4週にわたってお送りしてきたこのシリーズも最終回になりました。10月~12月のニュースからビジネス界を振り返ります。
【10月】
◇サイバーエージェントがJ2町田を買収へ
なぜ、これをご紹介したかというと、2018年は「スポーツビジネス」が日本でも本格的に「収益を上げられるもの」として位置づけられ、各社が様々な形で取り組むようになった一年だったからです。2017年にはBリーグ(バスケットボール)の取り組みが成功し、今年はTリーグ(卓球)がスタート、変わったところでは、Mリーグ(麻雀)もネット放送をベースにスタートしました。オリンピックやサッカーワールドカップは電通が取り巻き企業と組んで広告から製品化ロイヤリティまですべてを握っていてむしろビジネス的には下請け仕事しかなく面白くもなんともないのですが、こうした地域スポーツにはまだいろいろな可能性が眠っていて、しかも中小企業でもアイデア次第でチャンスがあります。
しかも、「地域」に根差した仕事をする中小企業にとっては、オリンピックやワールドカップ以上に効果がある広告媒体にもなりえます。
実際にBリーグの会場に足を運ぶと、様々な広告をとったり、物販を工夫したりしながら、地域の小学生を招くなど、決して大規模ではない、むしろ手作り感もありながらも、ビジネスとして成立させていこう、という強い意思が感じられます。このビジネスは特に、「地域との結びつき」ということが今どきの全国チェーン、グローバリズムの対局を行く価値観である点も特徴的です。日本ハムも「ボールパーク構想」へと動いており、昔のおっさん用プロ野球(プロ野球も徐々に進化していますが)を知る世代からすると隔世の感があります。ご関心がある方は、一度Bリーグ、ビジネスの場としての見学に行ってみるといいですよ。
ちなみに来年2019年は日本で初めてのラグビーワールドカップが開催されます。
◇ユニクロの売上が初の2兆円超え、初めて海外売上が国内を上回る
10年前に深センにユニクロができたときにはうれしくて時々行っていたものです。当時は、苦労も多く、メディアに米英での苦戦に「成功するわけない」と揶揄もされていましたが、この10年で1兆円を超える規模で、しかもBtoBではなく、コンシューマービジネスでそれを果たしたことにはとても感心します。もとより、国内需要は縮小し、単価も上がらない時代、特に世界人口の半分近くを占める「アジアで通用する」ことが大企業にとって一つの生き残りの条件です。そして、失敗を重ねながらもあきらめずに取り組んでそれをやれた会社もある、ということです。
【11月】
◇桜田五輪/サイバーセキュリティ担当相のPC使わない発言が話題
ほかにも、経団連会長が歴代初めて自分でパソコン使ってメールで連絡した、というニュースもありました。こんな人がたくさん60代以上の会社や社会の支配階層にいることは知っています。私が仕えた人たちの中にも、大して歳でもないのに、「わかった」という返事しかメールで来ない社長とか普通にいました。必ずしも年齢というわけではなく、それより年配の前社長は、心のこもった長文のメールをくださったりもしました。「誰を選ぶか」の基準は、決して「パソコンが上手な人」「若い人」ではなくてよいのですが、リーダーは「新しい深い知識をベースに」「組織の内外に、戦略と実行計画をアピールしそれを納得させられる人」でなければならないのに、どうも企業でも、政治でもそうではない、内輪の力学で選ばれているケースがまだまだ多い。そういう組織は競争劣位に徐々にではあるが立たされていく。
同時に話題になったのが、台湾のIT担当大臣。元男性の女性、唐鳳氏(35歳)。小学生でプログラムを覚え、中学生でドイツへIT留学。Perl言語自体の開発メンバーでもあり、アップルの顧問でもあり、「インターネットをもちいた徹底的な透明性のある政府を実現する」ことをスローガンに行政に取り組んでいます。トランスジェンダーが先行して話題になりましたが、そうではない。こんな民主主義の根幹にかかる変革に若いリーダーが行政でITを武器に真剣に取り組んでいる事例が(ラトビアは知っていましたが)、お隣の台湾であったのです。
◇RIZAP株が負ののれん代の仕組みが裏目で最終赤字予想
