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「社内交際費」!

先日、お取引先との交際費ルールについて書いた際に「社内交際費」なるものがある会社を思い出しました。先日の記事がなかなかのアクセス数だったので、今日はこの話題を取り上げます。


 堂々と「社内交際費」というルールが明文化されている上場企業に転職したことがあり、驚いたことがあります。(念のため申し上げますと今ではその会社でもこの制度はかなり縮小されてしまいました。)
一人当たりの金額はさほど大きくないのですが、「決起会」「新卒優秀者」「幹部候補お食事会」「達成祝勝会」などの名目で予算化されているのです。その一貫で、一部のお取引先をお招きしてバーベキュー大会を開催しその幹事を務めたこともありましたが、西瓜割りにかき氷、カットフルーツ等本業以上にものすごーく準備が大変で した。今となってはそれも貴重な運営ノウハウですが。

実は、その前に別の上場企業グループの子会社の役員をしていたのですが、親会社の偉い人が来ると会社の費用で接待するというのが不文律のようになっており、しかもかなり頻繁にそれが発生することから、「これは無駄なのではないか?」と問題提起したことがありました。子会社と親会社では待遇の差もかなりあり、親子間取引の価格決定権も親会社にあるものをさらに搾取するのか?と半ば反発心もありました。この手の「社内交際費」は顔見知りなのだから普通に会議や電話で話せばよいし、親睦を深めるのは個人同士でやればよい話であり、会社の費用を支出するのは違うと思います。

ところが、この会社の「社内交際費」はかなり性質が異なっていました。

まず、制度上に位置付けられて制度にきちんと記載があるものが多かったのです。そして、多くが、「達成者」や「次世代幹部候補者への選抜」へのインセンティブとして行われていました。そこでは、一般の社員は普段なかなか話す機会のない担当執行役員や取締役が講話をし、食事の席で会話することができるようになっていました。一方達成祝勝会の方は、居酒屋レベルではなく、年度始めの方針発表会の場で、「達成したら部でハワイ旅行」と決意表明する部門長がいて、他所から転職してきた私は文化の違いにびっくりしたことがあります。

このような場を仕組みとして設けた目的は、二つあり、一つはそれが「競争」の「賞品」であり、皆から羨ましがられるものである(はず)、ということです。もう一つは、「会食を含むビジネスミーティング・営業への慣れ」という教育の側面です。ですので、会食自体は、居酒屋ではなく、円卓を囲むちゃんとしたレストランで行われます。

後者の教育という方は、この会社には会食の設定のマニュアルというのも存在していたのですが、実践の場は若い方にはなかなか得られない機会であるので、場慣れという意味では効果がありました。こうしたことは、伝統的大企業では上司の接待について行く中でOJTで学んでいくものなのでしょうが、この会社は若い社員が多くなかなかそういう機会もありませんでした。それを、対象者をセレクトするところから実践までをシステム化するとこうなる、というものだと理解できます。

前者の「競争の賞品」という側面は、それに見合う「成り上がり志向」の人にとっては目標になりうるし、この会社では、そのような「自分がやります!」と手を挙げ、成果を約束する気概のある人だけが昇格の資格がある、という立場を明確にしていたため、成立しうるものでした。ご想像の通り、この会社はプロダクツ自体の差別化やマーケティングの巧みさで販売する会社ではなく、営業力を強みとしている狩猟民族会社でしたので、こうした狩猟の上手い人が称賛される文化が根付いていたのです。また、そこへ参加する各部署からのメンバーは、社内的にも「次世代幹部候補」というエリートに選ばれた人であり、かなりの割合が1,2年のうちに管理職になることが期待されているということで、その場の会食を通じて、以後の横の連携、連帯を図る仕組みとなっていました。

しかし、こうした「イケイケな空気感」を苦手とする人も存在し、徐々にその割合は時代とともに、そしてその会社が成長し大企業化するにつれて増えて行っていたように見えました。そして、「準備が十分ではない、チャレンジ精神に富む人」を上に立たせることの弊害は私には相当大きいように見えていました。会社としても個人としても十分準備が整わないまま、新規事業に突破力だけで戦力を投入すると、たまに大成功が生まれるが、大部分は戦死していくからです。もっともその失敗者に再チャレンジを許す仕組みも用意されているので、そこはうまい仕組みの設計がされていました。この辺の「再チャレンジの仕組み化」は機会を改めてまた話しましょう。

なれ合いで社内で交際費を使うとか、だらだらと酒の席を続けて女子社員にいやな思いをさせるような忘年会、新入社員がメインではない新入社員歓迎会などは会社で費用を支出するべきではないし、平成の30年を通じてそういう会社もずいぶん減ってきました。勤務時間や雇用形態が多様化して、就社から就職へと日本の仕事観が変化していく中で、そのような「同調」を要求する形での職場の会食は機能もしなくなっているし、忌避する社員が増えています。もっとも伝統的大企業の上の方はそれに気づかず「慣行」を続けて下に疎んじられているようですが。

しかし、この事例はそれとは異なる「目的」があります。組織の中で報酬は必ずしも金銭だけではありません。むしろ、金銭による効果は短期的な刺激に留まり、名誉や付加的な福利策の方が効果が持続的であるという分析もあります。そうした中で、若い社員の成果主義を機能させ、向上心を刺激する仕組みとして正規の位置づけがあったうえで研修の一部として行われているものでした。会社の営業力をコアコンピタンスとする戦略がこうした制度にも一貫して反映されているものであり、私はこういうのは苦手な方なのですが、戦略の一貫性という点で感心した事例でした。


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