前回は、中小企業がみな口にする「採用難」の正体が、人口構造が変わっている中で、経営者の「男性優位」「若年層を底辺とするピラミッド型構成」という思い込みが、採用が立ち行かない元凶であることをデータから示しました。前回はこちらです。
その中で、故意に「女性活用」というような、「本来は男性を使いたいが仕方がないから女性を使う」ということを言外に匂わすような言葉を使ったことに、違和感を感じてくださった経営者の方はいらっしゃったでしょうか?東京オリンピックをめぐる「権威ある高齢男性」(複数)の共同参画に対する感覚のずれが、身の破滅(もっとも森さんにとっては20年以上前からの通常ですが)を招く事例が続きましたが、それはこうした言葉に違和感を覚えない層が、皆リスクのあることです。
実際、やってみればわかりますが、男性にできて女性にできないことなんて普通の会社(そして社会)にはほぼありません。今の会社経験のしっかりある女性は、昔と違って、自分が男性の補助的な役割でしかない、とか、言われたことだけやればよい、というような感覚はなくなってきています。しかし、50代以上の男性経営幹部の「思い込み」(それは昔は実在したものなのですが)をなくすことはなかなか難しく、やはりその下の世代に交代していくしかないのだろうと私は考えています。
今回はそれを含めて、採用難を改善するために何をまず変えるべきなのか?ということを具体的に、優先順位順に示します。
①残業体質の改善
中小企業の経営者と話していると、2020年より強化された残業制限について、「あれは大企業がちゃんとやればいいことで、うちみたいなところは無理」と平気で言うケースがまだ多く存在します。「残業代なんて適当に払っておけば、生活できれば文句は出ない」と豪語する経営者も比較的若い人でも中小企業には多くいます。経営者がそう言い続ける限り、永遠に女性や若い人は定着しません。そして、そのうち、一気にまとめて社員が辞めるというような「事件」が起きることでしょう。
しかし、これを実現するためには、「時間の割に儲からない作業、業務」を改善したり、廃止することが必要です。その手順については、こちらでも取り扱っています。
もちろん、それを改善できたら、採用時に積極的にアピールして行くことが必要です。
ベンチャー経営者を中心に、「ミッションとビジョンを明確にすることが採用には必要」という人もいます。特にコアとなる優秀層を取るには必要だと主張するのですが、20代前半や新卒にはそれは通用しても、20代後半~30代以上には、残業削減と次の人事評価制度の整備の方が、はるかに効果的です。人は理念のためではなく、生活費のために仕事を選ぶ、という現実は直視しなければなりません。
②公正な「結果」に対する人事評価制度
二つ目は、女性、外国人、副業など、今までの会社体制でいうところの「マイノリティ」が制度上、不利にならないことが担保されていることです。逆に言えば、「おじさん優先会社(社会)の撲滅」です。それを何によって、担保しアピールすればよいか、というとそれは、「単なる蓄積ではない、結果の評価」をできるだけ客観的に行える人事評価制度です。単なる蓄積ではない、というのは、「年功序列を排する」というのとほぼ同じです。
この辺の整備は、令和3年度も助成金が出ます。(たとえば、こちら「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」です)ということは、中小企業の経営改善と女性の就業率の改善、若年層の離職率の低下にこれが必要である、という統計結果が存在するということです。その統計的背景はこちらでも扱っています。
もちろん、制度があればよいというのではなく、その制度の意味を分かって組織運営に当たれる管理者が必要であり、それは、おそらく世代交代によってなされることが多いことを、「渡辺直美ブタ事件」は示しています。
③リファラル採用を試みる
準備はこのくらいにして、実際、採用に動いてみましょう。何度も言うように、人材紹介会社や広告、採用ページの充実は、大企業では効果がありますが、中小企業は彼らサプライヤーの「養分」になるだけです。
一番確実で、かつ会社の改善に効果があるのは、「社員からの紹介(リファラル紹介)です。しかもリファラル採用した従業員は退職率が低い傾向があります。リク●ートやパ●ソルに依頼すると、100万円かかるのですから、社員に紹介してもらって採用されたら、社員と対象者に25万円ずつでも払いましょうよ。と経営者の方に言うのですが、これがなかなかうんと言ってもらえません。それは一つには、「社員に払うのはもったいない」というのです。外部に払う方がよっぽどもったいないのですが。そして、大抵はそれはいいわけで本当の理由はもう一つ別にあります。「社員が誰も、自分の会社を大事な友人に進めたいなんて思っていない」という現実に向き合うことが怖いのです。
そして、私が経営者にリファラル採用を試みることを薦める最大の理由もまた、ここにあります。その事実に向き合い、それが経営者である自分の問題であり、旧態依然な管理体制、社風の問題であることを認めなければならない、変えなければならない、ということです。
いろいろな場で私は経営者の方に言うのですが、商品・サービスが現代の市場で顧客に選ばれるように変化しなければならないのと同じように、現代の労働者に選ばれるよう会社も制度や方法を時代に合わせて変わらなければならない、ということをわかっていない経営者の方がすごく多い。そして、年配幹部に気兼ねし、反対にあうとしり込みしてしまう。これを変えられるのは経営者だけです。そして、その突破口が、「社員に紹介を依頼して、インセンティブを与えて、それでもうまくいかないときに社員の話を聞く」ことなのです。社員が知人に自分の会社を薦められないということは、「応募者は情報を限って騙されない限り、入社してくれない」というのと同じです。
④短時間勤務正社員とテレワーク
その次に検討すべきは、一日6時間や週3日などの短時間勤務だが、正社員と同じ待遇(給与、賞与は時間分に減額してよい)という仕組みの導入です。これは、共同参画社会とはいっても、現実には育児等の負担を抱えている女性のうち、経験者を採用するために必要です。また、同じ文脈で、一部の勤務日をテレワーク前提とするということも効果的です。それにフレックス制度を組み合わせて、子供の送迎などの柔軟な対応を可能にすることでも、採用力、そして今いる社員(もちろん男性も)の会社にい続けるインセンティブも上がります。もう一度言います。社員は理念ではなく、生活基盤のためにその会社にい続けるのです。
医療、小売りなどテレワークが難しい業種もありますが、一般にはテレワークの方が、生産性は高いという人が若い人には多くなっています。(私もそうです)。週5日フルタイムの労働を皆が揃って出社して、朝礼をする、というのは「時代錯誤」で、Slack等で連絡事項を文字で連絡し、スマホで受け取るのが朝礼にとってかわっているのです。
⑤副業人材
最後は副業人材なのですが、ここはまた、一工夫も二工夫もいるので、機会を改めたいと思います。
ただ、特定のプロフェッショナルと期間限定でプロジェクトに参加してもらい、大企業の方法論を導入するためにはとても適した方法です。