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2020年をけっこう雑に振り返る②~来るモノ

前回から、年末恒例企画「一年を振り返る」をお送りしています。一年が速いなあ、と思うのは反省もなく毎年のことではあるのですが、今年がそのうえ季節があった気がしないのは、ずっとマスクをしていたせいでしょうか?

前回は、「逝くもの」として、急速に存在感を薄れさせているビジネスを取り上げました。こちらです。

前回の投稿のあと、「百貨店は?」(インバウンド以外はもうだいぶ前から終わっている不動産オーナー)「税理士は?」(AIにとってかわられると言われているのですが、クラウドサービスで効率がアップして単価が下落することはあるが、「標準化」がない限り、記帳代行はなかなかなくならないでしょう)などのコメントがありました。

さて、今回はそうした消えゆくもの達に代わって、市場でプレゼンスを高めているものを取り上げてみたいと思いますが、多くのものに共通していることがあります。それは、「行動単位や行動の判断基準が「会社」から「個人」、「同僚」から「気の合う友人」」「ターミナル駅」から「家の周辺」「家の中」へ、「石油石炭」から「自然エネルギー」へと変化したということです。

「会社が家庭、社員が家族」という高度成長期に定着した「会社ムラ社会主義」が徐々に「個人主義」にとってかわられる傾向はこの10年ほど、その世代の引退とともに顕著に表れ始めていました。昔は当然視されていた「同調圧力」が、問題視され、果てにはパワハラとの扱いがされるようになったことにもそれは現れています。

さらに今年は、「会社の思想的拘束」が大幅に緩和される事態が、自宅勤務の大幅な導入により生じたことにより、今まで上に気兼ねして言わないでいた「古い、不快な慣習」が「言ってもよいこと」になってしまい「革命」が進行しやすくなってしまいました。ある年配の管理職は私にこう言いました。「早く正常に戻したい」一方、テレビはこう言っています。「ニューノーマル」。古い正常と新しい正常があちこちでぶつかっています。

しかし、一方でこれにより「都心への一極集中」の逆回転が始まり「地方移住」「地方創生」が進むか?という期待もあるようですが、それは全くそんなことはないと断言できます。都会で徐々に解消しつつある、会社の「ムラ社会の束縛」はもともとはその「地方の精神文化」が高度成長期に大量に上京し、モーレツに働いた人たちにより会社に持ち込まれた「地方の文化」です。隣の住民税額までばれていて、勤め先での評判が近所にすぐ伝わるような地方の在り方自体が多くの人にとっては、「旅行先」ではあっても「居住先」にはならないものであることは、「個の時代」には一層強化され、一層「地方の凝集性の高いコミュニティ文化」は嫌がられるものになったともいえるでしょう。

「変わる」というのはどういうことか?というのは次回、少しまとめてみたいと思っていますが、総じていえば、「個」の時代、「自分の生きたいように生きる時代」の流れは高度成長にストップがかかった70年代以降徐々に進行していました。旅行は会社の団体から家族単位の個人へ、居酒屋は広間から個室へ、ホテルはバンケット運用、結婚式営業から個人のアクティビティへと重点が変化し、それに乗り遅れたものが淘汰されてきましたが、その流れがとても速まった一年であったと思います。

前置きが長くなりましたが、それでは、今年「来たもの」をいくつか列挙してみましょう。

①飲食店のテイクアウト、デリバリー

もともとエキナカの中食(惣菜店など)の売上拡大のように、働く女性層の増加を背景に、できたものを買って家で食べることは拡大の流れがありました。業者がセントラルキッチンで作るものの方が珍しい調味料やきれいな色のものなどを使い、おいしいしよくできています。今年は、「ポテトサラダぐらい家で作れ」と他人にケチをつけるおじさんがSNS上で糾弾されましたが、このおじさんは時代の変化がちっともわかっていない。

さらに、今年は飲食店の営業が制限されることが続き、救済策的な位置づけでの衛生許可、酒販許可が実施されテイクアウトに挑戦される飲食店が増えました。ただし、本来の店舗スペースでの売り上げの減少を十分補えている店舗というのはまだ聞いたことがありません。そもそも一番重要な「立地」がテイクアウト用ではありません。テイクアウト用にはテイクアウト用の立地と値付けと商品設定が必要です。そのことをわかっている人はまだ少ないし、わかったとしても特に立地において踏み切れないという人は多いようです。

