日本企業50年ぶりの大改革であるジョブ型雇用制度とは何で中小企業は何を準備したらよいのか?をシリーズで解説しております。実用的な「採用」「人事評価制度」などはあとの方で解説することになります。というのもその前提となる「会社の構造」について理解し整備をしないとこれらは役に立たないからです。そして、それこそが多くの日本企業が失敗してきたし、これからも失敗する箇所だと思います。
「人」ではなく、「仕事」で会社を再定義するというのが前回のテーマでした。(こちら)
実は、このこと、つまり「人」ではなく、「業務のつながり、仕組みを会社の骨格としてとらえること」が、この「ジョブ型雇用を準備する」の中で最も大事なことです。これができたら、次は「部門と職位を定義」するというのが今回のテーマですが、組織図を見直す過程で、かなりそのことも思索を深められたはずです。
前回の組織の定義、そして、今回は、職務を記述する(Job Describe)するのですが、この内容は大企業で管理職の経験や人事部門にいたことのある方はかなりの割合で実は接したことがある内容だと思います。実は、日本的翻案で運用面ではおかしなことになっていることがありつつも、大企業では90年代以降徐々に、こうしたジョブ型雇用の要素が取り入れられてきていて、部門や役職者についてはこれらが何とはなしに存在する会社が増えているのです(そんなの知らないという当の管理職の方にもあったことがありますが)。その目的は主として管理職の「目標管理制度」の運用であり、中途採用でのリーダーポジションの募集にも用いられました。
しかし、中小企業に関してはこうした動きは非常に遅れていて、それがまた、大企業との「採用競争」での不利にもつながっています。
具体的には何を決めればよいのですか?
職務を記述するとは具体的には何を記述すればよいのかというとだいたい次の4つが定番です。
簡単にご説明しましょう。
1 職務の概要
職務の目的。誰にどのように貢献するのか?をわかりやすく書きます。
これは事業理念で書くような世の中のために、という意味ではなく、社内的な前後の工程を中心にした具体的役割を言っています。
例 本職は、社内に在庫され取り扱い登録された収納用品事業部の製品をアパレル事業者向けに卸販売する業務を統括し、利益拡大と顧客の継続的取引を実現する。(某社アパレル営業部)
2 期待される成果
〇〇(対象領域)を〇〇にする。というものです。一つではなく、通常独立したものが3~5程度あるはずです。たくさんある場合は、それらの間に手段と目的、成果とその部分の関係にあるものがあると思います。また、これが全く同じ人は社内にいないように設定(同じならば統合できるはずので)します。
1の例に対応する例としてはこんな感じです。短期収益、長期収益、製品開発へのフィードバックというところです。
日本の会社はここにすぐ「人材育成」と入れたがるのですが、それは手法であって成果ではないのです。同じ上を達成するのに、即戦力採用でも、外注でも、内部人材育成でもどれでもよい中で一番成功確率が高いものを選択することができるはずであり、基本的にはミッションの責任者が選択する権限があるべきです。
3 主な業務
これは、2を実現するにあたって、具体的にはどのような業務がそこには発生するのか?を網羅的に記載していきます。つまり、「日常やること」です。だんだん「求人票」に似てきましたよね。というか、求人票に書く職務の説明は修飾は別として、これをコピペすればよいはずのものです。そうでないとおかしいですよね?
