その名も「事業再構築」補助金という制度が鳴り物入りで始まります。総予算1兆1400億円余りと、多くの業種が対象となる補助金では近年最大規模の補助金です。しかも、この補助金、説明にあたっている地方経産局の説明に当たる各位が、ことさらに、「建物の改装に使える」ということを強調しているようで、関係者の間では、そのことが独り歩きしている傾向がみられます。
えー、弊社はその場で企画と書類作成だけを支援して、受給金の一定割合をいただく、というような世の中で多くみられる仕事は普段からお請けしていません。今回も沸き立つ零細コンサル界隈を眺めながら、「いたしません」。
普段から中期的に情報交換をして、その会社の課題や持てる資源をキチンと理解し、経営者や社員の施策へのコミットが得られる、あるいはそこがリソースが不足しているときに外部資源を使ってでもやり遂げるつもりがあるという会社しか、お手伝いしません。弊社にはそういう会社は、実は片手で足りる数しかなく、しかも1,2年かけてすでに「再構築」まっただなかで、新施策として切り分けることが困難で、喧騒を傍観しております…
しかし、「事業再構築」とは一体なんなのでしょうか?そのことが十分理解され、議論される素地が、対象となる中小企業にはまだまだ不足しているように思います。本補助金については、経済産業省がわかりやすい説明をwebに上げていますので、まずはこちらをゆっくりお読みください。(最近、中央官庁も、落ち着いて読めばわかりやすい説明を作ってくれるので、本当に助かります)。わかりやすい事例もいくつか紹介されていますので、その辺は私は省きます。
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/index.html
①「環境は変わった」という覚悟はあるか?
まず、最初に必要なのは、経営者であるあなたに、「コロナ禍の影響で、経済の仕組みは大きく変わりつつあり、元には戻らない」という認識があるか?という点が重要なポイントです。
もし、「コロナがいつかは収まるし、そうなれば、観光も飲食業も小売りの人でも元に戻る」と内心どこかで思っているならば、この補助金は使わない方がよいでしょう。中途半端な再構築は社員にとっても迷いにつながりますし、財務効率上、経営者のリソース配分上も中途半端になり失敗の原因となります。経産省も表立っては言えないけど、すぐに元には戻らないと認めているからこそ、こうした構造改革の補助金を設定しているのです。
つい最近、とあるECモールの中の人とお話ししていたら、そこでは、「ワクチンがいきわたり始める5月、6月にはECモールの好調は頭打ちになる」と予想していると言われていました。しかし、ワクチンがいきわたるには現実には相当長期間が必要ですし、一回打てば一生安全というわけでもありません。
ワクチンがいきわたっても、「別にオンラインでいいじゃないか!」「オンラインでできる仕事を選びたい」という「慣れ」は元に戻りません。また、非正規雇用の減少に伴う社会の「多数派」の可処分所得の減少の影響は、このまま固定化し、それは衣食の低単価志向として定着するでしょう。
「富裕層・大企業勤務正社員層」は影響をあまり受けていない(むしろ、株高で資産効果が顕著になってきている)ので、需要は堅調ですが、今度はそこで競争が激化しますので、知見もなく「富裕層ビジネス」に飛び込むのは、「事業再構築」と同じくらい危険です。
つまり、「非対面」「自宅勤務」「自宅飲食」「ネットで代替」「定員の半分がこれからの定員」「いちいち消毒要員が動く必要」「公共の場所では、会話を控える」などはこれからも持続するということを前提に事業を計画する必要があるということです。
②あなたの会社の提供している「価値」は何?
