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「できない人」への対処―オペレーショナルエクセレンス⑬

今回は、この連載で最大の物議を醸す内容です。最初に言っておきます。「会社は学校ではない。利益を最大化してそれを配分する装置なので、できない人を救う義務はない」

ここまでオペレーショナルエクセレンスを如何に構築するか?という「具体的方法」について連載でご説明してきました。もう3/4ぐらいまで進んでいます。その中で、何回か、「とりあえず、放置しておいてください」と言及した内容があります。それは、「社内ドラフトで余った(実は自部署にいないで欲しいと思われている)人」「想定される時間や品質で業務をできない人」への対処です。その対処が今回のテーマです。

いったん、この人を無理に配属せずに、「できる順に優先度の高い業務から人員を配置してください」と伝えていて、全体の業務量自体は減少します。その中でチェックリスト運用や手順書を作成するなどの一業務当たりの作業はやや増えています。ただ、これらの作業は、それほど非常に高度というわけではありませんが、それでもできない人はできません。それをやらそうとして、できていることを前提に仕組みを作るとまた今までと同じようにそこから綻びてきます。一方できていない前提で組み入れると結局ほぼ同じ工数で検査と修正の担当を配置することになります。そのため結局、工程に入れられないのです。

どんなに手順を文書化して、トレーニングを用意しても、全員ができるようになるわけではありません。そして、そういう人がどんな会社でも常に下位2割程度は存在しているという事実を直視しなければなりません。そして、日本では、これら2割を解雇することは法律上できません。

中小企業は大企業のように仕事の種類が多いわけでもありませんので、「簡単な仕事」というのも限られています。宙に浮いたこれらの人たちはどのように処遇すればよいのでしょうか?この都合の悪い話は、どの本にも講演にも出てきません。世の中を敵に回すからです。それを今日はやって見せましょう。今日の命題はこの二つです。

17.当日の業務計画上上司が事前に計画した残業「指示」以外はやらない。申請も認めない。できないメンバーは置いていく。

18.できないメンバーは給与が法規(最低賃金)内で減少する評価制度を導入する。

「できない社員問題」は「できる社員問題」でもあります。稼ぎに貢献できない、それどころか何かをやるとそのチェックと後から全修正を管理者が強いられるような社員にも給与は払わざるを得ません。そのコストはどこが負担するかというと、「できる社員」への報酬を減らしてできない社員に回すことによって全体はバランスしています。あるいは利益水準を本来必要な水準よりも低くして、今回のコロナ禍のような事態への対処力を落とすことで成り立っているとも言えます。日本の低い失業率は実はこのように所得水準、利益配当水準の低さという犠牲を払うことによって成り立っています。しかしながら、この問題は結局できる社員の退職、給与水準の高い大企業やベンチャー、外資への流出を引き起こしていて結局中小企業の競争力の低下を引き起こしていますので、何等かの対処をせざるを得ません。

最近、菅総理がデービット・アトキンソン氏の「中小企業淘汰論」に意を通じているという報道があります。アトキンソン理論は、中小企業の低い生産性を放置していることが日本全体の所得水準を低くとどめていると主張しています。それはかなりの部分真実だと私も思います。しかし、なぜ中小企業の生産性が低いのか?についての考察は丁寧さを欠いています。逆に言うと、大企業に組織統合しただけでは生産性は上がりません。彼は「投資水準」を生産性向上の第一に挙げていますが、それは正しくありません。最も根源的な問題は、「社員に不快な思いをさせてまで生産性をあげたい」と経営者が思っていない、あるいは「あげても意味がない」と思っている危機意識の低さやもっと言えば自分の所得に対する意欲の低さ、経営の責任の所在の意識の差にあるからです。それはこの特集も同じことです。一生懸命、「こうすれば利益は上がって、強靭な組織が作れます」という手順書を示しているわけですが、多くの経営者は「ここまでやらなくてもいいや。どうせなんとかなるし」と思っているので、採用しないのです。中小企業の多くは国内市場を対象にしていて、その市場はこれから毎年縮小傾向にあることがわかっているにも関わらずです。

それは実は大企業でも同じことでして。日本の組織には、リーダーシップが尊重され改革を断行する源泉となる力が一般にありません。日本には「リーダーの方針に従わない」自由が事実上存在するのです。それは企業でも、自治体、国においてもです。その「緩さ」に慣れてしまったことが、「徐々に起きる重大な危機」への対処を諸外国に比べて遅らせている元凶であると私は考えます。

