不況期になると、人材需給が緩み、好況期に比べると非上場の中堅企業でも比較的興味深い職務経歴書が人材紹介会社から回ってくるようになります。だからと言っていい人材が取れるとは限らない、というか結局難しいというのが悲しいところです。
最近、元Googleの技術者の方に3人知り会いました。どんなすごい人かと思いますよね?私の目利きは一人は結構すごいな、という感じ。2人は私の組織にはいらないな、という感じ。そういう代表の私(上村)も、2年前の起業前は5年程「あの」光通信にお世話になっておりました。同社は世の中で悪評ぷんぷん、OBは「各方面で大活躍している」とも言われますし、「パワハラ体質が抜けない」とも言われます。多分どちらもごくごく部分的には本当です。私なんぞ「光通信っぽくないね」とも言われます(私はそんなに在籍期間は長くないですが)。人材紹介会社に検索を依頼するときに、一般的には、職種と前に在籍した会社で検索するので、この「世評」は仕方がないのですが、そこには人材の実像を見誤る大きな思い込みがあるのです。私は辞めてから改めて光通信のすごさをはっきりと認識し、当時の上司やお世話になった方々には感謝しています。そして、世間の風評と実像とにギャップがあることにちょっと胸を痛めてもいました。しかし、それさえも、局所的評価なのです。今日は、有名な企業名と盛りに盛った職務経歴書に騙されないで実像に基づいた人材採用を進めるための「幻を消散させる」ポイントを3つご紹介します。
①将軍の目、参謀の目、歩兵の目
世間に名の知れた大企業は、通常はピラミッド型組織をしています。そして、有名外資や成長企業、メガベンチャーの多くは「実力主義」を貫いており、採用においても基本的には大量採用・大量退職の傾向にあります。可能性が少しでもあれば採用してみて、ダメならば実力なりの処遇にすれば自分で辞めていく、と割り切っていて、それを可能にする制度を運用しているのです。私もこの考え方に賛成です。決して強制などする必要がないという点では、財閥系有名企業の「退職追い込み部屋」よりもよほど良心的です。
そして、どんな「賢さ」をアピールする企業であっても、多くの営業の現場での「歩兵」が企業の収益を支えています。歩兵というと軽んじた言い方に聞こえるかもしれませんが、「実力主義」である以上、単独や小集団で大きな武功を上げた人間はきちんと処遇されますので、報酬も一時的には立派なものです。そのような歩兵を経て、社外に出た人間は、自分の会社を「歩兵の強みのある会社」と主張します。
しかし、1000人の歩兵を率いる将軍たる執行役員級が見ている風景は全く異なります。全体数値を如何に達成するかを唯一の目標として、将棋の駒の様に歩兵を動かし、EXCEL上の数値の制御のために伝令を飛ばし、叱咤激励しつつ、軍紀である規程や評価基準、一時金制度等を用いて歩兵の行動をコントロールします。通常、こうした「将軍肌」の人は、人望が厚く、長年の盟友、腹心の部下がいます。
一方で将軍とて、全ての戦略立案や結果数値管理を自分でできるわけではありません。往々にしてこういうのを苦手としている将軍もいます。しかし、これらを補う参謀役もいて、参謀は将軍の視点を持ちつつも、冷静に戦局を見定めて負け筋を消す策、勝ち筋を太くする策を立てて将軍に建議します。私は一時期までは将軍を目指していましたが、今はこうした経営サポートの仕事を楽しんでいることからもわかるように参謀役に自らの運命を感じています。
世の中のその会社の風評のほとんどは、数が多いこともあり、この「歩兵」から生み出されています。しかし、その視点から見えているものは、「戦場の現場」の風景であり、「将軍」が見ている風景とは異なります。そして、多くの場合、歩兵は、現場で必死に自らの活路を見出すべく戦っているのですが、実際には将軍と参謀の描いたマスタープランの上で動いている「駒」です。駒という言い方は現場で活躍している方には失礼に当たるようで言い方を変えたいのですが、他に良い言い方が見当たりません。
光通信の例に戻れば、世間の多くの方は、光通信を「個の営業力の強さが光る会社」と評価されていると思います。それは一面として正しいです。しかし、将軍や参謀の目から見ればそれは異なります。営業力の強い人間を残し引き上げ、そうではない人間を淘汰する制度を厳格に運用し、戦略の統一とデータによる遂行管理と評価の仕組みを確立し、新規事業に次々と投資する仕組みを運用する参謀の力と、それらを用いて大きな組織を動かすことに熱く燃えるが、怜悧でもある将軍の力の会社と見えます。そして、さらにすごいのは、「将軍の才を選別し育てる仕組みがある」ことです。しかし、こちらの中身を体験をもって知る人材は数が大変少なく、そうした視点はあまり見えてきません。
言い切ってしまえば、「歩兵」には戦局を作り出しそれを動かす力はないし、参謀には、現場で大活躍する力量は不足していることが多いのです。そこを理解したうえで、あなたが欲しいのはどの人材ですか?そして、どの視座ですか?それは明確になっていますか?
