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失敗の橋③-せっかちだけどしつこい奴

 上手くいきがちな経営者の「マインド」、行かない傾向の「マインド」を切り取ってご紹介している本シリーズの3回目は、「アジリティ」「クロックサイクル」の話、と言えば皆さん直感的にピンとくるのではないでしょうか?

 社員でもそうなんですが、なんで人ってこんなにせっかちな人とのんびりな人の差があるんでしょう?不思議です。

 そして、お互いにお互いが受け入れられないようです。時々、のんびりでも鋭い一撃を的確に発することで成果を上げる「鋭い」人もいますが、一般には、サイクルが早いタイプの方が「能吏」ではある傾向は確かだと思います。

 では経営者はどうでしょう。経営者は一般に社員から「遅い」という批判を浴びがちです。同族経営で承継したが能力が怪しく本当に遅い(クロックサイクルが低速)ケースもあります(もちろん、2代目がめちゃ仕事が早いというケースもありました)が、多くの場合は違います。
 遅い一つ目のパターンは、「判断を今はしない、先延ばしして状況が推移するのを見守る」、という意思決定を無意識でもしてしまっているケースです。その主因は組織内の摩擦や対顧客の摩擦や失敗に対して十分な準備や事前の納得がないと変えない、しかもその環境の醸成を行うことが幹部任せというような意思決定パターンを確立していることです。檄を飛ばさないタイプ、とでもいえばよいでしょうか?
 日本では伝統的にこの「下からの積み上げ」による「環境醸成」を行い、「実が落ちるタイミングを狙って」実施することがよい、という経営像が一つの「お手本」となっていたことは事実です。あるいは、先代経営者や自分が企業内で昇進するにあたって見習ってきた「尊敬する先輩」のパターンがそうだった(大企業ではこのパターンが多い)ので、そのようなパターンしか知らない、できないという場合も多くあります。不幸なパターンでは、親が急死され、伝統的大企業に安定してお勤めだったご子息が事業を承継されたが、これしか知らない、しかし親は結構なワンマンだったので組織が停滞を強める、というケースもあります。
 昔はこれでも通用したのかもしれません(私はその時代は知りませんが)。それは徐々に市場が拡大していたからです。しかし、今は市場があまり拡大せず、競争が激しくなっているため、時間をかけると競走劣位に落ちていくケースが多く、この手段はほとんどのケースで「死路」です。と言っても、これしか知らない人にはこれしかできません。

 もう一つのパターンは、社員から報告があがり判断が必要になった段階で、「この情報も欲しい」「ここのデータは精度が低いのではないか?」と追加要求をしているからというケースです。部下は上のケース以上に相手にするのに疲れるので、一層文句を言います。実は私もこのタイプです、すいません。しかし、短期的に集められる最大限のデータをもって判断する、ということ自体は、経営者の義務だと私は思っていますし、そう言い切ります。が、そういわない経営者は、「単に遅い」と混同されています。

 で、比較的ハイパフォーマンスの中小企業経営者は結局どうなのか?というと、やっぱり「せっかちな人ばかり」です。自分が変えることを厭わないし、周囲にもそれを要求します。それに耐えられない人は辞めていくし、耐えられる人も力をつけて自信をもってしまって、昇進昇級をスピーディにさせないと、より大きい会社に向かって辞めていく。というこれも笑えない状況にあります。とにかく、要求した3時間後には「どうなった?」と聞いてくるような人がやっぱりハイパフォーマンスです。(それお前だろ、というツッコミが聞こえてきそうですが)上司としてはあきらめがついても、そのままの性格で家にいると一緒にいるのは大変そうです。

 一見泰然自若としているように見える人もいますが、そういう人に限って、遅いとその瞬間そこに見切りをつけて、別のことに関心を移していて部下からすると取り返しがつかない事態になっていることもあります。経営は「時間を競っている」ことを理解しない管理職は、不戦敗してしまうのです。

 しかも、このタイプにはもう一つの悪癖があります。それは、「しつこい」「執着心が強い」ということです。うまくいかない人にもこのパターンはいますが、その人たちは、「自分が良いと思っているパターンをデータで覆されても顧客に押し付ける」「失敗しても同じパターンを続ける」という典型的なダメなパターンがあります。それに対して、ハイパフォーマンスな層は、「手を変え品を変え試させる」「以前うまくいかなくても、しばらくすると違う市場ややり方で再チャレンジする」という傾向が強くみられます。
 多分、頭がよいので、頭の片隅にあった反省を、何かのきっかけで「今回のパターンに生かせる」と連想することができ、そこで再度やりたくなってしまうのです。
 と言えばよく聞こえますが、これもまた、下にいる部下は疲れ果てます。

