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過去の不況に学ぶ

新型コロナウイルスによるリモートワーク、集会中止は確実にこの先しばらくの日本の企業業績を一部を除いて押し下げそうです。もちろん、全部が悪いわけではなく、リモート勤務を可能にするツール群のサービス企業など「特需」に沸いているところもあるようです(こういうところはあまり自分が儲かってるとは言わないわけですが)し、個々が成果を完遂する文化の企業では3月決算に向けて「別に変わりない」ということもあるようです。しかし、実際には2018年末から製造業は中国需要の減退に見舞われていましたし、2019年秋からはベンチャー企業向けのイクイティファイナンスも変調をきたしていた中での今回の、社会全体のブレーキングは2014年以降緩やかに続いていた好景気に変調を来たすことになりそうです。

でも、こんな局面は過去30年を見ても何度もありました。たとえば私が実情を見てきた中では次のようなものです。(歴史的にはもっといろいろあるのでしょう。)

  • 2008年 リーマンショック後の急激な円高と株安
  • 1991年 バブル崩壊による不良債権の増大と株安
  • 1985年 プラザ合意による急激な円高

そして、そのたびに様々な方法で活路を見出した、もう少し具体的な言い方をすると「進路変更に成功した」企業が次の拡大期に主役に躍り出ました。

不況期になると「縮小均衡マインド」の経営を戒める記事が経営専門誌や経済紙の社説にたびたび掲載されます。確かにそれはその通りで、誰もまだ気づいていないようなニーズを世にアピールできればそれに越したことはありません。iPhoneが初めて世に出たのは、2007年、その後リーマンショックの後遺症のさなか世界的ブームとなりましたし、日本で割高でも品薄のiMacブームが起きたのも、90年代後半の大不況期でした。不況期だってヒット商品は生まれます。

しかし、中小企業にはそんな「奇跡」が起きることを待ち望んでチャレンジを続ける余裕は時間もお金もありません。下請け脱却を図りつつ、「やれば実現できそうなこと」で生き残りを図ることが現実には必要です。そして、それは今から準備をしておくべき段階になってきているように思います。

こうした企業はいくつかの類型に分類できそうです。もちろん、周辺環境がそれを可能ならしめたという部分はあるのですが、次に備えるという意味で簡単に列挙していきたいと思います。

①コストダウン型

まずは、王道ともいうべきコストダウン型です。社内の販管費を下げるという意味では、次のような販管費のコストダウンということを早めに大胆に取り組んで採算分岐点を引き下げたところが次のアクションを取るのに優位にたちました。

  • 不況期には不動産相場が下落することから、これを元に販管費の多くを占める地代家賃を再交渉することが行われます。(専門アドバイザリー企業が伸長したのも2008年の不況期移行でした)ここ5年程売り手市場が続き、交渉はいい物件ではむしろ藪蛇になる恐れがあるものでしたが、下落局面ではチャンスです。これは、借地借家法に基づき契約更新期以外でも可能です。
  • 2005年(実際本格化したのは2008年以降)工場等の電力自由化に伴う電力料金の交渉で下げられます。(今は低圧も安いところを選べますし、高圧は自由競争の世界になっています)中小企業では、まだまだ地域電力会社の少しだけ基本料を引き下げた「特別プラン提案」を信じている事例が沢山あります。最近であった事例では、従業員20人ほどの工場で地域電力会社(いわゆる新電力ではない)から正規の基本料金単価の1/3以下という提案を引き出した事例もあります。
  • ガソリン、軽油の組合加入による引き下げ。運送業では以前から一般的でしたが、特に社用車を多く使うところでは2010年以降普及が進みました。これも小幅ですが、継続的にコストダウンが可能な方法です。
  • 物品調達の競争入札的手法を取り入れた引き下げ(JALの再生プロセスなどでも多く用いられ、販管費総合や単品でも支援サービス会社が2010年以降伸長しました。代表の上村は前職はこのようなプロセスの支援サービス会社の代表をしていました)
  • これは功罪半ばするとの見方もあると思いますが、硬直的な日本の労働法制(解雇や給与の引き下げが事実上できない)に対して、90年代後半以降リストラによる固定費の削減、非正規社員の割合の増大や派遣社員の活用という形での労務費の変動費化ということが行われるようになりました。

こうした「縮小路線」をまず行う経営者を非難する論調は世に広くありますが、「縮小だけ」ならばそれは当たっているかもしれません。しかし、需要が縮小する時期に固定費を削減し、あるいはかならずしも必須ではない作業部分を変動費化して収支を維持し、投資余力を削がれることを防止し、同時に変化の際に重荷を引きずらないように事前に対処しておくことは当然のことです。そして、営業的なチャレンジは相手があることでもあるし、成功率は決して高くない中での試行錯誤ですが、こうした削減は基本自社内の話ですので、自社内で覚悟を決めれば必ず実現できます。不況期にはまず縮む覚悟をするのは正しい対応です。