例えばこんな感じでしょうか?これは2に比べると「手法」の話ですので、たくさん記載するケースもあると思います。
4 必要能力
必要能力は、その通り、〇〇を知っていること。〇〇について〇〇レベルというようなことを記載します。この例だと例えばこんな感じでしょうか。
海外の求人を見ると意外にここに、〇〇学科修了レベルの知識、というようなことが露骨に書いてありますが、日本ではこれはほとんど見かけません。大学の教育レベルもちゃんと勉強している限りでは決して低くはないと思うので、企業の側が知識以外のもの、つまり組織への従属や精勤意識を重視してきたことの裏返しではないかと思う部分が多くあります。
ただ、この項目はかなり明確に具体的に記載する必要があります。それは社外の人材だけでなく、社内の人材の自分のキャリアプラン、勉強の方向性を指し示し努力を促すものとなるからです。別に社内で技能や知識の研修は(コンプライアンスや安全は別ですよ)やらなくてよくて、「自分でやれるようになった人」を社内外から募ればよいし、その努力はそんなに激しいものではなくても、一生続けていく必要があるということです。それが今の日本企業にかけている点でもあります。日本人は高校まではそれなりに勉強するが、大学になると勉強しなくなり、会社に入るともっと勉強しなくなります。高校までよりもそのあとのほうがずっと長い時間なのにです。結果として知識がないことを口発表と人間関係でごまかす営業が横行しているのです。
どうやって作るのか?
これを0から作るのは、いままでのメンバーシップ型雇用に慣れ親しんだ中小企業の人事部の係員にはかなり難しいです。「会社の構造」を「機能の連結」で表現するという視点が、いままでの「個人個人が協力しあってがんばりましょう、という人事感とかなり相違するのです。
こうした職務記述を毎年少しずつバージョンアップして公開し、そのスキル計測と応募者のマッチ度の評価に責任を持つというジョブ型雇用企業の人事部の職務の重さも理解できるでしょう。
それでは話がここで終わってしまうので、まず「部」と「課」についてこれらを作ってみるというのが最初の一歩だと思います。そして、2の「期待される成果」は組織図に引き続き、人事部に任せず経営者が作ってみてほしいと思います。組織図を作る時にも、このことは頭に常に去来していたはずです。そして、その際には、「売り上げ」というフローだけでなく、「ストック」あるいは、「会社としての資産」(BSの左側だけをさすのではなく、拡張された「無形資産」概念)を増やすということに着目してほしいのです。たとえば、「継続取引のある顧客基盤」「認知度」などです。そこに経営者がその会社をどうしたいのか?どのような運営をしたいのか?が表現されるのです。
その「成果」が明確になれば、そのためにやるべきことは列挙できるはずです。しかし、「成果に直結しない」行動で今やっていることは不要ということも明らかになります。日本の企業がやることは、成果に向かって直線的に走るのではないことがあまりにも多いように思います。それは求められる成果が不明確であるということ以上に、「成果に向かって役に立つことだけをやる」ということが「当たり前」ではなく、「無駄なことをする苦行が美しいこと」であり、「時間を会社に捧げる(それが成果につながるかどうかは関係ない)ことが上から褒められること」であるからです。だから残業も減らないし、労働生産性も低いのです。
日本では「それはやるな」という指示を上司が部下にすることはまれですが、時間生産性を上げるためには無駄なことを捨てていくことはとても重要です。そのためには直近の成功事例に基づき「やること」とその裏にある「やらないこと」をチーム内で明らかにしておく必要があります。
「職務を定義する」への反論
こういうジョブ型の説明をすると、「多くの部門を理解している(ローテーション人事)」とか「他の部門から信頼されている(人柄)」とかいう「文章にしにくい価値が見過ごされている」という批判を受けることがあります。それは、まさしく「仕事」ではなく、「人を見る」日本型からの視点です。
仕事のアウトプットを出すために協調力や広い視野が必要なのは別に日本だけではなく、アメリカでも中国でもそれは同じです。それどころか、見た目がかっこいいとか背が高いとかがこうした求心力に重要な要素を占めるという研究も海外であります。けれども、会社が求めるものは「仕事の成果」であって、人間性やかっこよさではありません。そして、成果を出すのが「人間関係の上手さ」だけではだめだったのが、日本の30年だったのです。
さて、職務の定義はこんな感じでできたとして…次は、実務的には最大の山になるであろう「人事評価制度」の話を次回したいと思います。