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2020年を雑に振り返る①~といってもコロナばかりで

例年この時期には一年のビジネスシーンを「変化」に着目して振り返るという記事をいくつか書いています。昨年はこちらから2回に分けて。

そして一昨年はこちらなど4回に分けて。

今年も準備しようと思って、整理をしていたのですが、自分の記憶もニュースも本当に「コロナ対応」ばかりです。実際には、その水面下で様々な変化が加速し、あるものは市場が縮小し、あるものは復活し…ということが起きているのであり、何年かたってからそれに気づいてももう遅い、ということになるのですが、それにしても伝染病の社会に与える影響の大きさを過小評価していたことを実感している経営者の方は私だけではないでしょう。

日本では戦争を知らない世代が経済の中心にいます。今回のコロナ禍は私を含むそんな世代にとっては、「戦時」を思い起こさせるものでした。日本中を冷たい空気が覆っているようなこの感覚は、90年代の不良債権の時にも、リーマンショックの時にもなかったものでした。これらの時には、「売れないながらも顧客を当たって走ることはできた」のですが、今回は、「走るな」といわれている状況も多くあり、まったく異質なものでした。また、東日本大震災は、三陸を中心とした地域では大変な被害でしたが、機能不全に陥ったのは一部の地域に限られていました。今回は日本、いや世界全体で同じような状況が続きました。インバウンド需要も、政治要因で隣国2国からの大需要が消失するリスクがあることは認識していましたが、伝染病で全部がなくなるということは全く考えてもいませんでした。

「どんなことが起きてもつぶれない会社」を作るということは経営者にとって最も大きなテーマですが、今回のようなことがあると、どれだけ現金を保有していればそうしたポジションに立てるのか?と心配になります。たとえば上場企業では、1年分のキャッシュを持つ(配当に回さない)ということを、現代の投資家、某村上ファンド等は許容するのでしょうか?ぜひお考えを彼に聞いてみたいものです。

そんな中でも変化は着実に起きていますし、それはおそらくかなりの部分不可逆的です。このブログでも折に触れてコメントしてきましたが、今年は年末にあたって、そんなこの一年で、今日は「縮小」したもの、次回は、「拡大」したものを整理してみたいと思います。

こんなものが縮小している 2020

  • スーツ店:数年前からカジュアル化や人口減で減少が言われており、郊外型チェーン店はカラオケボックスやネットカフェなどの兼営に舵を切っていましたが、そこからさらに今年は急激に減少しました。ただ、これは「コロナ」だけが理由ではありません。その一方で先日ユニクロの大型店(新宿)に行きましたら、自宅で洗えるものでハイセンスで安いものがいろいろ取り揃えられていました。いわゆる「スーツ」でなくてもちゃんと見える服装はユニクロに代表されるアパレル店でより安価により自分らしく揃えられるようになってきています。だから、そちらに需要は融合して行って、いわゆる「スーツ店」には戻らないでしょう。ネクタイの需要はもっと減っています。私自身今年は、3月以降は5回ぐらいしかしていないと思います。「仕事の服装」はここ数年、大きな変化が起きつつありましたが、今回の件は決定打でしょう。ちなみに中国では、儀式でもない限り仕事にスーツは着ません。

  • 居酒屋、和食店:これは言うまでもなく、営業自粛要請によるもの、とは私は思っていません。より本質的な問題は、「会社の経費で飲み食い」することが営業上はほとんど不必要であり、そのうえそんなことをやりたいと思っている人も実はそんなに多くないことが明らかになったということだと思います。実は、法人で今年はコロナの影響で売上がかなり減っているという話は聞きますが、その割には収支が極端に悪化したという例は飲食・小売り以外ではあまり聞きません。私の顧客でも売り上げは減っていても、利益は微減程度です。なぜかというと、「既得権益化していて減らせなかった経費、つまり「楽しい」交際費や出張費が使えなくなったから」です。そして、いったん減ってしまうとそれが標準になるでしょう。
    飲食店については、状況が改善したら気の合う仲間同士でたまには連れ立っていけばよいと思うし、その需要はもちろん残るのですが、自分のお金でそんなに頻繁に1回3千円、5千円も払えるほど今の40代以下は裕福ではありません。これは一種の福利厚生だったのです。飲食店はこの変化、つまり貧しくなりつつある「個人」「自腹」に対応しなければならないでしょう。この「貧しくなりつつある」というところに対応するところが問題の直視を難しくしているようにも思います。

  • 出張:都市内の往訪は徐々に戻ると思います。ZOOMで済むと言えば済むのですが、準備と伝わり方の確認とを含めると行ってしまった方が楽という営業のケースは残るからです。
    しかし、出張はその旅費+時間のコストが大きいだけに、ZOOMなどのオンラインミーティングツールで代用するという圧力は明らかに高いものになります。また、出張なら一人で行かざるを得ないことも、オンラインミーティングならば若手を同席(コスト面)、上司を同席(時間面)させることも容易であるというメリットもあります。代替しうる場合には、オンラインで行い、どうしても対面で詰めたいときだけ訪問ということはこれから多くなることでしょう。
  • 展示会、博覧会:コロナのさなかに3つほど東京ビックサイトに見に行きましたが、どれも昨年比で大変貧相になっていました。今年は仕方がないでしょう。でも、これ、来年以降戻るんでしょうか?たしかに、何かを探したいとか、業界のトレンドを把握したい、という場合に業界の代表的企業が一同に会するこの仕組みは購買側にとっては意味があるものでした。実は私は結構な数の協力会社を展示会で見つけたことがあります。ただ、出店側からするとコストに見合う効果が得られるか?というと、それは「意思決定権に近い、課題を持つ人がたくさん来て名刺を置いて行ってくれる」ということが必要です。普段は電話してアポとってあちこち往訪しなければならないコストを出店費用をもって変えられるというのが実現するか?ということに価値があるわけです。つまり、「密でなければ価値がない」のです。一方でネットでこれを代替する試みも今年たくさん行われました。ソフトウエア産業やサービス業では、実はこれでもできてしまう部分はたくさんあります。ただし、アパレル、素材、食品など実物を触る、試すことに価値があるところもあります。webミーティング+サンプル送付でこれが代替できるようになれば、局面は変わることでしょう。