そのうえで、「場所、形」と切り離して、あなたの会社が提供できる「価値」は何かを今一度明確にして欲しい、というのが次のステップです。わかりやすい例でいうと
などです。簡単なのだけだとずるいので、難しいのもいくつか挙げて置きましょうか。
異論はあるかもしれませんが、こんな感じで、その仕事自体が今提供している価値が本当は何なのか?ということを明確にするということです。この時、気を付けなくてはならないのは、「伝統」とか「ブランド」とかは、よほど誰もが知っているようなものではない限りは新しいニーズに対応する場合には関係ない、ということです。
③その価値を、新常態にネットを活用してできるだけ低コストで提供する
次に大事な点は、その価値(以下、「コアバリュー」といいます)をどのように届けるか?という点です。そこで考える必要があるのは、「今いる人員を(全員)使う」とか「今と同等の売上規模、利益規模をあげる」ということではありません。ここが非常に大事です。
考えるべきは、「自社のコアバリューを新しい形で提供することにおいて、他社よりも早く、他社よりも上手に(=高く売れる、安く作れる)できる仕組みを作る」ことであり、コアバリューを産出する人は従来事業と共通で必要でしょうが、その他の部分、今回の場合、ネットを用いて届けるなどの部分は、専門家活用や新規採用などにより新しく、「勝てるチームを作る」必要があるという事です。そして、従来の形式、業務の進め方にこだわらず、今のネットの力を活用して、「十分低コスト」である新しい形態にそのサービスを収める必要があります。
その結果が、新しく発生するコスト+従来の人員のコストを十分賄う規模になればみなハッピーなのですが、実際にはそうはならないケースが大半でしょう。新しく構築した事業は、売上も当初はそれほど見込めないが、コストも十分小さく、一人当たりの付加価値は今までよりも大きくなるが全体人数は減少することを受け入れる、という設計にすることを念頭に計画する必要があります。つまり、生産性、利益は改善するが、人員規模は縮小する場合が相当割合あるということです。
「事業を再構築する」ことの現実は、誰も正面切って言わないものの、そういうことです。新しく必要になる技能、人材もいるが、新業態には活用できない技能、人材もあるということを認識し対処せざるを得ないし、単価は下落し、数を稼ぐ必要があり、いきなり今の売上、人員を全部賄えるわけではないのです。
再構築前後のスキルの需給ギャップをトレーニングで転換できればよいのですが、特に中年以降を中心になかなかそれも現実にはうまくいかないでしょう。こうした変化は、10年程度の時間の間には昔からどの会社にもいろいろな形で起きていて、それが多少の摩擦を起こしながらも静かに変化が起きていくのですが、今回に関しては、その10年の変化が1年で起きてしまったようなものであり、急速な変化が必要になっています。だからこその大規模な政策支援が行われるわけです。
④専門家の役割と活用方法
私は、補助金だけのお手伝いしません、と冒頭宣言しましたが、こうした事業再構築自体をどのように企画し遂行するかにはとても興味があります。その点のご相談は大歓迎です。
多分、この再構築を遂行するには、新業態の自社のコアバリュー以外に必要になるスキル(たとえば、ネット活用など)に通じていて設計、調達などができる人のほかに、既存人員含めてプロジェクトを管理・推進するプロジェクトマネージャー的な人が必要になります。
このように明日の会社を生み出すために必要なのは、申請書をうまいこと書いてくれる中小企業診断士ではありません。もちろん、経営者ご自身にプロジェクトの遂行に強くコミットしていただくことは重要ですが、作業量からして経営者がこのプロジェクトマネージャーを兼任するのは無理がありそうです。
こうした専門的スキルを有する人は従来は大企業に偏在しており、中小企業にはなかなか接することができないものでした。しかし、今、多くの大企業、特にネット系企業では、「副業可」となっており、優秀で仕事を定時で終えられるような人材が6時~9時にリモートワーク中心にプロジェクトに参加することが可能になってきました。多分、中小企業がこの2021年の「再構築」を乗り切るには、こうした副業人材を活用するのが、一番現実解であると思います。
ただし、そのためには、結局経営者がコアメンバーがSlack等のビジネスSNSやZOOM等を活用して、自分たちの要件を具体的に伝え、進捗成果を具体的に把握するスキルが必要になります。副業人材は、今までのように朝から夕方まで机を並べて雑談し、パソコンをのぞき込むようなコミュニケーションはできないのです。結局、変わらなければならないのは、「事業」ではなく、経営者であるあなたの仕事の進め方自体です。