とある会社で戦略を策定するにあたり、自社の強みと弱みを経営者から幹部にインタビューした。皆さん様々な意見を割と具体的に出してくれた。この会社はどんどん良くなっていきそうに感じられた。その中で「請負仕事の中で顧客に食らいつく根性だけしか取り柄がない」というような少々自己卑下した意見が沢山あった。
こういう会社は中小企業を中心に世の中にたくさんある。請負の営業というのはとてもつらいものである。まずそれをわかってあげたい。そして、「オンリーワンのプロダクツやサービスがあって世間にそれが特定のセグメントでNo1と認知されていないといけない」という基礎知識を持つまじめな幹部ほど、自社はダメだと思い込んでいる。
もちろん、それが出来れば、こんなに苦労して営業しなくても売りやすく、利益を出しやすくなるのは確かだろう。しかし、そんなおいしい市場があることがわかれば、次の日にはそこに何百という競合が模倣し参入してあっという間に乱戦になる。逆に言えば、競合がいないのは市場が小さい証拠、と言うことも現実を見るとほぼほぼ正しい。消えていくベンチャーはだいたいこれ、「今までにないサービス」=市場がないサービスであり、もちろんごくまれにその壁を突破する才能と運に味方される会社があるのだが、その他ほとんどはその沼に沈んでいく。実際にはほとんどの会社は激しい値段とサービスの競争をしなければならないのが、「正常」とまではいわないが「通常」であり受け入れるべき「現実」なのである。
しかも、幹部はその中で長く会社を見てきて、実はこの会社を支えているその「根性」がそれぞれのチャネルにおいては一人か多くて二人に支えられているだけの細さであることや、ノウハウが口述伝承で若手はなかなか定着率が良くなくて…という現実に晒されている。その実態として「危うさ」を身近に感じていて、しかも「根性」が何年、何十年もの間当たり前になっていると、強みがわからなくなってしまっているのだ。しかし、その「危うさ」もまた、日本を代表するような大企業から個人事業主まで共通した悩みである。多くの会社は余裕のない人員配置で綱渡りしているが、それを外部に言わないだけである。自社が「いろいろな課題を抱えていて大したことない」は事実だろう。しかし、その状況は他社も同じである。今時、十分な兵站をもって事業を進められている例など本当に少なくてみんなぎりぎりである。
「強み」は今あるものの中にある
たしかに、「根性」は強みではない。今時、それをかざすと若者にそっぽを向かれるので口にするべきでもない。しかし、彼らのコメントをよくよく見てみると、言語化できていないだけで実はこう言っているのだと私は呼んだ。
こうしたことが組み合わさって、比較的高い参入障壁が構築されており、トータルとしての顧客維持につながっているのであり、これらがこの会社の強みなのである。私がこれを話した時、経営者には一旦、驚きが浮かんだ。「そんな当たり前のことがっ?」という気づきがあったのだ。そして、安どの色が浮かんだ。そして、こう言った。「今あるものの中から探さないといけないんですね。」
経営者、特に若い経営者は今後の中長期の会社の発展のためには、大きな変化が必要だと思いがちである。たとえば「新規事業」のようなものである。新規事業も選び方を間違えなければ悪くはない。しかし、新規事業は10個に1個ものになればいいという程度の確率で構えていないと、そうそううまくはいかない。
一方で、「根性」の裏にあるこれらのことは、本人たちは当たり前のことであるが、今から新規に参入しようとしてきた巨大資本がいたとしても、一朝一夕には身につけられるものではない。新規参入者にとっては十分「難しいこと」である。現在の競合企業の中には、これらを部分的に有している、あるいは一部は自社を凌駕しているケースもあるだろう。しかし、全体をシステムとして保有・維持しているというのはこれまた難しいことである。
であれば、幹部が心配する継続性への危惧を少しでもやわらげる動きをしながら、強みを少しずつでも改善して言語化・見える化して継承し改善する流れを作っていけばよい。というのが弊社の提案である。幸いにしてこのクライアントはまだまだ強固な財務基盤も顧客基盤も有しているのだから、そのような漢方薬的対処で間に合うだろう、という目論見も私にはあった。
なぜ私たちはそこを手伝えるのか?
これは言われてみれば当たり前のことではあるのだが、それを言ってくれるコンサルタントやサービス事業者は少ない。なぜならばそれは外部からはやりにくいし、新しいツールが短期的に必要なわけでもない、社外の人間にとっては「お金になりにくい」改善手法だからである。そこをやっていくというのが、弊社の差別化要素でもある。
この「隠れた強みを明らかにして強化、継承可能化」とて決して簡単なことではない。特に、「言語化・見える化」は高度なメタ思考が必要であり、これができる人は世の中に少ししかいない。それを体系化し教育カリキュラム化するのはさらに難しい。ただし、一度できてしまうとそこに意見を言い、追加修正することはみんなできる。まずはそこまで直線的に走ることで変化は始められる。
そのために弊社はクライアントの全体を深く理解し、そしてこの「言語化」と「カリキュラム化」を手伝うことにしている。