飲食店オーナーのテイクアウト戦略はエキナカの総菜屋との競争ではだめなのでしょう。むしろ、家族や仲間が集まる場での「外食の代わり」を担っていく戦略が必要です。また、過剰になった厨房や座席などの設備をあきらめるのか、という点は決断が必要な状況が続いています。そもそも、東京の飲食店数は海外の大都市に比べても人口比で非常に多い状況であり、しかもかなり極端に低価格という「構造問題」を抱えていました。誰もそれを今回の事態で指摘していませんが、そもそもオーバーストアが調整される必然性があったのに、それが低利益率、低賃金長時間営業で何とか維持されてきたのです。しかし、テイクアウト、デリバリーを第一に考えると経営の在り方、生産性の考え方は全く変わってきます。まだまだ飲食店をめぐる不自由な状況はこの先も長く続きます。「変化すること」を選べるかどうか、経営者にとって重大な局面に来ていると思います。

余談ですが、この関連では、テイクアウトの注文画面や管理システムと、複数のデリバリーサービスと契約しているお店の管理台帳システムを開発している青年と最近出会いました。実は彼は、この仕組みをコロナ前から開発していたのですが、そのきっかけは、「中国のテーブルで自分のスマホで注文する仕組みを日本でもやれないか?」というところから発案していると言っていました。そうした「逆タイムマシン経営」が出現し始めています。

②洋上風力発電

今年は日本でも大型の洋上風力発電で具体的な動きが次々と具体化した一年でした。洋上風力発電はヨーロッパの北海を中心に急速に風車の大型化と関連産業の集約が進み、結果として補助金なしでも産業として実現するレベルにまでなっています。アジアでも中国、台湾が大型の洋上風力発電を手掛けています。日本もようやく遅れて立ち上がり始め、電力会社、ゼネコン、商社などが入り乱れての陣取り合戦が激しくなっています。

ただし、日本でも欧米並みの低価格が実現するか?というと、このままではそうはならないだろうと私は見ています。というのもここに至ってもやはり、日本の産業に特有の重層下請け構造が温存され、かつ投資規模が中途半端な状況が続いているからです。また、実は風車の洋上発電に用いる大型機の発電機部分は国産メーカーは一つもなく、ヨーロッパと中国のメーカーが世界を席巻しています。また、日本では遠浅で利用可能な海域が少ないという言い分のもと、「浮体型」が長らく国策として開発されてきたのですが、これは小規模な離島用などの用途以外には芽がない(コストが高いうえに技術的にも日本単体では必要な稼働率確保ができなかった)ことがようやく公になった状況です。世界の主流技術でどんどん研究開発投資をして価格と大型化で競争する、ということがここでもできず10年の遅れをとってしまったのです。

菅政権の環境政策の強化の流れは、単なる道徳論ではなく、そこに用いられる技術の開発が国際競争力を維持するうえで不可欠のものである、という考えに基づているのだと思うのですが、その意味では大きく立ち遅れてしまっている分野に今、誰もチャレンジャーすらいない(ジェット機でとん挫した三菱重工は、ここでも今年ヨーロッパ大手との合弁を解消し相手からの仕入に舵を切っています)状況に残念に思っています。

③EV(電気自動車)

その流れでいうと、今から10~15年後には日本を含む世界の先進国からガソリン車は消える、というタイムライン設定が今年は明確になりました。自動車産業は日本に最後に残された世界で競争できている産業なわけですが、この流れは、「ルールを変えた方が有利」な国が仕掛けている面もあります。EVになって何が変わるのか?というと、エンジンがなくなっても車輪、ハンドル、ドアなどの大型で荷重の大きな可動部品があることからオーディオ、パソコンのように極端なものになるとは考えにくいのですが、それでもそれらのような「汎用部品の組み立て産業化」がかなり進む面はあると思います。そして、その先には、高級車路線とは別に、庶民の手の届く低価格モビリティが圧倒的数量をもって実現することを私個人は期待しています。

私が子供だった1979年、テレビでは「よんじゅーななまんえん」を連呼する軽自動車suzuki「アルト」のCMが話題になり、歴史的大ヒットとなりました。それから日本は誰もが立派な車に乗る時代になり、軽自動車ですら150万円をこえるような時代になりましたが、今また、都会では「車なんて経済的に無理」という世帯がずいぶん増えてきています。(東京都の昨年の詳しい調査結果はこちら)この分野でも、「徐々に貧しくなっている個」へ産業は対応を迫られているのに、旧来の自動車メーカーはそれを一顧だにしていないように見えます。

