弊社では、事業立ち上げ間もないベンチャーと、なぜか創業数十年~100年超(一番古いところは明治5年!)の両極端なお付き合い先があるのですが、このふたつは、同じ中小企業でも結構別の生き物であることを感じます。
一番違うのは、後者には曲がりなりにも「今まで売れてきて、今でもなんとか売れてはいる商品とそれを生み出し販売するそこそこ習熟した組織がある」ということです。前者はそれを生み出す(最近はやりの言葉でいうところもPMF)のに四苦八苦しているし、見つけたと思っても低価格化や競合出現の大波、それに必要な投資をいかに行うかに苦しんでいるわけです。
これからお話しする「オペレーショナルエクセレンス」シリーズでは、主としてこの後者の経営者の方へのご説明を想定しながら進めます。すなわち、「商品も仕組みもないわけではなく、なんとなく回ってきたけど、このままだとじり貧」。そんなときにどうするか?というお話です。もちろん、前者の方にも参考にはなるようにします。
「あなたの会社の強みは?」という質問の違和感
私も経営コンサルっぽく、新しい経営者の知遇を得ると、「御社の強みな何だとお考えですか?」とか「御社の5年程度のビジョンはどんなものですか?」とか、それっぽい質問をすることもあるのですが、こういう質問をおいしそうに回答するのは前者の経営者で、後者の経営者はたいてい興味がありません。それは当たり前のことであり、別に非難するようなことでもありません。彼らの関心事は、「今ある仕組みを改善し、あるいは新しいものを作ることにより業績を改善し長期安定させること」であり、その結果として「自分の資産と社員の雇用を守ること」であるからであり、そこに答えるのが私の仕事であるからです。別に社会的意義とかミッションとか…それを否定しているわけではないが、そんなものは飯のタネにならない、というのが彼らの偽らざる気持ちです。
ビジョンや強みを明確にすることが来月の社員の行動変革に役に立つならば一生懸命考えるでしょうが、それが何の役に立つのかわからないままに、そんな抽象論に時間を費やすほど暇ではないのです。もちろん、これらは採用や人事評価の仕組み構築に決して無関係ではないのですが、経営者も社員もこうしたことを考えずに長期間を過ごしてきた組織のなかで突然そんなことを言い出しても、誰もついてきてはくれません。それに、歴史ある中小企業では「根幹から替える」ことには、やり方、タイミング、着手箇所の点で慎重でないと足元をすくわれる恐れがあります。
なので弊社としても「短期的に実効性があること」を確実に提供して信頼を得て、その中で少しずつ組織の思考レベルをあげていく中で取り組んでいくのが経営改善の筋道です。
「短期的に実効性があること」とは
それでは、「短期的に実効性があること」とはなんでしょうか?もちろん、営業的に役に立ちそうなパスを提供して、売上増に寄与する、ということも方法の一つですし、可能な限りそれも実施してできるだけ早い時期に経営者や幹部の方の信頼を勝ち得たいと思っていますが、それが一時的対処に過ぎません。経営の筋力を鍛えていくことが必要です。
こうした歴史的な価値あるストックを有し、その反面としての思考や視野の縮小が起きている会社に、先ほどの質問、つまり、「あなたは自分の会社の強みは何だと思いますか?」をそれでもぶつけてみると、多くの幹部がまじめにこう言います。「生産部門品質を一定水準に維持しているし、貿易担当は低コストで納期維持がほぼほぼできていて、営業も顧客にきちんと食らいついていて…」
これは、自社しか知らず他社との比較ができない中で普通に考えると、「社内の関係部門が少しずつ工夫を積み重ねてくれることで今の仕組みでなんとか回っている」ということを言っているだけではあるのですが、それは多くのケースであながち間違っていません。
「それぞれ工夫して頑張っている」はダメなのか?
