今日は早速、本題、今日の解説から入ります。
11.事業計画上予想される業務量に対して必要な人員数とその最低生産性、品質基準を決める。(利益が出るギリギリいっぱいの人員を配置するのではなく、必要最小数だけを配置する)
前回は業務のチェックリストを作って、各プロセスごとに「標準手順」と「標準時間(エラー数や確率のこともある)を決めたうえで、組織階層を業務に合わせて見直すというお話をしました。
前回はこちら
こうすることにより、比較的短期間で採用者は実戦対応できるようになり、管理者は状況把握と対策指示がしやすくなる、ということをご説明しました。
他社よりも高い生産性がこの段階で実現できていることが期待できます。そして、訓練期間がある程度短くできるでしょう。ならば、そこそこの人材を他社よりも高い金額で採用することが可能になっているはずであり、中小企業の経営の最大のネックである「いい人材が大企業志向」というところにオファー金額で対策ができる状況になっているはずです。
つまり、生産性があげられる仕組みになれば、生産性が高い人やその仕組みを作った人の給料は上げられるのです。(逆に生産性が低い人は上げる必要はありません。)これが、「日本の失われた20年?30年?への最大の対策」です。そして、比較的高いオファーをすれば多数の応募の中から人材は取捨選択ができ、より生産性をあげることができます。そういう循環に入れるか入れないかは経営者の既存の制度や思い込みや習慣を捨てるかどうかの選択にゆだねられているのです。
このようなやり方を「優勝劣敗」と言って「人道的に間違っている」という経営者も多くいます。自分の会社が「劣敗」の危機に立っていて誰も助けてくれようとはしていないにもかかわらずです。そういう方には、私はこの話をします。中国近代化の立役者鄧小平は、こういいました。「まずできるものから先に豊かになればよい。そのあとから皆も豊かになれるようにする」…ものはいいようです。
人選にもルールがある
本題に戻ります。社内でその業務が今年、来年ぐらいでどのくらいの分量発生する見通しであるかは、事業計画からわかっているはずです。わかっていない事業計画は事業計画としての解像度が不十分です。とすると、各業務がどのくらいの時間発生するかもわかるはずです。とすると、その中で、残業なしで、有休をだいたい全部消費して、かつ稼働率は7~80%ぐらい(雑談も雑用もありますから)にして、何人それが必要なのかは計算で算出できます。まずこれを算出し、組織のグループに何人が配置されるかを決めていきます。小さい業務は2業務、3業務で一人が担当することもあると思いますし、大きい業務(2.5人分)は3人で担当することもあり、そのうち1人は他業務の兼任することがある、という感じになるでしょう。
必要なのは、あくまでも今いる人数ではなく、「計算上必要な人数」です。そして、その人数で想定する売上を上げたときに、きちんと十分な利益が生み出されることを確認してください。「十分な」の定義は会社によって異なるのでしょうが、それでも基準を設けるとしたら、「売上高税引後最終利益率で10%以上」というようなところです。日本では、最終利益率1,2%でも「それでいい」「それが当たり前」と思っている経営者はたくさんいますので、この10%というのはそういう人たちからすれば高いと思われる値だと思います。しかし、人材や仕組みに投資し、コロナのような突発事項に対処し、M&Aなどを含む経営戦略を用いるにはこのくらいは必要です。そのような「生かさず死なさず」の「日本の中小企業の常識」も打破しなければ継続可能な強い経営とはなりません。
そこまでできたら、次の
12.社内で各工程を担当するのに十分なスキルを持つ人をセレクトし、重要性の高いもの(アウトプットを決定づける度合いが大きいもの)から順に優先的に担当を配置する。
に進みます。優先順位の高い業務から順にそれぞれの得意な人を優秀な順に11で決めた定員数だけ割り振っていきます。私はこれを「ドラフト制度」と呼んでいます。実際に管理者間でやったこともあります。残酷なもので、みんな「社員は家族のようなもの」とか普段は言っている一方でドラフトをすると、優秀者は取り合いになり、下位1/3ぐらいは「いらない。新規採用したい」と平気でリーダーたちは言い出します。それが管理者の本音であり、生産性改善のための真実なのです。それを目の当たりにさせるためにも管理者を集めてこうした場を1回設けることは劇薬としてはありだと思っています。劇薬というのは社員に対してではなく、経営者であるあなたに対して、ですよ。実績をあげるにはどうしたらいいかは実は現場のリーダーは分かっていてもやれないでいてあなた次第なのです。