個人的には、「のれんの減損」に数度にわたり追いかけられ追いつかれて各方面に多大な迷惑かけた、ということから正負とも「のれん」問題には敏感で、イオンのダイエー買収でも話題になったこの方法を同社が用いていることは知っていたのですが、ほかにも違法とは言えないが、テクニカルな手法を組み合わせて数字上の利益を上げていたということが報じられました。若い経営陣は何にはまったのか?私の勝手な推測ですが、彼らは財務的にリニューアル資金を投下し、あるいはプロモーションを適正化し、一部の不適切な幹部を入れ替える、という「切り張り的対策」をすれば、数字は改善する、というように思っていた、あるいはそのような経験があったので、自分たちが買収した会社もそれで改善できる、と甘く見ていたのではないか?と思います。確かに、そのようなテコ入れは結果的には必要だと私も思います。しかし、それでもうまくいかないことが多くあるのが、「人」を相手にする組織の難しさです。そして、賢い人、正しい人に人は従うとは限らない。儲かる方、楽な方に人は向かうとも限らない。特に古い日本の組織は。短期間で改善しようと思うと、そこの「不適合」に十分な手当てをしないまま、進もうとして立ち往生させられてしまう。そんなことが起きていたのではないか?と自称「チェンジマネージャー」の私は思っています。
◇日産ゴーン会長を逮捕、自身の報酬を過少に申告した疑い
これは現在進行中ですが、もう何がどうなっているのか…私は、クロスファンクショナルチーム、コミットメント、構造改革引当金、ケイレツ打破、そうした、「当たり前のこと」を日本に持ち込んだ彼のやり方にあこがれ、真似してきました。
【12月】
◇PayPay100億円還元キャンペーン
そして、PayPayのキャンペーンが終わるや始まったLINE PAYの同種のキャンペーン。これらは2つの点で注目しました。一つはこれらの手法は、数年前にQR決済が中国で爆発的に普及した際、アリペイ、ウェーチャットペイなどが採用し成功した手法なのですが、それが日本に「タイムマシン経営」的に移入された、という点。QR決済やその周辺ビジネスでは中国の方が日本よりもはるかに先行しているのですが、かつて、日本からアジアへ手法や商品を持ち込むことを「タイムマシン経営」と言ったものですが、その逆が起きる時代になった、ということです。
もう一つは、非現金決済による効率的な経済運営に政府がにわかに一生懸命になり、来年にせまる消費税増税に合わせて、非現金決済を全国の商店に広めようとしているさなか、旧来のクレジットカード、日本独自の交通系プリペイドICカード、そしてQR決済の3つが入り乱れての乱戦の様相が急激に高まってきたということです。導入障壁や商店主の負担は、QR決済が圧倒的に低いです。(QR決済の裏の買掛部分をクレジットカードが担う、という仕組みはあるので、完全に対立項というわけではありませんが)
来年の今頃は、皆が当たり前のようにQR決済を使うようになっている可能性もあると思います。そして、その時、個人向け決済ビジネスは、情報ビジネスとして大きく変わっているかもしれません。
◇2020年にも公道での自動運転車が解禁見込み
最後は夢のある話。まだまだ未来のよ「地域うな気がしていた自動運転車ですが、様々な実験が行われています。そして、法律的整備も同時に行われています。特に地方の公共交通維持、あるいは夜間の幹線道での物流コストの改善など社会的インパクトが大きいものであり、ベンチャーの活躍できる舞台でもあります。私自身、郊外に住む義母が免許を返納してからというもの、なんだか生気が衰えていることを感じ今までよりも高頻度で顔出しするようにしているのですが、安全で負担なく思い通りに移動できるようになって一番助かるのは、これから人口の半分を占めるようになる高齢者であり、これは先端技術であると同時に社会保障でもある、と思っています。
今年ももうすぐ終わり。振り返ってみて感じるのは、一日一日は昨日と同じ今日が来ているように思えても、こうしてみると、「時代は意外なほどの速度で変わっている」ということです。そして、その多くは、日本にの経営者にとっては、「頑張らないと負けてしまう」という厳しい内容のものが多いのは、人口減少社会ゆえ仕方がないことではあります。
それでも、有望な技術、市場というのも見えてきています。そうしたものに取り組んでいく若い会社を来年も少しでもお手伝いしていきたいと思っています。