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将の代わりはいない

 いきなり語弊のあることを言います。兵の代わりはいくらでもいるが、兵を率いる将の代わりはいません。

 決してそれが人間の価値そのものというわけではありませんが、その「人を使う役割」の能力の大小は厳然として存在し、そして年を取ってからでは容易に獲得できない能力です。その能力差は非常に大きく、情報の収集、判断と遂行のためのリソース配分に対して的確で、そして大胆な判断ができないと、平時は徐々に衰退し、非常時には破局を迎えます。

 この思いを再度強くしたのは、市長や市の幹部が新型コロナワクチンを優先摂取することがさも悪であるかのようにメディアが取り上げるのを見たときです。今は大災害下にあり、トップの判断一つで状況が大きく変わる状況であるときに、その部分を守り、最大限の性能を発揮するようにすることは戦略上当然のことです。その判断の是非を議論することはあっても、判断が停滞しないようにする対策は取られなければなりません。
 大衆はサラリーマン、主婦の自分と、非常事態下の組織のトップとでは、どちらを保護すべきかということは「平等である」ということが正しいと思っています。人間としては同格であることは間違いないですが、非常事態下の戦略目標の遂行のために最善を尽くすという意味ではそうではない。
 それにマスコミも迎合している、あるいは勝つ組織というものを報じる側も知らないで、組織論・戦略論、トップの役割が認識できていない、ということが背景なのでしょう。組織には戦略目標があり、それを達成するための戦略の組み合わせがあり、その組み合わせの立案と遂行の責任は、末端ではなく、トップにあります。判断一つで、全員生還できるか全滅するかの分かれ目で判断を下すのは、組織のトップであり、それを選んでいるのは市民です。

 まあ、行政のことは経営にはあまり関係がありません。

将の将たる所以

 ただ、経営に限ってこれを考えても、気になる現象を目にすることがあります。重要な経営事象であるのに、経営者が判断しないで、部下に任せる、部下に明示的に任せるぐらいならばまだよいのですが放置する、という事例が、サラリーマン経営者や若い経営者に多いように思います。そして、こんなことをいうのです。

  • 「考えさせないと成長しない」
  • 「自分ひとりがすべてを決める組織にはしたくない」
  • 「一人一人のメンバーが責任感を持って考え行動する組織が真の強い組織だ」

 これは対象が「経営」である限りは、(つまり、今ある事業の存続を前提に改善を検討するというような「部長の仕事」ではない限り)全部間違っています。経営者と現場は持っている情報量が全く異なるので、経営者が判断すべきことを現場が判断しても不完全です。
 そして、判断基準も異なります。現場は多くの場合、「自分たちが生存し続けられる」ことを目的とした思考をします。これに引っ張られる経営者もいますが、経営者の本来の役割は異なり、「事業の価値を最大化する」ことであり、そのために現状の組織が不適当であれば、社内人員を減らしてのアウトソーシングや業務の廃止売却などの選択肢も候補ですし、違う事業に取り換えることも選択肢です。現場に指示できるのは、当面のやることややり方を決めたあとの、「遂行」です。
 その価値基準が一致していないところで意見を聞いてもかえって溝を深めるか、自分の判断を縛ることになります。

将を選び、育てる

 それを分かれと言ってもわかるものではなく、そうしたことに興味を持ち、責任感と知識と判断力を持つ少数の人員を経営陣に引き上げ育てる必要があるのです。そういう人を社員の中から見つけ出して抜擢するのも経営者の役割です。

 そして、育てる方法は、「経営(利益額)を任せる」ことです。ただし、数字を任せた後、その数字を分割して下に按分しているだけの人(特に年齢の高い営業出身者に多い傾向があります)がいないかは注意してください。こういう人は、組織を破壊しますので、即刻外す必要があります。
 自分は数字責任を負っていても、部下にはそれをどうやって実現するかのプロセスの実行をさせるのであって、それを部下に配分するのは「大きな勘違い」です。そして、そのプロセスを描けない人、どうやって勝利するかを語れない人は、将の器ではないのです。その「絵の描き方」は、確かにいくつかの典型的パターンはあるので、組織をグロースさせる経験を重ねるうちに徐々に蓄積されているものではあるのですが、決して年齢では身に付きません。むしろ若い人の方が、具体的で実務的な絵を描けるケースが多いくらいです。
 よくある「どうやって実現するかは自分で考えろ」は、将として失格です。

 世の中に、「将」は少ししかいませんし、メディアは特にこの存在から程遠いため、知らないで組織を語っています。そして、多くの人はそれが正しいと思っています。
 そんな事例が最近気になったので、ちょっとコメントしたくなったのです。

 

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