というわけで追い打ちをかけるようにひどいことを言う次の項目です。
13.要求品質や効率を満たす社内人員がいない、不足する工程は、満たせる人材を募集しそこに配置する。(できるかどうかわからないのに社内で育成とか言わないで、確実にできる人を連れてくる)
「育成」というのは、知っておくべき法律や安全ルールや不正防止のための社内ルールを定着させること。それに加えて明確化済みの手順を覚えるトレーニングやドリル、テストの実施、という意味であればそれは必要です。そのための手順書整備だったのです。しかし、各業務には、それぞれそれをこなすための「素養」「教養」「思考力」「集中力」のようなものは前提として必要です。「誰でもできる」わけではありません。パソコンの苦手な人、計算やドキュメント作成の苦手な人、美的センスに欠ける人(これ私)、対面営業を苦とする人などは、それぞれを25歳を過ぎてから長時間教育訓練しても、大して上達しません。これらは子供の頃からの何年もの学習習慣、生活習慣の積み重ねの結果であるからです。その「前提」のギャップを埋めることはもう会社の責任ではありません。これは埋めたければ自分で定時に帰って大変な努力をして埋めるべきだし、そうでなければそれを必要としない仕事に就くべきです。会社の力でできるようには「なりません」。
実際大手企業がやる研修だって、人事部が口にしない不都合な真実ではあるのですが、そんな数時間の研修で「できるようになる」とは会社は実は思っていません。会社は、何を会社が求めているかを社員にわからせ、それができないと昇進や実績をあげるうえで不利だと体感させるためにやっています。そこから先は個人の問題です。体のいい言い方をするならば、「勉強のきっかけを与えている」だけです。
中小企業は研修を受けさせるようなコストもなかなかかけられないのですから、顧客に不良品が流出する前に、「できる人を採用してその人にやらせる」ようにしないと持続的に会社の「弱点」になってしまいます。
また、日本では、人は育つのに時間がかかるものとして、余裕をもってたくさん雇用しておくのが正しいと伝統的にされてきましたが、今や「やること」や「必要なスキル」は数年でガラリと変わってしまいます。先ほど、「今年や来年の事業計画を元に必要人数を決める」と言いましたが、解雇の困難な日本ではこれが適正なのであり、5年先のことは臨機応変に対応できるようにしておく方が正解です。実は大企業は口にはしませんが、こうした「合理的人事政策」をこの20年間着々と実現してきています。「昔ながらの日本的な温情雇用、温情評価」が残っていて、収益を圧迫しているのは、大企業よりも環境の厳しい中小企業の方です。そして、それは「残してきた」のではなく、「変えられなかった」だけです。
残業0はこうして実現する
このように―「本業の従事率を8割程度に維持」し、かつ業務量の変動に対しては、適正な平準化を行う納期管理を―すれば、いままで大量に発生していた残業はなくなるはずです、そのように計算したのですから。残業は現状の追認ではなく、「こうあるべき」という姿を元に再構成すれば実際になくせるものなのです。それを大して儲からない「例外工程」や「急ぎ」を声の大きい人が横から突っ込んでくるから現場は混乱するのであり、それを管理するのがリーダーや経営者の仕事です。
8割で計算していても繁忙期には、きつくなるでしょうが、そこは納期の平準化により残業は原則しないというルールを徹底してほしいものです。残業には割増賃金が必要ですので、同じ単価で受注するならば「残業をしない方が利益は増える」はずで、「残業をして間に合わせる」は社の利益を減らす反逆行為です。一方で、これだけ所要時間が明確化されているのですから、業務が明確になっていれば納期が最速でいつになるかはごまかしようがなく自明になっているはずです。納期調整はより合理的に、社内同士で無駄にバッファを読むことなくできるはずです。
逆に、閑散期には余裕ができるはずです。その時に手順書の改定や新技術の導入調査などを行えばよいですし、それがいつ可能であるかも、需要が見えれば管理者は2週間前などにはわかって準備できるはずです。土日接続連休型の有給休暇もそういうときにどんどんとってもらえばよい。
残業を減らすために、「仕事を効率化しろ」という人がいますが、それはこうやって実現することなのです。
さて、次回は、14 各工程の日々の生産性、品質指標を追跡し、それを評価指標の重要な一部とする。また、担当工程の改善への提案、貢献を評価対象とする制度とする。から、この改革を支える「人事評価制度」の話に踏み込んでいきたいと思います。