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ジョブ型雇用を準備する④人事評価制度をどう見直すか?

今月は、いよいよ待ったなしの改革となりつつある「ジョブ型雇用」制度について中小企業の観点からどのように見直すか、取り組むかという点を中心にシリーズで記載しています。

ここまでの流れは、①でなぜ中小企業にもジョブ型雇用が必要なのか?(それは、中小企業こそ、生産性改革と若手への求人の魅力の強化が必要だから)、②では、会社の業務と価値の生産の観点から理想の組織を描き、それを組織図にしてみようということをご説明しました。また、前回の3回目ではその組織図の各組織をどのように定義するかということをご説明しました。

今回は、それに引き続き、「人事評価制度」についてご説明したいと思います。経営者の心理的にはこれが一番重いと思いますが、作業的には実はこれまでのところのほうがずっと大変ですし重要です。

中小企業は、そもそも人事評価制度が必要なのか?

中小企業で「人事評価制度」といっても、そんなものないよ、という会社もたくさんあるし、それこそが社長のフリーハンドを握るべきことだとか(そういう主張の本もあります)、中小企業に成果主義はなじまないとか、そもそもの話がまずたくさんあります。しかし、その話の前提にあるのは、今までの日本社会のように「中小企業がたくさんあって、重層下請け構造が保持されたり、政策的に中小企業の存続に向けて税制その他で支援が行われる(自民がその層を支持基盤にしているから、という説明がよくされる)」、ということが前提になっています。このような日本社会の低生産性の原因が中小企業にあるとしてもそれは永遠に保持されるであろう、ということは本当に正しいでしょうか?

結論からいうと、この考えは私の理念とは全く関係なく、この20年は保持されてきたが、これからは正しくありません。たとえば、こんな記事がありました。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61616000W0A710C2EE8000/

有償記事のため、読めない方もおられるので、一部を引用しますと

日本生産性本部によると、18年の日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)に加盟する36カ国中21位と低い。中小企業が多いことも要因の一つとされる。製造業の場合、企業の規模が大きくなるほど生産性は上がるとのデータもある。日本企業は99.7%が中小で、従業員数も68.8%を中小が占める。

統廃合を含めて新陳代謝を促し、全体の生産性向上をめざす方針に改める。

日本生産性本部によると、18年の日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)に加盟する36カ国中21位と低い。中小企業が多いことも要因の一つとされる。製造業の場合、企業の規模が大きくなるほど生産性は上がるとのデータもある。日本企業は99.7%が中小で、従業員数も68.8%を中小が占める。

20年の成長戦略は新しいKPIとして「(中小企業より規模の大きい)中堅企業に年400社以上が成長する」との目標も盛り込む。M&A(合併・買収)などで規模を拡大させ、社会全体の生産性を底上げする狙いがある。「1人当たり付加価値額(労働生産性)を5年で5%向上する」とも明記する。

日本経済新聞2020年7月17日

他にも関連する政策はあるのですが、「パパママ経営」「家族主義(で効率が悪い)」は守られない方向に舵は切られ始めています。もちろん、メンバーシップ経営であってもトヨタ自動車のように世界一の生産性を誇る会社もあるわけですので、生産性さえ上げればジョブ型である必要があるわけではありません。けれども、「生産性が低いままでも、もうしばらくは生きていられる」ということは正しくありません。

もう一つ、考えていただきたいのは、「どうやって若い人を採用し定着させていきますか?」ということです。その中で、「徐々に給与があがり、仕事の裁量範囲が増えていきます(が、それには10年以上かかります。)」ではもう通用しないということを一番如実に感じているのは中小企業の経営者のはずであり、ジョブ型雇用はそういう経営者の代替案なのです。

ジョブ型の人事評価制度の原則

ジョブ型の雇用形態であるかどうかにかかわらず、本来はそのはずなのですが日本企業ではあまり守られていない人事評価の「原則」があります。それは、

「あらかじめ定められた職域の中で評価する」ということです。評価の対象が「成果」のみでも、「成果と能力」でも、それは言ってみれば会社の制度次第ではあるのですが、その「成果」も「能力」もそのポジションの要件であると「職務記述書」にあらかじめ記載された事項でなければ、「後出しじゃんけん」になってしまいます。もちろん、その「ミッション」には、それを行うのに必要十分な「権限」が一定の承認は必要にせよ、セットになっている必要があります。つまり、何で評価されるかが事前に明確になっていて、適切な権限移譲が行われていて、それのみで評価されるのではない仕組みは、「不公正である」という感覚を評価する側は持つ必要がある(それが女性や外国人も含めた若者を雇用し活躍してもらうためには必要)ということです。

そのために、前回ご説明の職務記述書の「期待される成果」と「必要能力」は誤解がないよう具体的であり、かつ必要十分である必要があるのです。

何を評価するのか?

