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嘘を見抜く方法

事業革新、新規事業の周辺で仕事をしていると、週にいくつか「こんな案件があるんだけど」という新規事業、新設企業のお話を直接、間接に聞きます。その中で、上場企業勤務の時にはそんな話は全くと言っていいほど来なかったので気づいていなかったのですが、中小企業経営者のところには驚くほどに「詐欺まがい」「インチキ」な案件がさももっともらしい案件のふりをして持ってこられていることに結構腹が立っています。何度かはその当事者にも対決的に会ったのですが、その当事者も自分がやっていることが非科学的で危険だと気付いていないことも多く、「持ち込まれた案件評価の慎重側からのセカンドオピニオン」というビジネスが成り立つのではないか?とまじめに思うほどです。

こうした要注意案件は、技術、政治、過去の実績、原理などの根拠をうまく装っているのですが、そのうちかなりの部分は私ならば疑って調べれば見抜けるものです。しかし、ここ10年、20年で流通する情報量が急激に膨張している中で、その情報の制御、取捨選択がうまく出来なくなっている経営者が隙をつかれているのです。こんなスキルは経営のほんの一部でしかありませんので、そうした経営者がだめとかいうつもりは全くありません。しかし業績が思わしくない中で、ついついメディアを賑わすはやりの言葉や外部の権威(らしきもの)に思考停止になってしまうことは私自身他山の石としなければならないところです。

また、このようなことに左右されるのは、高齢の経営者ではないか?と以前は思っていたのですが、実はそうでもありません。男女を問わず30代、40代の企業で普通に仕事をしていた人が大真面目に「電磁波でがんになる」とか「野菜が元気になる波動の水」とか言い出して立派な会社を辞めて起業してしまうのです。そして、クラウドファウンディングのサービスサイトを見ると実際にこうした「エセ科学系サービス」が散見されるのですが、それなりに資金を集めているのです。(これは実は仕掛けがあり、案件スタートに初期に数字がたちあがるように「仕込んでおく」ようサービス提供側が助言していたりもするのです。)

今回は、こうした「インチキ案件にありがちな偽装事例」をいくつかの類型に分けてご紹介して注意を促そう、という企画です。

①有名大学の〇〇研究室で研究、有名大学で開催された〇〇学会で発表

 私自身、大学ベンチャーの仕事をしているので言い方に気を付けないと収入に支障が出そうで怖いのですが、ひとことでいうと有名大学ですら研究も論文も人員も玉石混交です。こんな事例がありました。

・旧帝大を退職してかなりの期間が立つ人の昔の研究、それもその人のメインのテーマではなかったものが、さも今そこでバリバリのエース研究者であるかのように紹介されている。(ある電池の案件)

・「論文誌に掲載された」と記載されているが、その論文誌は、関係学会では問題視されている質の低い、本数稼ぎ、あるいはこうした商用のアリバイ作りのための論文誌扱いされているものだった。(これも上の電池の案件)

・「波動水の植物の生育に与える影響を海外の大学と共同で実証実験中」

「大学の研究だから使い物になる」という事実は全くありません。それどころか「真実である」ことすら疑ってかかる必要がある「論文誌」も存在します。そこまでひどくなくても、基礎研究とは「現象と仕組みの理解」の段階のものや、その段階で「今すぐ商用化できる技術ではない」と結論づけられたものもたくさんあります。それは研究の在り方として正常なことで、実用的なものとそうでないものを選り分ける作業自体は重要です。しかし、その研究内容を都合よく切り取って資金集めに利用するような外部の動きを大学人が止められないでいるという状況も見受けられます。中には、商用化とは関係なく大学人側が「研究資金をちょうだい」と言っているのに、周囲がさもすぐに実用化できるかのように言って利用して資金集めし、そのおこぼれをいただいているものもあります。

「東大の講堂で行われた国際会議で基調スピーチをした。」(仮想通貨関連)というような言い方をする、資金集めを依頼された人にも会いました。その登壇自体は事実でした。しかし、これも大学の講堂は目的、紹介者など一定の水準を満たしていると有償で借りられるもので、水準を担保するものではありません。その情報はwebでも公開されています。

類似したもので、ある法律的な抜け穴(現行法では違法ではなく大企業では多く使われている方法なのですが)を利用して費用を下げる方法のための資金集めを提案されたのですが、その提案は「議員会館で」「議員秘書同席」で行う、というものもありました。私は平気でその場で断りましたが、そうではない人が普通なのでしょう。

