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3月の魔術師

もうすぐ2月。この時期になると、20年ほど前に同僚だった三●●さんのことを思い出します。彼の異名は、「3月の魔術師」

 彼は弁が立つとか、頭が切れるとか、そういうわけではないのですが、誠実そうで好感度の高い営業担当でした。確か、その前に経営破綻した山一証券からの転職組だったはず。そんな彼を神は見届けていました、それも2年連続!

終業後に事務を主幹してくれている女性が帰ったあと、社に戻って見積りを作ったり状況確認をしているときに、まじめな彼はかかってきた電話をきちんと3コール以内に取っていました。だいたい、かかってくる電話のほとんどは、既存顧客との連絡なのですが、なぜか彼は、「比較的急ぎで納品してほしい超大型案件の問い合わせ」を2年連続して電話を取り、その場で概要を説明し、翌日には受注を取り付けてしまったのです。それも、通常のスポット案件のサイズが数百万円の中、その十倍以上の規模の案件を。
 納品物をカスタマイズ等して制作するシステム部門にいた私たちは、期末までに突貫工事を強いられるのですが、もちろんこの忙しさはありがたいことです。その上、彼はよくわかっていて、あまりカスタマイズ作業が膨大にならない範囲に商談内で対応を抑制してくれていたのもありがたかったです。

幸運だけで終わらしては失礼な話で、彼に説明能力が十分あったこと、そして、第4四半期は、余った予算の消化や来期の事業計画の準備などで、顧客側で大型案件が動く時期であった、ということが背景にはあったことです。

時代は回り回って、2021年。私がお世話になっている会社で、特に士業事務所で3つ、電話代行を入れている会社が増えてきました。昔と異なり、今の電話代行は、受電したあと、Slack等のビジネスSNSに用件をメモですぐに流してくれ、折り返す必要があるものだけ担当者が折り返すという仕組みになっています。

 この仕組みを使えば、「電話を取るのは女子、総務の仕事」的な男性既得権益空気を排することができますし、リモートワークへの対応も容易ということで昨年来ビジネスとしても伸長しています。また、そうではなくても、かかってくる電話の大半は営業電話で折り返す必要がありません。というのも、日常のやり取りは昔以上に、メールやチャットに移行していますし、そもそも知っている人同士で必要があれば携帯電話番号を交換しているので、今電話で必要な用件を言ってくる業種は、こうした便利さを依然として使えない「銀行」だけになりつつありますので、結果として余計、固定電話には「いらない電話」の割合が増えています。クレームも、いったん止めて調べてから折り返せるというのは、相手にとってはどうかと思いますが、会社にとってはありがたいことです、その間に怒りが静まってくれればありがたいのですが。
 だいたい、PCで集中してでっかいEXCELの表を作っていたり、ピクセル単位でパワポの調整をしているときに電話に妨げられたくはないし、そもそも、固定電話の通話量は、この15年余りで1/6に減少しています。


 応対してくれる代行業者の人も、男女両方のパターンに出会いましたが、両方ともさすがに対応は上手ですね。ただし、その上手さは、「折り返しお電話差し上げますがご伝言は?」とスムーズに情報を吸い上げて終話する上手さであって、「案件を引き付ける上手さ」ではありません。
 ある会社では、見積もりを依頼したいという電話にすぐに主力技術者が折り返してご説明し見積もりを出したが、その時にはなんだかさめてしまっていた、という状況がビジネスSNSに報告されていました。どうやら、今流行の「電話代行」では、三●●さんのような「三月の魔術師」は生まれにくいという欠点があるようです。営業が、総合力で相手の意思決定に作用する際、タイミングと勢いはやっぱり大事な要素なのです。

 経営者としては、この「欠点」をどのように理解・対応すればよいのでしょうか?昔の営業部長的立場で言えば、一件でも可能性があるならば、それをとことん追いかけるべき、ということでしょう。(そういう自分は電話を取らないで、「電話応対は女子の仕事」的な態度をとっていたりしますが)固定電話の費用自体は、価格競争とひかり電話普及の影響で、今ではさほど大きくないケースが増えています。それでも、「固定電話の日常対応をやめる」ことは正当化できるのでしょうか?

