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売れなくなるが値上げする!

 今年に入って、鋼材価格の高騰。コンテナ運賃の高騰、そして直近での円安傾向と、海外(主として中国だが)に生活用品等を製造委託して日本に輸入するというビジネスを行う事業者にとってはコストアップ要因が相次いでいる。
 実際、7月頃から耐えきれなくなったメーカー(と言っても実質中国等への生産委託なのだが)各社は続々、値上げを行っている。
 また、値上げしていないメーカーは、新規の取引商談を持ちかけると、それがスチール製品だと「仕切率85%」を提示されたりする。最初は取引したくない、という意思表示なのかと腹を立てたが、それは理由の一部で、今から新規に取引するところに、ある程度の利益を見込もうとするとこういうことになってしまうというのがどうやら嘘ではないらしい。つまり、販路拡大できない、利益なしで既存取引を継続していると言っているのである。

 ではメーカーが値上げして消費者向けの小売りの販売価格は上がったのか?というと…手元で実際に観測できる(ECモール等で売られている)商品についてはほとんど上がっていない。旧価格在庫を大量に抱えてそこで利益をあげているのか?もしくは、(仕切り価格は各社でそこまで大きな差はないはずなので)、送料やECの場合のモールへの販売手数料込みで利益率1%、2%でやり続けているのか…いや計算すると赤字になっているところもある。しかも、その価格でさらに広告を掛けていてそこにも本体価格の0.5~2%程度を投じているはずである。いずれにせよ我慢比べである。

 もちろん、今の日本企業がそういう動きをしてくることは十分承知のうえである。それでもなお、お客様先でいくつかのケースでEC関連で相応の利益を得られる値上げを提案し実施に踏み切った。それも「遠慮がちに小幅に」ではなく、大胆に大幅に上げた。利幅は一気に数倍になったが、メーカー名と型番で検索できる商品で、競合他社との価格差は大きく拡大したのだから販売数量は当然激減した。まだ、正確な判断はできていないが、対象商品の利益という点ではあまり変わっていないかむしろ少し減少した模様である。もちろん、これ自体は当社にとっては責任問題である。ただし、利益もないものを必死で出荷するというような現象には歯止めがかかっている。そして、事業全体としては、成長路線を維持できている。

 いつの世でもどの商品群でも、最大の利益はボリュームゾーンから上がるものであり、よく現場を知らないコンサルがもっともらしく記事にしていることがある「高級品路線を選択することでレッドオーシャンからいち早く抜け出す」、ということは大抵正しくない。これを見誤ると縮小均衡の道を後戻りできなくなる。ボリュームゾーンで戦える体力をつけることは喫緊の課題である。
 しかし、同じボリュームゾーン商品であっても、その商品で戦い続けるかどうかは別問題である。売れても利益が出なくなった商品を他の利益がでるボリューム商品に組み替えていく、そしてその商品を数が売れるものに育てていく「変化する力、スピード」は常に必要である。この2つは似て非なるものである。そして、新しいものを売り始めるのは、現場は負担が大きい。だから、いろいろ理由をつけてやりたがらないものであり、そこをやらせ切れるかに企業の、管理者の実力の差が出る。

 これに加えて、この判断の根拠になったのは、「情報の非対称性」と「選好関数の多様性」ということである。

「情報の非対称性」とは、この場合、多くの消費者は、売り手が知っているほどには同一商品を扱っている他社の価格(だけでなく商品情報)を知らないということである。
 それに加えて、「選好関数の多様性」とは、「価格を最優先で購入先を選ぶ」人は実はそんなに多くない、ということである。便利さや品揃え、信頼感など多くの選好に与えるファクターがあり、層によってそれらの重みは違っている。そこで、「価格最重視層」を重視しそこにアピールすることを選ぶと、ずっと最安値であり続ける必要があるが、そうではない層の方が実は多いし、そうではない層の方が多くの場合購買力が高い。

もちろん、ネットは価格比較がリアル店に比べて容易であるし、一部の消費者は、努力を惜しまず、一番安いお店を選び購入し、場合によってはそれを拡散する。しかし、多くのケースではそうではない。まあまあ妥当な価格だろうという「信頼」があれば、消費者は、品ぞろえがあり実績があるお店で平気で購入する。イオンはカレーのルーが一番安いわけではないが、もっと安いお店よりもたくさん売るし、ヨドバシオンラインは、激安店よりも国内メーカー品がそこそこ高いが、そうしたお店よりもたくさん売っている。価格だけではないし、むしろ大型店は価格以外で競争している。
 だが、販売の現場にいると、短期的に容易に操作可能なのが価格だけで、品揃えや説明、認知(広告)にはお金と時間と技術・知識を要するので、「価格が原因」だと思いたがる面もある。そして、価格で負けることを「会社のコスト体質のせい」にする。

 事業を5億、10億と伸ばし、人員を5人、10人と増やしていこうと思うと、そうした1人2人でやっている「最安ゲリラ店」と正面から戦うことは徐々にできなくなっていく。個人の時に比べて在庫の無駄も人員の無駄も出てくるからである。その時に、「最安でなくても売れる店づくりをする」と決めて、そこから何をするかを考えなければ、利益は減っていき、社員の給与は上げられず、補充もままならず、やがては会社は終焉を迎える。こういう終末を迎えている数人規模の会社は実に周りに多くみられる。

 安売り路線に見切りをつけさせたのは、これが大きな理由である。利益があるうちに、「大型店化する」義務を与えることが今経営としてやるべきことだと考えたのである。個人商店から組織的な店舗運営へと脱却し、社員の給与を上げ、より優れた人材を集め、さらに拡大スピードを上げていく、そのきっかけにするのに、今の値上げラッシュは好機だと考えた。

 私は、20代のころ、地域ドミナント型の家電チェーンの本社商品部にいた。そして、その会社はつぶれた。その経緯は、このブログの1回目にまとめてある。
 

 立地や店舗規模、広告手法などを変えないまま、値段が安くないと売れないという現場のジレンマと経営者の「真心接客信仰」で会社はみるみるうちに圧壊していった。
そしてこの時も不良債権問題で日本中が不況だった。今、ECブームが落ち着きつつある中、ECの分野でもそれが起きつつある、という時代認識がこの進言の背景にはある。

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