3月になり、今年も、ご協力をいただいている大企業の方から「4月から異動になりました。後任は…」という連絡をいくつかいただきました。さみしくもあり、多くのノウハウをご提供いただいたことへの感謝を新たにする機会でもあります。
私は「転勤族」の子供で転校が多い小学校時代を送ったので、「仕事で引っ越す」ことが当たり前だと思っていたのですが、そうではなかった妻にとっては、「仕事のために自分も慣れた土地を引っ越さなければならない」ことへの反発は非常に大きくて迷惑をかけたものです、。中国まで連れて行ってしまいましたし…。
ただ、これは大企業特有の事情です。中小企業では、いつまでたっても同じビルで同じ上司。担当部門や担当顧客の変更を異動と呼んだとしても、実際には部屋も一緒で業務自体はだいたい一緒です。これを働く側から見ると、大きな問題がなければ「家庭的にも安定できていい環境」なのでしょうが、どうしてもあわない上司というのは人生に何度かはいるもので、目を付けられるとやめるまで攻撃されるという事にもなりかねません。
逆に会社側、上司側から見れば、中小企業はポジションのパターンが限られますし、稼ぎに直接寄与しない間接人員の割合を一定以上に増やすことも経営上はできませんので、稼げない営業、処理能力の遅い事務員(は大抵営業もできない)がいても、「適材適所」を試みる余地が中小企業にはありません。
「日本は、解雇規制が厳しくて人材の流動性が低いことの弊害」が、昨今特にメディアで自由主義派論客が主張していますが(私もどちらかと言うとそちらに近いですが)、それは、彼らが出身元であったり付き合いのある大企業しか見ていない視点からの発言です。日本が解雇規制が厳しいのは本当ですが、中小企業の現実は、それでも解雇的な動きは実際にはグレーであってもざらにある、やらざるを得ないのであって、むしろ金銭的補償があった方が、不適合人材側には有利です。
それはそうとして、異動先がないのが中小企業。そして、一部署が小さいので、もし重要顧客担当で欠員が出ようものならば、相当の追加的対応を払わざるを得ません。たとえば東京本社での欠員を大阪営業所の人に1年に限って相当の手当てを払ってでもお願いせざるを得ない、というようなことも起きがちです。しかも大阪営業所側も、補充が容易ではないので、それにより衰退傾向が止められませんし、一年後に戻せないとやめられてしまうことになりかねません。昔のように東京へ引っ越しが当たり前のように受け入れられる時代ではないのです。
持続可能性という観点では、中小企業の複数拠点、複数事業というのは、若手の定着率が上がらず、しかも早期錬成手法が確立していない会社では、維持の難易度が上がっています。だからと言って、成長性が低く、大顧客の動向に左右されるような一事業に頼っていることは長期的な持続可能性という観点からはかえってリスクを増大させています。いったいどうすればよいのでしょうか?
大企業では、人事異動は、本来の①市場ニーズの変化に合わせた人員配置という事のほか、②複数業務をよく知ることを通じてこれらを統括するポジションの幹部候補の育成であったり、③上に上げたような業務や人間関係の不適合の解消、という事も実際の目的となっています。しかし、中小企業での異動、というか担当業務変更はこれとは違う、次のような目的の置き方、指示の仕方が必要になっています。
このようにすると、「生産性が低下して仕事が回らない」と現場は反発するかと思いますが、そもそも中小企業では毎年ざっと1割の人は辞めて、何らかの形で後追いで急ぎ補充されています。ならば、10%を25%に計画的にしても、教育や業務マニュアルの整備ができ、ある程度多能工化が進み、しかも他部署のノウハウが定期的に注入されればその方が、はるかに生産性は良くなるはずです。
加えて言いますと、この方法ならば、退職時の引継ぎも容易です。
ただし、やっぱり忙しさは増しますので、いつもいろいろな場面で言っていますが、「やらない作業」をどんどん抽出することは必要ですし、在宅、外注でもいいことはそれに移行するということも併せて必要でしょう。
いつも後追いで退職補充で慌てて異動していませんか?それ、仕組みを変える必要があります。4月1日はそれの良い機会になるでしょう。