 この選択においては、多分、代行業者が宣伝文句にしているコストダウンやスピードアップではない、もっと別の要素が重要な判断要素です。この方法は一定の顧客候補や取引先を「折り返し待ち」にするだけとはいえ、排除するフィルタを行っています。特に、「初回問い合わせ」にそれは強く作用しています。
 具体的には会社のビジネスの進め方を「文字ベースできちんと伝える」という方に誘導し、そこを苦手とする高齢者や古いタイプのサラリーマンを遠ざけています。それは一時的な顧客候補の減少にはなりますが、業務を効率化高速化することには役立ちます。もちろん、そのためには、問い合わせフォームやチャットフォームなどがwebに代替手段として用意されていることが同時に必要です。

 最近の事例では、月額2980円で20Gまで使えるスマホプランを3大キャリアが発表しましたが、このプランは「ネットでの受付、自分でのSIM交換等対応」が必要であり、これらに対応できないIT弱者層は申込できません。これを大新聞上で非難する意見を述べている評論家がいましたが、街の携帯ショップの窓口では、一円にもならない高齢者の使い方相談に、2時間も3時間も取られて全く仕事にならない状況に困っていて、「どうすればこうした対応を切れるか」が重要な課題になっています。
 これは、携帯ショップだけの話ではありません。やたらと手間がかかるが、売上・利益は上がらない顧客層はどの業種にもいます。これを昔は必死に維持するのが正とする風潮がありましたが、現在は、何等かの方法で整理する方がよく、むしろそうした顧客には競合他社に行ってもらった方が、競争上も相手のコストを増大させることができますので、自分たちはよいわけです。その代表格は、「固定電話で要領をえない話を延々する人」「自分の考えていることを上手に言語化できない人」です。
 営業には、こうした要素を具現化して相手に見せることで案件化し、それを刈り取るという機能が期待されているわけですが、それにしても「現状」や「困っていること」を現地調査し時間をかけてヒヤリングして書き起こし、そしてその内容を確認してもらうというような時間とコストをかけることが割に合わないような単価のサービスが世の中では多くなってきています。その場合には、入り口をいったんフィルタリングして一定以下の案件を足切りして、残った案件に要領の良い対応ができるようにすることは経営的には「ダメなことではない」のです。
 まあ、そういう「やっかいさん」が十分な支払いをしてくれればそれでよいのですが、そういう人に限って、仕事に占める人件費の重さをわかっていない傾向にあります。

 では、三●●さんのような人は、今後現れないのでしょうか?あるいは、そうした微妙な相手の意思決定への作用を操作するような営業手法自体、時代遅れなのでしょうか?

 皆さんの会社には、「電話での問い合わせ」はたくさん来ていますか?改めて数えてみてください。実は、メールやwebフォームの方がずっと多いはずです。そして、時々、というよりもそこそこ多くの会社で、webフォームでサービス案内の要望を送っても、返信が来ない会社があります。来たとしても3営業日ぐらいかかっているケースもありますし、その返信が問い合わせに具体的な状況と実現希望事項を書いているのに、webにも書いてある普通のカタログの内容を繰り返しているだけという事もあります。もちろんそういうところは、そこで商談は終わりです。それ以上追いかけても、担当者がボヤっとした感じのところは手間ばかりかかります。ちゃんとした上司を出してくれ、と言いたいところですが、それができるケースは限られています。

 三●●さんなら、多分メールが着信して5分後に折り返し連絡先にお電話して、短時間の確認インタビューをして、そのあとその晩のうちに見積もり送っているでしょう。結局、時代が変わって問い合わせの入口が変わっただけで、そのあとに営業がやっていることは変わらないのです。逆に、web問い合わせ対応が要領を得ていない人は、多分電話の時代も要領が悪かったでしょう。webの時代だからこそ、鋭敏でアジリティのある営業担当を直接応対する責任者にする必要があるのです。

 私の方はそのあといろいろな会社を流流転転してしまい、その後三●●さんがどこでどうされているのかは存じません。彼が若いころの伝説を今でも誇りにして、今は電話というよりもメール問い合わせの対応に一生懸命だと、私的には話のつじつまが合ってよいのですがどうなのでしょう…

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