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ストックエコノミーを実現する④~獲得コストをどうとらえる?

「しかし、月1700件獲得か…どうすればいいんだろう。」

ヒントになりそうなのは、N美がいっていた「新設や移転法人に当社は一生懸命営業していてそういう案件が月に何百かはある」ということだった。ネット回線も同じことだ。新設移転時は必要だしどこでもいいが、多分あとから変更するのはいろいろと大変だ。しかし、その案件の大半は全国の販売店さんが地域密着で捕まえてきているもので、自社ではそこまで捕まえ切れていない。ということは、今までの全国のオフィス家具の販売店さんに販売してもらえるような仕組みを作らないといけない、ということだ。

前回までの検討では(こちら)

1件1000円の粗利が得られるストック商材が解約率2%の場合、5年間の価値は34000円ある、ということが分かった。しかし、ここで販売に協力いただく先に
5000円なのか、1万円なのかお支払しないと動いていただけないのは当然のことだ。

昨日の検討では、接続料金単体では料金は2000円、そのうち、600円は仕入料金ということだった。1400円が手残りとおもっていたが、料金収受の手数料や、お問合せに対応するコールセンター運営費用といった維持費用は当然かかる。今の家具のコールセンターは販売店様向家の情報提供が多いので、人員は別に確保せざるを得ないだろう。とすると、400円程度は取っておくことにしたい。一方でネット回線自体の提供やそこでの電話サービスの提供もあり、こちらは2500円ぐらいのストック収入があるということもわかってきた。ただ、どのくらい付帯してくれるんだろう?

「新規拠点開設する予定のお客さんに商談時に話すとしたら、『プロバイダーもあります』ではなく、『ネットと電話もあります』ですよね。私もいろいろ夕べ見てみたんですけど、接続事業とネット回線で実際、今はセット提供が普通になっていません?」

N美が助け舟を出してくれる。昨日、パスタ1杯で勝手にプロジェクトメンバーに引き入れたアグレッシブ系2年目女子である。いや、それは違うかもしれない。これから先、だいぶ昼食代が増える予感もする。

「そうだよね。社長に「インターネット接続事業」と言われたからそれが頭に残っちゃってるけど実際には、『机と回線と電話とその他、新しいオフィスに必要なもの全部ご用意します』だよね。」

「しかも、『机も回線も使った分だけ月額料金』でしょ?そのこともいろいろ考えたんですよ。理解してもらうのは大変かもしれないけど、当社の利益面のメリットもだせるし、何よりも一つのお客さんから毎月料金いただけて、定期的にお話しできる状況を作れる、というのはとてもメリットがあると思う。これから売ったら終わりではダメなんだと思う。私、それをやってみたいです!」

N美が強く言い切った。その眉には『決意』とマジックで書いてあるかのような表情だった。すごい奴だな、負けていられない…Aもそう思わされた。

「じゃあとりあえず、僕は回線側でどのくらいの事業収支感覚になるのかもう一度考え直すよ。N美は家具をさ、売り切りと月次利用料とを比較してどんなメリットデメリットがあるとか、何が必要とかそこをやってくれない?」

「了解であります。(`・ω・´)ゞ」

そして、Aは作業に沈んだ。

Episode4 深くかがみこめば高くジャンプできる!のか?

とりあえず、ネット回線と通話サービスの接続サービスへの付帯率は100%でいいことにしよう。プロバイダーだけというのは確かに考えにくいし、販売店さんもやりにくい。そうすると、ストック額は3500円ということになる。解約率2%の場合の「将来収益」は、119,000円だ。

この時、販売店さんへのインセンティブが0円、15000円、70000円の3通りで調べてみる。15000円だと販売店さんにとっては、小さなオフィスに机といすを3セットぐらい収めるのと同じくらいの粗利だし、7万円だと新しく支店を出すときの粗利と同じくらいなので、販売店さんにとっても頑張ろうと思ってもらいやすい規模だろう。

