「ストックエコノミー」とは、たとえば、携帯電話や電気代のように月々の利用料金が一定額発生しそこから収益を得るタイプの経済活動を指します。このタイプの収益が非常に大きな力を持つ、ということは私もたびたび言及してきましたし、最近ではいろいろな方が注目するようになりました。
大きな会社を見ても、Adobe,Microsoftなどのブランド力を有する企業が「高額なソフトを一括で売る」ビジネス形態から「毎月の利用料」ビジネスへの変身を遂げ、どちらも大きく収益力を回復させ過去最高益を更新し続けています。彼らは非常に強いプロダクツを有してるからだ、と言われるかもしれません。しかし、日本でも株式会社光通信がこの「ストックにこだわった販売」で、決して自社開発した強い独自商品があるわけではないにもかかわらず、連続増収増益を達成し続けています。
ベンチャーの世界ではARR,MRRという言葉がいろいろなところで踊っています。MRRとはMonthly Recurring Revenueの略で「月次収益」のことです。(ARRのAはAnualで「年」単位のこと)ただし、ここでいうMRRとは、一般の会社でいう「月間売上」とは実際の意味はやや異なります。こうした「ストックエコノミー」あるいは、「Saas」の世界では、月次売上高=①前月の売上高+②新規獲得売上高-③解約による減少売上高で計算されます。ここで、①の「前月の売上高」は一般には、「契約者数」×「契約単価」で表されます。契約者数がそれほど大きく変動しない、つまり解約率は十分低い、と仮定した場合(この仮定については後で十分検証します。)には、売上は毎月すこしずつ増えていくことになります。そのことは頭ではわかっていると思いますが、実際どのくらいのパワーになるか?ということを実感をもって理解はしていないのではないでしょうか?そして、ネット企業の「急成長」「利益の急拡大」がなぜ起きるのか?それについても皆さんにわかりやすく解説していきたいと思います。
先ほどの話に戻り、SaaSでの事業を立ち上げようとするベンチャー企業にとって、「ARRの何倍が事業価値」というような言い方が良くされます。(実際には、その中身にはいくつかの注意点があります。それもこのシリーズでご説明します。)。「ストックを積み上げる」ことこそが安定した利益構造を実現し、期初に年間売上計画の8割が見えているような構造を実現する切り札であることを資金の出し手もよくわかっています。事業価値を高く評価してもらいたい、と思うならば、商品の魅力・将来の構想ではなく、「ストックの量と質」を語るべきです。
このストックという考え方は、SaaSでは非常に顕著に表れるのですが、それ以外にも、「事業はどのようにあるべきか」という日本の企業経営の根幹を変えつつあります。その理由は後程十分わかっていただけると思うのですが、「顧客とのリレーション重視」「顧客満足」「継続率」などの営業の概念が「理想」ではなく、「日常の戦略目標」となりました。いままでの日本企業は、ともすれば、100万円の機器を1回力づくで、ともすれば美辞麗句を並べて、時には半ば騙して売ることが「営業の正義」とされてきました。最近も、1台500万円儲かる(売価は2000万円程度)機械の販売計画の相談で、70近いある経営者が私に、「メンテナンス費用が掛かることなんて最後の最後まで言わなくていいよ」と言いました。それでも通用した成功体験が彼にはあるのでしょうが、古い考え方です。実際には、そんな市場は消失しつつあります。メンテナンス費用も、本体代やその他の周辺の費用も併せて、ちゃんと利用するメリットを毎月きちんと感じてもらい、そして毎月の利用料としていただく、ということが当たり前の社会になりつつあるのです。
このシリーズでは、
の3点を中心に取り上げます。特に3点目に、「売る体制」は非常に重要であり、私にとっては、秘伝のノウハウでもあります。私自身、1と2は以前からわかっていました。しかし、3は前述の光通信でこれを学ぶまで、実際のところはわかっていなかったところがあったと今になって思います。もちろん、同社の営業秘密をここで紹介するわけにはいきませんが、一般論としての営業管理の仕組みは他に言語化している事例をあまり見たことがありませんので、貴重なコンテンツになるものと思っています。
それでは次項から少しづつご説明していきたいと思います。