢が30前後など若いベンチャーに限られます。そして、不都合なことに、
 ・彼の会社に限らずベンチャーには、男女ともに定着しない。
 ・そして、なかなか収益が上がらない会社が大半なので、男女ともになかなか昇給しない。
のです。
 彼の言っていることは一見もっともらしく、平等であるが、「安定的な人材の供給と継続的活用」という本来の目的は全然達成できていないのです。

 収益基盤がある程度ある企業が、いままでよって立ってきた「文化」を変化させることを危惧することは分からなくはありません。しかし、徐々に状況は悪化してきており、もう変えなくてはならない事態になっていることに気づけていないという感を冒頭の質問に強く覚えたのです。


 



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