——閑話休題——

残業はできない社員にやらせない

「できない社員問題」への対処の一つ目は、このシリーズでたびたび出てきましたが、「残業代を減らし、できる社員へのインセンティブやポジション給のアップに回す」ということです。具体的には、17にあるように、「できない社員に残業させない」で、「できる社員にやらせる」ということです。その方が品質も安定しますので上司のチェックの時間も減りますし、費用も減ります。多分できる社員は時間内に終えられることが多いのですが、どうしても時間内に収まらないならば「できる社員」に残業させ報酬を支払う方が正解です。

だから、できない社員が終わらなかった分は、回収して翌日できる社員に回す。仕掛かり途中のものも、最初からできる社員がやった方が結局早いです。「実はそうなんだよねえ」とオフィスの現場はこの内容を見て思うはずです。ただ、「給与が不公平だ」と思うでしょう。だから、「できない社員」を長期放置する会社と思われてはならないのです。また、日本でよくある「残業申請」というのは本来はおかしいのであって、「使用者」である会社から「残業命令」をするという現在の法規体系の通りの運用が正しいし、何が遅れていて、誰が手空きなのか?を5人程度の部下の今日から数日間の状況を把握できていないリーダーはリーダーとして適任ではないのです。

最近では、「固定時間残業制」で法定上限いっぱいの45時間の残業をつけているケースも増えていますが、これも適切とは言えません。残業が原則起きない体制に移行したうえで、固定時間残業制を廃止し、総額の人件費水準は同水準でよいので、残業代をポジション給とインセンティブ給に回すことです。それによりできる社員の給与水準は残業がなくなってもアップできます。一方でできない社員の給与は残業代の分だけ減少します。ただ、それでできない社員が自然退社するかというとそれはしません。退社しても代わりに行く場所がないことは本人が一番よく知っているからです。

給与は下がる仕組みに

そこで、もう一つは給与制度で評価に基づき降格・降給が起きる制度にすることです。こちらは、下限は最低賃金制度で制約されていますので、今の東京では、月間168時間を想定すると、17万5千円以下の給与を設定することはできません。逆にいうと、下限はそこまで設定して良いということです。新卒1,2年目は下がらない運用をするとして、そこからさらに下がっていく人もいるということです。ただし、ここで、「きちんとした評価制度」の制定と運用に基づいて下がる仕組みにしないと、労働仲裁手続き等で不利になる危険性があります。ちなみに「給与を下げてはいけない」という法律、制度は日本にはありません。あるのは「不利な制度の変更には労働者代表との協議が必要」ということです。(もう一つ、「罰則等での」減給は最大10%を上限とするという制度もあります)したがって、人件費の総額は変わらないかむしろ増えるということを前提に社員代表に説明をすればよいのです。

また、この「下がる仕組み」は「歳をとって生産性が低下する」「スキルが会社の新しい事業戦略であわなくなる」などの「経年劣化」への対処が主たる目的です。本シリーズで提案の制度をそのまま適用していると、この「ダウン」は、「ポジションがなくなる」「ポジションをより適正のある他の人にとってかわられる」「インセンティブ制度で以前はプラスを得られていたがそれが得られなくなる」の3つ程度が考えられます。この3つとも制度に基づくものである限り、法的に問題のあるものではありません。

以前の話を思い出してください。「個人の当期の稼ぎへの貢献に応じた給与しかもらえない」のです。これにより稼ぎへの貢献の低い社員は報酬が減り、新たに貢献している社員への増額の余資が生まれます。20代、30代で活躍している社員の給与を安心して増やすことができ、これにより退職を防止し、同時に社外から優秀で意欲的な社員を採用しやすくなります。

一方で成績下位者や40代、50代の退職は増えます。しかし、それは会社にとって悪いことではありません。よく中小企業経営者とお話ししていると退職0がいいことと思い込んでいる人がいますが、会社の活力を取り戻すには適正な新陳代謝は進める必要があるととらえるべきです。

頑張っているのはあなたの会社だけではない

あなたはこんな「弱肉強食」の世界を肯定できず、こう思うかもしれません。「ここまでこんなに艱難辛苦を乗り越えて改善してきたのだから利益は改善しているはずであり、ここまでダメな人をたたかなくてもよいではないか!」

確かに従前に比べると工程ごとに観測される生産性は改善していることでしょう。しかし、ここまでの成果で実質的に損益が改善していることといえば、「残業代が減った」(これも固定残業制を適用していれば成果はでていません)ことだけであり、そのほかは、「品質は安定して、時間も短縮できたので、全体として手余りの状況になっている」だけなのです。収益は大して改善していません。