それに販売店さんには、販売手数料は月次ではなく、一括で、利用代金の入金開始から5か月後にお支払いすることにしよう。一括にするのは毎月毎月振込だと管理業務が肥大化するし振込手数料がかかると言った問題がある。それに、本当に長く顧客になってもらえる、あるいは解約率をもっと低くできるならば当社の利益を増やすことができるからだ。販売店さんは比較的小さな地域の文具店さんが多いので、ストックのパワーというよりは一括での当座の資金提供の方が喜ばれるだろう、という読みもあった。ただ、いくつかの中核的な販売店さんは支店ももち、たくさん売ってくれるところがある。そこがなんと言ってくるかはわからない…それはもう少しあとで当たってみよう。

それに、この前はお申込みいただいたら、その場ですぐにサービス提供開始して料金請求できることになっていたけど、実際には、当月の利用料金の売上は、カード会社にもよるけど翌月末ぐらいの入金になる。そこもきちんとかんがえないといけないよな…月1700件取るのは、7万円でないと到底無理だろう。全国の有力販売店が一生懸命やってくれる規模でないとこの数字はいけそうにない気がする。1万円だとせいぜいその1/4だろうなあ…それも直販が多くなっちゃうだろう。0だと、直販だけでみんなにお願いして…さらにその3分の1がいいところかな。直販はインセンティブなし、ということでいいかな。その直販の件数はインセンティブに関わらず一緒ということにして…一旦これで計算してみよう。

「7万円ですか!ずいぶん大きいですね!」

「でも、11万9千円一括で売って粗利があるのと同じはずだったよね。その将来収益計算は。だからさ、そのうち、半分ちょっとを汗を流してくれた販売店さんに渡していいはずじゃない?オフィス家具の粗利分配だってそんなもんでしょ?」

「そ、そ、そうですけど…お金はずっと後、5年後までに少しずつ入ってくるんでしょ…」

「えいっ」「こんなんでましたけど」

「…。めっちゃ赤字じゃないですか…支払始まると…」

「…。」「しかし…」

「えっ」

「そう、めっちゃ赤字掘って獲得したら、そのあと、大ジャンプ」

「…」

「…」

「やりますかね?うちの会社」

「やれるようにするにはどうしたらいい?」

「怖いですね。話としては分かるんです。これがストックのすごさなんですね。でも、ネットで適当に誰かがクリックして買ってくれる、というわけではなくて、広告なのか販促なのかをきちんとやらなきゃいけないとなると、獲得するのにかかるコスト負担を受け入れなくてはいけない、という事なんですね。適切なインセンティブ設計次第、ということですね。いくらが適切なんでしょうか。1件7万円は高すぎるということはないんでしょうか?」

「直販だけでは売れないんで協力店様にお願いする立場なんだから、そこで怯えていてはダメなんじゃないかな?むしろ、『いつまでも7万円ではないが、当初は思い切って販促費を出す』という立場で、契約上もインセンティブは変えられるようにしておけばいいんじゃないか。商品自体の魅力はもっと上げないといけないのはあるんだけど、そうだとしても、最初は目新しいし、知名度もない中で売るのは大変なのだし、実績がついて知名度が上がってくれば売りやすくなるわけだから、あとから下げても合理性はあるよね。それに最初から協力してくれる協力店と、あとからの協力店さんが同じ条件である必然性もないよね。最初から協力してくれたところ、たくさん実績を上げてくれたところは好条件で、そうではないところと、S,A,Bぐらいに条件ランクがあってもいいよね。それは机の販売と同じでしょう」

「A先輩、見直しました。でも、これ粗利だけで、販管費はいっていないですよね。」

「それはこれからなんだけど、直販ではなく、代販中心で行く、という方針だと体制もスキルも変わるよね。昨日は少し混乱していたけど、もともとうちの会社って、協力店さんとの協力関係で成り立っているのだから売るものが変わったとしても、そのネットワークを生かせないか?と考えるのは自然なことだったよね。それがうちの持っている財産、強みなんだから。」