そのうえで何を評価対象にするのがよいのか?というと、少なくとも管理者は「成果」「結果」に重きを置くべきだと思います。つまり、会社が望む結果を率いる組織で実現したかどうか以外に評価の対象ではない、という「責任の明確化」が必要であり、個人売上がどうとか、あるいは勤務態度とかはコンプライアンスやハラスメント上の問題(これは成績の問題というより懲罰の問題)ではない限り評価の対象ではない、と割り切るべきであるということです。

このような当たり前のことが、「人間性」やら「勤務態度」やら、お金になかなか変わらない(つまり会社にあまり関係しない)「能力」やら、いろいろなものに目を向けるあまり、あまりにも複雑なことを考えることを強いられ、そして自分で説明することすらできなくなっていて、結果として制度にできなかったり運用が破綻しているのが、今の日本の評価制度の姿でしょう。ルールの範囲内で、「与えられたミッションさえ達成すればよい」というシンプルさに立ち返らなければ仕組みを動かすことなどできなくて当然です。

そういうと「成果主義は短絡的、即物的なことしかしなくなる」という文句を言う人がいますが、それは経営者の「目標設定能力」の不足の問題です。ミッションとは当期の売り上げ、営業利益だけではありません。中長期的な利益を求めるならば解約率や継続取引先売り上げやら、あるいは顧客満足指標やらを組み合わせるなど方法はいくらでもあります。そして、この「目標設定」能力こそ経営者や管理職のジョブ型雇用で非常に重要な素養であり、評価制度と合わせて、組織をドライブする力の源泉になるものです。この「目標設定」については、別の機会に説明を行う予定です。

ともあれ、経営者が短期と中長期のバランスの重みづけと中長期の目標において当期に何を実現するかの過程を社員に明確に示すことができれば、それを「成果主義」に取り入れることは容易です。そして、ほとんどのケースで、批判をする経営者本人が、実は「中長期で何を実現するか」「そのために今年は何を実現するか」を言明できません。つまり、「長期の成果」と口では言うが、それが何なのか、自分でもわかっていないのです。それでは部長、課長級が「長期の成果」を追えるわけがありません!

つまり、「ビジョンの明確化」という経営の最初の一歩がまず必要になるのです。

一方、一般職の評価制度をどうするか?は大企業でも、「能力評価」「プロセス評価」、場合によっては「勤務態度や資質」を加えているなどの例が多くみられます。人数的に多いこの部分でバランス感を重視しながら安定的な組織運営をしていきたいという経営陣の考え方を反映したものであり、これ自体は否定はしません。事前にわかっている明確な制度の中で評価が行われるのであれば、社員はその範囲で努力をします。しかし、私自身、大企業のそうした仕組みの中でかなりの数の評価を受けても来ましたし、評価をしても来ましたが、制度が複雑になればなるほどにそこにかかる手間が増え、対応はいい加減になります。そして成果が乏しい社員に対して激変緩和措置として成果以外の部分が恣意的に用いられる傾向が強くなり、給与が下がる、賞与が減ることを救済してあげようと鉛筆をなめる傾向が多くみられます。ある時、そうした「情実」評価をする中間管理職の部下に私がそれを指摘したところ、いみじくも彼はいうのです。「結局数字が上がる人はその他の評価も高いし、数字がいかない人はその他の評価も悪いのです。」

一時的な幸運や見誤りが混入することがあったとしても、長期的には「正しいプロセスが正しい結果」を生んでいるので、「結果」と「プロセス」はほぼ同じ結果となる、と彼は言っているのです。

一方でよい方に対しては人件費込みの採算責任を有さない日本の一般的な管理職は部下の給与を上げようとしますので、この激変緩和的な措置を取ろうとしません。そのため、減るべき人が減らず、増えるべき人が増えるので人件費が毎年増え続けるという現象が起きます。これを防ぐためには、成果以外の部分での評価の相対評価による分布割合制限を入れたり、成果部分での基準を予算達成度で正規化するなどの仕組みを取り入れて、業績と人件費が連動する仕組みを入れることが必要なのですが、最近の若い人は特に学校教育の影響なのか、「相対評価」に否定的です。

いずれにせよ、原資は利益の中で一定ですので、何等かの配分が必要である、ということを説明すると「自分を減らして部下にあげる」ことが美徳だと思っています。こういう人は人を見るメンバーシップ雇用の中での小規模な組織のリーダーとしては適当ですが、大きなリーダー、あるいはジョブ型雇用のリーダーには向きません。上位の管理職に必要なのは、「制度を効果的に運用して、組織の生産性を上げる」ことであり、「中間以下の成績の個人を救済すること」ではありません。「コストは抑制しつつ、成果を上げられる人を残す」ことであるということが自分の職務だと認めなければならないのに、「人をコスト扱いするのは間違いだ」とか様々な考えに混乱させられているのです。まぎれもなく、多くの業界で人件費こそがもっとも大きなコストであり、そして、製造業以外では人によって生産性に数倍の差があるため、「最適化」の必要性が経営にとって機械以上に高いものなのです。そのことを直視して必要な対処を行わない限り「機能しない部分」を社内に抱え続けなくてはなりません。それは中小企業にはあまりに重荷であり、結局中小企業の経営者は、「やめさせる」ようなことを必要に迫られて実際にはやっているのですから、それを普段の制度の中で「やめさせる前に制度で給与の削減等で対処する」方がよほど良心的だとは思いませんか?

結局、こうしてみていくと多少の他の要素、特に「バリュー、ミッションへの共感」というところを評価に取り入れる工夫をする点以外では、目標管理を適切に行う前提で成果評価一本でよいのではないか、と思いますし、そのくらいシンプルでないと、「どうやったら成果が生み出せるか」に上司と部下が集中して討論するという本来の人事制度が実現したい状況を阻害してしまうのではないか?というように思います。人事評価制度はできる限りシンプルであるべき、というのが多くの中小組織を見てきて思うところです。

さて、人事評価制度をめぐる話はこのくらいにして、次回目標日は「給与」と「職級」をめぐる話を進めたいと思います。ここも「変える」心理的障壁が大きいだけでなく、「不利益変更」の問題も絡んでくるので重要なポイントです。

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