また、この裏返しでもあるのですが、過去のケースでは世界的不況期に相対的に安全通貨と言われる日本円に買いが集まり円高になるケースが多く、海外投資が盛んになる傾向があります。この分類としては次のような事例があります。

  • 生産の海外(特に中国)進出…バブル崩壊後の1990年代前半に第一次、2000年代前半の中国のWTO加盟前後に第二次のブームがあり、中小製造業が生産コストの大幅な引き下げを実現しました。リーマンショック後には、ベトナムへの進出が本格化しました。
  • 海外での企業買収、事業用不動産の買収…これは大した運営ノウハウもないままに手を出してやけどした、という事例もありましたが、本業に関連が深いところに関してはチャンスであるのは間違いありません。将来円安になった場合に、実質的な含み益を得る可能性がありますが、これを狙っての投資はあなたが「投資家」ではなく「経営者」であるならば絶対にやめるべきです。こういう危ないブローカーが暗躍する時期でもあります。

②低価格戦略型

景気後退期に、投資が縮小し、企業や家計が経費節減に動くのは、中小企業にとってはやむを得ない環境条件でもあります。特にToC向けでは低価格戦略を打つことで消費者の支持を集めた事例が多く見られます。その原資は円高効果や、別の販促費からの転換であることが多いようです。ToB向け営業でも、多くのケースで人材育成や広告宣伝という拡大戦略投資(効果が明確ではないもの)よりも、今ある業務や設備をコストダウンするという訴求方法の方が、稟議が通りやすくなります。

この分類では次のようなものが過去にありました。

・100円ショップの拡大…消費者心理ということも関係しますが、膨大な商品群を大量にかつ低コストで揃えられるのは円高を生かした海外生産の効果でもあります。日本では円高になると自動車、鉄鋼などの声の大きな輸出産業が「円高不況」を叫び、円安を望みますが、一方で石油やその他の輸入材の価格は下落し、景気にはプラスの影響があり統計的には実はこちらの影響のプラスの方が大きいのです。「輸入材価格」の下落を好機とする準備が必要です。回転すしも最初はこの流れ(低価格訴求+輸入価格の円評価の下落)で拡大したものです。

・コンビニは2008年頃までは「値引きをせずにナショナルブランドを魅力的な販促方法で売る」という方針でしたが、消費者の低価格指向が長引くのを受け、リーマンショック後、「ナショナルブランドを値引く」という方針に転換しました。具体的な例としてはたとえば缶コーヒーはアニメキャラや自動車のおまけをつけて販促するという方法から、その販促費を期間限定の値引きに回すという手法に次々と転換しました。これにより多くの販促品の中国生産メーカーは大きな打撃を受けました。この流れはさらにそのあと、自社ブランド品で低価格攻勢をかけるという局面に進展していきました。

③拡大戦略

今はずっと金利が低く大量の通貨発行が続いている状態ですので、必ずしも当てはまらないのですが、景気が低迷すると金利を下げ、マネーサプライを増加させる政策が取られます。信用自体も収縮しているので、与信の低い(収益力や資産に乏しい)ところは、いわゆる「貸しはがし」的な状況も起きるのですが、そうではないところは、逆に金融機関としては「借りて利息を払って自行を儲けさせてくれ」と頼みに来る状況になります。

しかし、そこで何に使うかという時に、新商品、新事業に0から乗り出すところに一気にお金を使うという勇気は企業も、金融機関もなかなかなくて、実際にはこんな一時的な投資により利益体質を強化する投資が多くなります。

  • 今ある事業ポートフォリオを補完・強化する形での企業買収
  • 類似企業との経営統合による価格交渉力の強化や共通部分の統合によるコストダウン
  • 価格の下落して不動産の購入や賃貸により事業所を統合しキャッシュアウトの抑制、あるいは事業用としての利回り向上(今後は人口減の中、これはやりにくいかもしれません。)
  • 拠点や設備の統廃合による必要人員を減らしつつ、対応力を拡大

以上のように、不況期だからこそのやれることや見るべき事情というのが経営にはあるわけで、不況期は巣ごもりして耐え忍ぶだけというわけにはいかないのです。そして、心理的縮小を促進するようなことをするのも気が引けるのですが、今の社会状況は、その不況期の戦い方の準備はそろそろ開始していくべき時期です。不況期にも強化している、儲けている企業は声を上げないだけで着実にいます。

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