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ルールチェンジ

 ヨットレースでは、風向きが変わると先頭が変わることがあります。風を後ろから十分に受けられるようにしないとスピードが出ないのですが、その際に、遅れていた艇が位置取りによっては先行していた艇よりも一瞬にして風に対して、前に位置するという事が起きるのです。
 ヨットレースはそのほかにも、後ろから風を遮る作戦があったりと、本当に経営戦略っぽくって面白いのですが、それはまた別の機会に。

 世の中ではルールを作るものが一番強いと言われます。その最たるものが、アメリカという国家であり、あらゆる政治、経済、技術の局面で自分に都合の良いルールを作って他の国に押し付けることで覇権を確立し、維持しようとするわけです。ビジネスの世界もそれは同じ。だいたいの業界ルールとか、契約書の制限事項なんてものは、強者の既得権益を守るためにあるのであり、強者はそれを、「マナー」といい、社会的な価値、安定のために必要だというわけです。

 しかし、その覇権に挑むチャレンジャーもまた常にいます。そのチャレンジャーのうち、小さいものは恐竜の卵を喰らう夜行性小型哺乳類のようにゲリラ戦を挑むわけですが、そうではなく、国家レベル、大企業の企業連合レベルでそれに挑むケースもあり、その中の多数派工作によりルールが変わってしまうという事が起きます。その「ルールチェンジ」が最近では、時代の変化とともに割と頻繁に、そしてはっきりと目に見える形で起きるようになってきているようです。

 最近、このルールチェンジで目立ったのは、「自動車の電動化」です。トヨタの豊田会長が、環境問題としての合理性が十分ではないことや、社会安定としての給油インフラや技術蓄積の重要性を訴えられています。それは全く正しいのですが、電動化の動きは別に環境問題のために起きているわけではないことはご存じの通りです。これは、中国・ヨーロッパ連合が、アメリカ、ドイツ、日本の内燃機関強国にルールチェンジで優位を崩し、新ルールでの優位を確保しようとして起こしているムーブメントです。自動車の圧倒的世界最大市場は世界需要の30%を占める中国であり、全部合わせればアメリカ(世界市場の20%弱)と並ぶ市場であるヨーロッパと手を握れば主導権は握れるというわけです。日本は世界市場の5%と小さな市場でしかないので、このゲームに影響を与えることはほぼできません。こうして中国を中心にルールチェンジが起きているものはほかにもたくさんあります。何よりも、日本は「中国生産」により大きな構造変革と多大なメリットをこの20年受けてきて、そして今は脅威となっているわけです。


 日本の国内生産は1000万台弱、国内販売は500万台。輸入車があるものの、その差は輸出です。そのほかに、日系メーカーが国内開発海外生産しているものもあります。新しいルールに乗って競争するか?背を背けて独自ルールで行くか?独自ルールで言った場合には、国内市場だけで生きていくのか?それを上回る多数派工作をするのか?日本には、もうそんな多数派工作の力はありませんので、新ルールで戦う準備をするしかないでしょう。それは豊田会長もわかって言っているはずです。そして、「いらなくなる部品」を作る会社と労働者がたくさんいるわけです。

 ちなみにこの話をあるところでしましたら、ある偉い方が、私にいきり立って、「さらに多くの人口を抱えるアジア・アフリカはまだまだ経済的に発展途上だから、高価なEVには手が出ない。中国万歳主義には反吐が出る!」と面罵されたのですが…こちらよろしければご覧ください。45万円でざっと100キロ走る中国製EV。今、世界のEVでテスラ3に続く2位の売上です。

https://www.sgmw.com.cn/E50.html

 ルールチェンジはもう起き始めているのです。

過去にも様々なルールチェンジが起きていました。わかりやすいところでは、栽培からの絹綿繊維は石油からの人工繊維になり、人工繊維の生産は海外に移転し、その加工品の生産もやがては海外に移転しました。個人商店は、駅前デパートやスーパーに敗れ、駅前の多層階スーパーは、郊外のバイパス沿いのショッピングモールや大型専門店に敗れました。

 ルールチェンジは、政治や社会、環境、技術などのバックグラウンドがあって起きていることです。そこには、キャッシュフローの多寡を基準とする経済的合理性判断とは別のそれぞれの「正義」をめぐる争いが存在しています。限界費用の圧倒的に安い国産技術である原発を廃棄するでも再起動するでもなく維持したまま、技術を海外に依存する洋上風力を推進したり、店舗の営業時間を制限することにより、テイクアウトやネットショップが隆盛したり、あるいは航空会社や高速鉄道の利用が激減し、ネットミーティングが当たり前になり出張費用が激減したり、大手キャリアのスマホの月額利用料がいきなり半減し、新規参入組が壊滅的になったり、電力市場の市場メカニズムが失敗し、新規参入組が大きな損失を蒙ったり(もともと電力市場の機能不全は2016年からずっと指摘されていた問題なのですが)と、ここ数か月でも大きな動きが次々と起きています。そして、この流れは豊田会長のような信頼と敬意を集める経済人を中心に束になっても、あるいは日本政府がどうこうしようと思っても、実際には止められない奔流となって押し寄せているのです。

 トヨタのような大きい会社であっても、市場を変えることはできません。できるのは、変わりゆく市場に対応するよう自分を変えることだけです。それも人より早く変わる必要があります。

おりしも、経済産業省で「事業再構築補助金」という制度が令和2年度3次補正予算の目玉事業として開始されます。弊社の周辺でもこれを斡旋しようとする業者や、検討する事業者などが入り乱れています。そして、この補助金、「建物に使える」という今までの補助金にない特徴がある点が独り歩きし始めています。「事業再構築の検討」を手伝うなんて、継続的にお付き合いしてその会社のことを深く知り、痛みを共有できる覚悟がなければ、到底責任をもって提案・参画できるようなものではない、と私は思うのですが、どうもこういう補助金がでると、その一部を手に入れようという低レベルな「書類作成業者」が増えることには、それを利用する事業者の将来を案ぜずにはおれません。弊社はそういう立場から普段からお付き合いのある、よく理解している会社様しかお手伝いしません。

しかし、激しく変化する市場への対応に大きく方向転換することに、政府が手を貸してくれるということには、大変ありがたいことだと思いますし、その支給の制約条件として、「生産性向上指標」が用いられるというのも、賛成です。あまりにも低い中小企業の生産性をあげるためにこれらを用いることは長期的には、産業と消費の活性化に役立つものです。

大きい会社でも、いやむしろ大きい会社だからこそ、この風向きの変化に乗り遅れる会社は必ず出てきます。いち早く風を読み、位置取りをすれば、次の瞬間には、会社はレースを前方で進められる状況になっているかもしれない、今はそういう時代でもあるのです。

 

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