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ジョブ型雇用を準備する②「人」ではなく、「仕事」で会社を再定義する

前回は、中小企業でも「ジョブ型」に移行する準備をする必要があるという話をしました。

では、どんな準備が必要なのかを具体的にご説明し、できるところから始めて行こう、という話を今回以降進めていきます。

お話を進めていくとだんだんわかってくると思いますが、日本でも上場企業に適用されている内部統制ルールや、何らかの形で8割の会社が使っているという目標管理制度は実は、このジョブ型の雇用形態を前提にアメリカで普及したものを輸入し、メンバーシップ型に無理やり適用しようとしているものです。その際に、起きる様々な軋轢は、この「ジョブ型」と「メンバーシップ型」を融合させようという試みが中途半端な結果、残存してしまう問題です。(基本的に両者は相いれないと私は思っています。)

今日は、「組織図ではなく仕事図」というお話です。これも実に日本的なお話です。まずはまた、わかりやすいよう実例からご紹介しましょう

日本的組織構成の典型で「担当部長」というのがあります。社内で説明されるときに、「部下のいない部長」という説明がされます。けれども実際には、その辺の若い人を部下のように手足係に使っていて、それを「部下のいる部長」も苦々しく思いつつも言えないでいます。

ケース1

ある会社では、同じ課に次長が2人、課長が2人います。誰が品質や利益の責任者ですか?と聞くと、「それは部長だ」と答え、部長に確認すると、「各課のことは各課だ」と答えますが、誰かと聞くと、「みんな」と答えます。そして、部員の方に業務を教わった際、「作ったものを顧客に送っていいかどうかのチェックは誰がしているのですか?」と聞くと、「誰もチェックしておらず、自分でいいと思ったら送っています」と答えます。誤った個所があったらどうなるのですか?と聞くと、「顧客が指摘してくれて修正します。」(ああ、あなたの指揮監督者はお客様なんですね…)

ケース2

ケース1は笑い話ではなく、日本の会社で「よくある風景」です。前者に対しては、日本でも「管理職コース」とは別に、「専門職コース」を用意し、その一部に「担当部長」を位置付けた会社も多くありました。しかし、実際運用してみると、多くの社員、明らかに専門職向きという社員でも「管理職コース」を選びたがるのです。そして、面談等でその心を聞くと、多分に「自分は向いている」という判断ではなく、「世間体」「家族への説明」で選んでいて、「なんとか成長したいんです」と悲痛な声をあげます。つまり、30代も後半になれば課長になり、40代も半ばになれば部長になれるはず、というかつての組織拡大トレンドの時の「期待」「常識」を今でも家族は働く人にしていて、働き手はそのプレッシャーにストレスを感じているのです。

若い人はそうでもないのかと思ったら、若い人でも結構そういう思いを持っていて、その心は、「そうでないと給料が上がらない」だったこともあります。これも気の毒な話です。そして、それが実現する確率は昔と違って実に狭き門です。なぜなら自分に実力があることを前提として、組織が拡大するか退職等でポジションが空くことと実力が外部に見える(評価される)、の2つが重なる可能性はとても低いからです。

ケース2は、より深刻でして、これは、上場企業では「内部統制システムの不備」という指摘を監査で受けるはずのものです。ところが、多くのケースで書面だけはちゃんと整備されていて実態はなあなあでなし崩しにするということが起き、審査側もお金をもらって認証を落とすということが容易にできず、その結果内部統制システムはただ面倒なだけで実効性のないものになる原因となっています。しかし、これは内部統制の仕組みに問題があるのではなく、「責任の所在を一元化して明確にする(それに伴いその責任に必要な権限も明確化する)」ことを避けようとする日本的組織の典型的な問題点です。まもなく終戦の日を迎えますが、こういう組織が何を招くかは、名著「失敗の本質」の中で旧日本軍を題材に詳細に分析されています。

こういう会社に組織図を見せてもらうと、実情として、「役職呼称付の名簿」なだけというケースが多くあります。それも100人を超える組織でもそういうことが少なくありません。