膨大な国内需要を有する中国メーカーが21世紀の「47万円」を実現してくれるならば、市場は大きな変化を迎えることでしょう。

④音声の文字化と翻訳

「会議の文字起こし」を自動で行う、というのは「音声認識」技術が普及し始めた20年前からの古くて新しいテーマですが、そのうち最も難しい箇所の一つは複数人がバラバラに違う口調で話す状況をどうやって識別するかという部分でした。実はオンライン会議はこの問題を解決するのにとても向いた仕組みです。誰が話しているかが仕組みとして識別できますし、進行の仕方も、一人がしゃべっている間はそれをきちんと聞いて、それを受けて次の人が話し始める(当たり前のことなんですが)、ということが徹底しやすいからです。

また、この分野の製品は、従来非常に高価なものが多かったのですが、最近では非常に低価格化してきています。というのも、これらの技術の多くが機械学習(AI)の技術を用いており、その「学習データ」を集めることが重要な競争要素になっているからです。

同様に翻訳についても優れた技術が無料で公開されるようになり、私も仕事でかなり利用して時短効果を得るようになりました。現在の製品を試してみると、まだおかしな文字化が目立つ部分もありますが、「言った言わないのトラブル」を避ける程度の精度にはなっています。そして、翻訳と組み合わせることにより、日本人の苦手な外国人との打ち合わせが容易になるという可能性があります。というわけで、ZOOM対TEAMSの第二幕の戦いは、この辺の技術の買収と実装から始まるのではないか?と思っております。

でも、議事録って言葉を正確に文字化するものではなく、議論を集約、それも自分に有利なように集約するためのものです。そこは依然として人間の仕事ではあります。

⑤外国人の日本での起業

この関連のお手伝いをしている、ということもあるのですが、今年はアジアからの製品や技術の売り込みのための起業という場面を多く見かけました。もともと対日投資の拡大というのは、中曽根政権のころ(30年以上前!)からの日本の政策課題だったのですが、当時の経常黒字の削減という狙いとは別に、今では、「日本の経済の活性化のために外国の経営者のノウハウや技術を活用する」ということに重点が置かれるようになりました。つまり、「外国でうまくいっていることを日本でもぜひやってください」とお願いしているわけです。

しかし、日本が外国人にとって起業し、成功しやすい国か?というと、決してそうではないと思います。もちろん、どこの国でも外国人の信用というのは難しい課題です。それを手助けできるのは、日本人であり、それもまたビジネスチャンスです。

一部にはかたくなに認めようとしない人がいますが、安くて高性能な製品は中国、韓国、台湾にたくさんあり、日本にはない優れたDXサービスがたくさん普及しています。20年ほど前には、「タイムマシン経営」という言葉で日本のノウハウをこれらの国に移管することで儲けられた時期がありましたが、今そのタイムマシンの方向は逆向きのものが多く存在しています。

私たちが使う家電品の多くは海外製(それがよく知る日本ブランドのものであったとしても)であり、衣類もほとんど海外製です。そればかりが、これを見ているパソコンもスマホも、そのOSも、ブラウザや検索サービスも多くが海外製です。かつての日本を知る人は、日本がアメリカの半分ぐらいの規模であるとか、世界の10分の1ぐらいの経済力であるとか、そういう幻想を持っているようですが、それはビジネスの判断を誤ります。日本は世界のほんの一部であり、日本向けだけでは世界はもちろん日本国内市場向けでも勝てません。世界と競い世界で売り、世界からノウハウを学び日本で勝つ、そういう時代を私たちは生きています。

⑥EC

私も2社ほど事業会社のECの伸長をお手伝いしておりまして、今年はずいぶん勉強しました。幸いにも、コロナ期の3~5月はもちろん、10月以降も好調に推移しています。この話はたびたびこのブログでも触れていますが、年々0.5%~1%程度というゆっくりしたペースで進んでいた各業界のECは、今年一気に数年分の進行を見せた模様です。

というと、ECの方が売れる、と短絡的に思われる方が多くて困るのですが、それは大きな誤解です。手に取ってモノが見られる仕組みの方がお金を出しやすいに決まっています。では、なぜ、こんなにECは伸びているのか?というと、それは、「従業員数や地代を節約できる」という面が一つ。もう一つは、「施策と効果の検証がしやすく、少しづつでも改善するということがしやすい仕組みだから」です。だから、人数は少なくて済みますが、その分データから判断し、文章や画像を編纂できる人材が必要になります。もちろん、データ分析ができれば売れるか、というとそういうものでもなく、結局優れた商品を仕入れるバイヤー機能は重要ですし、それをどのようにアピールするかは、文章と写真・動画のみで実現しなければならないのですから、そこへの人員も必要です。ただし、「お話が上手で清潔感のある店員」は必要がありません。