旧来型の日本でよくみられるもっともらしいアドバイスでは、この「手余り」を最も優秀な層を余らせて新たな売り上げ拡大のチャレンジに振り向ければよい、ということをいう方が多くみられました。それで売り上げが拡大するならばよいのですが、それに成功した事例はあなたの周りにありますでしょうか?多分ないでしょう。考えてみれば当たり前のことです。新たなニーズの開拓は、思い付きで生まれるものではなく、今の顧客との対話の中で、今の工程の改善から生まれていることが大半であり、合理的に期待できるものはこれしかありません。突然夢のヒット商品が今までとの脈絡もなく生まれることなどないのです。だからこそ、一番優秀な人から順に一番優先度の高い大事な工程を担当させた方が、その可能性が高まるのです。そして、余った層は無理に工程を担当させる必要はなく、退職を勧奨するような方策を合法的でかつ公正な方法で行うことで人件費総額を減らして利益水準を高め、それを新たな人材や設備、広告に投下するというサイクルが必要なのです。

もう一つ重大な問題があります。確かにあなたの会社の業務プロセスは整理され強靭になったと思います。しかし、同時期にあなたの会社だけではなく、競合も頑張って改善しています。そして、改善を実現した一方で、最低賃金や法定福利費、あるいは電気代の再生エネルギー促進賦課費や昨今では物流費の高騰など費用も毎年じわじわとアップします。そもそもあなたの会社がいつの間にかじり貧になっているのは、市場の変化に対応が遅れたということ以前に、こうした「ベース費用の上昇」がゆっくり起きているためにこれの分だけ生産性を上昇しなければならないことを軽視していたことが大きな要因にはなっていないでしょうか?ちょっとぐらい残業代が減ったからと言って、その分ぐらいの改善は、こうした「競合との競争」や「費用の自然増」で相殺されてしまっているのであり、「大きな巻き返し」には、もっと大きな改善が必要なのです。

社員は軽々しく「売り上げ・利益が増えないのは経営者の無能」と非難しますが、新しく急成長する市場がある一方で日本の国内市場はもう全体としては売り上げは増えない、むしろ減る傾向にあり、にもかかわらず費用は継続的に増える傾向にあります。また、売上を増やす際に最も重要な要素が「価格」であることが多いということも見落としてはならない現実です。そりゃ「競合がいないブルーオーシャンで戦いなさい」と賢い、そして現場に責任を持たない人は言いますが、現実に経営者が抱えている社員と顧客は、価格競争にさらされていて、値下げ要求は常にあって、それにじりじりと後退を余儀なくされてきたことも利益が減る要因の一つです。多くの経営者は普通の人材を用いて、今ある市場で今を戦う必要があるのです。ならば、今回の工程改善の効果として、コストを削減して価格競争を挑む、ということは有力な選択肢(おそらくはもっとも現実的に短期的に効果がある選択肢)です。

というわけで、だいぶ長々と書いてしまいましたが「手余りになったら何をするか」の回答は、「合法的かつ合理的な範囲で人員を下位者から順次減らす」です。これを意図してやらないと、「上位者から減る」自体を招きます。

業務が増えたらまた増やせばよいのです。その時に高い金額で募集すれば、ちゃんとした能力の持ち主を選考することが可能になります。ただし、その減らす際に、「いる人」は給与水準を評価制度の基づいてあげておいて「必要」という意思を制度上で伝え、継続的に下がる人、全然上がらない人とは明確に差をつければよいということです。これは「利益への貢献」の差であり、その人の人格とは関係のない話です。パワハラ的な扱いをしてもいけないし、仕事を離れれば平等でよいのです。

では、この人たちに何をやらせるのか?というと、「主力業務」からは外す、ということを言いましたが、中小企業には実はやらせる業務がない、というのが回答です。昔はそれでも中小企業でも、「伝票入力」とか「枚数カウント」とか「通し番号を振る」とか…そういう単純作業的な業務が社内のあちこちにあったのですが、今はかなりなくなってきたし、今回の取り組みでそうした業務はさらにどんどん自動化されてなくなってしまったことでしょう。そういう時代の変化を経営者も社員も認め、そして対応せざるを得ないということなのです。「特にありません。けれども給与は払います。」と本人に伝える、というのが私の回答です。私もこのようなことを伝えるのは嫌なものですが、結局、常時こうして入れ替えていかない限り、近い将来全滅してしまう、経営者はそのどちらかを選ばなければならないのです。売り上げを伸ばす努力はもちろんしますが、それを前提にできるほど今の衰退しつつある日本の市場は甘くない、ということです。

合法的に減員した、そのあとのことは政治が担うべき責任であり、中小経営者は「できない社員問題」に責任を負う必要はない、と考えなければ企業経営は強化できないと思います。

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