世の中では、「とがったベンチャー」が持て囃されています。しかし、「それが正しい」と思うことは危険です。ベンチャーは人もお金もネットワークも持っていないため、一点突破主義にならざるを得ません。だからこそ「とがっている」ので、一か所だけは確実に突破できることを資本や労働や商品の市場関係者にわからせるべくアピールしているのです。その意味では、出来立てのベンチャーに比べてこれらを多少はストックしている歴史ある中小企業は、資源の「集中」か「バランス配分」かについてベンチャーと違う戦い方をしてよいはずですし、すでにあるものを守ることへの配分はせざるを得ません。
そして、
実は、「特別な強み」などある会社はまれです。
そして、そうした「強さ」はもちろん、日々の中で目指すべきではあるでしょうが、実際には、
「強い商品・サービス」を身に着けられる確率はとても低いです。
身に着けられなかった資金切れでベンチャーは死んでいきます。しかし、中小企業はそんな戦い方はできませんしする必要はありません。
そして、競争がそれほど激しくなかったとか、かつての強みに恵まれていたとか、いろいろな事情はあるにせよ、
「人に言えるほどの目立った強みがない会社でもいくらでも存続できる」
のです。
こうした視点から見てみると、先ほどの経営者の話にあった、「各自がそれぞれ工夫して頑張っている」は実はその会社が存続していくための立派な「強み」なのだと思います。経営者や担当者が意識しないうちに、工夫の中で「習熟」と「最適化」をそれになりに積み重ね、それらを密に組み合わせることで、品質とコストを当初の水準よりもだいぶ改善している状況を実現しているのです。そうした、「日常のオペレーションの強さ」は、昨今のマーケティングブームの中で軽視されるような風潮がありますが、実はとても重要であり、マーケティングプロセスの改善に本格的に着手する前にむしろこちらの改善を先行させ、人的工数と資金の余裕を作ってから次にマーケを進めた方が中小企業では現実解だと考えています。
それでも、「それぞれが頑張っている」ではだめな点
「オペレーションの組み合わせ全体としての強さを維持している」という状態は、認めるべき強みであり、ここのメンバーの貢献も認めるべきことです。しかし、そのままではダメなのです。なぜダメなのか?を具体化したものはなかなかありませんが、こうしたことをもっている中小企業が抱えている問題は次のようなものです。
これらは多くの中小企業にとって耳の痛い問題であるはずです。マニュアル化とか、公知化とかいうことは過去に何千回も思ったし、取り組んだことも幾度とあるのにうまくいかなかったことでもあるはずです。その、「なぜうまくいかなかったのか?」を明らかにして、それに対処しないことには同じことを繰り返します。今までとは違う仕組みが必要なのです。
「社員が参加できる改善」
この「社員が参加でき、主導できる」というのは日本で経営コンサルを営業するうえでは、耳障りの良いキーワードです。確かに現場のことを一番よく知っているのは、経営者ではなく、現場担当者です。しんどい思い、嫌な思いをしているのも社員であり、それを楽にできるならば社員は歓迎なはずです。
また、「事業の枠組み」や「戦略」の話を社員に相談しても、社員の視点は普段は全くそんなところにありませんので、思い付きの答えしか返ってきませんが、「現場のある一つの時間や労力の削減」という問題に絞れば、社員は具体的に考え行動することを期待できます。そして、小さな範囲であれば、調査や試行錯誤をすることはできる人がたくさんいます。そこに、すでに文面化されたベースがあれば、「今あるものを改良する」というところに課題をブレイクダウンすることが可能です。
これは、ToyotaWay(トヨタウェイ)の中でも繰り返し強調される「現場主義」の考え方ですが、これもやってみるとうまくいきません。一つは「ベース」となる資料がないことですが、もう一つはみなの参加意識が得られないことです。
この「参加意識」の問題はこのシリーズの中でも重要な課題なのですが、製造のように目に見えることではなく、ソフトウエア的な手順のような自由度が高いものについて対処するには、それでもなお自由度が高すぎるということも原因です。人は、「次の電信柱までダッシュ」と言われると走れますが、「より効率的なフォームを意識して1キロ6分ペースを維持して…」と言われると走れないのです。結局社員が参加できるステージを意識して作ることは大事ですが、社員に任せきりでは進まないし、お膳立てするという覚悟も必要なのです。
次回はその辺をもう少し細かくみていくことにしたいと思います。