ECにはECのできる人材・チームが必要です。それに気づいていち早く体制を構築できるか、片手間かで「中小企業のEC」は特需がなくなる2021年には大きな差がつくことでしょう。

⑦おうちオフィス、おうちエクセサイス

日本の企業が「リモートワーク」「自宅勤務」を大幅に取り入れることなんて当分ないだろう、と私は去年の今頃は思っていました。去年の今頃と言えば、夏に迫ったオリンピックに向けて都内への流入を減らすためにリモートワークの推進を東京都が盛んに呼びかけていた、という状況でした。日本の企業の情緒主義、メンバーシップ型雇用は問題を感じつつも岩盤だと感じていました。

それが、あまり望ましくはない理由ではあるものの、一気にリモートワークが「当たり前のこと」になりました。この状況では、仕事の評価は、「アウトプットを見て評価」にならざるを得ませんし、「残業していて偉い(↔さっさと仕事を終えて帰ると顰蹙)」みたいな評価もつけようがありません。

秋になって、レガシーな(丁寧な言い方です)会社では「通常に戻す」という動きが次々と出てきていました。つまり、リモートワークは災害時の緊急手段であり、オフィスで机を並べるのが正常である、という考えを捨てるには至らないケースが多くあったのです。これが売上額や有効商談数などのデータに基づく結論であるならばよいのですが、多くのケースではそうではないようです。(このリモートワークのプラスマイナスの計測データはどこかでぜひ見たいものです)そこへ冬の訪れとともに再度のリモートワーク要請。コロナは迷惑ですが、リモートワークでも済む業務、大して生産性に影響しない業務というのは世の中にたくさんあるわけでして、定着に向けてよかったな、と正直思っています。そして、ZOOMなどのオンラインミーティングツールやビジネスチャットが当たり前の存在になり、クラウドベースの各種サービスが会社の既存の業務、帳票を置き換えていく流れは加速していきます。業務進捗管理、成果管理、あるいはチームビルドなどオンラインを前提としたサービスの開発と提供もこの先加速するでしょう。

これに伴い、「仕事の帰り」にやっていたアクティビティも一部が「自宅でやる」ビジネスにチャレンジするようになりました。特に目立ったのは、運動不足を訴える声。私も通勤電車の中でおよそ15000時間を過ごしてきましたが、確かに運動にもなるし汗もかく、それが正常だと思い込んでいたところが怖いですが。私の知人ももともと定評のあるサービスをZOOMで有料でエクセサイズの講師を提供し(朝でした)、好評でした。

⑧副業人材

最後に一つ。今年は「こんな人材を探しています」と顧客の人的資源管理について、人材業界や経営者仲間に相談すると、昨年よりもはるかに高い割合で「副業でもいい?」と聞かれました。また、昔の知り合い(若い方が多い)と話すと、「うち、副業可になったから、場合によっては手伝うよ」というお話を聞くことも増えました。(ソフトウエアでは実際1件、発注しました。)

「給料をあげられない時代」に「副業」は静かに浸透しつつあることを実感しました。力のある社員の副業は私にとっても競争相手の増加である面もあるし、同時に顧客の問題解決に、実務能力のある即戦力を供給できる可能性が拡大するという面もあります。

しかし、受け入れ側の会社では、「プロジェクトとして、期日、ゴール、コストを切り出し、進捗管理、レビューを行う」という仕事の仕方が普段できていないだけに、副業人材の扱いに困る(結局私がそれを管理することになる)というケースがまだまだ多いようです。副業人材は、だいたいが夜と休日の稼働ですので、ドキュメントでのやり取りになることに不自由を感じる40代以上管理者も多いようです。

⑥⑦⑧に共通することとして、昔は、同じ部屋の中で顔色見ながら叱咤しあげ増し、チーム運営をしていたものが、プロセス、データで管理するということに「会社のやり方」が変わることを迫られている局面がたくさん起きてきています。それを推し進める会社とそうではない会社、それに積極的に対応できる言語能力の高い管理者と、言語よりも感情共感などで人をまとめたがる管理者がいて、主導権を争っている状況なのです。

というわけで、まだまだ、「今年の変化」はたくさんあるのですが、私なりに目についたものをあげてみました。次回は年末企画最終回として、こうした変化はどのように起きるのか?についてまとめたいと思います。

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