「今、組織図見てみたんですが、今の全国の協力店さんへのサポート営業要員って50人以上いますよ。」

「それと同じものを構築することはないよね。その人たちに協力してもらえる仕組みを作って、安心して売れる体制を作ればいい。だから、必要なのは、設定や請求のお問合せ窓口やうちの営業担当や全国の販売協力店さんへの情報提供や技術サポートの担当者、ほかに何があるかな?」

「毎月請求するシステムもいりますよね。なんか仕組み化しないと販売店や営業担当の負荷が大変になります。それから、インセンティブでの販促費とは別に、やはり広告宣伝費は必要なんじゃないですか?名前を聞いたことがあるかどうか、広告をみたことがあるかどうかで販売店さんの売りやすさは全然違うでしょう」

「広告費は大きいなあ…。どのメディアがいいかも新設法人、新設拠点じゃ微妙だな…でもそれ重要だわ」

「あとは…新規の販売店、特にこの月額系のサービス販売の協力会社を集めるかどうか…。正直今までの販売店さんでもやらないところも出てくるでしょうし、こんなサービスなら取り扱いたいというところも現れるでしょうから」

「そうだな…こんな感じかな…技術サポート、コールセンターは全部外注、請求システムや顧客管理や決済システムも既存のものへのアウトソーシングでないと自社で0から作るのは無理。」

「広告宣伝費は大きいですね…」

「ケチってもだめだろ。認知を広げて販売店さんの活動を楽にするって目的なんだから。でも、認知を確保したあとは減らしているよ

「そうですね…販管費はインセンティブに関わらず、全部同じですか?」

「Case3は販売サポート人員を直販人員に割り振ることで同じだし、売れる数が少ないからと言って、全国の販売会社へのサポートは減らせないだろう。コールセンターの依頼量は減らせるかもしれないけど、待ち時間を考慮すると少したったあとは一席にはできないよね…担当してくれる人のスキル継承という問題もあるし。」

「そうか…。でも、この表を見ると販売サポート要員、2022年ぐらいから減っていませんか?」

「減らした。だんだんサポートの必要数は減って来るんじゃない?売って来る営業や販売店さんんは決まって来るし、そのうち、月間でとれる数も頭うちになるし、さらにたつと減って来るでしょう?収穫逓減というやつね。その少し前から減らした。」

「えっ、そうか!解約率さえ低ければ、新規獲得要員が減っても、新規獲得数は減らないということですか?」

「いや、違う。今は単純なモデルで作ったけど、実際には、だんだん獲得コストは上がって来ると思う。そうなったら、獲得自体を減らしていいということ。獲得を減らすということは、支援人数も減らすし、インセンティブも減らせばよい。つまり、獲得コストを減らす。この時、解約率が低ければ、売上が減るスピードよりも、コスト低減が上回るので、さらに利益は増えるのさ。俺もこれに気付いたときはちょっとびっくりしたよ。営業減らして月次の新規獲得を減らす覚悟をして利益を増やすんだから」

「はぁー。考えてみれば当然ですけど、収穫逓減しても、しばらくは売上は維持されるから、無理に取りにいかずに、コストを減らして事業を改善ですか…これも革命ですね。7月革命!怖い考え方ですよね」

「また、言っている…。でも、確かに、常識というか良識から反してはいる。昨日N美が言っていた『やろうと思ってもやれない』理由の一つなのかもしれない。だってね…既存顧客の維持のための要員以外、全部をなくすと、その瞬間、その分だけ利益が増えて、そこからしばらくそれが維持されるんだよ。」

「細かいところは別として、理屈はわかりましたし、こういう仕組みの事業だということですよね。細かいところは後にして、説明できるようにすることもやっていく必要がありますね。」

「そうだな。ところでN美、君の方はどうなの?家具の月次料金化。」

「ハイ。実は…」

⑤に続く

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