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中小企業の採用難にどう対処するか?①

 4月1日に神田あたりを歩いていると、入社式に向かう大手社員の新入社員を駅から建物まで、まるで高級ブランドの店員がお客様を接客するかのように(その会社は日常消費財の小売業なのですが)、出迎える光景が見られました。今の新入社員って、こんなにも大事に迎えられるのか!と改めて認識したのですが、それもそのはず、どこも採用難にあえいでいる中で、一人当たり2,30万円と言われる新卒採用コストをかけて採用した新人さんがすぐに来なくなるようなことになっては責任問題です。

 中小企業では、新卒採用して教育カリキュラムを構築して育成するという仕組みができていないところが大半ですし、一人単位で欠員が出るごとに急いで即戦力を補充する、という会社が多いため、ほとんどが中途です。しかし、これもまた、なかなか採用できません。採用できたとしてもコストもかかるし、思ったほど活躍してくれない、という事例も多くあり、結局既存業務のうち、一部をあきらめて、主力業務に人を寄せる、という選択をしているところが最近では多くなっています。

「採用難」の正体

 この「いい人が取れない」は、実は当然のことです。

 そして、中小企業だけでなく、程度の差こそあれ、大企業も同じ悩みを抱えています。まずは今日は、その正体を明らかにしていきましょう。「労働力調査 長期時系列調査」という国の統計があります。(こちらから参照できます)以後は、これの中の「農林水産業以外従事者」を基準にご説明します。

 以下の話は、大企業の人事政策にかかわっている方には周知の事実で目新しい話ではないと思いますが、中小企業の経営者は、多くの場合mきちんと認識できていないことが多いものです。

①「いい人」の潜在意識と現実のギャップ

「いい人が取れない」と経営者であるあなたが言うとき、その「いい人」は、心のどこかで、「25歳~34歳の仕事を覚えて、体力もあり向上心も高い人」を指していることがきっと多いでしょう。そして、中小企業の経営者の場合、そこに、「男性」が加わります。その潜在意識(大っぴらに言う人もいますが)に基づいて採用しようとしていることがどんなに無理があることなのか?というのがまず論点の一つ目です。次のグラフを見てください。

その、あなたが思う「いい人」は2000年からの20年間でざっと3割減っています。しかも、そのうち、一定層は、会社も個人も現在の状況に納得している不動層です。そのため、青い→のように実際に市場で獲得可能な「いい人」はさらに大きく減少しており、それが大企業・有名企業から順に獲得されていく(大手人材紹介企業も採用力があり、広告出稿額が大きい大企業から順に紹介していく)ので、名も知れぬ中小企業には人材が回ってくることはほぼないのです。
 ちなみに、中途採用者の離職率は企業規模にさほど依存していませんが、新卒採用者は企業規模が大きいほど定着率が高いことが知られています。

②「女性活用」の正体

「しょうがない、そういう時代だ」とつぶやいて、「産休とか困るけど、女性でもいいや」(私がそう思っているということではないですよ。私は、女性の方がむしろいいことが多い、と体験している派ですので。また、「女性活用」という醜い言い方をわざわざしているのは、男性中高年経営者の「思い込み」を引きはがすための刺激策です。詳しくは次回に)と、女性に目を向けると、この問題は解決するのでしょうか?それが次のグラフです。

確かに、総人員数は倍ぐらいに増えます。当たり前です、神はだいたい男女半々づつをお作りになっているのです。しかし、女性の25歳~34歳の就業者数も2000年以降は、緩やかに減り始めているので、合計の減少傾向は変わっていません。そして、「女性が活躍する時代」は中小企業では、ようやく今になって変わりつつあるような状況ですが、大企業では、2000年以降、様々な問題を内包しつつも、当たり前になってきていますので、中途採用人材という意味では、もう男性と同じく中小企業ではなかなかいい女性を取れない状況になってきているのです。しかも、中小企業では、女性の働きやすさという点で遅れている会社が多いことを当の女性は良く知っていますので、きちんと制度を整備しそれをアピールし、それ以上に経営者の考え方と職場の空気を変えない限り、中小企業は女性には男性以上に選ばれません。

③しょうがない…おっさんでもいいか…

中小企業に残された恵みの地はないのか?しょうがない、経験者ならもう少し年齢が高くてもよいか…と35歳から44歳を見てみましょう。比較用に、先ほどの25歳~34歳も同時に表示し、「不動層」を意識して、300万人のところで、Y軸を切って表示すると次のようになります。

まず、この年齢層の方が、人数はだいぶ多いです。これは女性についても同じです。2000年よりも2010年の方が増えているのは、1973年生まれを中心とする第二次ベビーブーマーが35歳を過ぎたからです。

 そして、2020年においては、25歳~34歳男性と35歳~44歳女性の就業者はほぼ同じです。このような状況があるので、2000年頃には、「転職は35歳まで」が当たり前だったものが、現在では35歳を超えても転職が実現するケースが増えているわけです。そして、選り好みしないで、44歳までを対象にすれば、母数は倍以上に増えます。

 ただし、グラフの2010年~2020年を見ればわかりますように、この層においても男性の就業者は大きく減り続けています。この減少は、1973年生まれをピークに出生数が減少の一途をたどっていることによるものであり、今後も、少なくとも日本人に限って言えば大きく減少し続けます。

 なお、女性は就業率の上昇により、それほど減っていません。この就業率が上昇し、男性並みになるかどうかが重要な政策的課題になっているのは、人手不足を解消するのに、人口ピラミッド要因はいかんともしがたく、女性の就業率の改善と、あとは外国人ぐらいしか緩和策がない、ということによるものです。

 従って、贅沢言わずに、もう少し年齢が上の男女までを採用の視野に入れていかざるを得ない、というのが今の採用市場であり、特に「選ばれにくい」中小企業にとって必要なこととなっているのです。この層でいい人を見つけられるかはまた難しい問題を内包しているのですが…

④中小企業の生存戦略としての人事構成シフト

 ここまでを中小企業の経営という観点からまとめてみると

  • 昔のように、40代少しが管理者として君臨しやや楽をし、30代は現場リーダー、20代のたくさんの戦闘員、という組織構成はもう無理であり、30代、40代も前線に立たせることを前提に、この層も採用を進め、そして前線への配属を考えなければならない。
  • 出遅れている女性活用は、もはや待ったなしである。大企業に人材面で買い負ける中小企業は、少なくとも半分は女性、女性の方が多くなっても全然OK、ということを基本方針にしない限り、今の企業規模を維持することは原理的にできない。

 ですから、育児休暇も、育児短縮勤務も当たり前のこととして実施せざるを得ないし、それをアピールして応募していただけるようにする必要がありますし、家庭と両立できる残業規模にせざるを得ません。これらは、国から言われてしょうがなくルールとしてやる、あるいは従うふりをするのではなく、「生存戦略としてやらざるを得ないこと」という理解が正しいのです。

 それではそれらはどのようにして実現していけばよいのでしょう?そして、「女性活用」以外に中小企業にとっての選択肢はないのでしょうか?実はないわけではありません。それは、「外国人」と「副業人材」です。

 次回は、そのあたりの実践策を整理したいと思います。

 

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