 しかし、この手の「ハイカロリー」「ハイクロック」な経営者というのはどうやって生まれるのでしょう?あるいは育てることはできるのでしょうか?大人になってから育てることができるのか?と言うと私はできないと思っています。しかし、こういうタイプの人がどういう環境から生まれるかはだいたい類型化できると思います。

 一つ目は、負けず嫌いで競技や学業で一番を目指すという心的傾向が強くあることです。「勝つ」こと、「表彰台の高いところに立ち優越感も持ちたがる」ことに価値を置くタイプであることです。集団に埋もれて仲良く心地よく過ごすことに価値を見いだすような人はこうはならない。(それも幸せだと思いますが)。行き過ぎると様々な弊害を生みますが、経営が数値を追いかけるという性質を持つ以上、その「競走馬根性」は原動力であることは認めなければなりません。
 二つ目は、自己評価がそれほど低くない、という傾向が強くみられます。これも行き過ぎるとエリート意識や軽薄さに繋がりますが、「自分が自分の理想を追うために自分で経済的リスクを負って経営している」「だから、多少の自分や社員の疲労などものともせずに走る」ことを正しい。当然であると思い、同時に自分が判断責任者なのだから、判断材料は最善のものを用意させて当然、と思う必要があるわけです。現在の40代以上の日本人は、一般には自己評価を必要以上に低くすることで服従を容易にする圧迫教育が家庭でも学校でも施されてきました。(今の若い世代が受けてきた学校教育は違いますが、これも親の考え方に強く影響されています。)それにもかかわらず、このような健康的な自己評価を有していることは恵まれたことであり、そのような資質はリーダーに欠かせないものです。

 三つ目は、恥や人の気持ちに意外に鈍感である、ということです。日本人は他人の気持ちに配慮しすぎる面があると思いますが、この種のハイカロリー、ハイクロック人材は、結構「自分勝手」です。他人の目や気持ちを気にして自分の行動を抑制していては、「目標に一目散に駆け込む」ことはできません。あるいは社員に辞められたらどうしよう、ということを行動抑制する理由にしている経営者が時々いますが、「自分の方針に協力してくれないならば、やめてもよい」という態度を取らなければ、会社の方針を変更することなどできません。心を削りながらこうした厳しい決断、指示をする「心優しい経営者」もいるのですが、それもいつかはすり減って限界が来てしまいます。本当のハイクロックな経営者は、「心を削りながら指示」などしません。そもそも平気なのです。

 最後に四つ目は、全般に基礎体力に優れている傾向が強いということです。何時間でも姿勢がよく、作業が続けられ、判断の吟味に自己を追い込むことができるのは、特に持久力系の体力、苦痛に耐える力があり、日ごろからそのような負荷を自分に掛けて自分の耐久力が維持されていることを確認している傾向にあります。これは、マラソンやトライアスロンのような非常に強い負荷として形を表している経営者もいますが、表に出ないが地道に維持に努めている人の方がはるかに多いようです。

 経営はどんなサービス(市場)にも競合がいて、そことのスピード競争です。そして、新しくやることのほとんどは最初は失敗し、そこから何十回も改良しつつ市場を知っていくことでようやく市場に受け入れられるものが出来上がっていきます。であるからこそ、「せっかちでしつこい」という特性が経営者に重要な要素であるわけです。そして、それは大人になって手に入れられる性質でもないように思います。

 中小企業が、同じものを少しずつ工程を改良しコストダウンし、大手の下請けとして単価を削りながらサービスを提供し続けていれば、当面は生存できた、という「運営共同体的構造」が消失しすでに20年余りが経過しました。今やそんなものがありうるとはどんな経営者も思っていないことでしょう。自分の会社は自分で何とかしなければならないのです。そんな時、時々高齢の経営者で「自分にはどうにもできない」といいため息をつく経営者が時々います。ならば、若手に経営を譲ればよいと思うのですが、それもせずに破滅への道を静かに進む様子には苛立ちを覚えます。
 失敗して摩擦を起こして、それでも変えていかなければ中小企業は生き残れない中、「せっかちエンジン」の人材は、少なくとも経営人材、あるいはそれを支える人材としては欠かすことのできない資源です。そして、それを見抜くことも今回の記事から、少しはできるのではないでしょうか?
 
 

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