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「名刺管理」は役に立つか?

お付き合い先の社長秘書さんが、「社長の名刺をどう管理したらいいんでしょう?」と言っておられました。具体的には、今は社長のアカウントで無償のアプリ「eight」で登録しているのですが、それをほかの社員も含めてグループ型の有償のサービスにした方がよいのか?というご質問でした。

 

私は「そんなに急ぐことはない、もっとニーズが皆に意識されるようになってからの検討でよい。」と回答しました。私自身、大きな会社で1000人単位でこうしたサービスを使っていましたし、売ってもいたことがあります。でも、これで売り上げが増えた、ということが実現するには相当距離がある、という感覚を持っています。それは決してシステムの問題ではなく、大げさなようですが社会の仕組みの問題です。今日はその辺を整理して、今後の皆さんのご検討の参考になるようにしたいと思います。

 

以前私が勤務していた会社では管理職を中心に千人以上の規模で、お取引先からいただいた名刺をスキャンすることが義務付けられていて、それが全社で見ることができるようになっていました。個人情報保護のため、社名と役職は誰からも見えるのですが、個人名は見えないようになっていました。総蓄積枚数は名寄せ後でうん十万枚。一人一人が積み重ねた膨大な蓄積がまさに、有名なCMのような悲劇をなくし(こちらはある程度機能)、大きな営業力の源となって…はいませんでした。

 

なぜか?というのは結構簡単なことでした。以下、箇条書きでご紹介します。

・最も多くの名刺を集めているのは社長、その次は副社長で、我々社員よりも二けた多い。もちろん、社長、副社長の秘書に依頼してご紹介をお願いすれば、かなりの確率でアポは入るでしょう。しかし、よほどの大きな提携の提案でもないと上場企業の社長、副社長のパワーをそんなつまらないことのために浪費することはそうやすやすとはできないわけです。というわけで、営業マンがのどから手が出るほど欲しい「決済権者の名刺」はそこに集中しているのです。

・そうではない、部長級が交換した名刺で該当しそうなものも時々あります。私のところにも月に1回程度、交換先の問い合わせがありました。ただ、相手も自分も、「ご挨拶はしたけど、その後特に関係性がない。」や「一時期お取引があったけど、継続していない。あるいは問題が起きた」というような名刺が多くの割合を占めます。それが自分の今後の案件であるならば、時間をかけてその関係を再起動する作業をしようとも思うのですが、今、そのアポを必要としている同じ会社の他の方にとってはそれでは残念、ということが大半なわけです。

・システムを検索すると、該当するポジションが見つかることはあります。しかし、それを交換した自社の人員がすでに退職している場合がかなりあります。あるいは、交換してから7年ぐらいたっているようなものも検索できるのですが(それはそれですごいのですが)、その相手がもういない、あるいはいても関係のない仕事に移られてもうずいぶん経つ、ということもあり、新しい担当を紹介していただけるにすら至らない、ということもあります。

私も1500枚ぐらい登録していてそれなりの規模の会社、役職の方も多かったので、きっと今頃、「なんだよ、この人退社しちゃってるよ」と元の会社の方が私の交換した名刺情報を検索して言っているのが聞こえてくるようです。これらはシステムの問題ではなく、日本の会社で人員の退社や異動の流動性が高いこと。それに名刺がさほどの関係性でなくても挨拶替わりに交換されるという習慣を考えれば、当然起こりうることなのです。そのほかにも、相手が昇進している、あるいは会社が移転している、合併している、というケースも3年もたつと相当数あり、手元のスマホの情報が古くなっている、ということも多く発生します。

 

名刺情報をもちいて簡易CRMを作成する、というような提案も行われていますが、営業マンは年に数百枚、社長はもっと交換されるわけですが、その中で取引とまではいかなくても、具体的提案まで行きつける名刺は実はほんの一部のはずで、それならば、その対象だけ手打ちしてもたかが知れている(どうせ、膨大な提案情報や結果の情報を入力しろ、というわけだから)ケースが多いのではないかと考えています。

 

一方、圧倒的に役に立つこともあります。スマホに登録しておけば、名刺ケースを持ち歩かなくても、思い出したときに検索してお電話できる、という個人の活動にとっての便利さです。これは多くの無償アプリでも実現可能です。出先で検索してすぐ地図が見られる、あるいは電話を掛けられる、というのは10年前ではできなかった芸当です。昔はそのために「電子手帳」や「手書き手帳」それすら面倒な人は「名刺ケース」を持ち歩いていたのですから!

また、私は、このブログのほか、ご支援、ご指導をいただいている方に時々メールでのニュースレター報告をしているのですが、その宛先を作成するにも、このアプリからエクスポートして作成するようにしています。一部のアプリはインポートはできても、エクスポートはできません。そのため、エクスポートの容易なWantedly Peopleを昨年から私個人は愛用しています。年賀状類を出すときは、メンバーの名刺データを持ち寄ってエクセルで手作業で名寄せ集計して、目で移転前や昇進前の名刺を修正して、ようやく印刷しています。

面倒と言えば面倒ですが、四六時中それが必要なわけではないので、課金サービスを使うほどではないのが私個人の現状です。さっき見たら、2000人ぐらい登録されていました。ただ、たまに登録漏れがあります。それでも日常メールなどはoutlookの住所録のサジェスチョンで間に合っているのですが、いざPCが変わったりあるいは勤務が子会社に異動になったりというような環境変化が起きるとそれが使えなくなるのですが、登録漏れがあること自体に気づいていないため連絡したつもりができていない、ということが発生する、という「機械に頼りすぎの弊害」も起きています。

 

ここの会社の状況により判断は分かれるところだと思いますが、「無償」の「エクスポートができるアプリ」をまず使って、足りない部分は手作業で補って、そのうえでその手作業の部分のコストを金を払って自動化するかどうかを考えてみても遅くないと私は思います、お金は大事ですから。そのとき、結局共有すべき名刺なんて実はほんの一部しかない、という可能性があることは覚えておいてください。

あの「はやくいってよ~」のCM。あれは本当によくできています。こういう利用シーンはSansanでも十分に理解されていて、それでも「あればよかったのに」というシーン、たとえ薄い名刺交換であってもその情報があれば超重要取引では少しでも何らかの助けになることはある、という営業現場の「気持ち」を見事にとらえています。でも、本当にそんなケースありますか?社長がもしゴルフをご一緒していたとして、社長室を訪ねて、「社長、以前名刺交換したこの方にお電話してください!」とか言えますか?「重要案件ならばするかもしれないね」でしょう。

 

【名刺アプリは進化した】

そういえば、Wantedly Poepleはリリース当初から使っているのですが、最初はOCRの認識精度がかなり悪くて手作業修正が多く発生していたのですが、昨年再度本格的に使い始めたらずいぶん改善されていました。地道に改善を続けられた技術者の方に敬意を表します。ただ、OCRが光の反射率の際を利用するという性質上、背景が黒や比較的濃い色の名刺は苦手としています。また、特定のフォントでの縦棒、横棒と1、一の判別は苦手としている。あるいは細い1、一は飛ばしてしまう。という傾向があります。

これからの名刺デザインは、こうした「OCR準拠」であることも考慮すべきことかもしれません。

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