そして、面接した時に上の話を元に相手が元居た会社でどの視点から戦いを見て、役割を果たしていたか、そして何を感じていたかを具体的に知るべきでしょう。あなたの会社でも数が必要なのは、「歩兵」であり、強い歩兵はもっと世の中で実力を正当に評価されるべきである(年功序列を打破すべき)とも思っていますが、その強い歩兵を迎える準備ができていますか?
②成長企業はどんどん変化している。
googleがフェルミ推定などの変わった入社試験をしている、というのは一時期本になったぐらい有名な話ですが、今はフェルミ推定と採用者の業績との相関がないというデータが得られて廃止されています。光通信はひどい言い方をすると「バカが集まって、コンプラなんで無視してむちゃくちゃやっている」という世間の見られ方をしていますが、これは全体感で見ると昔の話です。(昔そういう事例が沢山あったことは私もいろいろ聞きました。)今は、私が知る限りは、残業制限やコンプライアンスについて、同社ほど厳しい上場企業を私はたくさんの会社とお付き合いしてきましたが一つも知りません。実際、これらに違反すると非常に厳しい罰則が待っています。また、社内資格制度が担当商品や役職ごとに定められ、テキスト類も整備され、結構な時間を社内資格の勉強に追われます。これはわたしが担当役員に恵まれていたからかもしれませんが、もっとも勉強したのも、勤務時間が少なかったのも、違法な事例を目にした件数が少なかったのも、他のいくつかの上場企業を見た中でも同社です。まあ、それでも大きな組織なので、時々やっぱり問題は生じているのですが。
さらに言えば、光通信は「現場の営業の力の会社だ」というのも昔の視点です。実は光通信は今、連結内には、直販営業部門というのをほとんど持っていません。光通信は、投資と卸と自社商品企画の会社にすでに変貌を遂げています。光通信がシャープやソフトバンクの商品を販売する「代理店」という視点も正しくありません。すでに収益のかなりの部分を自社商品が占めているのです。このことは同社のIR資料からも確認できます。
成長する会社は変化する会社です。その変化の方向性や意味を理解している人はOBでも決して多くはありません。googleが検索の会社だった、マイクロソフトがOSとオフィスソフトの会社だったのはもう昔の話です。今は戦略、具体的には投資と人材の重点が変わっています。それを知った上で、面接者の話を聞くと、「その人に足りていない点」が見えてくるものです。もちろん、一部が足りていないからと言って、その人がダメというわけではないのですが、〇〇出身だからすごいんだろう、という思い込みは失敗のもとです。
③人もどんどん変化している
35歳を過ぎても学び続け、成長できる人材はごくわずかです。このことは、とうの当事者に突きつけると少しむっとされますが、まぎれもない事実です。本も読まなくなり、連続して思考に集中することもできなくなり、イラつきやすくなり、人の話を聞かなくなり、口ばっかりで活動量が低下します。個人差がある、と言い訳してはおきますが。
トップ企業はもちろんそんなことを口にはしないのですが、そのことをきちんと認識しています。特殊な技能を持たない限り40代、50代は採用しません。「昔活躍した」という職務経歴書は、35歳を過ぎれば今その人が同様の力量をもつことを示してはいないのです。その、「力が衰える」という可能性を採用時に軽視しすぎているケースが多いと思います。その理由は、多くの採用する側の担当者が「若くて知らない」か「年を取っても自分のその認識がなく対策もしていない」からです。あなたの会社に必要なのは、「今の実力」であり、「過去の実績」ではありません。職務経歴書に書いてあることが全て事実だったとしても、それは今の実力とは限りません。実際、私も光通信で「この人はすごいな」と思った同僚が5年経って活躍し続けているかというと結構まちまちです。
もちろん、その逆もあって数年前に「立派な歩兵」だった若者が、志を持って勉強して「将軍を目指している」と30代になって再会するようなケースもあります。
④エース級はまだ中にいて、引く手あまた
最後に、人材紹介会社のネットワークに流通している人材は、実はエース級は少ない、という事実を認識する必要があります。本当にエースならば、1.その会社でいい待遇で活躍している。2.自分で起業している。3.取引先や先輩などがその能力を直接知ってヘッドハントしている。の3つの可能性が高いからです。
例えば、お客様の「代販の仕組み構築」を検討して人材補充を考える時、私ならば、最初に検討するのは、人材紹介会社ではなく、光通信でその仕組みを新商材で構築したことのある経験者です。同社にはそういう人材が沢山いるし、多くは今でも社内で活躍していますし、すでに同じことを考える他社に幹部として取られてしまっているケースもあります。
応募者は、「自分は中堅でした。下位でした。」とは言ってくれませんし、一度や二度表彰されたこともあるでしょうが、今、その面談の場にいるということは、②で変化の中ではじき出されたかあるいは自分で違和感を感じていたり、③で待遇が下がったりしたことが契機となっていることが多くあります。
もちろん、完璧なエースなんてそうはいません。人間はみな不完全で虚栄心が強く、そして弱い存在です。その不完全な人間を不完全と知りつつ、持てる力を最大限使っていかなければならないのが、採用であり、人事です。ところが、出身企業名に騙されるケースは非常に多いのが実情です。
元〇〇は虚像が多いのです。本当の姿は今の目の前のその人物の中にあるのであり、職務経歴書の中にはありません。