会社を機能のブロックの集合体としてまず分解する

本来、組織図とは、「会社を機能別に分解して表示したもの」であり、その「機能グループ」毎に似た職務を有する数名が所属し、その機能の実効性や効率性の責任者が一人いて、メンバーはその責任者の指導監督を受ける、というものであるはずです。そして、組織には、戦略目標が存在し、責任者はその達成の責任を負い、その達成のために必要な権限を付与されています。多くの会社の組織図は少なくとも最初はそうやってできたし、今でも表向きそのです。だから、私は経営者の組織に対するとらえ方を知るために、「係レベルまでの組織図を見せてほしい」とお願いすることが多くあります。

ところが、日本の組織は往々にしてこの原則を守っておらず、それが上のケースのような事例を生んでいて、しかもそのことが「悪」と見なされない状況を生んでいます。それはなぜかというと、「人」を構成の基準においていて、「この人がいるからこれをやる」とか「この人がいるから、ここはこういう決済ルール」というような「人」に「ルール」を合わせることが横行しているからです。

こういうことを説明すると、「うちはホラクラシー型」を志向しています、という話をする中小企業の経営者もいます。そういう人はホラクラシーを、「社員みんなが都度相談しながら分担する仕組み」と思っているのですが、それはだいぶ違います。詳しい説明は省きますが、ホラクラシーにも「機能単位」は存在しています。そこへ人員を柔軟に多能工的に張り付け、機能単位間のリソースや方針のコンフリクトを調整する仕組みを運用するというものですが、経営者も社員も相当に「賢く意識が高い」組織ではないと運用が難しいのが実情です。そして、その機能に対して、責任者がいることも通常の(ピラミッド型)組織と同じです。

要は、会社をもう一度今いる人がどうのこうのという話を全て忘れ去って、今の商品と顧客を結びつけ、商品を改良していくのに、「もっとも直接的にその仕組みを説明できる構造」を0から考えてほしいのです。そうすると、答えはとてもシンプルなものになるはずです。その「シンプルさ」こそが日本企業が失ってしまった身のこなしの良さのために必要なものなのです。

おおむね単一の市場に販売している場合には、販売機能は一つであることが望ましく、その中で手法別なのか、顧客の規模別なのか、地域別なのか…でさらにチームが分かれるはずです。ただし、「この人が持っているお客さんがこの部署」というような形で第〇〇営業部ができているようなのは×です。なぜならば、その属性別に最適な方法論を開拓し標準化して伝承するのがチーム構成の目的であるからです。この「ルール」も今回のシリーズの重要なポイントです。

一方一つの商品や技術を複数の独立性の高い市場に販売している場合には、それぞれの市場向けの販売機能があることが利便性が高いことが多いです。同様に商品を構成(開発や生産)する機能も、どうするのが一番合理的か?(コストが安いか、効率的か?)ということに長年その分野を見続けてきた経営者には「自分なりの解」があるはずです。そこに自信がないならば、代替案を示しながらお手伝いするようにします。

できた「機能ベースの組織図」を見てみると

そうしてできた「業務単位」をくみあわせていくと、経営者を頂点とする「あるべき組織図」になるはずです。この場合、顧客を一番上に書くとか、社長を一番下に書くとか、そういう情緒的なことは後回しで(伝える方法としてこれを用いることを否定するわけではない)、普通に指揮命令系統の上位を上に書けばよいです。中小企業の場合、ほとんどのケースで1段目、2段目の横に並ぶ数は減ります。(ただし、一番下の段の「個別の業務グループの数」はあまり変わらないことが多いです。)また、段数も減らせるケースがかなりの割合であります。この2つは「本当に現状の人の顔を思い浮かべながら検討していないか?」というときに重要なチェックポイントです。

また、会社には「決裁権限規定」があり、一定以上のリスクを含む可能性のある取引やその他の契約は上位役職が決済承認を行うことになっていますが、実際には、それよりも小さな金額のものでも、上位者に「ご相談」することが善行とされ、それができるものが可愛がられ、規定通りに行動するものが疎んじられるということが起きます、責任者の評価は、統制システムのルールに従っている限り、一定期間の範囲内の「結果」だけでよいはずなのにそうはなっていない。どうしてそんな複雑で身動きしにくい仕組みにして業績が上がると思うのか?この辺は次回取り上げていきたいと思います。

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