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「仲間に入れてもらう」

学校、会社内に正規の組織とは別にインフォーマルなコミュニティが存在していて、そこでの情報のやり取りが実は重要であるように、企業経営陣にもそのようなコミュニティが存在しています。このインフォーマルコミュニティの存在は実は組織の性格付けにかなり重要な役割を果たしているとの研究結果もあります。

経営陣のコミュニティとして公式の位置づけがあるようなものでは、「業界団体」があり、その地域別支部があります。これらは、監督官庁からの通知や調査のためのネットワークとしての役割もあり、業界の意向を行政に伝えて反映するロビイングの機能も担っています。都道府県レベルや市区町村レベルのこうした組織の会議の場で講演したことがありますが、有名な本の著者でもない私の講演に、事務局から依頼されて無理やり動員された幹事会社の皆さん、という感じで盛り上がりませんでした(内容の問題もあるんでしょうが)。別の古い業界団体では、年に何度かの例会の翌日のゴルフの場で幹部社に食い込むことが重要だと事務局長に教わったりもしましたし、市区町村レベルの業界団体の集まりにいくと、数社が時間を過ぎてバラバラと集まり、適当に議事をして30分ぐらいで飲み会に突入…。ゴルフも飲み会費用も会員から集めた会費収入から出ています。古き日本の護送船団方式ではこうしたことが認められていました。

ただ、これらはどちらかと言えば、フォーマルな社外の組織です。これとは別に同業、あるいは近接する業界の経営者同士の会、あるいは実際見た例では出身地が同じ市、同じ国(外国人!)の経営者の会というようなものも存在し時々経営者が集まっている場に誘っていただいてご一緒したことがあります。変わったところでは、オーケストラの指揮や能を舞う経営者のコミュニティ、フランス・イタリア車のオーナーの経営者の会、ヨットクラブというのもあります。この場合、文化や趣味が一つのフィルタの役割を果たしていて、当初からコミュニティが「期待できる知的レベル、マインドセット」に維持されていることが多いので、余計そういう人が集まっているのです。こうした「交流」はこうした趣味を持つことの目的の一部であるケースも多いようです。中小企業オーナー経営者は雇われ社長と異なり、仕事も人生も趣味もすべてが一つの人生の目標に統合された存在ですので、そこを区別して考える、という意味がありません。

実はこういう場でやり取りされる情報は、ネットで検索したり有料の情報サービスで入手できるような情報よりもより実用的で最新のものです。しかも、その人が経験があることは、具体策や人脈などがそのまま得られますし、こうした紹介で得たサービスは価格やサービスが妥当に利用できたり(相手の情報が洩れているので)丁寧な対応が得られたりします。あるいは、こうしたところで「一緒にやろうよ」という話になったことは、細かな計画は別としてかなりのスピードで実現していることがあります。先週の交際費の記事でも記載しましたが、このような、有益な情報交換の場に入れてもらうことはなかなかもって重要なことです。

同じ経営者の方でもこうした交流を「酒飲んで自慢話ばかりだ」と嫌がる人にも何人かあったことがあります。こうした方はどちらかというと「きちんと営業し、きちんと事務処理する」ことを自分で人の何倍もする方が多いようです。経営の基本は凡事徹底であり、それはそれで大事なことです。物の需要が拡大する時代には、きちんとした品質とコスト、営業行動を管理すれば会社はつぶれにくかったのでその方針も特に下請け的メーカーでは十分合理性がありました。しかし、その積み重ねの上に非連続的な成長はなかなか起きません。積み重ねによる「強い体質」があってこそのことではありますが、非連続的な成長は、他社との提携やM&A、新技術の導入、有力幹部の招へいなど外部との関わりの中で起きることが多く、中小企業の場合、そのトリガーを引くのは経営幹部です。下から有益な情報が上がって来て経営者がそれをキチンと認知できる、ということはあまり期待できません。そもそも社員とは持っている課題意識が全然かみ合っていないことが多いからです。

そうした外部の情報は、あなたの会社にどんな課題がありどんなものを探しているかを知っていて、経営的な知識や交流の広がりを持つ人たちが、あなたの会社への関心を頭に止めておいて情報に接していると起きるものであり、どこかにお金を払うと買える情報ではないのです。ヘッドハント会社ですとかM&A仲介会社ですとか、関連するサービスを提供する会社はたくさんありますが、体系的にこうしたことを行う大企業では使いやすくても、不定形なニーズが薄らげにある中小企業では、よほどサービス提供側がその前処理を丁寧にしないと上手く行かないことが多いように見受けます。経営者の「なんとなくある不安、ニーズ」を共有でき理解し言語化することは経営者同士でしかできないものです。

もちろん、立場が会社の代表取締役だからと言ってその仲間に入れて情報をもらえるわけではなくて、相手にとって有益である、わかりやすく言えば、「面白い人間」であり、かつ相手の事業や思考法自体に関心があり、学びたいし何か役に立ちたいと思っていることが必要ですし、それにつながる人脈を持っていることも必要になります。学生の頃の仲良しグループで悩みを相談したり、一緒に何かを追求したりした仲間をどうやって作りましたか?多分それと同じなのだと思います。自分の価値に見合った仲間しか得られないのであり、自分の価値を高めていくしかないのだと思います。

実は、30代で取締役になったころ、それはそうとなんとなくわかりつつもなかなかそうした「実力」が不足していた私は、「場所(お店)の開発」を一時期一生懸命したことがありました。今となってはお恥ずかしい話です。でも、それはそれであとで少しだけ役には立ちました。私は趣味らしい趣味がないのですが、こういう場で話せるようなそれがないことをとても後悔しました。そして、すこしづつでも何かに打ち込むようにしようと思い、山に登ったり、カメラを買ったりと話せるネタを増やすようにしました。でも、トレイルランやトライアスロンに誘われる機会が増えたのですが、そこまではやり切れていません。今になって痛切に思うのは、中小企業の経営は、学業優秀型ではできない、全人格を投じての勝負だということです。そして、すべてに全力投球の魅力的な人が中小企業経営者にはたくさんいて、毎日が刺激と勉強の日々です。それが私がこの仕事をするモチベーションでもあります。

余談ですが…私の友人に、「経営者の集まる、彼らの共同出資したプライベートバーのバーテンダー」をしていた人がいまして、その人は、そこに集まっていた上場企業経営者の知己を得つつ耳学問を生かして今では企業の事業支援コンサル的なことをやられています。

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