そもそも中小企業に(その分野の技術でトップクラスの知識や技術を持つ企業なら別ですが)そのような最先端技術の利用可能性の提案がいきなり来ること自体をまず疑った方がよいです。ニーズが技術にしろ、資金にしろ、その分野の日本でトップクラス大きい会社に最初に提案して検討してもらっているはずで、そこが蹴った理由があるはずだからです。

「権威」「ブランド」は先人たちの誠実な努力の積み重ねの評価ではあっても、今目の前にいるその人が価値が高いことを示すものではまったくありません。しかし、いざその場に立つと心拍数が上がりそうではない人がいることを知り、「権威」を利用する人が世の中には実に多くいます。


②外国で生産する、外国で売るけど日本で資金調達

これも数例ありました。例えば、ヨーロッパから輸入し中国で組み立てし、中国で売るという案件がありました。ならば中国で資金調達した方が日本よりもはるかに大きな額を容易に調達できます。なぜ、日本で調達するのですか?という質問に対し、日本の投資家にチャンスを分け与えている、と言っていました。しかも、その事業・地域に全然知見がない事業者に提案されています。こういう「実物を確認しにくい」案件は資金流用の可能性があります。また、実物があっても、必要資金よりもはるかに多くの額を必要と言って資金を集めようとしているケースもありました。特に多かったのは、2018年夏までの「仮想通貨ブーム」の時で、「事業を装った投機」ではないか?と相談者に言ったケースが複数ありました。

その国の営業許可証や許認可の公式文書を確認することや、その国の制度に見合っているか?などをチェックするとそのような事実がないことが確認できることが多いですし、その資料を出してくれ、と言ったとたんに連絡が取れなくなるケースも多いのですが、中にはそれらしき資料が出てきた(ただし、「割印」がなかった)ケースもありますので安心はできません。

その国の制度に詳しい第三者の力を借りる必要がありますが、そもそも自分の知見がない、他人の力を借りなければならないところに、そんな短期間で事業を興し巨額を投じる判断をすることが間違いである。まず調査とテストをしなければならない、と思うのですが、こういう案件に限って「本年度限りの政府の予算措置」とか言い出すんですよ。

③「海外で売れば何億円という売上見通しが立ちます」といって本業の海外販売子会社設立や投資を促される

私もそれに近い、「海外進出のすすめ」を言っているので気を付けないといけないのですが、私が違うのは、「いきなりたくさん売れるわけがない」し、「最初は法人を作らなくても小さくトライアルする方法がある」と言っている点です。確かに、他の市場に持って行くと売れる場合があります。たとえば、富裕層に趣味的に売れる、アーリーアダプターに評価される」などです。しかし、試行錯誤を繰り返しながら最初は少しづつしか売れないし手間もかかるものです。相手方の方が多額の出資をしてくれ、有力なスタッフも出してくれる、というような話ならばまだよいのですが、お金だけ出さされて使途は勝手にされる、というような意図が感じられるものもあります。

こうして並べて書くと、「明らかに怪しい」とわかりそうなものですが、事業主がリスクにさらされることはたくさんあります。これらがなぜ怪しく見えるかというと、時間、技術、距離的に「自分の見えないこと」だからです。そもそも「自分の見えないこと」に自分のお金を使ってはいけないのです。やるならば、自分の納得がいくまで調べて勉強して納得してから決めなくてはならない、それが企業経営の原則のはずであり、楽に成功することなどなく自分や信頼のおける部下や仲間がそのことに相当労力を投下しつづけなくては事業として成功しないはずなのです。いや、そこまでやってもなお、成功率は決して高くないのが新規事業というものです。

私の助言としては、「お客様」と「技術やしくみ」のどちらか一方が自分が今持っているもので対応でき、もう片方は工夫や開発が必要、というものは検討する価値があるが、両方とも全くの新規というものは基本的に検討する必要がありません。

ところが、それを「普段付き合いのある人の紹介」や「旧帝国大学や有力政財界人の権威(そんなものは実際にはない)」などの「お墨付き」があると思考停止してしまうことが一部の人にはあるのです。また、電話や対面で勢いよくしゃべられる、あるいは自分よりも相手の方が人数が多いと断りにくいと感じる人もいます。このような場合、相手があらかじめハードに要求するタイプとなだめるタイプに役割分担しているような事例もあります。これは「善玉悪玉作戦」という昔から多用される交渉戦略です。「そんなのにはまるのは経営者失格だろ」と思われるかもしれませんが、いざその場になると決して他人事ではないのです。

「友人に持つと人生が助かるのは、腕のいい弁護士と医師とエージェント(自分の代理をしてくれる)」という外国の格言がありますが、自分の事業を理解してくれ助言をしてくれる人がきっと中小企業経営者には必要なのだと思いますし、私は長くそういう存在でありたいと思っています。

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