  • ガソリンスタンド:これはコロナとは関係ありませんが、ガソリンスタンドは高燃費化と価格下落、耐震投資義務化を背景に長期的にどんどん減少しています。その中で、今年はEV推進が政治的テーマに特に菅政権発足後に浮上してきました。将来性がないならば、設備投資はできず、機会を見て廃業する流れは強まり、廃業が増えインフラとしての密度が低下すると、利便性はさらに低下していきます。そうなると一層、EVが必要になるようになる、というわけで100年産業を支えてきた社会インフラが重大な局面に差し掛かりつつあるように思います。

  • MVNO:いわゆる「格安スマホ」は総務省がシェア拡大政策に2016年頃から躍起になっていたのですが、結局大手キャリアのサブブランドであるワイモバイル、UQモバイルの低価格化を受けてシェアが伸び悩んでいました。正直、格安スマホはどこも業績があまり良くないようです。回線と端末の分離、無駄なオプションの排除などがキャリアでも進み、政権がキャリアの正規ブランドの価格を下げることを明言する中で、MVNOの一般用の通信端末としての役割は終焉を迎え、再び寡占へと立ち戻るように見えます。実はこのような動きは他にもあり、
  • 電力 も2016年に低圧領域が自由化されたのに伴い、一気に数百社が新規参入しましたが、ここ2、3年は大容量をつかう高圧領域の大ユーザーでは地域電力、特に東電、関電の強烈な価格攻勢が続いています。つまり、効率が良いところでは限界費用の安い(設備を保有する)電力会社、上の例では通信会社が価格攻勢をかけると、新規参入組は勝てず、効率の悪い小ユーザーを集めなくてはならず、結果として価格競争力、投資力がそがれるという「自由化がうまくいかない」実像が見えてきました。

  • 出版:これもここ数年ずっと歯止めなく凋落が続いています。20年で売り上げも書店数もざっと半分です。これが「電子書籍化」しただけならば時代の推移と言ってしまえばそれまでなのですが、統計的に見ると、「読書時間」自体が減っていて、長い文章を読むという習慣が日本人から失われつつあります。それにとって代わっているのは、画像、動画です。だから、政府も今年から事業者向けのコロナ対策政策資料を動画で作成して公開したりするようになりました。私もこんなにダラダラ書いていないで、動画にしないと誰も見てくれない時代なのでしょうね。

  • マスコミ:新聞の凋落は長く続いていますが、今年は広告売上の低迷がさらにそこに拍車をかけて、赤字、人員削減、ということが大新聞でも起こるようになりました。まあ、異様な高収入を是正しないと他メディアとの価格競争で不利であることへ対処していないことが背景にはあります。これは収束に確実に向かっていて、ネットニュースへと移行せざるを得ない、というかその方が便利と自称知識層以外のほぼすべての人が思っているので仕方がありません。
    より大きな変化は、テレビ、ラジオ、雑誌を含めた「メディア」への信頼、社会における発言力、影響力というものが明らかに低下しているということです。別にメディアが正しいと思っているわけではないのですが、「神なき時代」が社会の不安定化要因にならなければよいのですが。

  • 郵便:これも20年で4割減っています。そこにコロナでさらにビジネス文書の電子化の流れが一層強まりました。これもネットワークで密度が下がると維持が困難になり、値上げするとさらに電子化が進むという構造があり、その臨界点をおそらくは過ぎているのでしょう。今の形の「郵便」は終わりつつあります。

  • 銀行の店舗:すでに無くなりつつあります。ついでにいうと、ATMもなくなりつつあり、減った利用頻度と台数を維持するコストが重荷になってきていて、手数料値上げの動きが増えてきました。(これには収益改善という面もあるのでしょうが)。キャッシュレス決済を政府が推進する中で、一般消費者が銀行に行くことはなくなっていくのでしょう。そして、銀行自体も多数の地銀、信金、信組がある状況が崩れつつあります。まあ、もともとこんなに要らなかったものです。今年は個人的に融資交渉や手続きで何度も銀行店舗に言ったのですが、無謬性を担保するために、異常に生産性が低い。その生産性の低さの負担をユーザーにもハンコ、来訪、紙書類、FAX、平日15時まで、という形でかけていることを問題だとも思っていない。業界みんながそうだから、守られていると勘違いしている。それではなくなるでしょう…

というわけで思いつくままに今年特徴的だったものを並べてみました。候補だったのですが、書かなかったものには、「結婚式場(今年は気の毒でしたが…)」「レンタカー(非対面型カーシェアへの移行)」「大型(高級)家具(入れ物としてのタンスの消滅等)」などがあります。

次回は、「今うまれつつあるチャンス」を同様に上げてみたいと思います。

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